2016年07月15日

第23回 石坂博史さん(NTT都市開発株式会社 経営企画部 広報・マーケティング室長)

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イクボスロールモデルインタビュー第23回は、「イクボス企業同盟」に加盟し、NTTグループの一員として「女性リーダーの育成」「仕事と育児の両立支援」「働き方改革」を推進するNTT都市開発株式会社の石坂博史さん。経営企画部 広報・マーケティング室長として部下を率いながらも、地元・世田谷区の子育て支援団体である「おやじの会」のメンバーとして地域の子どもたちと積極的に交流。子どもが通う小学校で読み聞かせボランティアの活動も行う “地域内イクボス”でもある。「おやじの会」や読み聞かせにまつわるユニークなエピソードも披露され、笑いの絶えない和やかな雰囲気の中、“石坂流”イクボスの価値観について伺った。

〈石坂博史さんプロフィール〉
NTT都市開発株式会社 経営企画部 広報・マーケティング室長。1967年生まれ。大学卒業後NTTに入社し主に法人営業系の業務に携わる。2012年、グループ会社であるNTT都市開発株式会社に異動し、経営企画部に。小6の女の子、小2の男の子の父親であり、妻も共働きで頑張っている。

【「朝、子どもを保育園に連れていくのは自分の役目」と決めた】

安藤: 石坂さんは、ご結婚はいつされたのですか? 結婚前の働き方はいかがでしたか?

石坂: 結婚は34歳の時でした。結婚前は、週に何日も徹夜しながらガンガン働いていましたね。スキルや経験のない若い自分が、会社の中で自分なりの役割を果たすためには、徹夜してでも何でも、仕事の“量“で勝負して、先輩たちに負けない仕事をしたいと思いながら働いていました。当時はそれが楽しかったです。

安藤: 確かに、仕事に打ち込むことで人間的にも成長する部分はありますよね。

石坂: そうですね。仕事に打ち込んでスキルや経験を積み重ねることで、周りの人からも信頼されますし。もともと体育会系気質で、上司から叱咤激励されたりするとますます燃えるタイプなので(笑)、かなり長時間労働していました。

安藤: 僕も石坂さんと同世代で、20代の頃はまさに石坂さんと同じような働き方をしていましたよ。当時は、「この働き方でいいんだ」って信じていました。結婚後、働き方は変わりましたか?

石坂: いえ、結婚後もしばらくは、仕事人間でした。ただ、僕の両親は共働きだったのですが、バリバリ働くお袋を親父がものすごく大事にしていて、掃除や洗濯なども率先して行ってお袋を支えていたのです。小さい頃からそんな両親の姿を見てきていたせいか、掃除、洗濯、ゴミ出しなどは、自分から進んでやっていましたね。平日は相変わらず長時間労働でしたが、一人暮らしが長く、料理も嫌いではなかったので、週末は時々僕が料理を担当して妻にふるまっていました。僕が料理を作るたび、妻が「おいしいわ、あなたの料理」ってほめてくれまして。妻は僕をおだてるのがうまいのですよ(笑)。

安藤: ほめ上手な奥さん。夫をその気にさせて、すごいですね。

石坂: そうですね。奥さんって、ある意味“家庭でのリーダー”じゃないですか。そういう目で妻の家庭でのマネジメントや仕切り方を見ていると、あらゆる面で何もかもかなわないんですよ。多分、他のご家庭でもそうだと思います。当社では女性活躍を推進していますが、“家庭でのリーダー”としての妻の働きぶりを見ていると、「(男性よりも)女性のほうが、マネージャー資質がある」ということをつくづく感じます。

安藤: なるほど。確かにそうですね。その後お子さんが生まれ、育児とどのように向き合ったのですか?

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石坂: 住まいのある地域は待機児童が多く、保育園に申請しても落ちてしまって、妻がしばらく育児休暇をとっていました。妻の職場復帰後も、仕事は相変わらず忙しかったですね。でも、子育てにはしっかり関わりたかったので、妻と話し合い、僕が毎朝子どもを保育園に連れていくことを決めました。夜は帰りが遅くなり、子どもの寝顔しか見られないだろうから、朝の時間を子どものために使おうと考えたのです。
でも、子どもを保育園に連れていくだけでもひと仕事じゃないですか。雨の日などは大変でしたね。僕、スーツが大好きでこだわっているのですが、保育園に遅れそうな時は「スーツがぬれる」なんて言っていられないので、ぬれねずみになりながら娘を抱きかかえて走ったこともあります。毎日必死でしたが、短い時間でも子どもと関わり続けると、子どもはパパのことを大好きでいてくれるんですよね。園まで一緒に歩きながら「パパ、きれいなお花が咲いてるよ」と教えてくれたりなど、たわいもない会話もとても楽しかったです。時がたち、今では二人とも小学生になり僕の朝の仕事は一つなくなりましたが、「関わり続けてきて正解だった」と実感しています。

安藤: いいですね。それが、僕らが言っている“パパスイッチ”なんです。パパが子どもと積極的に関わることで、子どもから楽しさや嬉しさを返してもらい、親子でいっしょに成長していけるんですよね。“パパスイッチ”が入った男性って、「自分の子どもだけではなく、子どもみんなが幸せになれるようなことができないだろうか」と考え、地域活動を始める方も多いのですが、石坂さんはいかがでしたか?

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【「強制しない」「厳しくやらない」が基本ルールの「おやじの会」は、
スーパー前向き思考】


石坂: まさにそのような思いで、上の娘が地元の塚戸小学校に入った時に、PTAとともに小学校の子どもたちがすこやかに育つための支援活動を担う「おやじの会」に入りました。

安藤: 雰囲気はどうですか?

石坂: すごく良いですよ。世田谷でも一番大きく、都内でも有数の大型校の「おやじの会」ですが、学校の先生方や地元との連携も良くて、「強制しない」「厳しくやらない」が基本ルールで、「各自が仕事や家庭の都合を考えながら、できる範囲でできることをやろう」というスタンスなんです。自ら積極的に子育てや家庭に参画している父親たちばかりなので、アットホームで楽しいですね。「おやじの会」のメンバーって、皆、スーパー前向き思考なんです。いろいろ活動しながら「今度はこういうのをやろうぜ」とか、アイディアがどんどん出てくるんですよね。

安藤:「皆がいつも笑顔でいられるために、自分たちができることをどんどん探そう」という感じなのですよね。会社組織だったら、こんな部署に新規事業をまかせたいですよね。「おやじの会」の中で、思い出に残っている活動はありますか?

石坂: たくさんあるんですけど、僕自身も含めて楽しいなと思ったのは、野外でパンを焼いて食べるイベントです。竹竿に、パンのタネをコロネみたいに巻き付けて火にあぶって食べるんです。「パンってこうやって食べるとおいしいんだ!」という子ども達の表情も最高でしたし、外で自分が作った料理を食べるということで、子どもたちもものすごく喜ぶんですよね。あとは、サバイバルキャンプですね。学校に泊まり、地元の消防署などに協力いただきながら、いざという時のサバイバル術を学ぶ催しなのですが、このイベントの夜のお楽しみが、子どもたちへの怪談話。部屋中に黒いカーテンをしきつめて真っ暗闇をつくり、読み聞かせのプロに読んでもらってすごく盛り上がりました。準備する大人が本気で取り組まないと楽しくないので、とことんまでこだわりました。

読み聞かせ.jpg 小学校で読み聞かせをする石坂さん

安藤: 素晴らしいですね。「おやじの会」では、お母さん達に対しては、何かされているのですか?

石坂:「おやじの会」は基本土日なので、家族の理解がないと活動できないんです。会として大事にしていることのひとつが、「家族満足度を上げる」ということなのですが、その目的を果たすため、年に数回、メンバーのおやじ達がホスト役として、ママ達を招待してパーティを開く「奥様に感謝する会」を開いています。普段が大変なママ達はずっと座っているだけで、ママトークに盛り上がってもらい。僕らおやじたちが、ママ達にかいがいしく料理や飲み物を運び、食べたり飲んだりしてもらう会で、毎回大好評ですよ。このような交流から、おやじの会のメンバーをご主人に持つママ達が会の活動を手伝ってくれたり、最近では、おやじの会のメンバーを父親に持つ子ども達による、「おやじチルドレン」も生まれ、主催者側に回って、おやじたちをサポートしてくれたりしています。

安藤: 「ママに感謝する会」は、僕らもよくやりますね。子どものすこやかな育ちには、何と言ってもママが笑顔でいることがいちばんですから。ところで、このような素晴らしい発想は、誰かのアイディアなのですか?最初からすんなりできていたわけではないですよね。

石坂: もちろんです。「おやじの会」の先輩たちが実践しているのを見たり、先輩たちから「これが大事なんだ」って直接教わったりして、「なるほど」って。それがずっと受け継がれていく感じです。

安藤: それこそがまさに、「地域内イクボス」なんです。

石坂: そうですね。僕は家族を持って始めて世田谷に住み始めたんです。もともと“アウェイ”な地だったのですが、「おやじの会」や子どもの学校行事に参加したりしているうちに、地域の知り合いがものすごく増えまして。今や“ホーム”です。

【「プライベートを大事にしながら、いい仕事をして成果も出す」という
“理想”を目指し続けたい】


安藤: 若い頃は、地域なんか見えていなっかと思いますが??

石坂: そうですね。でも、基本的に人が好きで、地域の商店街の人たちといつの間にか仲良くなるタイプの人間なんです。妻からも、「昔からここに住んでいたみたいね」とよくいわれます(笑)。
「おやじの会」に加えて、子どもたちの学校に出向いて読み聞かせもやっています。当社は時間休がとれるので、その日は朝の1〜2時間、時間休をとって子どもの学校に行き、本を読んでから出社しています。僕自身、もともと本が大好きなので、読む日の数週間前から絵本の専門店やお気に入りの本屋さんに足を運び、読む本を選ぶところから楽しんでいます。

安藤: 僕はいつも当日朝に決めますよ(笑)。

石坂: 読み聞かせを始めて気づいたのは、「子ども達にこんな風に情報発信させてもらえる機会をもらえるって、すごいことだな」ということです。それ以来、自分が読みたい本だけではなく、「人はどうして生きるのか」「戦争はなぜ悲しいのか」といったメッセージ性のある本を読んだ後、自分なりの解釈をこめて話をさせてもらったりするようにもなりました。このような時間を通して子どもたちと交流を重ねるうちに、子どもの名前も顔も、だんだんわかってくるんです。それで、読み聞かせの後で「○○くんはどう思う?」なんて聞いてみたり、とても充実した時間を過ごさせてもらっています。面白いテーマの絵本を読んで、いい反応をもらえた時は最高ですね。先日、6年生たちに『おなら』の本を読んだら大受けでした(笑)。

350_Ehon_109085.jpg 石坂さんの最近のお気に入り絵本『おならをならしたい』

安藤: いいですね。そっち系の本って、ママ達はあまり読まないですもんね。「お父さんが読み聞かせに来ると、お母さんが普通は読まない絵本を読むから、それがすごくいいですね」と、先生たちからおっしゃっていただいたこともあります。

石坂さんの、イクメンぶり、地域内イクボスぶりがよくわかりました。さてここからは、会社でのイクボスぶりについてお伺いしていきます。家庭や地域と積極的に、楽しく向き合っている石坂さんですが、今までお話されてきたようなご自身のプライベートのことを、会社の部下には言わないのですか?

石坂: あまり言わないですね。さしで飲みに行ったりする時には言うこともありますけど、なんというか、照れるんですよ。

安藤: 子育てに悩んでいるような部下はいないのですか?

石坂: それが、うちの部署は、いい感じのイクメンやイクママが多いんですよ。

安藤: やはり、石坂さんの生き方が部署内に浸透しているのですね。
石坂: それはどうかわからないのですが、うちの部署には僕以上にすごいパパ社員がいますよ。子どもが野球を始めたことをきっかけに、自身もコーチやったり審判の資格をとったり。週末は練習や試合に参加してくるので、週明け会社に来るたびに日焼けして黒くなっていくんですよ。仕事ぶりも優秀で、生産性も高いんです。帰れるときにはちゃんと帰り、基本的にダラダラ残っていません。

安藤: ナイスな職場じゃないですか!ライフが充実している部下がたくさんいらっしゃるのですね。

石坂: そうですね。僕自身の「ライフ」をお話すると、子どもと一緒に阿波踊りをやっています。練習は毎週金曜日を中心に行っていて、仕事で行けないこともあるのですが、高円寺、下北沢、経堂、三軒茶屋など都内で年に10回くらい出演する機会があります。

安藤: 阿波踊りの練習の日には、残業を入れないのですね?

石坂: もちろん入れません。

安藤: スケジューラーなどに、「阿波踊りのため」とか書くのですか?

石坂: それはもう、さすがにはずかしいので、非公開です(笑)。僕は、組織の中では自然体を大事にしています。メンバーには「プライベートを大事にしながら、いい仕事をして、成果も出す」という理想が自然に伝わったらいいと思っています。なので、会社や仕事だけにならずに、「家庭も大事にするよ」という姿勢は、ずっと示し続けようと思っています。

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つい先日も、平日の午後、妻の誕生日に、レストランで夫婦で食事をとりました。僕たち夫婦の間では、お互いの誕生日は休みをとり、レストランで食事をすると決めているんです。子どもたちが学校に行っている間に二人だけでゆっくりランチできるので、平日休みをとるほうが都合がいいんです。これを15年、続けていますね。

安藤: やるなあ。

石坂: 休みをとることについて言うと、若い頃、休みをとる時に上司から「理由を言いなさい」といわれるのがとてもイヤでした。休みをとるのは自然なことなのに、なぜ理由をいわないといけないのか納得できませんでした。自分自身がこのような思いを抱いてきたので、今僕は、メンバーとは、「自分の仕事が終わっていたら定時に帰ればいいし、休みも普通にとればいい」というスタンスで接しています。

安藤: なるほど。上司がそのような考え方だと、部下は休みがとりやすいですよね。

石坂: そうですね。時々、その日の午前中に「今日の午後休みます」というようなこともありますが、「家族の事情だな」など背景がすけてみえるので、それでいいかな、と。うちのメンバーの話ですが、子どもって、自分の具合が悪くなったりすると、最初に連絡をとる相手って普通、母親じゃないですか。子どもから、「体調悪いんだけど」などとSOSの電話が男親にもかかってくるんです。それだけ子どもに信頼されているということなんですよね。

安藤: やはり、石坂流がちゃんと行き届いてますね。

石坂: いや、たまたまそんなメンバーが集まったのかと。

【肩書きでなく、お互いを「さん」づけで呼び合うことを徹底していきたい】

安藤: 普通そんなことはないです。チームのムードの中で、「家庭を持ち出していいんだ」という安心感が中にあるからだと思います。それが石坂さんの、イクボス術なのです。

石坂: 会社やチームの中ではお互いを呼び合う時に、あえて役職名をつけず、「さん」づけを徹底することを意識しています。室長、部長はもちろん社長まで全部含めて「さん」づけで呼ぼうということです。当社はどちらかというと固い組織で、肩書きを大事にする面もあります。でも、上位の相手を肩書きつきで呼んだ途端、時として受け身になってしまう。「さん」づけで呼び合うことで、「フラットに、主体的に、働こう。」というメッセージを込めているつもりです。

安藤: ちなみに石坂さんは、ご家庭でも奥さんのことを家内なんていわないし、奥さんも「主人」っていわないですよね。

石坂: そうですね。妻は、僕の両親の前でだけは、まじめな呼び方をしますけど(笑)、いつもは愛称でよばれています。それも、周りの人が聞いたらふきだしそうなユニークな愛称で。妻からだけでなく、子どもたちや子どもの友達からも、その愛称でよばれることがあります(笑)。

安藤:(笑)面白いですね。そこまでくると、ある意味ラクですよね。子どもの友達にも、「このおじさんだれだっけ?」って言われるよりは、愛称でよばれるほうが全然イケていると思います。
先ほどの「さん」づけの話ですが、組織の中ではどのようにアプローチしようと思っていますか?

