2014年12月05日

第14回 藤河次宏さん(拓新産業株式会社 代表取締役)

Mr.Fujikawa2.JPG

イクボス・ロールモデルインタビュー第14回は、拓新産業株式会社 代表取締役の藤河次宏さんが登場。
ファザーリングジャパン九州の代表から「福岡にすごいイクボスがいる!」と聞き、ワーク・ライフ・バランスの実践企業として有名な同社を訪ねた。1977年に建設用機材のレンタル会社を設立し、20年以上前から週休2日、有休100%消化、ノー残業を実践してきた藤河さんに、これまでの道のりや想いなどを伺った。

all.JPG

<藤河次宏さんプロフィール>
福岡市出身。福岡の大学を卒業後、地元の建材商社に勤め、1977年に30歳で拓新産業株式会社を設立。妻、横浜で働く子どもがいる。ライフワークは山登り。

【公私の区別がない会社で働き、30歳で起業】
安藤:拓新産業さんは1977年創業で、現在80名ほどの従業員がいらっしゃいますね。創業前、藤河さんは何をされていたのでしょうか?

藤河:大学を卒業して、地元の建材商社に8年ほど勤め、30歳で脱サラして起業しました。

安藤:ご結婚やお子さんは?

藤河:30代前半で結婚しました。子どもは1人、今は横浜で働いています。

安藤:起業後に結婚されたのですね。会社勤めの頃は、どんな働き方を?

藤河:昔ですし、それも地元の建材商社なので、有休なんて言葉も知らないくらいで。ほとんど休みがなく、休日も上司の私的な用事で呼ばれるなど、公私の全くない会社でした。

安藤:ハードな働き方でも、こんなもんだろうと思われて。

藤河:当時は当たり前でしたね。

安藤:その反動で、ワーク・ライフ・バランスを重視する会社に?

藤河:それがひとつ。あとは、私は高校時代から登山部で、今でも山に登っています。登山をするには休みが必要ですし、自然には一番いい時期があるから、いつでも休めるようにしておきたい。自分が休みたいなら、そういう組織にしないと。

安藤:ご自分が休みたいからですか(笑)。

藤河:ええ(笑)。

Mr.Fujikawa1.JPG

【優秀な人材採用に向けて、職場環境を改善】
安藤:創業時から「休める会社」を意識していたのですか?

藤河:基本的にはそう思っていましたが、創業時はもちろんそんな余裕がありません。直接のきっかけとなったのは、当社が25年ほど前に中途から新卒採用に切り替え、初めて合同説明会に参加したとき、私のテーブルには学生が誰も来なかったことです。屈辱を味わい、どうしたら若い学生が当社を選んでくれるかなと考え、まずは就業規則を改正して、きちんと守るところから始めることにしました。つまり職場環境の改善ですね。

安藤:なるほど。

藤河:まず唱えたのは、完全週休2日制、有給休暇の完全消化。それを3、4年かけて実践したので、20年以上前にはそうなっていたわけですね。

安藤:それ以前は?

藤河:脱サラだったので、知識も乏しくて。それが、合同説明会に参加したことで、50社くらいと当社と比較することになり、違いをはっきり自覚させられたわけです。学生から見向きもされない状況で、どうしたらいいかと考え、まず働きやすい職場環境を整えようと思ったのです。当時、大学などを訪問すると、辛いこともいろいろ言われましたよ。

安藤:例えば?

藤河:当社の住所は昔「大字」がついていた。今は町名変更でなくなりましたが。「大字がつくような田舎には、誰も来ませんよ」とかね。当時の大学は就職課から大手志向で、中小企業は相手にされませんでした。でも、職場環境を改善したら、驚くほどの学生がこんなところまで来てくれるようになったんですよ。

安藤:現在、会社説明会には200人以上来るそうですね。

藤河:ピークだった15年ほど前は、400人くらい。地元テレビ局のカメラが当社に1週間ほど入り、採用活動の様子をニュースで放映するほど、学生がたくさん来ました。

安藤:若者のニーズにマッチしたのでしょう。

Mr.Ando1.JPG

【ゆとりある社員数とジョブローテーションがカギ】
安藤:20年前に働き方を変えようとしたとき、社員の意見を聞きましたか?

藤河:いえいえ、聞いていません。休みが増えることに反発する人はいませんから。ただ、営業から「顧客満足はどうするんだ」とか、幹部から「若い人たちが有休を取ると、しわ寄せは我々に来るんじゃないか」とか、そういう話は出てきましたよ。

安藤:それにはどう答えられたのですか?

藤河:時間をかけて話し合いながら、方法を考えていきました。最初はなかなか進まなかったので、僕が「じゃあ、これまで通りのほうがいいのか?」と聞くと、みんな「休みが増えたほうがいい」と言う。それなら、たられば言わず、実現するためにどうしたらいいか、ひとつひとつ課題を出して、それをつぶしていきました。

顧客満足の部分は、最大にはできないけれど、最低でも何とか売上がつくようにバランスを取ろうと決めました。土曜は交替で数人出勤するようにスケジュールを組み、出たらその週の水曜は必ず休むことで完全週休2日制を維持するという解決策を話し合いました。

安藤:工夫ですね。話し合いには社長が入っていたのですか?

藤河:中小企業ですから、僕が関わらないとできない。そうする中で、2、3人しかできない業務があれば、数年かけてその業務ができる人を増やし、休むときに替われるようにした。業務を異動させ、複数の業務ができるようにしているので、育児休業や介護休業も問題がなく、休みが取れる社内の体制ができました。

安藤:ゆとりのある社員数もポイントですね。

藤河:それが基本です。特に育児休業は同時期に3人休むこともあるため、多少ゆとりを持たせています。それと、10数年前からノー残業にしているので、多少の不都合が起きても、若干残業をすればこなせるわけです。

安藤:なるほど。

藤河:この前、ある資料を作るために社員の労働時間などを出してみたら、時間外は平均して年間2時間ほどでした。

安藤:地方の中小企業では、残業しないと生活が成り立たないという人もいますが。

藤河:それは、残業があるという前提で給与体系を作っているから、改革するのが難しいわけです。初めから残業がなく、収入が決まっていれば、その中で生活できるのです。

Mr.Fujikawa3.JPG

安藤:拓新産業さんは、基本給が高いのですか?

藤河:世間のモデル賃金をチェックして、世間と大きく変わらないようにしています。多くはないけど、少なくもないと思います。当社では数年おきに「社長質問会」というのがあり、社員が無記名で何でも書いていいようにしています。そこで昇給率や給与関係などについて出てきますよ。ただ、最近は昇給しない会社も多い中で、少ないながらもうちは毎年昇給しています。給与関係で絶対満足はないから、ある程度は我慢してもらわないといけない。そのかわり、夏冬の賞与以外に決算賞与もここ10年出しています。今年は最高益ですから、従来の倍くらいの決算賞与が出ます。

安藤:すごいな。業務を効率化して生産性を上げているから、出るわけですね。

藤河:そうです。社員数にゆとりがあるということは、確かに人件費は増えますが、それだけやることによって社員の労働の質が上がり、不満だらけの会社に比べて、生産性が上がる。だから当然それなりの利益が出ます。

【コスト削減を継続するコツは担当制】
藤河:社員は、会社がお願いするコスト削減に対しても、積極的に協力してくれます。諸々のコストを抑えれば、売上がのびなくても、ある程度、利益は確保できます。

安藤:なるほど。

藤河:私の交際費も含めて、全て女性社員が管理しています。3か月おきぐらいにチェックが入り、「社長そろそろ抑えてください」と言われるほど徹底してますから。

安藤:社長自ら作った仕組みですか?

藤河:はい、幹部にさせたら遠慮するのですが、そういう面では女子社員のほうがクールで、僕にでもパッと言ってきます。営業にも女性の補佐がいて、営業は自分勝手に仕入れ先に注文できない。補佐の女性にお伺いを立てて了解をもらわないと、発注できない。それぞれの経費に担当がいて、コストをいかに抑えるかという点はきちっとやっています。

家計と一緒で、収入が上がらないなら、締めるところは締めないといけない。それを継続させるためには、みんなでやろうではダメで、担当を決めておけば、きちんとしてくれます。ゴミの分別から窓の開け閉め、火の始末まで、担当がいます。月に1回、朝礼のときに現状を報告してもらい、繰り返し啓発します。「今はこうですから努力しましょうね」と若い人たちから言ってくれれば、問題ない。上がワーッとうるさく言えば、反発するかもしれないけど。だから、全部担当を決めてやっています。

安藤:その任せるというのは、社長の人材育成に関する考え方なのでしょうか?

藤河:任せないとできないでしょ。そんな細かいところまで社長はできませんし。私は企業の経営者として、全体を見て方向性を決めるのが役割で、それ以外は他の人たちが見るという役割分担をしているのです。

安藤:意識づけですね。

藤河:コスト削減は、やり続けるしかない。なかなか続かないものだけど、やり続けるような仕組みさえ作っておけばいいわけです。そして、もうひとつは、その結果を何らかの形で社員にフィードバックする。今年みんながこれだけ努力してくれたおかげで、これだけ削減できたとか利益が出たとか、報告することが大事ですよ。

安藤:おっしゃる通りですね。

イクボスインタビュー(藤河①).jpg
<西日本新聞 2006年11月14日>

【有休の完全消化を社長自ら促し続けた】
藤河:当社では、社内報を活用しています。有休の改正などについても、周知することが大切。そうすることで、会社への信頼が高まります。有休については、何日残っているかわかる一覧表があります。

安藤:有休ほぼ100%消化というのはすごいですね。

藤河:最初の頃は社員も疑心暗鬼で、ひょっとしたら昇給に影響するんじゃないかと思っていたかもしれません。だから初めの3年くらいは、3か月おきに有給消化率を出して、消化の悪い人は名前を読み上げて、消化してくださいと声をかけ続けました。3年後には総務から「社長、もう結構です。浸透してますから」と言われましたが、今でも総務は4か月毎に消化率を出し、掲示板に貼っています。

安藤:見える化することは大事ですね。子育て支援にも力を入れているそうですね。特徴的な制度はありますか?

藤河:特にはないのです、労基法を全て守ってるから、何の問題もない。育休も100%取得で、一番多い人は4回取りました。

安藤:半日有休があって、勤務時間は15分単位だそうですね。

藤河:子育て中の女性は午前中だけとか午後だけとか、取りやすいと思います。

安藤:お子さんの急な病気のときはどうですか?

藤河:たまたま斜め前が保育所なので、電話がかかればすぐに行ってます。

安藤:行くことに、他の社員から不満は?

藤河:言いませんよ、それは社員に周知していますから。当社の経営計画書にもワーク・ライフ・バランスや育児休業のことなどを書いて、みんなに渡しています。そこは徹底していますね。

安藤:男性の育休は?

藤河:まだいませんね。個別に呼んで、「とりあえず1週間でも10日でも取ってみたら」と話すのですが、給与が減るのでなかなか取れないようで。それに、当社の場合はいつでも有休が取れて、土日休みで残業もないので、取らなくてもいい環境なのかもしれません。

安藤:新卒採用だと、まだ社員の平均年齢が低いと思いますが、今後は介護のことも出てきますね。

藤河:そうですね。ただ、まだ相談もありません。育児休業のときは、制度ができる前から、相談があれば短時間勤務などをやっていました。中小企業ですから、介護についても細かい規定を作るより、相談があればできるだけ対応してあげたいと思っています。

【理念が浸透すれば、社員は自分で判断できる】
藤河:当社では、顧客満足は捨てています。

安藤:それは、すごい(笑)。顧客満足より、社員満足ということですね。
Mr.Ando2.JPG
藤河:顧客満足を考えていたら、やっていけない。捨てたというと語弊があるかもしれませんが、さっき話したように、最低のところで我慢してもらおうと。それは営業戦略にも反映しています。当社の営業戦略の基本は小口分散。小口分散で、1件1件付き合いはそんなに大きくない。そうすれば、断られても、また新しいところを取ってくればいい。うるさく言うような大企業などとは、最初から付き合わなくていいと話しています。また、当社は安全第一ですから、過積みを強要するようなお客様とも取引しません。1社で2割も3割もお付き合いするから、がんじがらめで言われる通りになるわけです。

安藤:子会社や下請けのようになり、従順にやってると、長時間労働になったりするわけですから。

藤河:ただ、営業は窓口ですから、お客様に対しては苦しいでしょう。競争社会の中で、「よそはいくらでも受け入れてくれるのに、拓新は…」と言われるかもしれません。でも、「それは当社の方針で、あなたたちが休めるのも、そういう会社の方針のためだから」と話しています。

安藤:営業マンをなぐさめたりするんですか?

藤河:いえいえ、愚痴を聞くようなことはしない。でも、具体的な課題になってくれば、調整会で話して考えます。たまにセンターを閉めたあと、お客様から会社や営業に電話がかかってきて、時間外なのに開けるように言われます。でも絶対に開けず、あとで営業と調整会を開きます。営業は「そこまでしなくてもいいじゃないか」と言うが、私からしたら「事前に少し遅れると電話があれば考えるけど、連絡もなしに来られたって、当社の考え方はこうですよ」と話します。つまり、経営理念は末端まで貫くものさしなんです。末端まで浸透していないと、社員はどう判断したらいいかわからない。会社の考え方が浸透することで、社員それぞれが判断できるわけです。

もうひとつ、有休が100%取れているということは、勤続年数が長い人や幹部ほど休んでいます。ということは、幹部や上司がいない状況で判断する場面が増えるので、自分である程度は判断できなければ、会社は成り立たない。

安藤:なるほど。

藤河:そういう意味で、当社の歴史の中で、社員はある程度は上司がいなくても仕事ができるという、労働の質は確保できているわけです。

【徹底した1点主義で、一流の中小企業を目指す】
安藤:社長も結構休むんですか?

藤河:私は休日に出たことがない。会社の鍵も持っていませんし、最初に帰ります。

安藤:それなら社員も帰りやすいですね。

藤河:それに、私はお客様とお付き合いがないから、もう20年くらいお客様のところにも行ったことがないし、電話がかかることもない。

安藤:お年始回りもない?タオルやカレンダーを配るとか。

藤河:しません。会社で年賀状も出しません。

安藤:それで、過去最高益を出すというのがすごいですね。

藤河:それだけコストを抑えられているんです。残業や休日出勤がないから、割増賃金が発生しない。

安藤:それで学生もたくさん来るから、採用コストもかからない。

藤河:はい、会社のホームページに説明会の日程を入れておけば、ある程度は来てくれますから。

安藤:一貫してますねー。

藤河:ただし、社員のためだけにやっているわけではないんですよ。当然、会社をよくして、利益を出して、山も行きたい。だから、そのためにはきちんとしようということで、別にきれいごとでやってるわけじゃない。それで実際にやってきたら、創業から38年、1度も赤字にならなかった。むしろどんどん利益が出てきているわけです。

安藤:社員が辞めないでしょうね。

藤河:そうなんですよ。当社の場合、成長をある程度抑えている。成長を優先すると、どうしても社員満足が落ちますから。成長を抑えるということは、売上はそんなに伸びないわけです。特に建設関連ですから、ここ20年くらいずーっと売上は下がっているわけです。今年は最高益でしたが、ピーク時に比べて売上は2割近く下がっています。それでもずっと利益が出ている。とすると、こういう経営をしているから、社員の質が上がっていると信じるしかない。証明はできないけれど、数字が出ているということは、いいのだと思っています。

安藤:成長を抑えようという考えに至ったいきさつは?

藤河:当社はバブルの終わりごろに創業して、それなりに伸びて、バブルがはじけると売上が下降してきた。それがひとつの契機です。これでは成長路線を掲げても、もう無理だなと。いつまでも対前年比何パーセントという考え方を捨て、売上が下がる中でどう経営するのかと考え、20年くらい前に成長路線は捨てました。

安藤:テリトリーを広げるという考えはありませんか?

藤河:広げると売上は伸びるけど、管理費がかかる。そのへんのバランスを考え、1点集中主義にしています。福岡市内だけで、商品構成も絞れば、大きな企業と対等に戦えるし、大企業に頼らなくてもやっていける。人の管理も楽で、コストを抑えられる。だから徹底した1点主義で、成長ではなく、一流の中小企業を目指してきました。

【トップ自ら実践して周知することが重要】
安藤:ちなみに、家庭ではどんな育児をされていましたか?

藤河:女房も山が好きなので、子どもが生後6か月後くらいから担いで山へ行きました。山とカブトムシ取りにはよく行きましたね。

安藤:今も夫婦で山登りをされるんですか?

藤河:はい、温泉をからめて女房と行くこともありますし、ひとりで行くことも。

安藤:ライフも充実してますねー。

藤河:そうですね。そんな仕組みづくりをして、実務から10年ほど離れているので、明日山に行きたいなと思えば、すぐ休めます(笑)。

安藤:なるほど(笑)。最後に、全国のボスへメッセージをお願いします。

藤河:社員は社長を見てますから、トップが自ら実践しなければ変わりません。特に中小企業は、トップが実践してきちんと周知するという考えを持たないと、いくら人事担当や社員だけにやらせても無理ですよ。私は自分で就業規則の本を買い、ワープロで就業規則を書き換え、社員にアピールするところはカラーにして、目次もつけて、労働基準監督署に持って行きました。そこから始まったんです。

安藤:やはり社長自らというのが大切ですね。

藤河:はい、社長か、社長のような権限を持った人が関わらないと、なかなか社員はついてきません。本気度を示さないと、絶対に動きませんよ。

安藤:何事もですね。

藤河:100%できなくても、有休消化率20%を30%にするとか、せめて前に進むような行動を示してほしいと思います。前提として、それなりの人員体制が必要です。口だけでなく、具体的な工程表やアクションプランを作り、本気で取り組みましょう。

A×F3.JPG

安藤:今日は貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン代表)
(筆:佐々木恵美)
タグ:イクボス
posted by イクボスブログ at 10:34| Comment(0) | インタビュー | 更新情報をチェックする

2014年11月25日

第13回 米澤賢治さん(グーグル株式会社 人事部長)

DSC_4517.jpg

イクボス・ロールモデルインタビュー第13回は、グーグル株式会社 人事部長の米澤賢治さんが登場。入社2年目の時に家族の看護休暇を導入したり、実践的なマネージャー研修を行い、社内のイクボス養成に努めていらっしゃいます。(FJイクボスプロジェクト

DSC_4541.jpg

<米澤賢治さんプロフィール>
44歳。アクセンチュア株式会社で経営コンサルティング、組織・人事関連コンサルティングに従事。その後、GE Money 人事クライアントマネージャー、日本GE プロジェクトリーダー、HSBC 人事ビジネスパートナーを経て、2011年グーグル株式会社人事部長に就任。現在に至る。3歳男の子のパパ。

【日々夕食を一緒にとっていた、父の姿がお手本】
安藤:グーグルに勤める前は、どんな働き方だったんですか?

米澤:まだ若かった頃は100%仕事中心の生活でした。でも、子どもが生まれたら仕事とプライベートのバランスをとりたいと、ずっと思っていました。

安藤:それはなぜですか?

米澤:子どもの頃、父親が夜7時半には家にいて、夕食は家族みんな(父母、兄、私、妹)で食べるのが当たり前の生活をしていました。そのころ父親は滋賀から大阪の会社へ通勤していましたから、朝5時半に起きて6時に家を出る生活。早く帰るために、朝早く行っていたんでしょうね。そういう父の働き方を見ていたからだと思います。

安藤:親の姿を見て子どもも同じようにするんですよね。米澤さんも早く家に帰って家族で食事しているんですね?ママの不満の多くは、子育てよりも、夫への不満ですから。

米澤:はい、出来るだけそうしています。妻にはまだタイムマネジメントに関して満足してもらえるレベルには至っていないようですが(笑)。

33歳で妻と結婚し、7年間は二人でよく旅行しました(笑)。子どもがいると夫婦で遊べないとか、好きなことができないとか聞きますが、今は子どもに時間を割くのは当たり前だと思っています。子どもができる前に遊びきったからですかね。結婚した直後でも、相変わらず平日は仕事中心の生活でしたが、徐々に平日でも仕事とプライベートのバランスがとれるようになってきました。

DSC_4521.jpg

【会社の考え方の基本が、家族重視】
安藤:年収を伸ばそうとすると、どうしてもハードワークになりますね。グーグルに転職されてからはいかがですか。

米澤:グーグルは働き方として決してラクというわけではありませんが、会社の考え方の基本が、家族重視なんです。たとえば子どもが熱を出したら、ママでもパパでも「早く帰れ!」が当たり前です。もちろん結果は求められますが。家に帰って、子どもが眠ってからPCを立ち上げたり……ということもあります。自分自身でタイムマネジメントできるのはいいですね。

安藤:最初から人事のポジションだったんですか?

米澤:いえ、最初のキャリアは、他社から請け負って人事部に対するコンサルティングをしていたので、結果が出るところまで見届けられないジレンマがありました。今は人事部におり、自分が仕掛けた仕事の結果が見えますから、そういう意味では非常に満足しています。

人事部で働き始めてからは特に「人として何を重視すべきか」を軸として考えながら仕事をしています。基本的には人事部のメンバーともそのように話して行動しています。たとえばご存知の通り、「子の看護休暇」は法律で定められていますが、奥様が入院された社員がいたんですが、当時は家族が病気になった際の看護休暇がなかった。「子どもだけじゃなく、家族が病気になったときにも使える看護休暇があるべきじゃないか。」ということで、その数カ月後には、家族の看護休暇を取り入れました。休暇制度を取り入れても、社員のパフォーマンスは下がらないんですよ。

安藤:そうなんですよね。WLBの制度と風土が整ってむしろ普通は「会社に報いよう」と、パフォーマンスが上がりますよね。社員が仕事と生活を両立しやすいようにボスが環境を整えれば社員は安心して働ける。それで会社に恩返ししようとがんばるっていうところが大事なんです。グーグルは家族の看護休暇をすぐに取り入れ、スピード感を持って改革できるのはいいですね。ダイバーシティビジネスパートナーの山地由里さんは、米澤さんの部署のメンバーですか?