石坂: まずは自分のチームから始めました。また、会社で「働き方カイゼン」みたいなの取り組みがあったので、部署全体で「さん」づけで呼び合おうと提案しています。

安藤: 素晴らしい!

高橋(総務部 ダイバーシティ推進室長兼CSR推進室長):当社の牧社長も、就任のご挨拶のときに、ご自分のことを「さん」で呼んでほしいとお話しされていました。このような影響からか、全社的な雰囲気も、以前と比べると少しずつくだけてきていると思います。

IMG_9343.jpg 高橋さん

安藤: 石坂さんは、ムードメーカーなんですよね。部下からみると、石坂さんみたいなボスは人気が高いと思います。

石坂: どうでしょうね。少なくとも、子どもたちには大人気ですよ(笑)。

安藤: いやいや、これからのイクボスは、女性社員や子どもからも人気がない人でないとだめでしょう。

石坂: まあ、こんな感じなので、先ずは子どもたちの人気者からめざしていきたいですね(笑)。

安藤: それがかっこいいですよ。最後に、イクボスとしてのこれからのビジョンを教えてください。

石坂: 僕自身、たいしたことをしているつもりはなくて、これが自然だと思っているんです。自分の親もそうでしたから。僕は今、仕事も楽しくて、家庭も楽しいです。「人生の中で、仕事だけが輝いているのが幸せなのか」といったらそれは違うと思うし、いっぽうで、「家庭だけでいい」とも言い切れない。仕事も家庭も両方輝かせたいと思っていて、このような価値観を共有できるような、職場の雰囲気を作れる人になっていきたいですね。

安藤: なるほど。確かにそうですね。今は「バランスよく、自分らしく生きる」という時代ですしね。石坂さんの今後のますますのご活躍を期待しています。今日はありがとうございました!

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(筆・長島ともこ)

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2016年06月02日

第22回 林 祥晃さん(損害保険ジャパン日本興亜株式会社 中国保険金サービス第一部部長)

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イクボスロールモデルインタビュー第22回は、「イクボス企業同盟」に加盟し、ダイバーシティを「グループの成長に欠かせない重要な経営戦略」と位置づける損害保険ジャパン日本興亜株式会社の林 祥晃さん。現在広島に単身赴任中で、中国保険金サービス第一部部長として約400名の部下を率いる。家庭を顧みず“超”長時間労働に明け暮れる日々の中、妻から放たれたひと言をきっかけに働き方を改め、障がい者支援活動を通じノーマライゼーション、ダイバーシティの発想に出会った。自らの体験を通じ、若手社員に「広い視野をもち、仕事以外のことにも積極的に取り組んでほしい」と力強いメッセージを送りつつ、“元祖イクメン”として単身赴任中の現在も「2〜3週間に一度は帰省し自宅の家事全般を担う」という林さんに、イクボス的価値観について伺った。

〈林 祥晃さんプロフィール〉
損害保険ジャパン日本興亜株式会社 中国保険金サービス第一部 部長。1988年入社後
横浜、高松、労働組合(東京)、旭川勤務などを経て、2015年4月より広島に単身赴任。妻、現在22歳、19歳、16歳の子どもとの5人家族。小学校2年から水泳を始め、大学でも体育会水泳部に所属。関東学生選手権では鈴木大地氏と泳いだことも。目標とするのは64歳でキューバからフロリダ海峡の横断に成功したアメリカの遠泳選手、ダイアナ・ナイアドさん。「彼女の生き方を見習い、人生のピークを70歳くらいに持っていきたいですね。今はその準備期間です」。

【あなたが会社を辞めて、育児や家事をやってほしい】
 妻の言葉をきっかけにイクメンの道へ


安藤:今日はよろしくお願いします。林さんは立教大学卒業後1988年入社ということで、僕と同世代ですね。当時の働き方はいかがでしたか?

林:入社後は横浜に赴任し、しばらくは事故対応の仕事に従事し、その後労働組合の役員をしていました。当時は一般的な金融機関に勤務する人の働き方そのもので、徹夜もありましたし睡眠時間は常に2〜3時間という“超”長時間労働。ワークライフバランスの「ワ」の字もなかったですね。疲れがたまって目の周りが真っ黒になり、妻からも「あなたこのままだと死んでしまうわよ」と心配されていました。

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安藤:ご結婚は何歳の時ですか? 

林:26歳です。横浜の後高松に赴任し、1993年に一人目が生まれました。
安藤:“超”長時間労働の中、育児には関わっていたのですか?

林:当時の当社の社員は私を含め皆ワーカーホリックで、高松でも日々残業の連続でしたので、育児にはほとんど関われませんでした。妻はもともと仕事をバリバリこなすタイプの女性だったのですが、結婚して専業主婦になり、知らない土地で家事や育児を一人で担っていたわけです。私だけが長時間働いて家庭を顧みないことに憤っていたようで、ある時、「だれも『出世して欲しい』なんてお願いしていない。こんな状態なら私が稼ぐから、あなたが会社を辞めて代わりに家事や育児をやってほしい」と言われました。

安藤:奥さんにそこまで言われたら逃げ場がないですよね。それでどうされたのですか?

林:妻の切実な声を聞き、これまでの日々の過ごし方を改め、仕事が忙しくても育児にかかわろうと心を入れ替えました。小学生の頃からずっと水泳をやっていて体力には自信があり、睡眠時間が減るのは平気だったので、子どもが夜泣きをしたらぱっと起きて抱っこしたり、毎朝子どもをお風呂に入れたりしていました。高松なので近くにうどん屋さんも多く、離乳食の時期には子どもをベビーカーに乗せて近くのうどん屋さんに行き、食べさせたりもしていました。当時はこの程度の育児参加でも、周りからは「すごいですね」などと感心されていましたね。

安藤:その頃は、イクメンなんて概念はなかったですからね。でも、高松で初めて子育てを経験して、「ライフ」の大切さに気づいたのですね?

林:そうですね。妻はもともと、今でいう男女平等の意識が高く、「妻と夫がバランスよく育児をする」「父親が家庭で存在感を見せないと、子どものためにもよくない」という価値観を強くもっていたのです。妻の影響を受け、育児や家事を実際に担ってみると、肉体的にはそれほど大変ではないのですが、あれこれこなしているうちにあっという間に時間がたってしまう。専業主婦の大変さを実感しました。
その後二人目、三人目と生まれるうちに妻からの要望も加速し(笑)、3人目の子が幼稚園に通い始める頃には、毎朝の子どもたちの入浴に加え、ゴミ出しや皿洗い、掃除などの家事、週末には家族の食事も作るようになりました。妻のほうも、子育ての大変な時期が落ち着いたタイミングで、カナダのライアソン大学でファミリーライフエデュケーターという資格を取得し日本各地でセミナーや講演活動をスタートさせました。

IMG_9042.jpg 島津さん

島津(人事部 ダイバーシティ推進グループ 課長代理):当時「妻は専業主婦、夫は仕事」といったご夫婦がメジャーだった環境の中で、林さんのような男性社員はめずらしかったと思うのですが、周りの反応はいかがでしたか?

林:当時は16世帯ある社宅に住んでいたこともあり、仕事が忙しいはずの私が育児や家事と積極的に向き合っていることは皆に知られていました。と同時に、このような私の行動は、周りの、特に管理職の男性社員からひんしゅくをかってましたね。

島津:ひんしゅくを?

林:お前はなんでそんなこと(育児や家事)を張り切ってやっているんだ。(お前のせいで)自分も育児や家事をやらなきゃいけないような空気にさせられて迷惑だって(笑)。

安藤:ファザーリングジャパンを立ち上げたのは2006年なのですが、当初、周りの男性数名から「余計なことするな」といわれました(笑)。それと同じですね。これまで“やっていない人”からすると、“やっている人”が出てくるとおしりがもぞもぞしてきて居心地が悪くなるような感じなのでしょうね。FJで10年活動してきてようやく、男性が育児や家事をやるのは当たり前になってきたと思います。僕自身も、家事をやるようになったことで段取りや優先順位などを必然的に考えるようになりました。「あ、こういうことか」みたいな気づきもあり、それが仕事にも生きることもありましたけど、林さんはいかがでしたか?

林:そうですね。おっしゃる通り、限られた時間の中で複数のことをいかに効率よく進めるかというのは、仕事にも十分生きてくると思いましたね。
ちなみにその後もわが家では、私が担う育児や家事が定着化していきまして。2015年4月からは広島に単身赴任しているのですが、今でも2〜3週間に一度は東京の自宅に帰省して料理、洗濯、掃除と何でもやっています。

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相対的に不利な立場に置かれている社員に徹底的に注目する

安藤:すばらしい! イクボスの林さんは、“元祖イクメン”でもあったわけですね。ではここから、イクボス的価値観についてお伺いしていきます。イクボスとは、“子育てだけでなく、介護、病気、障がい、LGBT(性的少数者)、外国籍などさまざまなことを抱えている部下一人ひとりに配慮し育てられる上司”を指しますが、部長としてご自身で心がけていることはありますか?

林:うちみたいな会社は、昔から、いわゆる“優等生の集団”のようなところが多々あると思うのです。同じようなタイプの社員が多数存在するのではなく、たとえば小学校のクラスをのぞくと、わんぱくな子、引っ込み思案な子、優秀な子、リーダーシップのある子など、さまざまな子がいますよね。このように、性質が違う多種多様な人々が存在する、今でいうダイバーシティの推進を図っていきたいと思っています。そして、当社が世間一般と同じようにさまざまな人が幅広く存在している会社となれるよう、微力ながら貢献していきたいと思っています。

安藤:そう思われるようになったきっかけは?

林:横浜、高松に勤務していた頃、知的障がい者のボランティア活動に携わる機会があり、障がいをもつ人ともたない人がともに生活する社会の大切さを実感したのです。純粋無垢な彼らと接して一挙に視野が広がり、人間に幅ができたような気がしました。妻もこのような発想が強く、知的障がい者だけでなく「ホームレス」支援のボランティアに参加したりしていました。なりたくてなったわけじゃなくて、世の中についていけなくて、結果として「ホームレス」になってしまった人を支援する。そこに必要なのはやはり、“配慮”ですよね。このような活動を通じて培われたノーマライゼーション的な思想が、今申し上げたダイバーシティ推進の意識の源になってきているような気がします。

安藤:なるほど。

林:管理職になり部下をマネジメントするようになってからも、メンタル的な理由で会社を休む人や仕事でなかなか頑張れない人、病気を患っている人など、相対的に不利な立場に置かれている社員にできるかぎり光をあて、徹底的に注目し、全身全霊をこめてコミットするよう意識してきたつもりです。でも、周りの部下からは結構文句を言われましたよ。自分たちに比べ、頑張れていない人をそこまで過保護にするのは納得いかないって。

安藤:普通に夜遅くまで働いている人から見ると、そうでない人は怠け者に見えてしまうのですよね。

林:そうです。でも、自分の中に確固とした持論があるので、部下から「なんであの人をかばうのですか?」と聞かれた時は、「結構ハードな仕事だから、つらいことも多いんだと思うよ」などなるべく丁寧に答え、ノーマライゼーションの価値観をできるだけ広めようと意識してきました。

安藤:ご自身で障がい者支援に関わった時の経験が生きているのですね。人間、弱ってくるとなかなか自分からいろいろなことを発信できなくなるし、会社組織の中で自分から突破していく力も出せなくなるものです。そんな時、直属の上司が自分のことを見ていてくれるというのは、その人にとってすごく心強いことだと思います。

林:そうですね。そこはかなり意識しています、というか、自分のポリシーですね。

安藤:今おっしゃったこと、すごく大事です。イクボスの活動をしていると、「どうすればイクボスになれるのですか?」と、ノウハウを聞かれることがあるのです。でもそうではないですよね。イクボスは、人から聞いたり教えてもらったことをそのままやることではない。そもそも大切なのは、ヒューマニティとかフェアネスなどの心構え、つまりポリシーなんです。

島津:イクボスの観点から、部下に対して、どの様な指導をされているのですか?

林:私のポリシーとして、自分から能動的に「こうしろああしろ」と指示や命令をするのはいやなのですよ。部長という役職柄、いろいろな会議などに呼ばれて人前で話す機会はたくさんありますが、基本的には挨拶だけで、指示や命令はほとんどしないですね。最近では、直属の部下である課長に対しても、「(余計な)仕事をしない勇気をもとう」と言っています。部下に対しては余計なおせっかいをせず、相談を持ちかけられたときにまっさきに答えることを徹底するように伝えています。
ダイバーシティの観点からは、当社の女性初の管理職だった方の活躍を間近で見てきて、部下の女性社員をマネジメント候補者として指名するなど、女性活躍推進にも積極的にコミットしてきたつもりです。

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【自ら積極的に「イクボスやってます」とアピールするのはナンセンス】

安藤:島津さん、林さんの部下からの評判はいかがですか?

島津:過去に、全社員による「自身の成長に最も影響を与えた上司」の投票を行い、得票数上位である社員を「人材育成マイスター」とする社内認定制度があり、林さんはその中の一人として選ばれました。林さんはご自身が先ほどおっしゃった通り、自分から積極的に「イクボスやっています」という話はしないと思うのですが、言葉ではなく、働く姿や部下と接する姿で伝えているのではないかと思います。

安藤:その辺が、女性社員からも信頼される理由なのでしょうね。

島津:林さんは「ライフ」も充実しているので、一緒の職場にいる部下の皆さんにも伝わるのだと思います。

安藤:女性社員はそういうことを敏感に感じとりますから。

林:そうですかねぇ。現在部下は約400人いますが、私の顔と名前が一致しない社員も多いと思いますよ。先日、ある飲み会の時も、偶然同じ店に居た女性社員二人のうち一人は「あ!部長だ!」と私に気がついてくれたのですが、もう一人は私のことを知らなくて。「え?誰?初めて見た」と言われましたから(笑)。

安藤:400人もいるとそうなります。

林::本当は一人ひとり全員と面談をした方が良いのかもしれませんが、いろいろと迷った結果、あえてやらないでいます。その方が課長もマネジメントがしやすいかなと思いまして。

安藤:なるほど。そのへんの距離感がいいですね。現場の部下とはあえて密にはコミュニケーションをとらず、直接の部下である課長とは常にコミュニケーションをとられているということですか?

林:そうですね。課長に対しては、毎日さまざまな情報を与えてコミュニケーションを密にとり、できる限り仕事がしやすい環境を作ってあげようと意識しています。

安藤:部長が先に帰って、課長が残っている日もありますか?

林:ほとんどそうじゃないですかね。課長は忙しいですから。部長になると、仕事が好きな方は残業する人もいるようですが、私は大体6時半くらいには上がって泳ぎに行ったりしています。

安藤:この年代の管理職には「部下が頑張っているのに自分は帰れない」っていう人も多いのですが、それはないですか?

林:ないですね。昔、自分が若かった頃、いつまでも残っている上司に対して、心の中で「早く帰ってほしいなぁ」って思っていましたから(笑)

【広い視野をもち、会社以外のことにたくさん取り組んでほしい】

安藤:それはいいですよね。自身の健康にもいいですし。ところで損保ジャパン日本興亜は、イクボス企業同盟に加入し、全社的にイクボスを推進しているのですよね?

島津:はい、推進しています。ただ、イクボス的発想が、管理職の方々の間で“自分ごと”として認知されているかといったら、まだまだ道半ばです。今後は「生産性をあげる」という部分によりスポットを当て、「会社としての生産性を高めるためには、今のマネジメントを変えていかないといけない」というメッセージをどんどん発信していきたいきたいです。ダイバーシティは「女性のためだけの施策」ととらえている方もまだいると思うのでそうではないことを伝えていかなければならないと思っています。

安藤:そうですよね。これからは、育児だけでなく親の介護の問題なども出てきますからね。介護に関わる社員のケアも大変ですし、大切ですよね。

林:そうですね。私はまだ介護の経験はないのですが、介護はそろそろわれわれの年代も、絡んできますからね。

安藤:そう、イクボス的マネジメントは、育児のためだけの支援ではないですから。ある日突然自分の親が倒れたりすると、その日からもろ介護の当事者になりえますからね。

島津:当社でも介護セミナーを2014年度から開催していますが、男性社員の参加も増えています。

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安藤:イクボス企業同盟には、育児、介護といったライフプランと深く関わりのある保険会社さんもたくさん加盟していただいているのですが、中でも御社の取り組みには期待しています。会社の中で、イクボスの価値観を浸透させ、本物のイクボスをもっと増やしていくためには、林さんのような方がロールモデルとしてどんどん前に出て、発信して欲しいと思います。

林:そうですね。私が適当なロールモデルかどうかはわかりませんが、「自分もちょっとトライしてみるかな」と思ってもらえるようなきっかけになればいいと思っています。

安藤:ワークライフバランスのきっかけは、会社の中だけにあるわけではない。家庭にあるかもしれないし、会社の外のどこか違う場所にあるかもしれない。FJの父親向けセミナーでは育児をすることでいろんなことに気づくよ、世界が広がるよって話をするんです。そしてパパが育児や家事を自ら取り組むようになると、そんな家庭環境の中で育った子どもたちが大人になり家庭をもった時に、夫婦、家族として育児や家事を共有できるようになる。林さんも、お子さんたちが将来家庭を持った時、「自分たちがやってきたことは正しかった」ということを実感されると思います。

林:そうですね。うちの息子ふたりは私の姿をずっとみてきていますから、おそらくそうなるかもしれませんね。(笑)

安藤:わが家も息子が二人いるので、彼らに毎日言ってますよ。「人生楽しみたいなら、今から家事はやっていたほうがいいぞ」って。これからの男子は家事やるのが当たり前だし、やらないとまず女性から好かれないですから。ところで、損保ジャパン日本興亜さんはボランティア休暇はありますか?

島津:はい、あります。

安藤:ボランティア休暇を取得したら、人事考課があがるシステムなどがあるといいですよね。とある会社は、社員がセミナーやボランティアに参加するとポイントがたまり、人事考課につながるというポイント制を取り入れています。

島津:確かに、ポイント制だとわかりやすいですね。当社はCSRの一環で、全国各地でボランティア活動も推進していますが、大切なのは自ら進んで手を挙げ、視野を広げていくことだと思います。

安藤:そうですね。そこが、新しい分野への興味につながりますから。僕もIT系の会社の管理職だった時、部下たちに毎日朝礼で言ってました。「オフィスでパソコンだけ見てたって何もないぞ。街に出なさい。今の仕事に一見関係ないことでも、気になることがあったら翌日報告を。それが5年後にビッグビジネスになるかもしれないから」って。

林:その通りですね。自分から会社の外に出て、こういう人がいるのだ、こんなことがあるのだということに、どんどん気づいてほしいですね。

島津:当社は、「保険の先へ、挑む」をスローガンに、介護分野への事業展開など実際に新しい分野のビジネス展開も始めています。当社のさらなる発展のためにも、社員一人ひとりが会社だけではなく会社の外に向かってアンテナをはりめぐらせ、新しい価値観をインプットし、それを仕事に活かして欲しいと思っています。同時に、社員の皆さんに、このような会社の変革にどう気づいてもらうかを考えていくことも大切だと思っています。

安藤:変革し始めている会社のムードをチャンスととらえ、つかみにいってほしいですよね。

林:全くその通りですね。

イクボス⑫.jpg<イラスト:東京新聞>

安藤:イクボス10か条のひとつである「隗よりはじめよ」ではないですけど、林さんのようなイクボスから率先して示していくことが大切ですよね。最後に、イクボスとしてたくさんの部下から信頼されながらも長年育児や家事に積極的に向き合い、奥様はじめ家族からも信頼されている林部長から、若い部下へのメッセージをお願いします。

林:若い人たちに対して「こうしろああしろ」とはあまり言いたくはないのですが、やはり、できるかぎり、広い視野をもってほしいと思います。会社を飛び出していろんなことを経験していくと、一般的には大企業であるうちの会社も、世の中のごく一部に過ぎないこと、世の中ではいろんな人がいろんなことをしているということに気づくと思うのです。

安藤:本当にそうです。個人のその気づきが、結果的に会社のためにもなるし、世の中のためになる。林さんはボランティア活動から「ノーマライゼーション」に気づいて、「ダイバーシティ」の発想を手にした。僕もそうでしたけど、若い頃ってどうしても、仕事一辺倒になってしまって視野が狭くなってしまう。でも父親になって、子どもをもち、育児や地域のPTA活動などに関わってみたら、「なるほど、地域ってこうなんだ」「子どもを通して見ると、日本の社会は改善の余地がまだまだたくさんあるな」など、実にたくさんの気づきがありました。仕事以外のいろんなことを経験しないとだめですよね。そのためにもワークライフバランスが必要だと思います。

林:そうです。若い人たちには、会社以外のことをたくさんやってほしいですよね。今の若い人だったら、運動などの趣味や、子どもがいる方だったら育児に関わったりなどは当たり前かもしれませんが、家事やボランティアなど、もう一歩ふみこんでほしいと思います。そうすると、視野がすごく広がりますから。私もそうやってきて、今の自分があると思っています。

安藤:限られた「時間という資源」を、どれだけ自分の視野を広げるための活動に使えるかということですね。今日はとても良いお話をありがとうございました。これからの林さんのご活躍、損保ジャパン日本興亜さんの取り組みにますます期待しています!

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(筆・長島ともこ)







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2016年02月11日

第21回 小林大輔さん(アサヒビール株式会社 営業本部 販促量販統括部 販促グループ次長)

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イクボスロールモデルインタビュー第21回は、「イクボス企業同盟」にも加盟しているアサヒビール株式会社の小林大輔さん。全社の販促立案を統括する重要な役割を担う営業本部 販促量販統括部 販促グループ次長として、14人の部下を率いる。「優秀な部下に恵まれているので、イクボス的なことはなにもしていないですよ」といいながらも、「会社の仕事は“全員野球”」をモットーに、チーム全員が働きやすい職場づくりに力を注ぐ。現在都内に単身赴任中。2児の父でもあり、「週末、福岡に住む家族の元に帰るのが何よりも楽しみです」という小林さんが語る、イクボスの価値観とは?

〈小林大輔さんプロフィール〉
アサヒビール株式会社営業本部 量販統括部 販促グループ次長。ユニチャーム勤務を経て2000年にアサヒビール株式会社に中途入社。その後福岡勤務を経て東京本社、2008年より現職に。現在都内に単身赴任中で、妻と2人の子ども達は福岡に住む。

【育休復帰後もバリバリ働く優秀なメンバーに恵まれて】

安藤:小林さんは、ご結婚して最初のお子さんが生まれたのは何歳の時ですか? その頃のご自身の働き方はいかがでした?

小林:結婚したのは27歳で、33歳の時に一人目が生まれました。当時は当社の都内の社宅に住んでいたのですが、福岡に異動になり、家族3人で福岡に引っ越しまして。その後福岡で二人目が生まれました。働き方については、妻はパートに出たこともありましたが、基本、「僕が働いて妻は家を守る」というスタイルです。当時は「男性が育休をとる」という空気は全国的にもあまりなかったですし、僕自身も育休はとっていません。

安藤:管理職になられてから、産休や育休に入る部下の女性社員を送り出し、復帰した社員を迎え入れてきたということですが、そのような部下と実際に接してみていかがでしたか?

小林:もちろん、復帰後は多少気を使うようにはしていましたけど、基本、「この人は育休明けだから」などとあまり意識しないようにしていました。復帰後は時短勤務で4時半くらいに帰る社員もいますが、復帰明けとは思えないくらいの素晴らしい仕事ぶりで。そういう意味では優秀なメンバーに恵まれていると思います。

安藤:イクボス的管理職は、部下が育休や産休に入る前、復帰後のプランを面談されたりしますが、小林さんも行いましたか? どのようにされました?

小林:面談はしました。最近は子どもを保育園に入れることも大変だと思うので、その辺も含め、「子どもがある程度手が離れるまでは、じっくりみてあげて。会社のことは心配しないで、皆で待っているから」という感じで送り出しました。

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安藤:かつては男性社員と同じように活躍していた女性社員が、産休、育休を取得すると、それまでのキャリアがリセットされて降格になってしまったりする現象が日本にはありますが、その辺についてはいかがでしたか? 育休から復帰後、「お母さんになったのだからこれまでみたいに働けないでしょう」ということで、アシスタント的な業務にしてしまうボスもいるようですが。

小林:うちの部署に限っていえば、あまり関係ないですね。たまたま優秀なメンバーが集まったのかもしれませんが、復帰後の社員は皆モチベーションが高く、復帰前と変わらずバリバリ働いています。能力も本当に高く、子育てしながら働いているという環境でありながら、すごくがんばってくれています。「もしかしたら頑張らせすぎているかな」「もう少し配慮してあげたほうかいいかな」と思うことがあるくらいです。

安藤:なるほど。でも、自身のがんばりが、正当な評価につながればいいですよね。

小林:そうです。そこがいちばん大事だと思っています。

安藤:キャリアプランとライフプランのバランスがその人の中でとれていて、かつ会社から評価されている、期待されているという風土が社内にあれば、女性男性限らずのびていきますよね。育児や介護で時間制約がある人たちは、どうしても自分の評価を気にしてしまったり、制約があることで働く意欲を下げてしまったりなどもありますが、その点、アサヒさんは風土づくりがかなりできていらっしゃいますね。

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三浦一郎さん(人事部 採用・成長支援グループ ダイバーシティ推進担当 次長):そうですね。当社は産休や育休を取得しても、復職後は取得前の評価のまま戻れ、ある意味“気にせず休める”という体制は整っています。現在、当社の産休、育休後の復帰率はほぼ100%です。ただ、復職の仕方に関しては、各部署に加えて人事のほうでも面談を行っていて、本人の希望により「100%同じ部署に戻る」というわけではないですね。

安藤:なるほど。御社の女性社員は、総じて復帰後もやる気をキープしている方が多いのでしょうか。

三浦:実際のところ、復帰後も復帰前と同じように働く女性社員の割合は1~2割くらいです。実の親と同居など周辺のサポートに恵まれている社員は、復帰後も時短勤務をとらない方もいますし、逆に小学校中学年くらいまで取る社員もいます。当社は2015年の夏から、在宅勤務制度を本格的に導入しました。研究開発部門や、本社の人事総務など企画系部門、そして営業部門などでも、いろいろトライアルを行ってきましたが、やっとスタートできました。

小林:うちの部署の育児中の社員も、この制度を使って今日は在宅勤務です。育児中の社員には非常に良い制度だと思います。

安藤:とある会社でも、在宅勤務制度を導入した結果、会社を基点に出たり戻ったりというタイムロスが削減できて労働時間が減り、営業のアポ取得率が160パーセントになったそうです。在宅勤務制度は業務の効率化がメリットとしてあげられる反面、「会社で待機している管理職が部下不在を寂しいと思わないか」みたいなところも危惧されていますが、今後はテレワークもどんどん進みそうですね。

三浦:そうですね。まさに管理職の“慣れ”の問題もありますが、当社でも来年あたりからスカイプを使えるようにしようと、社内での導入を企画しています。

安藤:お互いの表情がみえるとちょっと違いますよね。グループ会議やったりできますしね。小林さんは、テレワークやスカイプによる会議には抵抗ないですか?

小林:全く抵抗ないです。

安藤:御社も少しずつダイバーシティの環境が整ってきたということでしょうか。スカイプの使い方などは、会社として社員に教育されるのですか?

三浦:今のところはハード面だけ用意した感じですが、活用に対する啓発も行っていきたいと思っています。あとは持続力ですよね。当社はどちらというと、トップダウンが強い会社なので、トップダウンルートで「全社的に活用しよう」という方向にもっていきたいですね。現場で習熟度をあげ、トップダウンで啓発する、この両面からアプローチしていくことが大切かと思っています。

安藤:今後は育休に加えて介護による休業が増えてくると予想されていますが、御社ではいかがですか?

小林:今のところ、うちの部署では介護休暇はまだないですね。ただ、いつ自分が必要な状況になってもおかしくないと思います。僕は今東京に単身赴任していて家族は福岡に住んでいるのですが、僕の両親は東京に住んでいるので、両親のどちらかが介護が必要な状態になったら福岡の家族をよぶのかどうするのか……。その時の状況にもよりますが、悩むところではあります。

安藤:御社は、社員向け介護セミナーは行っていますか?

佐々木:一部行っています。全社的に見ると、介護休暇の取得者は若干名おりまして、今のところ介護による離職者は出ていません。

【テーマは「全員野球」。チームの一体感を大切に】

安藤:介護も育児と同様、実家のサポートなどがあるといいのですが、単身赴任されていて介護の問題もかかえているボスなどは大変ですよね。東京で働いていて、週末実家の九州に帰って介護をするという遠距離介護の管理職もたくさんいますから。この辺は、これからの課題ですね。ところで、部下の育成について、小林さんが意識して実践していらっしゃることはありますか?

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小林:先ほども少しお話ししましたが、幸いにして優秀なメンバーに恵まれているところもたくさんある中、メンバー全員、チームの一体感を常に大切にしています。独身、既婚、育児中などさまざまなメンバーがいる中で、ひとつのチームとして皆で仕事をしていくことを心がけながら、困ったメンバーがいたらいつでもお互いに声をかけあえるような雰囲気を作り、メンバーがかかえている仕事すべてを共有するようにしています。14人いると、それぞれの成果やつまづいているところなどいろいろ出てきますので、その辺を常に共有し、「隣の人は何する人ぞ」みたいな雰囲気にならないよう心がけています。

安藤:独身の社員が、ママ社員が子どもの病気を理由に休んだりすることに対して不公平感を抱いたりする風潮もあり、このような部下の反応に悩むボス達の話も聞きますが、小林さんの部署にはそういう雰囲気はないですか?

小林:ないですね。基本、チームは助け合うものですから。いかなる理由にせよ、「困っている人がいたら、フォローしあい、助け合う」という発想で通しています。お互い自分がいつそうなるかわからないですし、仲間ですからね。

安藤:なるほど。全員野球みたいなものですよね。

小林:そうですね。幸いなことにうちの部署は、僕が日頃からそういうことを言わなくても、皆で自然とフォローしあってあり、助け合ったりする雰囲気ができているんです。繰り返すようですが、メンバーがいいんですね。僕がどうこうじゃなくて、メンバーに恵まれていると思います。

安藤:部下から不平不満はいわれたことありますか?

小林:それが、ないんですよ。

安藤:そういう雰囲気もないですか?

小林:僕が一人でそう思っているだけかもしれないですけど(笑)、ないですね。

安藤:アサヒさんすごいですね。小林さんのような部署ばかりだったら、僕らが御社でイクボス研修する必要ないですよね(笑)。

三浦:いやいや、実際はいろいろありますよ。小林の部署は、これまでスーパーなどの量販店を営業で回っていた現場のエースクラスの女性社員が多いんです。現場を理解し発言力があり、仕事も早いという優秀なママ社員が集まっている部署でもあるので、いいサイクルで回っている部署のひとつということです。他の部署では、育休復帰後、時短勤務を選んではみたものの、ふたをあけてみると、家庭の状況も様々で、想定通りに仕事をこなしきれなかったり、「周囲に迷惑をかけたくない」と、業務の質量をセーブせざるを得ない社員もいます。

しかし本来、育成の面から見ると、部下にとって、少し難易度の高い仕事にもチャレンジさせるのがボスの役目です。それは時短社員も変わりありません。また、時短社員本人は、限られた時間の中で、どうやって成果を出すか自ら考え工夫する事で、生産性に差が出ます。産前とは仕事の仕方、時間の使い方が変わって来ます。全社的にイクボス的発想なダイバーシティの理解や啓発がすすんでいるかといったらまだまだなので、イクボス企業同盟に加盟して知恵をお借りしていきたいと思っています。

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安藤:小林さんの部署が、全社的なロールモデルとなっているのですね。小林さんご自身が、イクボスとして見本になっている意識はありますか?