山地:私はダイバーシティの社内コンサルタント的な役割をしています。上司部下という関係性ではありませんが、頼れる存在です。

DSC_4526.jpg

【個々に関わらず、この人と働きたいという人を採用】
米澤:グーグルでの子育てのしやすさというのは、採用の部分に関係があると思います。インタビュアー全員が「この人と働きたい」と言わないとご入社頂けないんですよ。そういう意味では、採用の基準はある意味高いと言えると思います。ただ、ご入社頂いた後には、その高い採用基準を超えて入社された訳ですからマネージャーも信頼を置けます。本人は力むことなく、自分にとっての顧客にフォーカスすればいいということになります。

安藤:採用された人は、採用時点で既に会社からあるいはマネージャーから信頼されているということですね。

米澤:信頼されているから、その人らしさを出して働けるということです。

山地:結婚している、子どもがいるということは関係ありません。独身であるからといって、働き方や時間に制限がないとも限りません。つまり誰もが様々な背景がありながら仕事をしているという考え方です。グーグルの場合は、「このポジションが長い間あいているから、ポジションがなくなる前に少し妥協をして誰か採用しなくちゃ」という考え方もないんですよ。

米澤:長いことあいたままのポジションもありますよ。あいているポジションは、本社からローテーションで入ったり、派遣社員さんが入ったり、時にはその部署のメンバーがその方の分までカバーせざるを得ない状況になると言うこともありますが。

2回目の応募は締め切りましたが、Google gCareer Programというプログラムがあります。職場やキャリアから6カ月以上離れていて、就労経験(5年以上)があるプロフェッショナルを対象とした性別・年齢・国政を問わないインターンシップ プログラムです。
https://www.google.co.jp/about/careers/lifeatgoogle/gcareer.html

日本の場合は、出産後仕事に戻れない女性も多くいますから、ぜひ、キャリアを再スタートする一歩目にしていただけたらと考えています。もちろん、グーグルで働いてみて、やっぱりご家族との時間を大切にしたいので今は家族を重視したいとか、仕事はしたいけどグーグルじゃないという方もいます。

山地:子育てと両立できないから辞める、仕事を続けることで自分や誰かにしわ寄せが行くということなく、誰でもがキャリアを続けられる、あるいはやむを得ず辞めることになっても、自分自身の機が熟したときには、キャリアを再スタートすることが簡単にできる社会になるといいと思います。

安藤:キャリアのリスタート。企業がいろいろな働き方の受け皿を作り、応援できるといいですね。

山地:企業のサポートもそうですが、働く側の意識改革も必要です。特に子育てに関しては、「家族サービス」「子育てを手伝う」なんて言葉を聞きますが、どちらかが「手伝う」のではなく、それは二人の仕事でしょうと言いたいです。男性にも当事者意識が必要ですし、女性も自分一人で抱えないという意識が大事だと思います。

安藤:イクメンも量から質へと転換していかなくてはいけません。でも女性自身が、パートナーに、なぜ働きたいかを伝えられない人も多いですね。

DSC_4524.jpg

山地:子育てなどが一段落ついてから働こうとすると、5~10年キャリアから離れてしまう人もいます。でも、そうすると本来能力の高い人であっても仕事に対するスピード感や能力が色あせてしまう場合もある。それはその人にとっても、日本にとっても大きな損失だと思います。

安藤:子育てとキャリアの狭間で揺れるママは多いですね。でも今後は育児する男性が増えるのでパパも同じこと。子どもが10歳くらいになると、親は遊んでもらえなくなりますから、それまでちゃんとコミットしておくことが大切ですね。

米澤:妻は15歳のとき、アメリカ留学したんですよ。だから夫婦の認識として、もしかしたら15歳までしか子どもと一緒にいられないかもと思ってます。子どもはもうすぐ4歳なので、あと11年をどう楽しむかというのが家族の大事なテーマ。グーグルに転職したおかげで、子どもが初めて立った瞬間を見ることができました。

DSC_4518.jpg

安藤:ハイ、子育ては期間限定ですからね。肌を寄せ合うスキンシップの時期は本当に短い。夕飯を一緒にとる父親としての存在感はとても大事だと思う。子どもの頃からの関わりは、思春期へとつながっている。それに夫婦のパートナーシップにも大きな影響がありますね。

米澤:子どもが15歳になったときに、例えば「お父さん、僕、アメリカに行きたいんだけど」と言われたら、どういった言葉をかけてあげられるかなと今から想像したりしています。

安藤:わが家の場合は、子どもが「○○が欲しい」と言うと、3日間考えさせて、それでも欲しい場合は、プレゼンさせています。子育ての本当のゴールは、子どもを社会に出すこと。子どもの自立を応援できる「家庭内イクボス」を目指していきたいなと。

イクボス⑫.jpg
<イラスト:東京新聞>

【グーグル的マネージャーの8つの行動指針】
安藤:イクボス10カ条はいかがですか?

米澤:いい内容だと思います。2012年からマネージャーのマインドセットをどう変えるかをテーマに動いています。グーグルカルチャーをを組織に浸透させる際には、マネージャーの意識改革はとても重要です。特に日本企業から来た人は、グーグルのマネージャーとしての考え方がわからない場合も多いので、ケーススタディのディスカッション形式にして、「理解→咀嚼→行動→リード」というトレーニング方法を取っています。起こりそうなトピックを選択し、マネージャーとしてどう振る舞うべきかというトレーニングを、1年~1年半かけてやってきました。

安藤:FJのイクボスPJで伝えているところと同じですね。妊娠した女性スタッフに向かって「まいったな~」と、つい言ってしまう上司がまだまだいますから。

米澤:マネージャーとして、概念や知識は入っているんです。ただケーススタディ等で間接的にでも経験していないと、その場面での適切な対応が難しい。社内の従業員満足度を測っていますが、目に見えるようにスコアがあがってきています。マネージャーへの研修は浸透してきていると言えるでしょう。

また、マネージャーとしての8つの属性が、以下のように定義されています。

1、優れたコーチである
2、チームを力づけ、こと細かく管理しない
3、チーム・メンバーの仕事上の成功と私的な幸福に関心を示し、心を配る
4、建設的で、結果を重視する
5、コミュニケーション能力が高く、人から情報を得るし、また情報を人に伝える
6、キャリア開発を支援する
7、チームのために明確なビジョンと戦略を持つ
8、チームに的確な助言をするために、主要な専門的スキルを持ち合わせている


安藤:グーグルではダイバーシティをどのように考えていますか?

米澤:トップマネジメントは”ダイバーシティこそ未来です。”というメッセージを従業員に送っています。ダイバーシティがあるから、イノベーションが生まれるといった発想です。最も分かりやすく言えば「みんな違って、みんないい」という考え方です。国籍、性別、性的志向、障がいの有無、働き方等だけではなく、キャリアバックグラウンドのダイバーシティも大切です。

安藤:世のイクボスやこれからイクボスを目指す人、そしてご家族にメッセージをお願いします。

米澤:リーダーはみんなに影響を与える存在であるべきだと思います。仕事はもちろん、プライベート、家族との過ごし方、貴重な時間の使い方をボスがメンバーに伝えていって欲しいですね。ライフイベントを大切にしながら、色々な気づきを管理職がメンバーに伝え示していく。それが人生を豊かにするし、仕事の内容を良くしたり、新しい発想にもつながっていくと思います。妻には常に感謝しています。これからも子どもにフォーカスして、2人で愛情を注いで育てていきたいと思っています。

安藤:今日はありがとうございました!

インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン代表)
(筆:高祖常子)

DSC_4545.jpg
タグ:イクボス
posted by イクボスブログ at 09:59| Comment(0) | インタビュー | 更新情報をチェックする

2014年10月29日

第12回 青野慶久さん(サイボウズ株式会社 代表取締役社長)

2014-09-29 14.11.23.jpg

イクボス・ロールモデルインタビュー第12回は、サイボウズ株式会社代表取締役社長の
青野慶久さん。クラウドベースのグループウェアや業務改善アプリを軸に急成長を遂げ、社内制度においても抜本的な改革で“ヘルシー”な職場を実現させた。自身も2度の育休をとったイクメンでもある青野社長に、新しいボスの価値観と、次なるビジョンについて伺った。

<青野慶久さん プロフィール>
1971年生まれ、愛媛県出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)(株)を経て、1997年、愛媛県松山市にサイボウズ株式会社を設立。2005年4月に代表取締役社長に就任。2児の父として育児休暇を取得するなどイクメンとしても活躍中。

【きっかけは社員の離職率の急激な増加】

安藤:制度改革する以前はどのような働き方でしたか?

青野:僕自身、昭和の人間で働くことが大好きでしたし、進化のスピードが速いIT業界のベンチャー企業で土日がないのは当たり前、仕事のために会社に居続ける自分を「それでいいんだ」と肯定し、「ハードワークで乗り切るぞ!」という感じで働いていました。ただ、会社が大きくなっていくにつれ離職者が増え始めまして……。最初のころは「IT企業はそんなものだ」とも思っていたのですが、2005年、創業9年目で社員の離職率が28%になってしまいました。

安藤:辞めていった理由は?

青野:理由はいろいろで、男性社員は起業したいとか、女性社員は結婚、出産などでした。でも、ここまで離職率が上がってしまうと新たに社員を採用しないといけないし、採用するとなると社員教育などにコストや時間もかかって効率が悪いし、品質維持も大変ですよね。そこで、発想を変え「社員が辞めない会社を作ろう」と思い、残ってくれている社員の意見を聞きながら、社内制度を変えていこうということになりました。

そんな中で最初にできた制度が、「残業しない」という働き方を選べる制度です。「会社に残って仕事したい人は残り、帰りたい人は帰っていい。ただし、残業しない働き方を選んだ人には残業代は出ません」と伝えたら、当時は毎日残業につぐ残業で徹夜する社員も多く、朝出社すると会社の会議室で寝ている社員もいるぐらいでしたので、「社長は社員の残業代を減らしたいのですか?」と猛反発にあいまして……。実際、この制度で「残業しない」働き方を選択していたのは小さい子どもを持つママ社員が少しだけで、彼女たちは申し訳なさそうに早く帰っていましたね。

そんな時に子どもが生まれ、僕自身も育児休暇をとったのですが、「育児しながら仕事をするのはこんなに大変なんだ」と、当事者として初めて気づいたんです。そして、「会社の制度としてはまだまだ足りない」と実感しました。よくよく考えてみると、ママ社員が「子どものお迎えがあるから」などと申し訳なさそうに帰ることっておかしいですよね。むしろ、「子どもを育てている」というのは次の市場を作ってくれているわけだから、「安心して出産や育児をしてください」と送り出してあげないといけないはずです。この辺の考え方を根本から変えようと、会社として「より多くの人が、より成長し、より長く働ける環境を提供する」とポリシーを定め、ワークライフバランスに配慮した制度や社内コミュニケーションを活性化する制度を積極的に取り入れ始めました。

2014-09-29 14.01.59.jpg

安藤:具体的にはどのような制度ですか?