小林:まったくないですね(笑)当たり前もなにも、手本にあるようなことは何もしてないですよ(笑)。

三浦:弊社でも、小林の部署をまつりあげるというよりは、まずはファーストステップとして、自然な形で部署全体がいいサイクルで回っている部署として注目してもらい、少しずつ広がりを作っていきたいと思っています。

【部下からのアドバイスは「飲み過ぎに注意してください」】

安藤:そうですね。小林さんの部署のような働き方が社内で標準化することができたら、子育て世代も楽になります。イクボスの標準化は、介護世代の社員にも効果的だと思います。育児はある程度予測がつきますが、介護はいつ始まるかわからないですし、始まってからその対処にバタバタしてします会社が多いので…。とくに、介護をする人たちって、管理職本人だったりするパターンが多いですから。現場のトップが突然家族の介護に直面し、急に事業が止まってしまうこともありますからね。

これまでお話を聞いていると、小林さんは、「自然体のイクボス」という感じがします。部下からはどのような評価を受けているのですか?

小林:結構ありがたい評価をいただいています。恥ずかしくて口に出してはいえないですが、(笑)ありがたいコメントをたくさんもらいました。でも厳しいことも書いてありましたよ。「飲み過ぎには気をつけてください」って(笑)。

安藤:それはまあね(笑)。でも、部署としての業績も良いのですよね。

三浦:量販統括部は、全社の数字を背負う部署ですので、全国の量販営業部隊を牽引し、成果につなげて頂いています。

安藤:イクボスは、部下にやさしいだけがイクボスではない。部下の意欲を高めつつ、結果を出すことも大切です。そうでないと、 “福利厚生の充実”だけで終わってしまいますから。小林さんはその辺をしっかり意識されて、“全員野球”をされているというところがすばらしいですね。確かにそうですよね。全員野球じゃないと、試合には勝てないですから。1番から9番までそれぞれ役割があって、控え選手も戦力で。打線と守備、両方の歯車がかみ合っていないといけません。

小林:そうです。レフトが抜けたらふたりで外野を守る。あとショートがちょっと後ろまで下がればいけるよね、みたいな感じかと思っています。

安藤:なるほど。次長である小林さんは、全員野球の監督ということですね。チームの仕組みがよくわかりました。ちなみに小林さんの上には部長さんがいらっしゃるのですか?

小林:います。部長も相談しやすい方なので、いろいろ相談させてもらっています。

安藤:風通しがよくていいですね。話は変わりますが、ご自身は何時頃に仕事を上がりますか?

小林:その日によって違いますが、基本、早めに帰るようにしています。自分のこれまでの経験からして、上司がずっと会社に残っていると部下は帰りづらいじゃないですか。なので、意識して早く上がるようにしています。

安藤:早く帰った時は何をしていますか?

小林:大体飲みに行っていますね。相手は社内の人間や学生時代の友達などいろいろですが、社内の人間が6、7割ですかね。今の部署のメンバーとも当然よくのみにいきますね。毎回くだらない話をしていますよ(笑)。うちの社員はみな、飲みの場が好きですから。

安藤:そうなんですね。「飲み」で結構悩んでいるボスもいるんですよ。若い社員と“飲みニュケーション”が成立しないって。若手と話をしていても、うてばひびくという感じがないとか、つかみどころがないとか、どうアプローチすればもっと仕事へのモチベーションを上げてもらえるのかがわからないという声も良く聞きます。小林さんからみて、御社の若手社員の様子はどうですか?

小林:いつも時代も「今どきの若いやつは…」みたいな声を聞くじゃないですか。年をとると自然とそういうことをいいたくなってくるんですかね。少なくとも今の僕にはそのような感覚はないですね。僕の若い頃を振り返って比べてみても、うちの若手社員は皆、しっかりしているなと逆に思いますよ。

安藤:すばらしい。職場の雰囲気も良く、メンバーが皆明るく元気で。上司として相談しやすいんでしょうね、小林さんは。

小林:あ、それはそうかもしれないですね。仕事でもプライベートでも、忙しかったりいろんな問題が起こったりで回りが見えなくなりそうになる時ってあるじゃないですか。そんな時でも、部下からきた相談に対しては、それを何よりも最優先して答えるように心がけています。

安藤:なるほど。そこが小林さんのイクボスたる所以ですね。イクボス的発想は、子育てにも通じるんですよね。ファザーリングジャパンでも、家で子どもが「お父さん」って話しかけてきたら自分がどんなに忙しくてもそこでちゃんと向き合わなきゃだめだよと伝えています。小林さんは、お父さんとして、お子さんたちにはそのような対応ができていますか?

小林:単身赴任で離れて暮らしていて、週に1度は福岡の自宅に帰っているのですが、子どもたちとは結構話していますね。小6の男の子は思春期で、いっしょにお風呂に入ってくれなくなって寂しいですけど、それでも子どもたちとはいろんなことをしゃべっていると思います。普段話せないぶん、妻ともしゃべりまくっていますね。今日もこれから仕事が終わったら、福岡に帰るんですよ。明日から3連休なので、今週はそれだけを楽しみに働いてきました(笑)。

安藤:なるほど。管理職になると、「ボスとしてしっかりやらなきゃ」とか「評価を下げないようにしなきゃ」とか、肩に力が入ってしまい、家庭が疎かになる人が結構いるんですよ。でも小林さんにはそれがあまりない。いい意味でぬけていて、いいですね。

小林:それくらいのほうが、部下も緊張しなくていいのかもしれないですね。部下の立場にたってみたら、上司がいつもピリピリして、常に監視されているようなのはたまらないですもんね。

安藤:これから新卒で入ってくる人たちは、給与などだけでなく、社員の働き方をみてきます。イクボス企業同盟に加盟している御社は、トップレベルの“働きやすい会社”として浸透していくといいですね。最後に、仕事をしながら子育てや介護と向き合っている人、これから向き合う人たちへのメッセージをお願いします。

小林:キャリアプランもライフプランもどちらも大切ですが、僕自身は、キャリアプランよりもライフプランのほうが圧倒的に大切だと思っています。家族がいちばん大事で、家族のために働いていますから。そういう意味では、会社においてもライフプランを最優先に考えながら、自分や家族の人生が充実するような働き方ができるチームというのが、より強いチームになるのではないか、と思います。

安藤:なるほど。「ライフ」を意識して生産性を高めることが、チームにとってもいい。

小林:そうです。「ライフ」の健全化はすごく大事なことだと思います。

安藤:「ライフ」が健全であれば、業績もアップする、と。

小林:まあ、時には達成できない時もありますけど(笑)、メンバー全員が明るく元気に働けるような環境でないと、なんの成果もうまれないと思うので、そういった意味では、「ライフ」の充実が大事と思います。

安藤:やはり、「プライベートより仕事」じゃないですよね。

小林:まったくない、1ミリもないですね(笑)。「ライフ」があって「仕事」がある。どちらも連携していくものだと思います。

安藤:すばらしい! 御社のビールのような、さわやかでのどごしすっきり(笑)のお話をありがとうございました!

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(筆・長島ともこ)
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2015年09月28日

第19回 渡邉幸義さん(アイエスエフネットグループ 代表)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第19回は、アイエスエフネットグループ代表の渡邉幸義さんが登場。ITベンチャー企業を興し、障がいのある方・ひきこもりも戦力にする究極の適材適所、「会社は家族」というマネジメントを提唱。2014年には、新日本有限責任監査法人「Job Creation 2014」雇用創造ランキング 第2位を受賞。従業員への想いと、これからの働き方について伺った。(FJイクボスプロジェクト)

<渡邉幸義さんプロフィール>
静岡県沼津市出身の実業家。2000年1月、アイエスエフネットグループの母体である株式会社アイエスエフネットを創業。 ネットワークの構築、保守運用、人材派遣事業を主としている。特例子会社のアイエスエフネットハーモニーでは、障がいのある方の雇用にも取り組んでいる。ベトナム・インド・マレーシア等、海外事業を行っている。1男の父。

【雇用がたくさん生みだせるIT系で起業】
―まず、株式会社アイエスエフネットの創業に至るまでを教えてください。

渡邉:2000年に創業しましたが、その前に外資系コンピュータ会社に10年くらい勤めていました。外資系の会社には、将来起業することも視野に入れて勤めていました。ただ、何の事業で起業するかは、まだ決まってはいませんでした。その会社は、世界で初めてインターネットを作り、日本でプロバイダを作った会社です。私は、日本でのマーケティングおよびセールスをやらせてもらっていたのですが、そのときにインターネットと出会い、この時代が来るなと確信し2000年に起業しました。私がやろうとしていたのはネットワークなどのインフラの方で、いわゆるアプリケーション側ではないんですよ。通信系は一番泥臭いサービスで、比較的堅くて目立たないような仕事ですが、機器の設置など必ず人手が必要な仕事ですから、確実に雇用がたくさん生めるんです。

ですが、創業したばかりの会社に来てくれるようなエンジニアはいなかったので、自分たちで育てていかなければならなかったわけです。私は、無知識・未経験の「人財」を、人間性とやる気で採用しました。当時そのような雇用は、通常ありえませんでした。知識がない人間に知識を持ってもらう。逆に言えば、知識があれば、仕事ができる時代だったわけですから、人間性の高い人財に技術を習得していただきながら、それをお客様先で経験してエンジニアとして成長してもらうという事業モデルを作りました。その考え方がとても当たりまして、毎月2倍ずつ社員が増えていきまして、3年で約300人、5年で約1000人の社員数になりました。

そうやって社員が増えていくうちに、いろいろな方が入ってきますから、働き方の多様性を考えて対応していかなくてはならない。最初に入ってきた方の中にも、障がいのあるメンバーや、元ひきこもりだった方など、いろんな人たちがいたわけです。同じようなメンバーを選んで雇用して事業展開ができるような状況ではなく、とにかく人が必要でした。事業が成長しているので、どのような人でも活かせなくてはいけないというのがありました。ビジネスは全世界に広がり、日本人のみならず、外国人も含めて雇うという雇用形態を取ってきました。

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-なぜ、多様な人を雇用するという形態を取ろうと思ったのですか?

渡邉:私は起業する前、3年半ほど別の会社に入って、サラリーマンをやりながら、夕方から3時間くらい、無給でその会社を手伝っていました。そして代表取締役副社長となり、ここで起業家としてのノウハウを学びました。そしてその後起業したのですが、そのときに一番大事だと思ったのが考え方なんです。京セラの稲森和夫さんの考え方を引き継いで、会社を始めました。http://www.kyocera.co.jp/inamori/
「人として正しいことか、人のためになっているか」という想いで始めたところ、大勢の方々が賛同してくれて会社も伸びていきました。そういう考え方を持っていなければ、障がい者雇用とかダイバーシティの雇用はきっとやっていなかったと思います。

考え方を追求して今この形態になっているわけです。私自身は、最初からこういう風にしたいなと思ってやっていたわけではなく、日々の課題を解決していたらこうなりました。戦略とか戦術とかでできることではないと思います。

【バブル期の働き方に、疑問を持って】
-ご自身の働き方はいかがでしたか?

渡邉:外資系の会社にいるときには、正直あまり働いていませんでしたね。新卒の頃はちょっとは働いていましたけれど、4年目くらいからはあまり働いてないですね。定時で帰ってすぐ居酒屋にいってた時期もありました。外資系は結果が全てで、半年で売上目標の数字が終わっていましたから。1台コンピュータ売ると3億円だったので、1台売れればよかったんです。私の売り方は、白紙の申込書を持っていって、お客さんに金額を書いてもらうんです。予算を取ってもらわないといけないですから。それにはとにかくお客さんと仲良くなることです。高度経済成長期で、残業すると会社のお金でホテルに泊まれました。バブルの時代です。今はそんなことできないですけどね。

-自分でコントロールできる働き方を意識していたということですか?

渡邉:どうしたら短い時間で効果が出るかを考えていましたね。そのときはお客さんと仲良くなろうと思ってやっていましたけれど、実はその仕組みはあまり好きではなかったですね。なぜかというと、まじめで不器用な人やコツコツやる人は逸脱されちゃうから。コンピュータなんてどこのメーカーでも、あまり性能に変わりはありませんから、営業としてどれだけ仲良くなれるかが、その当時はとても大事だったんです。当時は小手先のノウハウを持っていた人が売れていましたね。今考えると、よくなかったなと思っています。あの感覚のまま、今、会社経営していたら、たぶん会社はつぶれていましたね。

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【何もないところから会社の資金を生み出す】
-そこから、今の会社経営の考え方に行き着かれたのは、なぜですか?

渡邉:何もなかったからだと思います。人脈も、お金も知識もありませんでした。外資系企業にいたときは、その会社の看板でやっていたんですよね。自分は、お客さんに取り入ってできるだけ仲良くなる、仲介役みたいな役割でした。
この会社を作ったときに、売るものが無かったんです。副社長に「この会社、売るものがないじゃないですか」って言われて、「ばかやろう。売るものがないってことは、何でも売れるってことだ」と言ったのがスタートでした。

お客さんに電話しても会ってくれないんですよ。1回目は会ってくれても、2回目はみなさん忙しくて会ってくれない。「会社を辞めて会社を作りました」というと、珍しいから1回は会ってくれるけれど、2回目は会ってくれない。仲良くなっても売るものがないし、商売にならないんです。自分が会社を作ったときに、相手がお金を出しても欲しいと思うようなものを作らないと、会社って回らないんだということを初めて思い知りました。

-そこからどうしたんですか?

渡邉:インターネットをやろうとは思ってはいたけれど、やるにしてもお金がないのでお金を貯めないといけない。資本金1000万円だと、社員の給料払うだけで投資に回せない。それで自分のアドバンテージは何かなと考えたら、日本で一番インターネットについて知っていたということです。私が以前勤めていた外資系の会社のサーバーがインターネットの最初のサーバーで、UNIXはその会社で作ったもの。インターネットの会社がいくつかありましたが、ほとんどの会社はその会社が介在していました。

インターネットを知っていたから、インターネットセミナーでお金を稼ごうと思ったんです。でも、インターネットセミナーと言っても誰も集まらない。静岡県沼津の出身で、沼津の市役所に私の同級生が働いていたので、「市役所でインターネットセミナーをやらせてくれ。無料でやるから」と相談しました。「市役所の会議室で、渡邉幸義さんがインターネットセミナーをやります」と張り紙してくれたら、おばちゃんとおじちゃんの2人だけ来ました。おばちゃんはスーパーのレジ袋にネギか何か入れて、もう1人のおじちゃんは「インターなんだ?」とか訳わからなくて、途中から爆睡してるんですよ。でも、寝ていてもいいんです。やったことに意味があり、2人だけでも来てくれた。実はそれが戦略で、「沼津市の講演でインターネットセミナーをやりました」と商工会議所に話を持っていったんです。「え、沼津市で!」ということになり、「ただでいいからやります」と、商工会議所で講演をしました。

その実績を持って、今度はライオンズクラブに話しをしたら「いいね~」ということで、またそこでも講演をしました。そうしたら、そこに来ていた中にムラテック村田機械の会長さんがいたんですよ。「ムラテックの総会で話してもらおう」と言われ、初めて講演料をもらいました。ムラテックで話したら、村田機械の社長(今は親友ですが)が来ていて、彼はアメリカの情報を持っていましたが、私の方が最新だったので、「渡邉さん、これはすごい。うちの役員会でやってくれ」って言われて、また講演料をもらいました。そうしたら、いろいろな企業からオファーが来ました。そうやって付加価値をどんどんつけていきました。起業って、結局は自分の付加価値をつけていくっていうことなんですよ。

前の会社にいたときには、売るものがあって会社の看板があったから、そのときの自分の役割は仲良くなるだけだったけれど、看板もない、お金もない、何もない状態のときには、自分の強みと持っているものを組み合わせて付加価値をつけるということをやりました。そして、そのお金を使って、インターネットエンジニアを育てていく仕組みを作りました。

【仕事があるから、働きたい人を活かす】
-その雇用の中に、ダイバーシティの考え方を入れていったのはどうしてですか?

渡邉:そのお金を使って、ネットワークエンジニアを育てていこうと思い人財募集をかけたんですが、先ほどもお話したとおり、あんまり人が来なかったんですよ。当時は業界全体が極端な人財不足だったということもあって、浅草橋に10坪のオフィスで始めた無名のベンチャー企業にはなかなか人が集まらず、「無知識・未経験でOK」と募集したら、若くて元気な日雇いみたいなコンピュータとかマウスとか触ったことがない人ばかり集まって来ました。そして、その中には元ひきこもりとか、いろいろな人がいました。でも、仕事がたくさん来たので、彼らを活かすしかなかったんです。創業の時からいるTくんは当時から欝でしたが、途中3年間くらい辞めて、最近また挨拶に来て働き始めています。そういう人たちの働く環境を作っていくために、いろいろなことをしなくてはいけなかった。

-健常者中心に社員を集めた方が、会社として経営しやすいという考えはなかったんですか?

渡邉:それは、会社を作ったときに、京セラの稲森さんの「盛和塾」で考え方を学んだことが大きいですね。
http://www.kyocera.co.jp/inamori/contribution/seiwajyuku/
その経験があったから、たぶんそっちの方向にいかなかった。私が稲森さんの考えを学んでいなかったら、見せかけだけの無理な経営をしてしまって、心労で今は命がなかったかもしれませんね。

-多様な人財を雇用し、育成していくにあたって、心がけていることは?

渡邉:まず始めに面接をして偏見をなくしました。雇用する人がなかなか来てくれないときに、働きたいと会社に来てくれた人を活かさないと会社が伸びないので、活かそうと思いましたね。どうやって活かすかというと、適材適所というのがありますから、その人が向いているのはなんだろうと考えるわけです。その結果、組織を変えたり、新しく仕事を作ったり、いろいろなことをしました。

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【偏見をなくし、問題を一つ一つ解決する】
-仕事に配属するというよりも、人に合った仕事を与えるということですか?

渡邉:営業に向いていなければ、技術に行ってもらうとか。最初に面接しても、たとえば精神疾患の人って、わからないんですよ。会社に来なくなって、なぜ来なくなったんだろうと思うわけです。「チャレンジングチーム」というのを作り、てんかんの人や発達障がい系の人などに対して、起こったことや事象に合わせて対応しました。そのうちにそれが、特例ではなく、会社として当たり前になっていったんです。

いろいろやっかいなことも起こりますけれど、それをやっているうちに生活保護受給者とか、自閉症の人も雇おうとか、もっとハードルを上げようと思いました。最初から障がいがあるのをわかって雇っていますから。

ほとんどの会社の雇用の仕方は、入社後の変化なんですよ。病気や障がいを告知せずに入って、告知したら辞めさせられてしまうというケースもあるわけです。私は入る前から対応しようと思ってやっています。どんな病気や障がいのある方でもほとんど「NO」と言わないです。その代わり、1日5件くらい問題も起こります。

昔は結婚式のスピーチとか、すごく上がったんですが、最近は何ともないです。労働局とか来たときも最初はドキドキしましたけれど、会社がちゃんとやっていたら、恥ずかしいことは何もないわけですから今は何とも思わないです。当グループにも当然リスクはあるわけです。精神疾患の人が些細なことで、重箱の隅をつつくようなクレーマーになっちゃうこともいっぱいあります。そういう人は、リスクが高いからどこの会社も受け入れようとしませんが、当グループはあえてそういう人を雇い入れています。どんなことがあっても、変わらない軸を持ってやっていくということですね。

そう思ってやっていると、平穏なんですよ。でも、たぶん私の奥さんに1件でもトラブルの話を聞かせたら、1週間寝られなくなると思いますけどね。私には課題解決が見えるんですよ。こうやってやればいいと。

-それは経験によるところですか?

渡邉:あえて踏み込んでやっていますから、弁護士の方などを始めとして、いろんな機関や団体の方と知り合いになりました。最初は、初めてだし初対面なわけですよ。でも、何かの事例を通して会ったときに、誠意がある対応をすることで人脈になるわけです。そこで仲違いしてしまうと、人脈じゃなく残念なことに敵になってしまいます。

【従業員に合わせることで、仕事や制度が増えていくことも】
-社内制度についての考え方を教えてください

渡邉:制度はたくさん入れています。http://www.isfnet-recruit.com/about/hire.html
2011年に「くるみん」を取りましたが、「くるみん」を取るということはその先をコミットメントしてやるわけです。そして、会社として約束したことは継続してやって行かなくてはなりません。ISMSとか、プライバシーマークとかと同じ考え方ですね。認証というのは、問題点を並べて、改善していきなさいというふうにやっていくわけです。あとは税務監査ですね。国の監査で、無料で監査してくれて、教えてくれるわけですから、来ていただくと、むちゃくちゃ私のモチベーションが上がります。普通は税務監査なんて嫌ですよね。でも私は、「無償監査!これ1000万円くらいの価値あるよ」って言ってます。でも、なかなか来てくれないんですよ。

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-もともとの考え方がポジティブなんですね。
渡邉:国税は粉飾の傾向値から見るみたいですが、その傾向値が当グループはないですから。追徴課税は1銭もありません。私は8時半には寝ますし、役員の接待費もゼロ。

-寝る時間、早いですね!

渡邉:接待の時間帯には爆睡してます(笑)。夜中2時半に起きて、そこから仕事して4時頃は一番絶好調ですね。その時間って静かで暗いし、もっとも集中できるんですよ。

-今後のビジョンは?

渡邉:いろいろな考え方を持っていますが、結局目の前の要望に応え、課題解決していくと、おのずと形になっていくと思っています。もともとひきこもりの対応を、自分のミッションとしてやっていきたいと思っていて、そこから生活保護受給者の対応も始めました。また、多くの親御さんに会っていくうちに自閉症の方の対応もしていこうとなったり、目の前の課題に対応することで未来が決まっていっているんです。まだまだ前途多難ですが、やらせてもらえるのであれば、就労困難な方の雇用をもっと作っていきたいと思っています。

【困難がなかったら、つまらない!】
-あえて困難を解決したい、多様な状況にある人の雇用をするのはなぜですか?

渡邉:健常者だけとか、働きやすい人だけ雇用していると、私には物足りないですよ! 頭使わなくても、課題解決しなくても回りますから、脳も活性化しませんし。親御さんから「こんなことできないの?社長?」って言われたら、「YES」と言いたいんです。失敗と改善を繰り返し課題を解決していかないと「YES」にならないんですよ。私は200回やって1回しか成功しませんから、成功率は0.5%です。でも、1日に2000個くらい指示を出しているから、1日に10個くらい成功するわけです。10個成功したことを、小さいことでもすごいこととして言い、1990個の失敗は言わないです。失敗したことはみんな忘れちゃいますから、そのうちに10個が成功体験になって「社長がやることは、全部成功する」ってなる訳です。失敗は、どうして失敗したかわかるから、成功へ導き成功の元になります。失敗という解答をたくさん持つことが大事ですね。

失敗すると傷つきますが、改善すれば課題解決になり、次に失敗しそうなことがあっても、課題解決できるわけです。人って、やったことがないことに対して、恐怖心とか、嫌な気持ちを抱くんですが、避けていると、いつまでたっても嫌なままです。

-それに向かっていけないボスや従業員もいるのでは?

渡邉:最初の課題解決は、社長である私がやるんです。私が受けたら、少しずつ前に進んでいくわけですが、少しずつ部下にもやらせていくんです。最初から社長が受けず、管理職やメンバーに対応させるのは、非常に厳しいですね。

いろいろな人を雇っているから、いろいろな問題が起こります。たとえば親御さんから文句を言われることもありますし、全然違うところから言われちゃうこともあります。以前、辞めた人から名指しで苦言を突きつけられて、すごく悩んでいる管理職がいたんです。私が過去の経験からアドバイスをして、伴走しながら一緒に課題解決すると、次に同じようなことが起こったときに、彼は自分で課題解決できるわけです。それを最初から全部まかせてしまうと、なかなかうまくいかないと思います。問題が起こったということは、本人との間に誤解が生じているわけで、また同じような問題が起こらないように、経験から学んでいくんです。障がい者雇用ではいろいろな問題が起こりますが、一番まずいのは、そこから逃げてしまうことです。でも、そこから逃げないで、ちゃんと改善していくと、それが信頼になっていきます。「そういう人は二度と雇わない」ではなく、「経験があるから雇おう」となるわけです。

【社員のモチベーションやロイヤリティは、数値として見えないもの】
-イクメン、イクボスについて、どう考えますか?

渡邉:イクメンとかイクボスというと、一般の企業経営者は「なぜやらなくてはいけないのか」と考えると思うんです。私は、制度を整えて、きちんと会社で対応していかなければならないと思っていますし、これからは男女一緒に働くという時代に必ずなるので、協力し合ってやっていくことが絶対に大切だと思っています。

そのときに、何かやろうとすると、絶対に経費がかかるんです。当グループの場合は、従業員が3300人を超えていますから、かかる経費も大きいです。経費を考えると、できるだけ制度を入れないように先延ばしにしたくなりますが、実際に制度を入れると、社員のロイヤリティが上がって利益貢献してくれるんです。でもこれは数値としては出てこないんですよ。

-具体的にどういうことですか?

たとえば、数値として、もし1人の社員が、制度がないために辞めることになったら、その人の人件費がかからなくなるわけですから会社の利益は上がります。でも、1人辞めたらその分周囲のモチベーションが下がり、これは見えないマイナスの計数として効いてきます。ですから、制度を入れるということは、見えない計数を大事にするということなんです。「これは赤字になる」と経営者が考える時って、見えてる数字だけを見て言っていることがほとんどです。でも見えない計数には安心があったり、感謝があったり、会社に対するロイヤリティがあったりするんです。

最近、当グループの部長が育休から戻ってきましたが、そういう事例があれば、周囲の人も「その制度があるから会社に勤めたい」とか「これなら辞めないで働き続けられる」と思うわけです。でもそれは数値では計れません。目に見えないことを大事にしていきたいですね。

-従業員としていかがですか?

永友里奈(ダイバーシティ部):普通、会社でダイバーシティを推進する者は、会社のトップにいかに理解してもらうかが大変だったりするんですが、弊社の場合は、トップから「あれを入れろ、これを入れろ」とか、中には法律を変えないとできない要求が降りてきたりしてます(笑)。そういう苦労はありますが、大変やりやすい職場ですね。

渡邉:法律も変えようとしていますよ。制度が法律と合っていないものもあるので、そこは果敢に挑んでいきたいです。言わなければ何も変わりませんが、言ってみたら変わるかもしれませんからね。

(筆:高祖常子)
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2015年08月27日

第18回 澁谷耕一さん(リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第18回は、リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役の澁谷耕一さん。興銀マンとしてばりばり働いていたが、妻の病死をきっかけに子ども3人の育児と仕事の両立のため起業を決意。銀行を退職し、亡き妻の愛称「リッキー」を社名とした会社を起こした。妻の死を通してワークライフバランスの大切さに気づき、出産や育児など社員のライフステージの変化に合わせたフレキシブルな働き方を推進している。社員の生産性を上げて業績アップを計り、基軸となる中小企業向けのコンサルティング事業に加え食品支援事業など幅広い事業を手がけつつも、「やりがいがあるのは仕事よりも子育て」ときっぱり言い切る澁谷社長に、イクボスの価値観や今後の展望などについて伺った。(インタビュー:NPO法人ファザーリング・ジャパン代表 安藤哲也)

〈澁谷耕一さん プロフィール〉
1954年北海道生まれ。一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。香港支店副支店長、みずほ証券公開営業部長などをつとめる。2002年、同社を退職し、中小企業向けのコンサルティング業務を行う「リッキービジネスソリューション株式会社」を設立。2013年4月には神奈川県政策顧問にも就任。起業時は高3、高1、小4だった子どもたちも全員成人し、現在は孫も2人。忙しい合間をぬって、子どもたちと過ごす時間を今でも大切にしている。

【妻の死をきっかけに銀行員を辞め、48歳で起業】

安藤:澁谷社長は銀行員を辞め2002年に起業されたそうですが、きっかけを教えてください。

澁谷:大学卒業後、日本興業銀行に入行し、ニューヨーク支店などの勤務を経た後、香港支店の副支店長もつとめていました。私自身はこのままずっと銀行員としてバリバリ働き続けていきたいと思っていたのですが、妻ががんを患い、2001年2月、45歳という若さで先立たれてしまったんです。あとには当時高校3年の長男、高校1年の次男、小学4年の長女が残されました。まだ小4で幼い下の娘に寂しい思いをさせたまま今の仕事を続けられない、育児と仕事を両立できる仕事を、と考え、48歳で自宅での起業を決めたのです。

他にやりたい仕事があって銀行員を辞めたわけではないので、これから何をやって食べていくかいろいろ悩んだのですが、13年前、日本はデフレ経済で、中小企業が銀行からお金をかりるのが難しい時代でした。中小企業も銀行が納得するような、融資に必要な事業計画書が作れず、資金を借りることができない状態だったのです。そこで、銀行と中小企業のコミュニケーションギャップを埋めるために、中小企業に事業計画書の作成を助言するだけでなく、企業の強みやどこに無駄があるのかなどの要素も盛り込んだ計画書を書くことで、経営をどういう方向にもっていくか、戦略立案の助言を行うビジネスを始めました。

安藤:失意の底から立ち上がり、起業して順調に業績を伸ばされ、現在は食品支援事業も展開されているのですね。

澁谷:そうですね。2006年に、地方銀行と共催で、食品製造業者と食品バイヤーの出会いの場を提供する展示会「地方銀行フードセレクション」を始めました。以前から地方銀行が地元のバイヤーをよび、取引先である食品製造業者や農水畜産業者の商品を紹介する取り組みを行っていたため、これを全国規模で展開しようと考えたのです。おかげさまで好評を博し、今年は第10回目を迎えるのですが、参加銀行は41行、企業は600社に増えました。この取り組みは地域の食の交流と活性化にもつながり、当社では、ここで出合った地域の食品の通信販売業務も行っています。

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安藤:御社の社員数は?

澁谷:22人です。女性の割合が半分くらいで、子育て中のお母さんが多いですね。女性社員は出産すると育児休暇を取得し、2、3年で戻ってくるパターンが多いですね。復帰してからは、すぐにフルタイムで働くのでなく、最初は週に1日、勤務時間は10時〜15時からスタートし、子どもの成長に従って勤務日数や勤務時間を少しずつ増やしていくなど柔軟な働き方を積極的に取り入れています。

安藤:ライフステージの変化に応じて働き方が変えられるのは、ママ社員にとっては非常にありがたい制度ですね。ところで澁谷さんは、銀行員時代はどのような働き方だったのですか?

澁谷:銀行員時代は、いわゆる「猛烈サラリーマン」でしたよ。仕事中心で、家事や育児は妻にまかせっぱなしでしたから。ただ、ひとつ驚いたのは、ニューヨーク支店時代のアメリカ人の働き方です。当時の日本のビジネスマンは残業につぐ残業の毎日だというのに、アメリカのビジネスマンは、夕方5時に帰って家族と一緒にごはんを食べたりテニスを楽しんだりしているんです。奥さんも働いているけれど、「ダブルインカム・ノーキッズ」ではなく「ダブルインカム・ウイズキッズ」みたいな発想で、奥さんと連携して子育てしながら働く姿はカルチャーショックでしたね。彼らに影響を受けて、私もニューヨーク支店時代は週末家族にパスタを作ったり、その頃コロンビア大学の大学院に通って勉強していた妻が不在の時には、子ども達を動物園に連れていったりしていました。でも、その後再び日本に帰国してからは仕事一辺倒で、家事や育児の95%は妻にまかせていましたね。

安藤:ワークライフバランスの大切さに気づいたのはいつ頃ですか?