青野:社員の働き方についての代表的な制度としては、育児や介護に限らず通学や健康など、ライフスタイルの変化や個人の事情に応じて会社が提示する9つの働き方から勤務時間などを決めることができる「選択型人事制度」や、生産性の向上を目的に、働く時間や場所に制限を設けない新しい働き方の制度である「ウルトラワーク」、最長6年間の育児・介護休暇などが大きな柱です。育児休暇については、男女問わず、子どもの小学校入学時まで取得が可能になっています。

安藤:「小1の壁」問題もありますから、6年間の育児休暇というのはいいですね。

青野:そうですね。うちの会社では、子どもがそろそろ小学生にあがるという社員が出始めてきたのですが、学校が夏休みになると、子どもは学童保育で1日中過ごすことになりますよね。夏休みの学童って、子どもが喜んでいくところでもないし、毎日行きたいようなところでもない。かといって、お母さんが働いているから行き場がない……じゃあ、会社に連れてきたら?ということで、今年の夏休みの時期から子連れ出勤の試験運用にチャレンジしました。

安藤:子どもたちはどこにいたのですか?

青野:ラウンジのスペースに、ついたてを利用して臨時で学童ルームを作りました。子どもたちには会議にも参加してもらったりもしましたよ。

2014-09-29 13.54.12.jpg

安藤:社員の反応はいかがでしたか?

青野:もちろん良かったです。なぜ良いのかというと、これらは全て僕が考えたものではなくて、社員皆で考えたものだからです。

安藤:社内に新しい制度を作る委員会のようなものがあるのですか?

青野:サイボウズでは、人事をはじめとする社内制度すべてについて、社員同士で検討する場が用意されています。新しい制度を作りたい場合は人事に申し出ると、それをテーマにしたワークショップが開かれます。ワークショップには誰もが自由に参加して自由に発言でき、開催するたびに必ず議事録にあげ、制度が完成するまでのプロセスをオープンにしながら作っていきます。ですので、「新しい制度が完成した」ということは、「その制度について皆が納得している」という状態なわけです。だから社長の僕はラクなんです。「よし、いけ!」と言うだけですから(笑)。

安藤:なるほど。無理やりトップダウンでいこうとするから社内で摩擦が起きるんですよね。

青野:そうです。現場がわかっていないトップがあれこれ言ってもなにも始まらないと思いますよ。

安藤:皆で決めた制度だからこそ、業務へのコミットにつながりますよね。権利を主張したぶん結果も出さなきゃという。

青野:そうなんです。ただ僕は、「福利厚生だけが目的の制度には絶対しない。福利厚生だけが目的だったらお金を出さない」と常に言っています。僕たちがめざしているのは、良いグループウェアを作ることです。新しい制度によって良いグループウェアを作ることができるのなら、どんな制度でも作っていいといっています。

2014-09-29 14.36.29.jpg

【制度改革後、会社全体が“ヘルシー”になってきた】

安藤:他にはどんな制度や施策がありますか?

青野:社員同士の交流を促進しチーム力を高める、すなわち社内コミュニケーション活性化のための施策のひとつに「部活動支援」というものがあります。本部をまたぐ5人以上のメンバーを集めれば部を発足することができ、部員ひとりあたり年間10,000円まで援助しています。

安藤:青野社長も何か部活に入っているのですか?

青野:僕は野球部と映画部に入っています。子どもがいるのであまり参加できないのですが、先日は、炎天下の中野球部の試合にかりだされて大変な目にあいました(笑)。多分僕が部員の中でいちばん下手なんですけど、チームのポリシーが「全員野球」で、1回は必ず試合に出されるんです(笑)。チーム自体は強くて、文京区の大会で優勝しました。

安藤:IT業界で野球部ってめずらしいですよね(笑)。でも、そういうのもコミュニケーションのひとつですよね。

青野:ジェルネイル部もありますよ。部の活動報告は全社の掲示板に上げるのが決まりなのですが、「今日のネイルのデザインはクリスマス風です」とかアップされていたりして。「どうでもいいや」って感じですけど(笑)、このような、横のつながりの中でどうでもいいコミュニケーションがあると、組織は活性化しますよね。

2014-09-29 13.57.15.jpg

安藤:そうですよね。家庭でも職場でも、どうでもいいことが言えているかどうかが大事ですよね。居心地が悪かったり緊張感があったりすると、「こんなこと言っちゃいけないんじゃないか」って雰囲気になりますし。

青野:そうなんです。「組織に対してなんでも言える」という安心感があることが大切だと思います。

安藤:これまで取り組んできた働き方の改革や社内コミュニケーション活性化の施策で、社員の働き方は実際に変わってきましたか?

青野:変わってきましたね。残業時間も確実に減ってきていると思います。昔は夜10時で半分くらいの社員が残っている感じでしたが、今は10時まで仕事する社員はほとんどいないですね。8時で半分くらいでしょうか。僕自身も大体8時くらいに退社しています。

安藤:昔からすると考えられないですよね。

青野:はい。昔は夜11時より前に帰るというのはありえなかったですから。その日のうちに帰ろうとすると「おまえは今日最後までやりつくしたのか?」という言葉が耳元から聞こえてくるような状態でしたからね。ただ、ここでもう一度はっきり言っておきたいのは、僕がやりたいのは「皆を早く帰らせる」ということではなく、「自分自身で働き方をきちんと選択してほしい」ということなんです。会社でどんどん仕事したければ会社に残ってもいいし、早く帰りたい人は自由に帰っていい。でも、それを理由に評価はしないということです。

2014-09-29 14.02.33.jpg

安藤:目標設定などについてはどのようにされていますか?

青野:社員一人ひとりが半期ごとに目標を立て、その都度上司と面談する形で達成度を確認するという感じです。

安藤:面談の時の社員の様子は変わりました?

青野:昔とは全然違いますよ。全社的に残業が減りましたし、社内のコミュニケーションも活発化して社員ひとりひとりのモチベーションも高まり、会社全体が“ヘルシー”になってきました。実は先日、某大手メーカーの30代の男性が、給料が下がってでもいいからうちに転職したいと面接にきたんです。学歴も経歴も申し分ない彼がいうには、今の会社は月の残業時間が少なくとも月80時間あり、社員がうつ病など何らかの病気を抱えている割合を表す罹病率が、5%〜10%もあるとのこと。「御社の罹病率は何%ですか?」と聞かれたので「ゼロですよ」と答えたら、衝撃を受けていました。うちの会社がいかにヘルシーかということが、客観的に認識できました。

安藤:ワークライフバランスやイクボスが進むとヘルシーな職場になりますよね。罹病率がゼロというのも素晴らしいです。長い目で見たら、会社が疾病手当を払わなくてもいいわけですから。他の会社から優秀な人材がやってくれば採用コストも減りますし。改革の成果が出てきましたね。

青野:本当ですよね。僕自身、子どもを育ててみて気づきました。そもそも働くことって、何のためだっけって。人間性を失ってまで、仕事ってやるべきなのかということです。そこにようやく気づきつつありますね。

安藤:僕も以前IT企業に勤めていました。改革前のサイボウズさんと同様、会社は不夜城で、多くの社員が「会社にずっといることが存在意義」みたいに仕事してましたよ。でも同僚からは、仕事を優先するあまり家庭がぼろぼろになったり、子どもと愛着が生まれていないなどの話を良く聞いていました。本当に、「何のために働いているの?」ってことですよね。青野社長がご自身でそこに気づいたからこそ、今のヘルシーな職場ができたと思います。

青野:そうですね。皆から教えられたことも多いですけどね。

【今後のプランは、独立支援制度、介護の制度、障害者雇用】

2014-09-29 14.06.57.jpg

安藤:今後、新しいプランはあるのですか?

青野:社員の平均年齢が上がってきていまして、今は平均年齢が33才なんですけど、中途で入ってきた人も含めて50代〜60代の社員も出始めています。その辺の年齢層の社員に向けた独立支援制度をやりたいと思っています。

安藤:早期退職させようじゃなくてね。

青野:そうです。無理矢理会社から追い出す早期退職はちょっと不幸ですよね。でも、「会社がちょっと背中を押してくれたら新しい道を見つけて頑張れるのに、それがないから会社にしがみつかないといけない」という発想も良くないと思います。大量生産するために均一な仕事しか与えられず、優秀な人材が外に出る機会を失ってしまう……これはおかしいと思うんです。独立支援制度については現在社内で何度もワークショップが開かれていて、実現するための具体的な方策を真剣にディスカッションしています。

安藤:なるほど。新しい独立支援制度、いいですね。ところでサイボウズさんは中国、ベトナムと海外拠点もありますが、海外拠点においてもこれまでの話に出てきたような制度や施策は適応するのですか?

青野:うちは基本的に多様性重視なので、基本的な考え方だけ伝え、あとは現場の判断にゆだねています。国のフェーズが違うので、同じことをやったからといって喜んでくれるとは限りませんので。

安藤:会社がグローバルになると、制度もグローバルになりますね。

青野:そうですね。先ほどもお話しましたが、このようなアイディアは、単なる福利厚生のためだけだと承認はできませんが、社内コミュニケーション活性化につながる投資と考えれば安いものですよね。新しく社内制度を作るにあたっては、この辺の筋をきちんと通しておくことが大切だと思っています。制度と、それを通して実現したい目的を必ずセットにして共有する。どの制度も考え方は同じです。

安藤:そうですよね。企業がワークライフバランスに取り組みはじめると、権利だけを主張してくる社員が増えてくることもあります。「制度なのだから使わせろ」みたいな。でも、「制度は使っていいけど結果も出す」、それができて初めて会社としての成果があらわれるということになるのですよね。

青野:そうです。両方にメリットがあれば続けられますから。「制度と目的を両立させる」というのがベストですよね。

安藤:そうなんです。実はその辺の所で、まだまだ未熟なボスがいるんですよ。例えば時短勤務しているママ社員に向かって、「重要な仕事は僕らがやるから早く帰っていいよ」と平気で言ってしまう。そうすると、ママ社員は「私が家に帰ってから会社で重要なことが進んでいるんだ」と、モチベーションが下がってしまいます。

青野:もったいないですね。

安藤:上司に「早く帰っていいよ」って言われていながら他の社員はたくさん会社に残っているから、取り残され感があるんです。で、モチベーション下げたまま、2人目ができると辞めちゃうという……。

青野:本当にもったいないですね。イクボスは、福利厚生的な視点と「生産性を高める」という視点、両方を両立させることが大事ですよね。

安藤:そうです。そこを僕らも常々言っているんです。ボスの評価というのは“結果”ですから。業績をあげながら働きやすい職場を作り、人も育てていかないといけないんです。青野社長のように自分で子育てしたり、さまざまな社会活動したりなど「ボス自身も人生を楽しんでいないとだめだよ」って言っているのですが、実践できているボスがまだ少ないので、こうしてお話をお伺いしてロールモデルとして紹介しているんです。あと、今後について何か考えていることはありますか?