澁谷:やはり、妻が亡くなってからですね。亡くなってすぐのころはまだ銀行に勤めていたのですが、当時、一番下の娘はまだ小3ですから、学校で熱を出すこともあったわけです。すると、地方に出張中でも会議中でも学校から電話がかかってきて「早くお子さんを迎えに来てください」となるわけです。近所の方に助けてもらったりもしましたが、いろいろ大変でしたね。

あともうひとつ、当時は娘の塾のお迎えがあるので定時の5時半に帰るようにしていたのですが、帰ろうとすると急に「これから会議やるよ」と言われることもありまして……。娘が待っているのにどうしようって、これも本当に困りましたね。今まで妻が家にいてくれたから、夜の9時、10時までずるずる仕事して、時にはその後飲みに行ったりしていたのが全くできなくなり、これまでいかに自分が生産性のない仕事をしていたかわかりました。と同時に、仕事と育児を両立させるには、ワークライフバランスの発想が必要であることを痛感しました。

安藤:その時の経験が、今の会社での社員のマネジメントに生きているわけですね。

澁谷:まさにそうです。子どものいる社員の気持ちがわかるから、彼女たちが困るようなことはしないようにしています。ですから、当社では、午後6時から突然ミーティングを始めるようなことは一切しません(笑)。また、小さい子はすぐに熱を出しますので、子ども園で発熱して突然お迎えに行かなくてはならなくなった時などは、早退したり休んだりしてもらっていいよと常に言っています。

安藤:イクボスですね。でも、御社には独身の社員の方もいらっしゃいますよね。「ママ社員ばかり優遇されて」みたいな意見が出たりはしないのですか?

澁谷:ママでもある社員は、自分がいわゆるイレギュラーな働き方をしていることを自覚していて、皆に迷惑をかけられないぶんしっかり仕事をしようという意識の高い方が多いんです。業務が滞るようなことがないので、そのような不満は出てこないですね。

安藤:チームを組んで仕事をするというよりも、一人ひとりの仕事が決まっていて、スタッフ同士がお互いのスケジュールを共有しながら仕事を進めていくのですね。

澁谷:そうですね。男性社員の中にも子育て中の社員がいるのですが、やはり子どもがまだ小さいので結構熱を出すんです。でも彼らの奥さんもフルタイム勤務で忙しく、簡単に会社を休めない女性が多いので、私から彼らに「子どもが体調を崩した時はいつ休んでもいいよ」と言っています。先日も、午前の会議中、男性社員あてに保育園からお迎えコールが来ました。連絡を受けた彼はそのまま保育園にお迎えに行き、フルタイムで働く奥さんと連絡をとって午後3時に看病を交替し、夕方社に戻って仕事していましたね。ご主人がぱっと動けるので奥さんもすごく喜んでくれて、「私がこうして仕事を続けていられるのは、澁谷社長のおかげです」って私に感謝の手紙を送ってくれるんです。

安藤:違う会社の社員からも感謝されちゃう(笑)って、うれしいですよね。

【生活者目線で考える“共感力”が、これからのビジネスを支える】

澁谷:そうですね。会社でフレキシビリティを持つと、いろんな立場の人が働けるんです。また、うちの会社は女性社員、ママ社員の比率が高まりつつあるのですが、ママ社員が増えると生産性が上がるんですよね。どうしてかというと、お母さんたちは子どものお迎えや夕食作りがあるから、効率良く仕事をして6時前にスパッと帰るんです。すると、男性社員もそれにつられて早く帰るようになり、結果的に生産性が上がるんです。女性も男性も、プライオリティを常に考えながらしっかり仕事をして早く帰宅し、家族と過ごす時間やプライベートを楽しむ時間を大切に過ごしてほしいと切に思います。私は37年半仕事してきましたけど、「子育てと仕事、どっちがやりがいありましたか?」って聞かれたら、迷わず「子育てです」と答えますね。

安藤:なるほど。

澁谷:会社を始めて間もない頃、塾に通う娘のために、私は毎日手づくりの弁当をもたせていました。無理せずコンビニなどで買ってすまさせればいいという考え方もありましたが、塾で友達といっしょに食べる時、娘にひけめを感じてほしくなかったし、お父さんも一生懸命がんばっているんだということを伝えたかったのです。で、塾が終わる時間に駅の改札口のホームで娘の帰りを待っていると、娘が「パパ!」って駆け寄ってきて、私にぎゅっと抱きつくんです。なんて幸せなんだって。本当に、あの感動は忘れられないですよね。妻が亡くなり、ひとり親の家庭になって初めて、今までに感じたことのない子育ての大きな喜びを知ることができたんです。

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安藤:子育ては期間限定ですから、楽しめる時期に楽しみたいですよね。澁谷さんのようなイクボスの元で働く社員の皆さんは、職場の理解もあり、ワークライフバランスを取り入れた働き方ができており、まさにフロントランナーです。
高齢化社会の日本は今後、親の介護の問題も出てきます。介護はボス世代自らの課題でもあるし、独身やお子さんがいない社員の方でも介護の必要性が生じることも当然あるわけです。育児だけでなく親の介護など、社員のさまざまなライフステージの変化に適応する職場環境は、どの会社にもないといけないと思うのですが、実際のところ、大企業の中には、長年培ってきた慣習や風土をいきなりは変えられない会社もあるようですね。中小企業も、「うちは中小だからワークライフバランスを取り入れるのは不可能」という方もいらっしゃいますがそんなことはないです。中小だからこそ、御社のようにフレキシブルな働き方を可能にしている会社もあるのですから。

澁谷:本当にそう思います。中小企業のいいところは、例えば、トップである僕が「いいよ」っていえばOKなので、素早い決断で生産性を上げることができることだと思います。時代は、長時間労働から短時間労働へと確実に変わってきています。これからは、組織の一方的な論理だけで物事を押し進めていくというよりも、自らの子育て体験を振り返り、家事や育児をはじめとするさまざまな生活シーンで養われる、いわゆる生活者目線で考える“共感力”のようなものが、ビジネスを支えていくような気がしますね。

安藤:生活者目線で考えたいろんなアイディアを社内で自由に発言でき、よいアイディアはすぐに具現化できるような御社の環境は、「自分たちで考えたことが形になっていく」という喜びを味わえますよね。反面、大企業の社員を見ていると、「自分の仕事に退屈している」という人が増えてきてしまっているように感じることがあります。上から言われたことしかできない・やらない。管理職も、数字をもたされているのでリスクを考えてしまって部下の裁量に任せられない。そうなると、働く意欲もだんだんそがれてきて、企業の成長力を削いでいます。

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澁谷:確かにそうですね。話は少しそれますが、2013年から神奈川県の政策顧問の仕事もしているのですが、女性の働き方について県の方と話していると、「子育てして3年もたつと、職場復帰できないですよね」と当然のようにおっしゃいます。そのたびに「いや、できます。そんな風に思わないほうがいいですよ」ってお話しています。今はネットなどでいろんな情報が入手できますので、本人に「復帰したい」という意識さえあれば、いつでもできますよね。子育てを経験すると人間的に本当に成長できますし、視野も広まります。それをぜひ、社会に生かしてほしいんです。

安藤:僕自身もそうでしたが、父親となって子育てに関わるようになると、地域とのつながりができます。地域に出ると、会社とは違うプレーヤーがたくさんいて、でも、こういう人たちと共感しながら何かを一緒にやっていくことで、人間的にも大きく成長できると思うんです。僕は子どもが通う小学校のPTA会長を2年つとめました。僕以外の役員はお母さんばかりで、その中に入ってまとめるのは大変なこともありましたが、子どもたちの様子もよくわかるし、先生たちと仲良くなって密度の濃いコミュニケーションをとりながら活動させてもらって、地域での豊かな時間を過ごすことができました。

澁谷:私もPTAをやったのですが、入ってみたらやはり、僕以外の役員さんは皆お母さんでしたね(笑)。あれはすごいですよね。お父さんも2、3人いればいいのにと思いました。お母さん同士だからなのか、話し合いをしても中々決まらなくて。「澁谷君のお父さんはどう思われますか?」って聞かれて意見を言うと、ぱっとそれに決まるんですよね。そこで「次の会議から議長やってもらえますか?」とお願いされたこともありました(笑)。

当社では、男性社員にも「PTAなど地域活動もどんどんやってください」と言っています。男性社員が結婚する時に、私は新郎の上司として結婚式でスピーチするのですが、今申し上げたような話をするわけですよ。「奥様、この先子どもができて、お子さんが熱を出したり、PTAなど地域活動に参加したりする場合は、いつご主人に休んでもらってもいいですよ。私も応援していますから」って言うんです。すると、新郎側だけでなく、新婦側からも拍手がおこるんです(笑)。

安藤:いいですね。昔は上司のスピーチって、「○○君は将来の支店長候補として……」みたいな堅苦しい感じでしたよね(笑)。男性も、仕事で能力のある方は、お金にはならないけど、自分の能力を地域に還元するという意味で、どんどんPTA活動をしてほしいと思います。ファザーリングジャパンでは、パパ会員に「パパ達も、これから管理職になるんだったら一度はPTA会長やっておいたほうが仕事でも有効なマネジメント能力あがるからやってみれば?」ってすすめています。「MBAとるのはお金かかるけど、PTAはタダでできるよ」って(笑)。そのせいか、現在、会員500人のうち、PTA会長経験者は30~40人はいます。それも皆、立候補で。でも地域活動するためにも必要なのはやはり、ワークライフバランスなんですよね。自らの働き方を変えて時間を作り、余裕をもって取り組まないとアップアップになっちゃいますからね。

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【父親には「抵抗できない強さ」が必要】

澁谷:イクボスとちょっと離れてしまうのですが、最近ちょっと、男性が弱いと思うんです。傷つきやすくリスクを恐れるというか。たとえば会社で知らない人に電話をかけてアポをとる仕事があるとすると、女性は相手に何を言われてもがんがん進めるのですが、男性は、相手に「今忙しいから」などと言われてしまうとそこで「だめだ……」ってしゅんとなっちゃう。これはなぜかって考えると、これまで父親が育児にあまり関わってこなかったからじゃないかなって思ったんです。父親が仕事で忙しいぶん育児のほとんどは母親が担ってきたわけですけど、母親って、女の子に対しては厳しいぶん男の子には甘い傾向があるじゃないですか。その名残りが大人になっても残ってしまって、目の前の困難を乗り越えられないのかな、と。

安藤:日本はひと昔前まで、父親がバリバリ外で働き、家にはお母さんしかいなかった。この副作用が、そういう形で出てきているのかもしれませんね。ファザーリングジャパンでも、ママたちにパパについてのアンケートをとると、「いいパートナーだけど、いい父親ではない」という意見が結構多いんです。イクメンなんだけど、子どもに対して甘いとか、過保護すぎるとかママが言ってるわけです。澁谷さんがおっしゃったような、本当の意味で自立できていない社員は、会社側としても困ってしまいますよね。ちょっとつらいことがあっても乗り越えていけるというような強さを育むには、子どもが小さい頃から父親の導きが重要かと。かつての支配的な父親の権力じゃなくて、子どもの内発性を高める「しなやかな父性」のようなものがこれから必要になってくると思います。

澁谷:そうですね。父親って、「抵抗できない強さ」があったほうがいいと思います。

安藤:これから日本は、団塊の世代が2025年頃までに後期高齢者に達することにより、介護や医療など社会保障費の急増が懸念される「2025年問題」と向き合っていくことになります。寿命もますます伸びていて、育児を積極的に行う「イクメンの時代」から家族の介護を担う「ケアメンの時代」に入っていきますので、今のうちに、男性社員の育休などがスタンダード化していた方が、介護休暇もとりやすくなるのではないかと思っています。育児や介護など家族とかかわりあいながらも、仕事とうまく両立できるような仕組みづくりが不可欠ですよね。今後の御社のビジョンを教えてください。

澁谷:やはり、社会がこれだけ多様化してきてしかも変わってきているじゃないですか。ビジネスにおいても、求められる能力が変わってきていると思います。これから求められるのは、主体的に問題を解決できる能力や、ゼロから1をつくりあげる創造性やクリエイティビティ、他人の喜びや悲しみに共感できる能力、将来を予測する能力だと思うんです。このような能力を養うにはやはり、「会社」の中だけではなく「社会」と付き合うこと。子育ての経験や地域とのかかわりなどが、その人自身の能力を高めていくと思います。企業の大小にかかわらず、子育て、介護、福祉とか、そういったところに日本の将来のビジネスのチャンスがたくさんあると思うんです。だからこそ、私にもできることがたくさんあるんです。当社のような小さな会社でも、職場環境を整えて一人でも多くの社員に能力を発揮してもらえると、少しずつ成長してくことができます。

日本はこれから人材難の時代にもなっていきますが、会社にフレキシビリティがあることで、育児や親の介護などでいったん会社を離れた優秀な人材が戻ってきてくれ、会社も成長できるんです。当社でも、現在独身の社員はママ社員が働く姿を見て将来の自分の姿をイメージしながらバリバリ働き、逆に今のママ社員たちは、子どもが大きくなって手がかからなくなったら、会社に戻ってきてバリバリ働く。それによってステージがいれかわりつつ、会社が成長していけたらいいなと思います。

安藤:フレキシビリティは企業のサスティナビリティに繋がります。企業でのイクボスセミナーの時、ボスたちに必ず聞くのは、「あなたのお子さんを、この会社に勤めさせたいですか?」ということです。そこでもし違和感を感じるなら、どこかやり方が違うということだと思います。これから人材難は間違いなく来ますから、御社のようなワークライフマネジメントがしっかりできている会社のほうが、いい人材が確保でき社員が辞めず、業績ものびていくと思います。

澁谷:まったくそのとおりですね。仕事よりも先に、まずは家族ですよ。家庭が安定してないと、仕事は伸びていかないですから。日本は男性ももっと育休をとっていいんです。僕は妻の亡き後、これまでの働き方を変えて、仕事も育児も自分なりに一生懸命やってきました。周りの多くの方から「よくやりましたね」っていわれますけど、これって誰でもできるんですよ。要はやり方だと思います。

安藤:(お隣にいた女性スタッフの)山本さんにとって、澁谷社長はどんなイクボスですか?

山本:私は昨年当社に転職したのですが、社長は女性に理解があるし、不思議なことに、私たち以上に女性の気持ちがわかるんです。女性が喜ぶポイントも知っているし、「こうやったらもっとがんばってくれるんじゃないか」というツボも心得た上で、社員のやりたいことを尊重してやらせてくれるので、私も含めて社員は皆働きやすいと思います。

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安藤:転職されてよかったですか?

山本:よかったですね。心の持ち方がすごく変わりました。会社に来るのが楽しいですね。

澁谷:いや、でも彼女もすごく大変だと思いますよ。だって、やりたいことをしながらも責任を追うわけですから。

山本:もちろん大変です。でも教えてもらいながらできるので、日々成長できますよね。成長を期待されているのが感じられるので、頑張れます。私たちにとって満点のイクボスですね。

澁谷:私にとっては、「社員が誰も辞めない」っていうのがありがたいんです。人間関係とか、家庭との両立、育児との両立が原因で辞めてしまうのがいちばん良くないと思いますし、社員にとっても会社にとってもすごいマイナスですよね。だから、うちの社員には、子どもが熱を出した時、精神的な負担を感じずに堂々と休んでほしいんです。「休んでいいですか?」じゃなくて「休みます」でいいんです。

安藤:子どもを第一に考える組織でありたいし、社会でありたいですよね。イクボスは、やさしいだけじゃなくて、人を育てることもできるボスなんです。人を育てると組織も育つし、社会も育つ。フレキシビリティがあることで、育児が中心で思う存分働けない人も、子育てが一段落したらまた戻って働くことで恩返しをしようとするんですよね。そしてまた生産性が上がっていく。澁谷さん、これからも満点のイクボスとして、さらなる飛躍を期待しています。今日はありがとうございました!