青野:介護についての具体的な制度をそろそろ考えないといけないですね。明確な介護休暇などはまだないのですが、事例として具体的に出始めているので、制度化したいと思っています。

安藤:大企業にいると、「介護を口に出すと出世できなくなる」というようなマインドが働いていて、家庭で介護の問題を抱えていても中々会社に言い出すことができない40〜50代の中間管理職が増えてきているようです。ですので、40〜50代くらいの社員向けに介護準備セミナーを開き、来たるべき時に備えてもらえるような取り組みを行う企業も増えてきているようです。事前に知識があれば、急にきてもおろおろしないですみますからね。

青野:そうですね。僕たちも、介護に関しては知識を早めにつけといたほうがいいと切に思っています。

イクボス⑫.jpg
<イラスト:東京新聞>

安藤:青野社長は「イクボス10カ条」はほとんどクリアできているような気がしますけど、どうですか?

青野:そうですね。大体は問題ないと思います。ただ、今申し上げた介護などは、会社にとっては新しい問題であり、その知識が今のところはあまりない状態です。

安藤:育児や介護など時間制約のある人をどう生かすかが、まさにイクボスの仕事ですからね。

青野:そうですね。そういう意味からいうと、まだできていないのがもうひとつあります。障害者雇用です。来年オフィスを移転する予定で、そのタイミングで真剣に取り組もうと思っているのですが、今の時点ではまだ知恵を絞りきれていない状態です。

安藤:障害を持つ方に、新しい仕事を与えたりなどをお考えなのですか?

青野:はい。まだ社内的には理論段階なのですが、名刺の入力とかカタログを並べたりとか、社内にある軽作業って実はいろいろあるのではないかということで、まずはそれを一度全部出してみようということになっています。障害を持つ方もそれぞれスキルが違うので、うまくマッチングしながら仕事を増やししていける方法を考えていく。このようなことに、経営者としてきちんと取り組んでいきたいと思っています。

安藤:ニュージーランドでは、障害を持つ人たちを「スペシャル」と呼びリスペクトして、社会にうまく取り入れていますよね。

青野:日本人って、変な公平感にとらわれてしまって、その人ができないところに目がいってしまいがちだと思うんです。でもそうではないですよね。ひとりひとりに良いところは必ずあるはずで、その良いところを社会全体で生かしていかないと。「この人は何ができるのだろう」と探して行くことも、僕たちの仕事だと思っています。

安藤:できないことではなく、できることを探すということですよね。

青野:そうです。その発想のほうが効率がいいということに皆が気づけば、日本ももう少し、多様化が進むのかなと思いますね。

安藤:そうですね。最後に巷のボスたちにひと言お願いします。

青野:僕自身、一企業の社長として社員のさまざまな働き方に付き合っていくことが、今すごく楽しいです。みんなそれぞれじゃないですか。それをうまく受け入れて、福利厚生的な観点と生産的な観点がぴったりマッチした時の喜びは、何にも変えられないですよね。本人も嬉しいですし、僕も嬉しいですし。最終的に、僕らは人間の幸せをつくるために働いているわけです。「社員だけが苦しんで働き、お客さんだけが喜んでいる」というのはおかしな話です。売り上げや利益ももちろん大切ですが、もっと大事なことが仕事としてあるのではないか……と、社員全員が、このような価値観にシフトしてきているのを実感できてきているので、毎日が楽しいですね。

安藤:先日お会いしたボスも、青野社長と同じようなことを言っていました。「これからは成長ではなく成熟をめざす」と。「顧客満足をめざすと当時に社員満足もめざす。社員を満足させたほうが結果としていい仕事ができる」と。

青野:全く同感です。大切ことは、会社ではなく社会に視点を置くことですよね。会社の中しか見ていないボスは、会社がすべてですよね。だから会社を出た瞬間、役に立たなくなります。フルタイムで働く社員を毎日叱りつけながら働かせることしかできないボスには、残念ながら価値はないと思います。これからは、多様な価値観を受け入れ社会的な視点を持つボスを増やしていくことが大切だと思います。

実は、私ごとですが、来年2月に第3子が生まれる予定です。一人目の時には生後6カ月の時に2週間、二人目のときは毎週水曜日休みを半年間と育休をとってきたので、今度はどのようにとるか検討中です。会社としても、「世界最強のイクボスを出す!」というようなムーブメントを起こしていきたいと考えています。

安藤:おお!僕も子ども3人いますが3番目はこれまた超面白いですよ。またまた育休を取って青野さんがどんな改革をするか、今後のサイボウズにもますます期待しています。今日はありがとうございました!

青野さん①.JPG

タグ:イクボス
posted by イクボスブログ at 07:01| Comment(0) | インタビュー | 更新情報をチェックする

2014年10月07日

第11回 小川美里さん(医療法人寿芳会 芳野病院 総務課課長 WLB&ダイバーシティ推進室長)

image (1).jpeg

<小川美里さんプロフィール>
36歳。平成14年(2002年)芳野病院に入職。総務部広報、院長秘書など事務方の仕事を続け、今年3月に課長職へ昇任。1児(小学2年生女児)の母。

【動揺した内示、新たなチャレンジ】

安藤:3月に課長になられたのですが、これは自分から希望してのことだったのですか?

小川: 自分からではなく、お声かけいただき拝命する形でした。ちょうど組織が変わるタイミングで、その時にお話をいただいたのですが、とても驚いてしまって。その場では「分かりました」と返事をしたのですが動揺してしまって、その日、帰宅の道すがら、メンターの方々3人へ次々に電話して、「私に出来ると思いますか?」と質問しました。

すると、「あなたは、ダイバーシティを推進する立場でしょう」というお返事をいただきまして、そこで少し冷静になって、「ああ、そうだった」と考えることが出来ました。でも、自分のこととして消化するのには、少し時間が必要だったという気がします。自分の中では、「40歳ぐらいまでに課長になれたらいいなあ」と漠然と思ってはいたのですが、まさかこんなに早くお話をいただくとは思っていませんでした。

安藤:メンターの方々は外部の方ですか?

小川:そうです。ワークライフバランスやダイバーシティを勉強する中で出会った方々です。動揺した時にすぐに相談出来るというネットワークを持つというのは、とても大事だと思いました。

安藤:外部に、すぐ相談出来るメンターを複数持っている、というのはとても特徴的ですね。現在のお勤め先は、就職先としては何社目ですか?

小川:派遣を入れて4社目です。医療系は初めてでした。もともとはCAになりたくて勉強していたのですが、なかなか採用募集がなくて、接客業を中心に、博覧祭のアテンダントなど自分の興味の赴くままに、いろいろなタイミングとご縁が重なり、12年前に芳野病院に就職しました。

image (5).jpeg

安藤:ダイバーシティというものが、もともとご自身のテーマとしてあったのですか?

小川:入職してすぐ人事労務担当になったのですが、育休の実績ファイルの中に2枚くらいしか入っていないのを見つけたんです。「国家資格を持っている看護師さんたちが、なぜ辞めてしまうのだろう」と、不思議に思ったんですよね。私自身の母はずっと仕事をしていて、私の中では「おかあさん=働く」という図式が出来上がっていました。

そこでお辞めになる方々に、差し障りの無い範囲内で退職の理由を聞いていると、結婚や出産がきっかけの方もいて、「なぜ”結婚するから”という理由でお辞めになるのですか」と聞くと、皆さん答えが出てこなくなるんです。今からちょうど10年ほど前のことです。

安藤:地域の文化としてまだ残っていたんでしょうかね?東京ではもはやそういう感じはありませんね。会社にもよるでしょうが。

小川:その後も「結婚するので、辞めます」「出産するので、辞めます」と、本当に惜しい方がお辞めになるたびに、もったいないと思っていました。

病院には十種類ほどのクラブ活動があるのですが、平成15年の秋頃、「結婚しても、出産しても、本当は仕事を続けたい」という意見が、ぽろっと出てきたことがあったんです。そこで、「本当は辞めたくない人もいる」ということが分かったんですね。

それから、どうしたら辞めなくて良いのかと、みんなでアイデアを出して行ったら、「院内保育園」「期間限定パート」「ママのかわりにお迎え」など様々な面白い意見が出てきました。それらを書き留めて上司である総務部長に提出したところ、「これなら皆、働き続けられる職場ができるかもしれない」と、すぐに院長へ伝えて下さり、「いろいろアイデアを出してごらん」との返事でした。

それまで、職員同士が意見交換をする場がありませんでしたので自由に意見を交換しあう場として、「職場環境改善提案会議」というものが発足しました。たまたま管理職がいない会だったので、フラットな意見が出やすくて良かったかもしれません。

image (3).jpeg

安藤:そのころは「ワークライフバランス」という言葉もありませんでしたよね。

小川:そうなんです。その会議では事務局を担当していました。まずは、福岡県の「子育て応援宣言」に登録しよう、ということになり、平成16年に、県内で18番目に登録しました。でも登録直後は具体的な支援策はなく、外部から情報収集を続けて、平成17年施行の次世代法に基づき「時短勤務」や「男性も女性も育休がとれる」など、徐々に支援策を導入していきました。

最初の頃は女性管理職から、「私たちの頃は育休なんて無かった、今の若い世代は甘い」など厳しいご意見を頂くこともありました。

安藤:育休が無かった大変な時代の方々の意見ですね。

小川:もちろん、その世代の方々が道を切り開いて頑張って下さったから今の時代がある、というのは、とても理解出来ます。しかし、その頃は日本の家庭はまだ大家族で、家の中で子どもを預かってくれるおじいちゃんおばあちゃんがいたり、ご近所同士で子どもの面倒を見たりという地縁もあり、誰かが子どもを見てくれる、という体勢があったんですよね。
でも現代では、夫婦だけという家が増え、家の中で子どもの面倒を見てくれる人が誰もいない。地域でも安心して子どもを預けられる場が少ない、という社会的な背景を理解してもらわないと、新しい制度が必要な人たちが安心して使うことが出来ないと思いました。

安藤:どのようにして理解してもらったんですか?

image.jpeg

小川:外部より有識者の方に来ていただいて管理職を対象にお話をしていただいたり、全員参加の研修会でワークライフバランス講座をしたりして、あの手この手の活動をしました。また、廊下ですれ違う上司に、「○○さんは、育休から戻られたら、働き方変わりましたよね!」と声をかけるなど、地道に広げて行きました。そして、だんだんと制度も使われ始め、その中からまた改善点を見つけては修正を繰り返して行きました。

平成17年に、病院全体として「ワークライフバランス」という言葉を取り入れることにしたのですが、ちょうどその頃、「職場環境改善提案会議」の仲間全員が産休や育休に入り、会議自体が一旦お休みになってしまいました。メンバーが戻ってきて会議が再開したのが平成19年です。その頃に会議のメンバーに男性が加わり、初めての男性職員の育休取得がありました。それから1年に1件ほどのペースで、男性職員が育休を取得しています。

育休を取得した男性職員のいる職場は、その後様々なことが良くなったりしていますね。「今まではナポリタンしか作れなかったのが、いろいろなパスタを作れるようになった。
何でも入れたら良いのだと気付いた。」という、休暇中の家庭での気付きをきっかけに、職場でも視野が広がり、様々なことに気付くようになったという事例もあります。

安藤:数字的にはいかがですか?

小川:以前の離職票には退職理由を書く欄がありませんでしたので、結婚や出産を理由に辞めたかどうかというのが分からず、調査が出来ないというのがありますが、平成15年以前は1年間に平均1.7人で2件あるかどうか、という状態で、平成12年までさかのぼって調べたのですが、事例があったりなかったりという結果でした。

ただ、院長が福岡県”子育て応援宣言”で子育て支援をする旨を公表した平成16年に、いきなり6人が育休を取得したんです。その後も取得者が続き、それ以降、希望者がほぼ100%すんなり取得するようになりました。それを見ていたら、やっぱりこれまでお辞めになった方達が、ものすごくもったいなかったな、と思いました。

男性も、平成19年に1人育休を取得しました。病院で育児世代の男性となりますとかなり対象者が少ないのですが、それでもだいたい年に1人くらいは取得しています。直近のパーセンテージは30%ほどです。

image (2).jpeg

安藤:男性でも取りやすい雰囲気になっているんですね。

小川:NHKの番組でも、今年の6月頃に取り上げられました。自分が取得することで後輩に繋げてあげたいということ、子どもが本当に小さいうちしか関われないかもしれないということ、育児を夫婦でしっかり共有したいことなどがあって、育休取得に踏み切ったようです。

この7月に2週間の育休をとった男性の場合は、その職員の上司が当院で2度の育休を経た先輩ママだったのですが、「何でもフォローするから」とかなりサポートをしてくださったらしく、取得した側の男性部下は、「この上司のためなら何でも頑張ろう!」という思いを強くしたそうです。それだけ理解して応援してくれるわけですから、恩も感じるわけです。

その男性が育休から復帰してきた初日に、偶然会ったのですが、目がとてもキラキラしていて、嬉しく思いました。やはり、週末ちょっとだけ家族と関わる、というのとは全く違うので、本当に良かったのだと感じました。

安藤:小川さんたちが取り組んだことが実を結んでいるようですね。かつてはイクボス的な上司も少なく人材が流出していた。でもこれで病院としても人材不足が改善されてよかったですね。

小川:偶然、平成17年頃は、病院としても看護体勢をより手厚いものにしたい、そのために人材を増やしたいというタイミングだったのです。病院として育休取得を応援するという体勢を整えるとともに、様々な媒体でそれが取り上げられるなどして、働きたいと集まってきてくださる人も増えてきたんですよね。病院の場所は交通の便が必ずしも良いというわけではないこともありますし、その中で働きたいと言っていただけるのは、本当にありがたいです。

安藤:かなりフレキシブルに働けるんですか?

小川:シフト数は57あります。所属によって使える勤務パターンも違うのですが、勤務場所によってシフトチェンジを柔軟に取り入れたりして、出来る限り対応しています。ただ、勤務状況を管理する総務は初め、全て手作業で入力していたのでとても大変でした。さすがに無理が出てきて、管理ソフトを導入していただきました。

安藤:それは患者さんにとっても良いことですよね。担当の看護師がコロコロ変わるより、同じ人が担当してくれた方が良いでしょう。

小川:はい。たまたま、妊娠中の看護師と患者様が話しているところに、出くわしたことがあるんです。その時に、患者様が、「必ず戻ってきてね。あなたから元気をもらってるのよ」と話していたんですよね。

安藤:看護師のモチベーションも上がりますよね。病院に保育所はありますか?

小川:ちょうど今作っている所で、もうすぐ完成します。

安藤:それが出来ればまた、かなり復帰が楽になりますね。

小川:ただ、今の所は、夜勤担当者向けに、夜だけの開所となる予定です。

安藤:それだけでもかなりのセイフティーネットになりますね。

小川:試算の段階では不安も大きかったのですが、院長や上司から、「夜間保育所があるということで、職員の安心に繋がるから」とアドバイスをもらいました。

安藤:東京の大学病院などでは、職員向けの保育所がかなり整備されてきているようです。

小川:パートナーが飲食業だったり製造業などで夜勤があったりすると、やはり夜間保育所の存在は大きいです。北九州市は、製造業と病院で、勤めている人の約4割が占められるので、パートナーに夜勤があるという人は多いんです。

安藤:女性が24時間勤務の仕事で勤めていると、自分が妊娠した時に、育児をパートナーに頼みづらいという人が多いという声が多いんですよね。それで、女性が活躍する職場では、パートナーへの育児や家事参加を促す啓蒙活動に力を入れなければならないという流れになってきています。保険会社やエアラインなどもそうですね。

小川:復帰プログラムの中で、「パートナーをイクメンにしよう!」というコンテンツがあり、厚労省のイクメンプロジェクトの資料を使わせていただいたりしています。でも、女性が男性へ言ってもあまりひびかないということもあるんです。そんなとき、同じ男性である先輩パパからのひと言で、考え方がぐっと変わるという新米パパもいると、よく聞きます。育児や家事に参加する男性がいかにカッコいいかを感じてもらえたらいいですよね。ファザーリングジャパンの、男性が男性に向けて発信する取組みは、本当にいいなと思います。

安藤:ありがとうございます。ダイバーシティ推進室に男性職員はいないんですか?

小川:推進室は今は私だけで、そこから他の部署と連携してやっていくという体勢ですので、他部署の男性職員にロールモデルとして活躍してもらいたいと思っています。その方を見て、新入職してくる男性達が将来的に「自分もああなりたい」と希望を持ってくれるようになってきています。

image (4).jpeg

【「課長」になってみて実感すること】

安藤:課長になられて半年ですが、マネジメント面ではいかがですか。

小川:想像した以上に難しかったです。内示から異動まで1ヶ月間その間に頭の中だけで悩んでいたのですが、実際になってみたらやるべきことが具体的に見えて、案ずるより産むが易しということを感じました。

安藤:職場での席も替わったのですか。

小川:一度は変わりましたが、何となく落ちつかず今は元の形に戻りました。また、朝礼の時に大きく声を出したりする場面もあるのですが、私は元々声が小さいので、頑張って大きな声を出そうとすると裏返ってしまったりして(笑)。チームのメンバーは、年上の男性職員が5人ですので、外部の方がお越しになった時に、驚かれることもあります。「え、この人が課長ですか?」と(笑)。自分の中でもまだ違和感があります。が、できることから始めていこうと思っています。

イクボス⑫.jpg
<イラスト:東京新聞>

安藤:「イクボス10か条」というのがあるのですが、ご自身としてはこの条文と照らし合わせて、いかがですか?

小川:「情報共有」という点で、まだ課題があります。上の世代の男性職員は、家庭の事情をあまり話したがらないんですよね。自分で発信していただけたら、チーム全員で仕事の分担がしやすいのですが、家庭の事情などを伏せた状態ですと、それがとても難しいんですよね。

安藤:いろいろ抱えていても相談出来ない男性は多いですね。

小川:そういう場合、どうしたら良いんですか?

安藤:普通に聞いてもうまくいかないこともありますね。以前ロールモデルインタビューで出てくれた会社のケースでは、「おやつタイム」を設けてみんなで話し合う時間を持って、業務としてその時間を作り、上司が積極的に声をかけて話を聞くようになったことで情報共有がうまくいき始めた、というケースがありました(第2回インタビューご参照)。朝礼とかではなくて、ゆるい時間帯にやったのが功を奏した事例でした。あと、スケジュール管理はどのようにされていますか?スケジューラーを使っていますか?

小川:はい、社内LANがあってそこで共有するようにしていたのですが、なかなか浸透せず、今は朝礼で全員がスケジュールを口頭で言うようにして、そこでお互いにスケジュールを控えておいて、人員が手薄になりそうな時にカバーするようにしたりと、アナログ的手法でやっています。最初は「ルーティンワークします。」というひと言で報告が終わったりすることも多く、そこの内容を細かく知りたいのに・・・という場面も多くありました。そこで、私が自分から、スケジュールの内容を細かく言っていくことで、だんだんメンバーも、内容を言ってくれるようになってきました。

安藤:小川さんもお子さんがいらっしゃいますが、プライベートの行事や予定について朝礼で言いますか?

小川:伝えます。なるべく早めに「この日は学校行事があるので、どうしても出勤が出来ないんです」など、根回し的に言うようにしています。自分から発信すると、聞いている人が「実はこの日は実家の用事で」など言い出しやすいようになってくるんです。

安藤:部下の男性の方々も、家ではお父さんだったりしますよね。

小川:家のことを話している時は、仕事の時と表情が違いますね。親近感がわきます。また異動してすぐの頃は、私自身もすごく意気込んでいて、肩に力が入ってしまっていたので、からまわっていた時期があったと思うんです。

安藤:初めての課長では仕方が無いですよね。

小川:変に気負いしていた時期に、上司から「ゆっくり行こうや」と声をかけられたりしました。

安藤:それは良い上司ですね(笑)。タイミングが良かった。野球で投げ急いでいるピッチャーに監督が出てきてひと声かけるような。

小川:そのひと言は響きました・・・からまわっていることに気付いて、ものすごく恥ずかしくなりました。

安藤:それを経験して、またボスとして成長していけば良いですからね。ご自身は、定時で帰れていますか?