(筆・長島ともこ)

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澁谷さんのご著書『逆境は飛躍のチャンス』はこちら
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2015年08月04日

第17回 大西徳雪さん(セントワークス株式会社 代表取締役社長)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第17回は、イクボス中小企業同盟(※)セントワークス株式会社 代表取締役社長の大西徳雪さん。社長就任後、看護師紹介・派遣事業において事業者と登録者のニーズのミスマッチに気づき、自らワークライフバランス・コンサルタントの資格を取得。医療・介護業界向けのワークライフバランス支援の事業化と、長時間労働体質だった社内改革に着手し、残業時間の減少と業績アップを達成した。プライベートでは2児のパパ。週1,2回のジム通いや家族で出かけるキャンプなど多彩な趣味を持つ大西社長に、イクボスの価値観や今後の展望について伺った。

〈大西徳雪さん プロフィール〉
筑波大学第三学群国際関係学類卒業。1996年セントケア・ホールディング株式会社入社。情報システム部門などで勤務後、セントワークス株式会社設立に伴い同社取締役に就任し、2011年4月に代表取締役に就任。2児の父として、家族と過ごす休日を積極的に楽しむ。

【看護師紹介・派遣事業で事業者と登録者のニーズのミスマッチに気づく】

安藤:大西さんはいつから社長に就任されたのですか?

大西:2011年の4月からです。大学時代は福祉ではなく国際関係を学んでいました。卒業後は世の中に貢献できる仕事に就きたいと思い、国際協力系、環境問題系、福祉系の企業にしぼって就職活動していたのですが、縁があって新卒で入社したのが、当社の親会社でトータルな介護サービスを全国規模で展開しているセントケア・ホールディング株式会社でした。入社後は、訪問入浴サービスの現場を約2年経験してから本社部門の経理、総務、情報システム業務などに就いていました。当社の初代社長は、現セントケア・ホールディング株式会社の専務なのですが、2代目の社長として私が就任し、今年で5年目になります。

安藤:当時のご自身の働き方はどうでした? 

大西:本社で経理や総務の仕事をしていた頃は残業も少なかったのですが、介護保険が導入され、情報システム専門の業務につくようになってから残業がどんどん増えていきました。月100時間超えも経験しましたね。27才の時に結婚し、現在小5と小2になる二人の男の子がいるのですが、仕事がいちばん忙しかったその頃、二人目が産まれたんです。妻もフルタイムで働いていましたので、必要に迫られる形で家事や育児は夫婦で分担していました。

私は子どもたちをお風呂に入れる係だったので、仕事が終わっていなくても6時にいったんきりあげて帰宅し、子どもたちをお風呂に入れ、家で夕食を食べてから車で会社に出勤してそのまま徹夜で仕事。そして翌朝、車で会社から家に戻って着替え、電車で出勤するような日々もありました。自宅は小田急線沿線で遠いですし、体力的にも精神的にもかなりきつかったですね。

安藤:それはすごいですね。でも若かったから、なんとかできちゃった?

大西:そうですね。当時35才くらいでしたので、なんとかがんばれました。子どもたちをお風呂に入れるのに加え、家族の朝ご飯づくりも私が担当し、子どもたちに食べさせていました。

安藤:イクメンをやらざるを得ない状況だったのですね。ご自身のそういった経験から、働く人の心身の健康の大切さに気づくようになったのですか?

大西:そうですね。もともと当社の主力事業は、介護事業者向けのシステム開発や販売になりますが、設立当初より介護に関わる人材の派遣や紹介も手がけていて、中でも看護師さんの人材紹介に力を入れていました。当社に登録してくれた看護師さんたちの中にはいわゆる産休、育休明けの方が多く、「夜勤は不可」「土日は不可」という条件つきでたくさんの方が登録してくれました。でもそのいっぽうで、病院や介護施設からの雇用条件は「夜勤必須」が基本で、全然受け入れてもらえないんです。登録側は「働きたいのに働けない」、事業者側は「人手不足なのに解消できない」という、非常にミスマッチな状態だったんですね。

これをどうにかできないかと思った時に出会ったのが、仕事と生活を調和させる「ワークライフバランス」の概念でした。私自身、当時はワークライフバランスは「福利厚生」だと思っていて、正直、当社で取り入れる必要性はあまり感じていなかったんです。でも、ある時新聞で、小室淑恵さんがワークライフバランスについて語っている記事を読んだ時に、ワークライフバランスは、福利厚生とは違うものなのかもしれないと思いまして…。そこで、小室社長のワークライフラバンスセミナーを受講し、認識を新たにしたんです。

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【ワークライフバランス支援の事業化と社内改革に同時着手】

安藤:社会に出て15年働いて、ご自身でワークライフバランスの大切さに気づいたのですね。

大西:そうですね。ワークライフバランスの発想を医療や介護業界にも広めることができれば、先ほど申し上げたような雇用する側とされる側のミスマッチが解消されるのではないかと思いました。それと同時に、これまで長時間労働体質だった当社の働き方も改善していく必要性を感じました。そこで、ワークライフバランスについて1年ほどかけて勉強し、ワークライフバランス・コンサルタントの資格を取得しました。その後2012年4月から、医療・介護業界に向けたワークライフバンスコンサルティング事業を開始しました。

安藤:ご自身が学んだことを事業化したのですね。

大西:そうですね。同時に、社内のワークライフバランスの改善に向けて具体的な取り組みを実施し始めました。

安藤:新規事業の立ち上げと社内改善を同時に進めた。社内改善ではどのようなことを行ったのですか?

大西:まずは社員の意識改革を行いたかったのですが、それまで部署によっては「残業は当たり前」という状態でしたから、「残業を減らすのは物理的に無理なのではないか」という意見もちらほら聞かれました。そこで、最初に真の「ワークライフバランス」の概念を理解してもらってから、具体的なプランを遂行して業務改善を始めることにしました。そのひとつが、社員全員が朝にその日の予定、夜に朝の予定と比較した実績メールを部署全員に送信し、社員ひとりひとりの時間管理能力と情報共有を図る「朝、夜メール」です。

また、月に1回、各部署で「カエル会議」を開催し、ワークライフバランスという視点から見た部署の課題を洗い出し、その課題を解決するためのアクションプランを策定しました。組織編成についても、社内にワークライフバランスコンサルティング担当を一人配置し、各部署でも責任者とは別にワークライフバランス担当を決め、それぞれの現場で課題に向き合えるようにしました。

安藤:大西さんも「カエル会議」には出席していたのですか? 会議の雰囲気はどうでした?

大西:最初の5回は全部署の「カエル会議」に出席したのですが、そもそも「ワークライフバランス」って、ボトムアップの発想じゃないですか。当時は会社全体が、所属長にいわれるままに動くようなトップダウン型の体質だったせいか、具体的な意見はなかなか出なかったですね。ですので、働き方などについて思ったことをふせんに書いてもらい、それを皆で発表しあったりするなどこちらから働きかけながら進めていました。

安藤:印象に残った意見はありましたか?

大西:多かったのが「仕事が属人化している」という意見です。ある業務を特定の人が担当し、その人にしかやり方が分からない状態になってしまい、その状態が当たり前になってしまうとまとまった休みがとりにくくなりますよね。それを皆が変えたいと思っていることがわかりました。

安藤:その意見に対して、何か具体的な対策は考えたのですか?

大西:各部署にワークライフバランス担当を配置していたので、こちらから特別なアプローチはせず、部署ごとに改善策を考え、主体的に動いてもらうようにしました。

安藤:なるほど。それで状況は変わりましたか?

大西:随分変わりましたね。一次対応レベルの業務であれば、ほとんどの部署で属人化の問題が解消し、業務がスムーズに運ぶようになりました。「Aさんの代わりをBさんが100%できる」というところまではいかないですが、これまで属人化が顕著で1週間くらいの長期休みがなかなかとれない部署だった総務部門が、4、5人でチームを組み、うまく仕事を分担しながら休みがとれるようになりました

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【「ノー残業デー」に残業する社員は「恥ずかしいマント」を着用】

安藤:セントワークスさんのユニークな取組みで忘れてはいけないのが、「恥ずかしいマント」ですよね。

大西:そうですね。毎月第3水曜日は「必達ノー残業デー」と決め、必ず定時に業務を終了するように決めました。万が一この日に残業しなければならない場合は「恥ずかしいマント」を身につけて残業してもらうようにしたんです。マントの背中の部分に、退社予定時刻を書いて仕事してもらうことにしました。

安藤:大西さんのアイディアですか? このマントはどこで買ったのですか?

大西:他社のストラップ残業を参考にした私のアイディアです。マントはスタッフに、100円ショップで買ってきてもらいました。現在社内に10着くらいありますよ。

安藤:ご自身の気づきでワークライフバランスに着目し、ユニークで合理的な業務改善を行ったのですね。成果は具体的にどのように現れましたか?

大西:取り組み開始から約8カ月で、残業時間はほぼ半減、残業代も4割以下に削減しました。同時に売り上げは前年比114%、営業利益は前年比162%になりました。これらの改善の背景には、受注の増加など業績が好調だったこともありますが、各部署で力を合わせて取り組んだ残業時間削減の影響も大きいと思います。現在でも、一人あたりの残業時間は当時の半分くらいです。

安藤:育休の取得状況はどうですか?

大西:女性社員は積極的に取得し、復帰率も高いです。男性の育児取得者も二人います。その一人が、同席している一之瀬君です(写真右)。

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安藤:一之瀬さんは、育休はどのくらい取得したのですか?

一之瀬:少しだけです。土日入れて5日間取りました。

安藤:それはあまり自慢しないほうがいいですね(笑)。でも取ったという実績が今は大事。でも本当は1カ月以上休めるといいですよね。ところで御社の平均年齢は?

大西:40才くらいです。新卒は親会社のほうのみで採用しているので、当社は平均年齢が少しずつ上がってしまうんです。

安藤:離職率はどうですか?

大西:正社員の離職率は低いのですが、全従業員の55%を占める契約社員の離職率は高いですね。給与などの待遇面も原因のひとつとして考えられるますので、ワークライフバランスの取り組みの中で、時給制から月々の固定給に変えたり、正社員としての登用をすすめたりなどもしています。

安藤:介護業界は、どんどんマーケットが広がってきていますね。御社の業務支援システム「看護のアイちゃん」はヒット商品ですよね。

大西:そうですね。「看護のアイちゃん」は訪問看護のアセスメントシステムです。訪問看護って、看護師が基本一人で担当するので、ベテラン看護師と新人看護師で、そのサービスにすごく差が出てしまうんです。これまでのようにスタッフ個人の知識や経験だけに頼るアセスメントでは、判断のものさしがまちまちになるというリスクがありました。そこで、ベテラン看護師なら患者さんの状態をどのように判断してどのような処置をするのかが一目でわかるようなつくりにしたのです。これを使っていただくことにより、質の高い看護の提供が可能になると思います。

安藤:現在、介護休業制度の改定に向けて厚労省が定期的に研究会を開催しているのですが、「介護休暇を小刻みにとれるようにしたらどうか」という案も出ています。実現すれば、自宅でケアマネージャーといろいろ相談するのに1日だけ休みをとったりなどができるようになる可能性もあります。このようなことからも、今後、訪問看護が増えるような気がしますね。

大西:そうですね。訪問看護は増えていくと思います。

安藤:自宅近くのママ友が、介護士でこれまで病院につとめていたのですが、仕事が大変で病院をやめて、今は訪問介護の仕事しているんです。昼間、移動中に良く会うんですよ。「どこ行くの?」って聞くと、「これから昼間の訪問の仕事」って。身近でも増えていますね。介護に携わる人たちの中には、御社で働きたいという人も多いのではないですか?

大西:そうですね。ワークライフバランスの取り組みを始めてから、当社に応募してくださる半分くらいの方の応募動機が「セントワークスさんはワークライフバランスに取り組んでいるから」というものです。

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安藤:ワークライフバランスを導入して、労働生産性があがってきている御社ですが、社員の健康度はいかがですか?

大西:あがってきていると思います。年に1度、社内で健康についてのアンケートをとっているのですが、「週に1日運動していますか?」の項目に「YES」と答える社員が年々増えてきています。

安藤:すばらしい。大西さんご自身もお元気そうですもんね。何か運動はされているのですか?

大西:ありがとうございます。週に1、2回、ジムに通っています。

安藤:飲みニュケーションのほうはいかがですか?

大西:会社のイベントとして年に4回開催しているのですが、それには毎回参加しています。あとは各部署にまかせていて、部署から「社長も参加してください」という依頼がくれば参加しています。

安藤:ご家庭では以前と変わらず育児・家事しているのですか?

大西:そうですね。朝ごはんは相変わらず毎日私が作っています。お風呂は、ちょっと前までは週末とかにいっしょに入ってたんですけど、最近は子ども同士で入るようになってきまして……。お風呂にはあまりいっしょに入らなくなりました。

安藤:育児は期間限定ですもんね。イクメンでもあり、イクボスでもある大西さんの今後のビジョンを教えてください。

大西:私の今後の目標は、少子高齢化社会に貢献するということです。これから日本だけでなく、アジアの方、中でもシンガポール、タイ、韓国、中国は高齢化が進んできていますので、新しいシステムを展開してこれらの国々の役に立っていきたいですね。

また、介護業界は人手不足なので、アジアの人材に来てもらい、働いてもらうことでも貢献できればと思っています。厚生労働省が、2025年までに高齢の方々が重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう、地域が一体となって医療や介護サービスを提供する「地域包括ケア」を完成させようと動いていますので、私たちにもそこに向けて、今後10年かけてしっかり対応していきたいと思っています。

【ワークライフバランスは「福利厚生」ではなく「経営戦略」】

イクボス⑫.jpg(イラスト:東京新聞)

安藤:大西さんは、イクボス10カ条はいうまでもなくすべてクリアですね。

大西:私自身、ワークライフバランスは最初は福利厚生だと思っていたんです。しかし、実際に学び、実践してみると、ワークライフバランスは「経営戦略」としても非常に大切なことであることに気づきました。

安藤:「ワークライフバランス」は、「余裕がないとできない」ことではなく、「余裕をつくるために実践する」ことなんですよね。それによって社員の働き方が変わり健康になることが大切なんです。「うちは中小企業だからできない」という企業担当者もいるけど、そうじゃない。イクボスプロジェクトでは、セントワークスのように残業時間を削減しても業績を上げている中小企業もあるということを今後も周知していきたいと思っています。ところで大西さんは、ジム以外で何か趣味はお持ちですか?

大西:去年から、家族でキャンプに出かけるようになりました。キャンプグッズを少しずつ買い足しているうちに、全部車に乗り切らなくなってきてしまいまして……。私だけでなく、妻も結構買っているんですよ(笑)。

安藤:夫婦で共通の趣味があるのはいいですね。キャンプはどの辺に行くのですか?

大西:今年は芦ノ湖のそばにいきました。ちょうど大湧谷が立ち入り禁止になる前日で、ぎりぎりセーフで温泉卵が買えたので、思い出深いですね(笑)。今年の夏休みはフェリーを使って北海道にキャンプに行く予定です晴れ

安藤:そのような休暇をとることは、社員の方に伝えるのですか?

大西:もちろん伝えます。実は、夏休みをとる予定のお盆の時期に親会社の取締役会があるのですが、取締役会の決議の申請書を出してしまうと会議に出席しないといけなくなるんです。そうすると夏休みがとれなくなってしまうので、なるべく前倒しにし、7月の取締役会に提出できるように部下に依頼しています(笑)。

安藤:子どもとキャンプを楽しめるのも期間限定ですもんね。本当に満点のイクボスですね。

大西:ありがとうございます。

安藤:一之瀬さんからみて、大西社長はイクボスですか?