小川:今は保育所開所の準備で忙しいですが、だいたい定時の17時30分から18時くらいまでの間で帰るようにしています。自分が帰らないと、みんなも帰りにくいと思いますので、今後は、「長時間だけは評価せず、工夫して効率を上げているところを評価する」という風に変えて行こうかと思っています。

安藤:そういうアクションが大事ですね。

小川:私が入職したころと比べて、職員数は約100人増えているのですが、総務の人員はそんなに増えていないのです。ということは、今までと同じやり方では仕事がまわって行かないのです。今年度の下半期は、その改善に本腰を入れて取り組みたいと思っています。

安藤:かつてのやり方が良かった時代もあったと思いますが、そのやり方のまま仕事量が増えると、徒に残業時間が増えてしまう人もいると思いますので、そこはボスが工夫をして、みんなが健康的にちゃんと働けるようにしていくことが大切になってきますね。

小川:本当に、健康で仕事をするのがとても大切です。無茶しすぎて体調を崩してはいけませんね。

安藤:部下の健康管理も、上司の大切な仕事ですね。僕も以前部下がいた時に、「無駄な残業は評価に響くよ」と言っていました。上司が言ってくれないと、仕事のやり方を変えられず、自分で残業を減らせない部下というのは多いですからね。

小川:ずるずる居残る中で雑談が出てきたりすると、今度は「10分でも早く帰りたい!」と必死で仕事をしている人にとっては集中を妨げるものになってしまいます。どちらが効率が良いかというと、やはりだらだら残らず、高い生産性で仕事を片付けて定時で帰ることなんですよね。

でも、効率ばかりを重視しすぎると職場がギスギスしますので、バランスを見ながら改善を進めて行きたいです。主任の頃は、本当に楽しく仕事ができていたのですが、今はまだ慣れていませんので、出来るまでは必死にやってみようと思っています。でも、休日はヨガに行ったりアロマテラピーの勉強に行ったりしています。

安藤:いいですね。リフレッシュは大事。休日はエネルギーを蓄える日です。家にいても仕事のことしか考えられない人は、だんだん疲弊します。「休む」ということは「インプット」であるという感覚を日本人はもっと持つべきです。育児休業も「休む」=「怠けてる」「遊んでる」というイメージを持つ人がまだまだ多いのですが、その時間は「親になるトレーニングをしている」「親子・家族の関係をクリエイトしている」という感覚を、ボス達がもっと持たなければいけません。

小川:ワークライフバランスを取り入れた初期の頃、残業をしない方向でと発信していたら、「自分は年俸制だから、いくら残業をしても会社から残業手当が出るわけではない」という意見が出たことがありました。そこで私が「光熱費が発生しています」と言ったら、場が凍り付いてしまって(笑)。私も言い方が悪かったかもしれませんが・・・最近は言い方を工夫するようにしています(笑)。

【今後のビジョンについて】

安藤:今後のビジョンはいかがですか。

小川:まずは自分の部署からなんですが、ひとりひとりが「ここで働いているのが楽しい」と思ってもらえるような職場にしていきたいと思っています。でも、ただの仲良しチームという感じではなく、きちんと成果を出して行ける組織にしていかなければいけないとも考えています。特に総務は、数字として目に見えるということが少なかったのですが、それでも全く数字が関係ないというわけではないんですよね、そこでかかっている経費をダウンさせたり、自分たち自身のパフォーマンス上げたりとか。大変だなと思う一方で、やりがいがあるな、と感じています。

安藤:ボス自身がそういう風に思える、言えるというのはとても大事ですよ。部下がそれを見て、モチベーションが上がってきますから。

小川:安藤さんのように、ゆとりで言えるようになりたいですね(笑)。まだまだ新米、ひよっこで、体力も能力もまだまだですので、そこをクリアにして「みんな楽しそうで良かった」と言えるようになりたいです。

安藤:ボスですから結果を出さなければならないし、そこで「サラリーマン」をやらずにクリエイティブに楽しむというのが大事ですよね。あとは、何かの縁で一緒に働いているわけだから、同じ職場の人たちの幸せも達成してほしいなとは思いますね。長い人生で見たら子育てもそうだけれど、いつも笑顔というわけにはいかなくても一緒にいる限られた時間の中でお互いを高めあって成長して行けたらと思う。パートナーシップだと思うんですよね、夫婦だけじゃなくて上司と部下も。会社の中でもお互いの生き方を大事にしてあげるというのは大切なことです。

小川:これからは育児と介護が重なって大変な職員も出てくると思うんです。今のうちに業務を圧縮して、10の力ではなく8の力で仕事を回して行けるようになれたら、不測の事態が出てきてもみんなでなんとかカバーして行けますよね。

安藤:その感覚、大事ですよ。自分もそういう風にした方が良いです。いつもフルでやっていると仕事がたまってきて、優先順位を間違えたりしますから。僕も若い頃はそうでした。

小川:午前中と午後の仕事の配分は、どうなさっているんですか?

安藤:かなりぎゅっと濃縮して仕事するようにしています。人間、集中するとその分疲れますからね。朝シャッターを開けて、仕事が終わったらシャッターを閉めるイメージです。昔は書店をやっていたので、その時に身に付いた感覚ですね。24時間シャッター開けっ放しは健康的ではない。メリハリを付けて仕事することが大事ですね。ところで昇進が決まった時のご主人の反応はいかがでした?

小川:反応は普通でした、「あ、そうなんだ。倒れないように、自分を追い込まないように」と言われました。でもそれが本当にありがたかったです、大喜びするでもなく反対するでもなく。そこから、目に見えないサポートがとても増えました。私自身、3月から6月くらいまで今よりもいっぱいいっぱいになっていたのですが、私が帰宅するとご飯を作っていてくれたり、3月から洗濯は夫の方がやってくれています。家事分担を10で分けるとすると、間違いなく向こうが8やってくれています(笑)。

安藤:今は移行期だから(笑)。家族がそうやってサポートしてくれると、モチベーション上がりますよね。「これだけやってくれてるし、早く帰ろう!」とかね。お子さんはいかがですか?

小川:私が帰宅してそのままソファーで寝入ってしまっている姿を何度か見ているからか、タオルをかけてくれたりします。先日は、疲れて寝てしまった私の目の前に、ヤクルトを置いておいてくれたんです(笑)。

安藤:ヤクルトかあ(笑)。

小川:以前、私が栄養ドリンクを飲んでいるのを娘が見て「私も飲みたい!」と言われた時に、「これはまだダメ!あなたの【元気が出る魔法のお薬】はこっち」と、ヤクルトを飲ませたんです(笑)。それからずっと、「元気が出る魔法のお薬」だと(笑)。

安藤:なるほど、その魔法は元気が出ますね(笑)。公私ともに充実の小川さん。こういう素敵な女性ボスがいるんだということが、若い女性社員の励みになりますね。

小川:逆に、「こんな私でもなれますので、皆さんぜひチャレンジしてください!」と言いたいです(笑)。

安藤:最後のひと言、バッチリ決まった(笑)。ありがとうございました!

小川:ありがとうございました。

小川美里さん①.JPG

(筆:笹川直子)
posted by イクボスブログ at 15:54| Comment(0) | インタビュー | 更新情報をチェックする

2014年09月09日

第10回 下地寛也さん(コクヨファーニチャー株式会社 ソリューション企画部 部長)

イクボス・ロールモデルインタビュー第10回はコクヨファーニチャー株式会社の下地寛也さんが登場。独身時代は残業が当たり前。異動により、初めてママ社員を部下にもったご自身がワーク・ライフ・バランスに目覚めたきっかけは何か?東京・港区にあるコクヨ・品川オフィスでお話を伺った。(FJイクボスプロジェクト

IMG_2619.jpg

〈下地寛也さんプロフィール〉
1992年に入社し、設計部でインテリアデザインを担当。97年に結婚。2008年よりソリューション企画部へ。妻、長女(中3)、次女(中2)、三女(小5)、四女(年中)の6人家族。

【独身時代は残業が当たり前】

安藤:独身の頃は、どんな働き方でしたか?

下地:92年に入社して97年に結婚するまで約5年の独身時代は、設計の部署でインテリアデザインの仕事に携わっていました。会社ではフレックスタイム制度が既にあり、出社は朝10時とか10時半とかでしたが、夜は毎日9~10時まで仕事していました。徹夜も結構ありましたね。

安藤:若かったし、夜遅くまで残業するのは当たり前という感覚?

下地:そうですね。今でこそ、「ワーク・ライフ・バランス」の意義が少しは理解できるようになりましたけど、当時はその発想には大反対の人間でした。というのも、設計など何かを“つくる”仕事って、「私生活をある程度投げうってでも、とことんまでいいものを作りたい」という気持ちが根底にありますから。

安藤:クリエイティブ職の方の、「かけた時間だけ成果が出る」という考え方ですね。

下地:かけた時間だけ本当に成果が出るかはわからないけど、「完成する直前まであがきたい」という気持ちがあるんですよ。

安藤:なるほど。

下地:今は、企業向けのセミナーを企画したり新しいビジネスを考えたりなど、どちらかというと研究職に近い仕事内容の部署で、比較的時間をコントロールできる仕事が多いため、そのようなジレンマはあまりありません。でも、設計の部署にいたら、どのように折り合いをつけながら仕事をしていくかというのは悩むところですね。

IMG_2631.jpg

安藤:独身時代、家族も時間の制約もあまりない状況の中で、日本の若い人達はついつい残業体質になってしまいますよね。でも、そのあと結婚して子どもができたりすると、女性社員はもちろん男性社員もそうは言っていられなくなる。そんな中で出てきたのが「ワーク・ライフ・バランス」だと思います。

忙しい時はとことんまで仕事するけど、ずっと忙しいままと自分の健康も損なうし、家族からのプレッシャーも大きくなる。そこで、バランスをとりながら、めりはりをつけて働こうと。でも、そうすることで、かえってアンバランスになる事も確かにありますよね。ところで、娘さんが4人いらっしゃるんですよね。何歳ですか? 奥様はお仕事なさっているんですか?

下地:上から中3、中2、小5で、いちばん下が4歳です。妻は仕事はしていません。妻も出産前は会社勤めをしていて帰宅も遅く、家の事が何もできない状態でした。当時、夫婦で「このままでいいのだろうか」みたいな話をした時に、妻のほうは「これから先もずっと働き続ける気持ちというわけではない」という事だったので、「それならこのタイミングで見切りをつけたら?」って。ちょうどそんな時に、最初の子を授かったんです。

安藤:その頃は、どんな風に育児参加されていましたか?

下地:子どもが一人の時は、子育てはあまりしていなかったのですが、年子で二人目ができたあたりから、妻が結構つらそうにし始めまして。妻が下の子の面倒にかかりっきりになるのを見て、「あ、そうか。上の子の面倒もみてあげないといけないんだ」と思い、主に上の子の世話をするようになりました。

安藤:育休はとりましたか?

下地:その頃はまだ設計の部署にいて仕事優先だったので、とりませんでした。

IMG_2632.jpg

【ママ社員を部下に持ち、マネジメントを考える】

安藤:働き方の意識が変わってきたのはいつ頃から?

下地:5、6年前、今の部署に異動してきた頃ですね。うちの部署に、優秀なママ社員がいたんです。昔設計をやっていた女性で、その時と同じようにお客さんと丸一日フルで対応するような仕事は難しいけど、ある程度時間の融通がきく企画の仕事だったらまかせたいという感じの、できる社員でした。

こういう社員を初めて部下に持って、「母親業も大変そうだけど、彼女が会社を辞めたら部署としてのダメージが大きい。どうしたらいいだろう」と思うようになったのが始まりですね。

安藤:どんなマネジメントをしたのですか?

下地:週に1度、スタッフ全員でミーティングをするのですが、仕事の報告はもちろん、子どもを含めた家族についても、それぞれがどういう状況にあるかを全員で確認しあおうと声をかけました。

現在部下は13人いるのですが、常に全員の状況を把握しながらも、問題のない部下には仕事を全面的に任せ、手助けが必要そうな部下は時間をかけてみるようにしています。

IMG_2622.jpg

安藤:時間をかけて何をみているのですか?

下地:仕事って、常々先の予測をしておかないといけないので、その部下の2週間くらい先の予定までチェックし、なにかあったら他の人間がすぐにリカバリーできるような体制を整えるようにしています。大事なのは、部下の管理をきっちりするというよりは、ママ社員が、「子どもが突然熱を出して仕事を休まなくてはいけなくなっても何とかなる」と思えるような職場の雰囲気を常に醸し出しておくことだと思っています。

安藤:その考えは、部下に浸透していると思いますか?

下地:どうでしょうね。でも、僕自身が家庭の事情で会社を休む時は、なるべくくわしく部下に理由を言うようにしています。今、妻が中学校のPTA会長をしているのですが、PTAでの地域活動が忙しくて、下の子の小学校や幼稚園の行事と重なってしまうことがあるんです。このような時は、僕が妻に代わって育児を受け持つので、「明日は下の子の幼稚園の送り迎えがあるので休みます」と、具体的に伝えています。僕から率先してこのように伝えることで、他の人も、家庭の事を気軽にいえるようになればと思っています。

安藤:いいですね。あと、部下のプライベートはどれくらい把握できていますか?子どもの年齢や人数、旦那がイクメンかどうか、共働きかどうかなど。

下地:大体わかっていると思います。先日、男性社員で1カ月の育休を申請してきた部下がいましたが、「働き方をどうするか」というのはうちの部署の課題でもありましたので、彼の体験談を共有し、1人の社員が育休をとった時に部署ではどんな事が起こるのかをきちんと把握する事ができました。彼も育休を取って、以前よりも元気になって職場に戻ってきたようで、そんな姿を目にするのもうれしいです。そういう意味でも、部下のプライベートを把握することは、とても大事だと思います。

あと、昔はわからなかったけれど、例えば、社長に報告する資料をつくるにしても、「パワーポイントとかを使いこなして時間をかけ、体裁だけはとりあえず整える」よりは、「簡単なメモ書きでいいから内容がつまったものをつくる」のがベターだと思うようになりました。無駄に手を掛けすぎず、不要な業務の手を抜くツボのようなものを、部下にどうやって教えていくかというのも、イクボスとしてはすごく大事ですよね。

安藤:確かにそうですよね。

下地:試行錯誤しながらも、うちの部署は新しい働き方を打ち出して、今のところうまくいっていると思います。ただ、会社全体として見たときに、うちの部署のような働き方ができるかどうかは、上司の考え方によるところが大きいと思うんですよ。上司が古いタイプの部署の現場は、まずは上司をどう変えるかが課題になってくるわけですし、その辺が難しい。僕も、たまたまこの部署に来て、ワーク・ライフ・バランスを考える立場になったということは大きいと思います。人間、一度は何かに困らないと、前に進めないですから。

安藤:世の中の流れ的には、職場での女性の活躍を推進し、女性の管理職を増やしていこうという風潮があるいっぽうで、若い男性社員の8割は、将来子どもができたら育児をやりたい、そのうちの半分が、育休をとりたいっていっているんです。

このような中で、下地さんのような考え方のイクボスが組織の中にいる事が、とても必要になってくると思うんですよ。社員が50代くらいになると、育児だけでなく介護の問題も出てくるしね。下地さんが管理職としてこれまでやってきた事を組織の中で横展開し、今のうちにそういう環境をつくっておくのは大事ですね。

IMG_2636.jpg

【新しい価値観を身につけ、イクボス“移行期”】

下地:そうですね。ただ、人間って、特に男性は、仕事なら仕事って、ひとつの事に集中していたほうがラクですよね。僕自身も、週末は家族と過ごす時間を大切にしているつもりですが、日曜日の夕方が終わると、正直、「あ~週末が終わった~。明日から大人と話せる」ってほっとする気持ちもあります。社員よりも、うちにいる4歳児の相手のほうがずっと理不尽で大変ですから(笑)。

安藤:よくわかります。同じように、金曜日になると「家で育児をやらなきゃいけない週末がやってくる」って落ち込んでいる男性が、たくさんいますからね。そこを超えるには、まさに、会社だけではなくて、地域や、社会貢献などで、会社以外に自分の居場所を作ることが必要だと思います。週末の家族とのコミュニケーションも、実は仕事のヒントになったり、PTA活動に参加することで、さまざまな多様性が見えてきたり、子どもの教育問題にも関心が出てくる。ワークライフ“バランス”というより、ワークライフ“シナジー”(相乗効果)という発想ですね。

下地:そうですね。人間って、今までと全く違う新しい価値観を受け入れる時、その価値観を頭で考えてなじませる期間と、少しずつ身について、本当に理解し動けるようになる期間があると思うんです。そういう点から考えると、僕は今、新しい価値観が身についている途中という感じがします。“イクボス移行期の終盤”といったところでしょうか。

安藤:なるほど。

下地:次女が軟式テニスをやっていて、応援に行くのに車で送ったり、週末子どものために時間を使うのは楽しいなって、もちろん思うんですよ。でも、金曜日になっても月曜日までにしなきゃいけない仕事がいくつか残っていると、週末子どもと過ごす時間を楽しみながらも仕事の事がどこかにひっかかっている。その案配が難しいですね。そういう意味からいっても僕は、“イクボス移行期の終盤”なんです。

安藤:いやいや、「移行期の終盤」といえる謙虚さが素晴らしいと思います。それすらも気づかないボスがいっぱいいますから。

イクボス⑫.jpg
(イラスト:東京新聞)

【会議は絶対に時間通りに終わらせる】

安藤:「イクボス10カ条」には、どのくらい当てはまりますか?

下地:①と②はできていると思います。③の「知識」は、社内制度を知っているかというものですが、これについては印象に残るエピソードがあります。産休から戻ってきた優秀なママ社員が、時短勤務を希望していて、これまでの8割の時間で勤務するか、平日に1日休むかどちらかを選べるということで、そのどちらをとるか悩んでいたんです。でも、よくよく調べると、両方とれる事が判明しまして……。彼女は仕事を持ちながらも「子育てにできるだけ時間をあてたい」という気持ちがあり、産休明けの働き方によっては会社を辞める事も選択肢のひとつに入れていたようなのですが、結果的に両方とって、会社に残ってくれたんです。こうしたちょっとの事が、部下が仕事を継続できるかどうかの選択が変わってくるんだと実感しました。

安藤:そうですね。ママ社員にとって、「1時間早く帰れる」とか「平日に休める」というのは大きいですからね。

下地:④の「組織浸透」は、うちの部署自体が、社内で率先して行っていかないといけない部署だと思っています。ただ、最初にも少しお話しましたが、クリエイターとして「お客さんによりいいものを届けたい」という気持ちが強い結果、ワーク・ライフ・バランスよりも仕事のほうを優先する社員はいるわけです。その社員にどうアプローチしていくかという方法論は、自分の中にまだないですね。

安藤:なるほど。正直な意見ですね。

下地:⑤、⑥もできていると思います。ただ、社内のネットワークは、もう少し使いやすくする余地があると思います。⑦の「時間捻出」については、会議の削減はしていませんが、「会議は絶対に時間通りに終わらせよう」という意識で常日ごろからやっています。

安藤:⑨の「有限実行」はどうですか? やさしいだけのイクボスではなく、「しっかり結果を出そう」という意識があるかどうかという事です。

下地:うちは、営業のようにお金を稼ぐ部署ではないのですが、やはりこれからの世の中は、エクスペリエンスデザインとかデザインシンキングとか、いわゆる経験やつながりからクリエイティブする時代になっていくと思うんですね。

社内の人間だけで考えると限りがありますので、個々が自由に動いて外とつながりながら仕事をしていくことを推奨しているのですが、メンバーもそれを実践しているので、個々の能力は高まってきていると思います。
ただ、外部の優秀なフリーランスの人の価値観にふれることによって、大企業の力学のようなものを窮屈に感じる社員もいるのではないか、そこで会社での仕事が物足りなくなり、今よりもさらにいい仕事を与えないと辞めていってしまうかもしれない、そんな危惧を感じることもあります。

安藤:これはよく、他のボスからも出ますね。

下地:⑩の「隗より始めよ」は、「でき始めてきている」という感じです。

安藤:イクボス移行中といいながらも、大体全部できていますね。

下地:こういう風に10カ条にまとまっているといいですね。会社でいろいろ考えるきっかけになります。

安藤:会社でこれをばらまいている人もいますよ。でも、ご覧のとおり、これらの事って、マネージャーだったら当たり前の事なんですよね。できないのはその人の能力ではなくて、やはり会社の伝統的な働き方であったり、慣習のようなものが原因になってくると思うんです。「ワーク・ライフ・バランス」の考え方を、自分も含めてどう取り入れていくのか、まずはそれを考えないと。

「ワーク・ライフ・バランス?そうはいっても無理だよね、この会社は」って多くの社員が思ってしまったら、そこで終わってしまいます。そこを、さっきおっしゃっていたデザインシンキング的な発想で、まずは自分が率先してやってみて、自分のライフデザインを会社にもうまく浸透していくような発想ができるボスを増やしていきたいんです。

下地:そうですね。こういう事を考えるのって、正直、面倒くさい部分もありますが、「面倒くさいことを考えることが楽しいんだよ」って思ってもらえればいいんですよね。

安藤:そうすると、組織も進化するんです。僕は、ママやパパ向けのセミナーも良く開催しているのですが、ママ自身が「うちの旦那はイクメンなんてとんでもありません。いつも夜遅くまで帰ってきませんから」なんていって、旦那をあきらめていたりするわけですよ。そう言っているだけだと、自分がいつまでたっても楽にならないですよね。

【広い意味で、自分をさらけ出すことが大切】

安藤:最後に、独身の人や、結婚しているけどまだ子どもがいない人へのアドバイスがあればお願いします。

下地:組織においては、ワーク・ライフ・バランスとか育児のことだけじゃなくて、もっと広い意味で自分をさらけ出すことが必要と思います。僕も、「正直、マネジメントの事はよくわからない」などといいながら、部下といっしょに考えるモードでじっくり話すと、人によって違う価値観に気づき、「じゃあそこをどうしよう」みたいなディスカッションになっていく。「こうするべき」とか「こうならないといけない」ではなく、「どうなんだろう」って、皆で考えられるようになるといいのかなと思いますね。

IMG_2622.jpg

安藤:なるほどね。

下地:「休んでいいですか?」ではなくて、「今こういう状況があるんですけど、どうでしょう」って投げかければ、上司も考えてくれる。そういう事を会社の上の人とフランクに話す事ができる環境であれば、見えてくるものも多いのではないでしょうか。

安藤:やはり、大切なのは環境づくりや伝え方ですよね。ぜひ、御社でもイクボスを広めていただければと思います。今日はありがとうございました。

IMG_2646.jpg

★コクヨ『WorMo'』セミナー報告1「子育て世代を活かすチーム戦略~チーム力を上げるイクボスとは?」



posted by イクボスブログ at 10:06| Comment(0) | インタビュー | 更新情報をチェックする