大西:かっこいいイクボスです。有限実行ですよね。以前は長時間労働だったと聞いているのですが、ある意味マイペースで、何事にも自分の意思をもって取り組んでいると思います。子どものことも公表して、「今日は子どもが発熱したので午前中休みます」など責任者メールで普通に来るので、今後自分に同じようなことが起きたときもいいやすいですね。

安藤:これまでに一之瀬さんご自身に、そのような局面はありました?

一之瀬:私は子どもが産まれてまだうまれて2か月ちょっとなので、発熱とかはまだないんですけど、これから多分出てくると思います。

安藤:一之瀬さんが、お子さんが突然熱を出して午前休みになったら、社長としてはいかがですか?

大西:会議の欠席くらいだったら問題ないですね。ただ、彼は単独で営業していてちょっと属人化している仕事があるので、クライアントさんに行く予定の時はどうするかが問題ですね(笑)。

安藤:イクボス企業同盟でさまざまな企業の方とお会いしていますが、仕事に穴をあけないよう、皆さんいろいろ工夫されていることがわかります。例えば電鉄会社の運転手さんって、片方が寝坊したり急な発熱などのトラブルに見舞われても大丈夫なように、昔から必ず二人一組なんですって。それを知った時、ホワイトカラーでも実践していいのではないかと単純に思いましたね。とある会社も2人1組体制で業務を進めていて、2カ月先くらいまでお互いのスケジュールをすりあわせて、カバーしあっているんです。そのほうが、合理的だなって、見ていて思います。

一之瀬:そうですね。完全二人体制っていいですね。

安藤:ワークライフバランスに取り組むようになってから、2013年にワークライフバランス大賞奨励賞を受賞し、2014年には厚生労働省が認定する「子育てサポート企業」にも認定されました。このような取り組みで、メディアの取材も増えているようですね。

大西:そうですね。昨年、日経新聞に出てから、テレビや雑誌などの取材が増えました。(メディア掲載一覧はこちら

安藤:社員の方は、掲載された記事やONAIRされた番組を見ていますか?

大西:そうですね。よくチェックしていますよ。上京して働いているスタッフが、「今日テレビに出るから」などと親御さんに電話したりもしています。

安藤:御社のような会社なら、社員の親御さんも安心しますよね。最近はブラック企業なんて言葉もありますから、親御さんも子どもが勤める会社がどんな会社が心配だそうです。イクボスセミナーでも、経営者や管理職への最後の殺し文句は「あなたのお子さんを、この会社に勤めさせたいですか?」です。

これからのセントワークスさんの取り組みに、ますます期待しています。今日はありがとうございました。

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(筆・長島ともこ)

※ファザーリング・ジャパンでは2014年12月に設立した『イクボス企業同盟』に続き、2015年7月に『イクボス中小企業同盟』を新たに設立しました。日本の企業の9割以上が中小企業であることを鑑み、また中小でもダイバーシティやワークライフバランスの社内施策をもって業績を上げたり、人材採用面でキラリと光る企業も多いことから『イクボス中小企業同盟』でネットワークを構築し成功事例などを共有することを目的とします。今後、女性活躍やイクメン・ケアメンなど社員が多様化する時代において、「イクボス」の必要性を認識し、積極的に自社の管理職の意識・マネジメント改革を行い、新しい時代の新しい経営の下、元気な中小企業を増やす『イクボス中小企業同盟』にご期待ください。
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2015年05月26日

第16回 小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第16回は、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵さんが登場。自社の働き方改革はもちろん、全国約900社でコンサルティングを手がけ、内閣府、厚生労働省、経済産業省などの委員を歴任。全国で講演、執筆活動を行っている。ご自身の働き方への気づきと、これからの働き方や管理職のあり方について伺った。(FJイクボスプロジェクト

<小室淑恵さんプロフィール>
資生堂在職中に女性が働きやすい社会を実現するために、インターネットを利用した育児休業者の職場復帰支援サービス新規事業を立ち上げ。資生堂退社後、2006年4月第1子を出産。3カ月後の2006年7月 株式会社ワーク・ライフバランスを設立。安倍内閣 産業競争力会議 民間議員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員、経済産業省「産業構造改革審議会」文部科学省「中央教育審議会」委員ほか。2児の母でもある。

【専業主婦志向からの意識転換】
安藤:普通の女子大生だった小室さんが、どこでスイッチが入って、今に至ったのか。そもそものところから教えてください。

小室:大学生の時までは、専業主婦志向だったんですよ。女性が頑張ることは社会から望まれていないと感じていました。

自分がどうありたいかと言うことよりも、周りからどう思われているのかと言うことの方が大事でした。自分が頑張って頑張って嫌われるよりも、好かれる生き方をしたい。「好かれる存在=いいお母さん」というイメージ。むしろ頑張って負けることは悔しいし、怖い。結果、負けたことにならないための自己防衛から、負けない生き方をしよう。それには仕事をしないで家庭に入ることだと、自分を思い込ませていた感じがありました。結果的に負けたと見られないように、「私は最初から働きたくないんだ」と周知徹底しておくと言う予防線まで張っていました。

安藤:女子大の授業で学生に訊くと、専業主婦志向の人もまだ結構います。そんな風に思っていた小室さんの意識が変わったのは、なぜですか?

小室:大学3年生の時に、猪口邦子さんの講演を聞いたんです。大学3年生という時期も重要だったと思います。自分の進路を決めるタイムリミットも迫っていたので、本当に決断をしなくてはならない時期。「働いて子育てする人が商品やサービスを作らないといけない。消費者にそういう人が増えるわけだから、増えゆくマーケットを海外に取られてしまう」と。論理的に考えても全くその通りだと思いました。

それまでは女性が働くということは、女性の権利という考え方だと思っていました。女性が平等であるために、社会が配慮して変わってくれないといけないという考え方。どこか女性ってクールでシビアな考え方を持っていますから、利益と関係ないところで、企業から情けをかけていただくのは日本のためにならないと思っていました。育休を取ったり働き方に制限がある女性が会社の中にいること自体が、社会のご迷惑。日本のためにならないし、そこまでして自分をPRしたいと思わないですからと。

猪口さんがすばらしかったのは、経済合理性に基づいて説明をしてくださったことです。先の先を読んでしまう女性に対して、小手先で女性に配慮してくれる話はいらないんですよ。猪口さんが「根本的にそれをやらないと、日本は勝てない」と、今までの概念をひっくり返す話をしてくださったので、目からうろこでした。

安藤:女性の権利としてではなく、マーケット問題がそこにあったわけですね。

小室:お話しを聞いて全身に鳥肌が立ちました。それなら私も頑張りたいのにという気持ちになりました。もうすでに自分は間に合わない感じがしたんですよ。社会には英語が必要という情報も入ってきてはいたけれど、働くつもりがないから英語もやってない、仕事に必要じゃない単位ばかり取っていました。このまま社会に出たら、いかに自分が使えない人間なのかということがわかっていたんです。一瞬逃げ出したくもなりました。

私の場合は単純だったことが幸いして、「人生変えたい!」と思うようになりました。本を読むのが好きだったので、山ほど読んでいましたから、「だいたいの人はアメリカに行って人生が変わっている」と思って、「よし私もアメリカに行こう!」という単純な発想。それでアメリカに行こうと思ったんです。
そのとき後押しになったのが、母が「いいんじゃない~」って言ってくれたことですね。ちょっと懸念していた父を裏で説得してくれて、大学3年生の2月の試験が終わった翌日のチケットで渡航して1年弱、アメリカで過ごしました。

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【人生を変える!アメリカへ】
安藤:アメリカでの生活で得たものは何でしたか?

小室:英語もしゃべれないし、貯金していなかったからお金もない。留学でもないから通う学校もない。ですから暇だし、場所がないわけですよ。知人のところに1~2週間滞在させてもらいましたが、居場所がないので、近くのヤオハンというスーパーの掲示板に「無料でベビーシッターします。寝床とご飯をください」という張り紙を出し、シングルマザーが、私を雇ってくれたんです。

居間のソファーで寝ていい、パスタはソルト&ペッパーで食べていい……という条件。2歳のシーラという女の子のシッターをしました。お母さんのスザンヌが育休中で仕事に戻るまでの間、サポートすることになりました。彼女は証券会社に勤めていましたが、育休中に証券業務に必須の2つの資格をイーラーニングで取得し、育休前よりも昇格して仕事復帰していきました。このことから、これからはインターネットが時間や働き方に制約がある女性の働き方を変える、そういう働き方ができるんだと感じました。

今から20年近く前です。日本ではひたすらインターネットを阻止していた時代。彼女を見たときに、ITは冷たく怖いツールではなく、ハンデのある人を救う温かいツールであるという、私の中でドラスティックな発想の転換になりました。「インターネットを使って、女性の働き方を変えることができる!」という夢の卵みたいな想いを持つことができたのが、人生においてとても大きかったと思います。

安藤:その体験を経て就職。入ったところが大手化粧品メーカーの資生堂だった。そこで何を感じましたか?

小室:そもそも就活で40社くらい落ちましたから、入れていただいた時点でありがたかったですね。

安藤:資生堂には何年いたんですか?

小室:7年半いましたが、最初は奈良支社に配属され、入社1年ちょっとで社内のビジネスモデルコンテストでプランを出して、優勝したきっかけで本社に勤務するようになり。本社でその事業を5年半やりました。その後、川崎支社に移動になり、営業統括を1年半やり、その後起業しました。

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【営業活動の中から、働き方の問題点が見えてきた】
安藤:資生堂時代は、ワーク・ライフバランス的な働き方はできていましたか?

小室:全然ダメでしたね。奈良支社のときは、会社から徒歩圏内のところに住んでいました。先輩に追いつくために、まさに時間で勝負していましたね。23時24時…夜中の2時までやっていたり。先輩に夕食をごちそうになって、そのあとまた会社に戻って仕事をすることもよくあり、まさに残業三昧でした。その後本社配属になり新規事業を立ち上げたときも、かなり残業時間は多かったです。

安藤:そんな働き方をしていた小室さんが、ワーク・ライフバランスという考え方にいくついたプロセスはどうだったんでしょう。

小室:ワーク・ライフバランスという考え方自体は、2000年頃に読んだ学習院大学の先生の論文などから、こういうことは重要だと頭ではわかっていました。女性が働きやすい社会を実現するために、インターネットを利用した育児休業者の職場復帰支援サービス新規事業をビジネスモデルで立ち上げてそれを売りながら、最初は女性が育休から復帰できないことが問題だとずっと思っていました。復帰できないから復帰できるようにしようと、復帰支援のプログラムをいろいろな企業に売り歩く中でわかったことが、結局、復帰した後に、職場が長時間動労だと辞めてしまうという現実でした。

もうひとつは、男性も介護で休み始めていたり、うつ病で休み始めていたり、男性で育休を取る人が増えてきたりという現実がありました。ある大手企業は、女性の育休者よりもうつ病で休む男性の方が多かったりしていました。

安藤:うつ病などの精神疾患の従業員を抱えている企業は多いようですね。

小室:男性が休む理由が増えているということが衝撃的だったのと、特にうつ病の場合は、職場が長時間労働だと、戻ってもすぐに再休職してしまうわけです。復帰を支援しても、ずっと終わらない。復帰を支援した後の職場を変えることを同時にやっていかなくては、根本的な原因が変わらないということに、育休者の復帰支援のプログラムを企業に売りながら気づいたわけです。

いろいろなデータを見れば見るほど2007年になると団塊世代が一斉退職する、労働力人口が激減すると気づきました。いろいろな企業から社員ピラミッドをもらって試算してみると、ある企業は十年後に社員数が半分になってしまうという現実が分かりました。

労働力人口が激減する中で女性を活用する、介護中の人も働けるようにする、うつ病からも戻れる職場にするということを精一杯やって、なんとか日本のマーケットを維持できるということが2003年頃には私の頭の中でクリアになっていました。少子高齢化、労働力人口の減少……。だから早く働き方の改革をしなくてはならないと。今でも使っている「企業ニーズ」というスライドは実は2000年からずっと使い続けているスライドです。

安藤:社内ベンチャーから、起業に至ったのはなぜですか?

小室:当時はいろいろな賞や、日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」などもいただいて、この事業を頑張っていれば、何となく自分のなかで成功できるイメージはあったんですが。この事業じゃなく、働き方を根本から見直すことをしなくてはならないという想いがあり私の中でせっぱ詰まって「起業します!」と辞表を出したというのが、2005年の夏でした。

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【働き方改革は、自分が肩身の狭い思いを感じたから】
安藤:起業のときに、第一子を授かったんでしたよね?

小室:何の脚色もないのですが、資生堂に辞表を受理いただいた翌日に妊娠がわかったのです。結婚は2003年にしていました。

私としては当時は、「起業とは夜討ち朝駆けでやるものだ」という意識がありました。学生時代はネットベンチャー「ネットエイジ」でインターンしていましたから、ネットベンチャー時代は押入で寝ていたなんていうこともありましたし。それを自分もやるつもりでいたんです。

でも1日3回吐いてしまうくらいのつわりだったので、そんな自分が起業できるというイメージが持てなかった。絶望して起業できないと思い込んで、泣いて現在の創業期からのメンバーである大塚に涙ながらに話したのを覚えています。

そのときに大塚に「ワーク・ライフバランスの会社、やるんですよね?」って、「あなたがどうすることがいいと思いますか?」と言われて。まさにコーチングなんですが。
私がメソメソしながら、「育児して、仕事との両立を体感して、それをノウハウにして、それをやりながら起業した方がいい気がしてきた」と言うと、大塚が「そういうことです」って(笑)。「そういう人と起業した方が、私も実感が持てます」と言ってくれたので、初めて、そうかこれって天命なんだと思いました。

でも、まず産んでみないとということで、産むことに専念して、4月に出産し、出産の数週間後に一大プレゼンが決まっていたので、そこに行かないとチャンスが取れないと思ったことで、その日が起業の日になりました(笑)。

安藤:その後気が付いたら会社が残業体質になっていた。

小室:私以外は残業がいけないと思っていなかったし、「全員に残業させない」という意識は創業当時はありませんでした。特に、大塚は私が帰らなくてはいけない分をカバーするつもりで残業してくれていた。そのことに対して、自分のせいなので「悪いな」という思いもあって、否定するなんていうことは思いつかなかったんです。しかし起業してまもなく大塚が妊娠したことで気づきました。私が感じている、「時間がある私の制約のせいで負担をかけて申し訳ない、毎日頭が上がらない」という肩身の狭さを、みんなが感じるようになるんだなということに。

密かに自分自身のモチベーションもダウンしていたんですよ。社員には言わないけれど、最後に頼られない自分。時間外にいられないと頼りにならない、会社にいる人がいろいろ決めてくれるという状況になっていて。それって意欲を失わせるし、能力を発揮できなくなるんだなと思ったんです。

「こんな気持ちに大塚がなってはいけない」と思いました。これから入ってくる社員たちが、みんな結婚出産して、順番に同じ気持ちになるわけですから。社長じゃない立場だと、肩身の狭さは私以上のものがあって、それを苦に辞めていくような社員もいるんじゃないかと思ったときに、会社が変わる方が断然早い。これは組織の問題であって、個人責任でやることではないと。

むしろ戦略としてバーンと打ち出した方がいいんだと私の気持ちの中で整理できた。これができたのは、私自身が肩身の狭さを感じた経験が大きかったと思いますね。

【個人が抱えている仕事を見える化して、解決】
安藤:ボスとして働き方の改革を進めたということですね。でも最初は「残業をやめましょう」という社長の方針に反発もあったんじゃないですか?

小室:そうですね。あなたのためにやっているのに、よかれと思ってやっているのに……というのはありましたね。大塚も妊娠する前は、いっぱい反発していました。妊娠する前にも残業をやめようと言っていましたが、まったく聞いてくれませんでしたね。

安藤:大塚さんが元在籍してた会社も、ハードワークだしね。

小室:24時間型の働き方で成功体験も持っている。ベンチャー型の働き方、高揚感も持っていたタイプだったので。

みんなから反発されたときに、何で仕事が終わらないのか、どういう仕事内容なのか、どこで時間がかかっているのかがわからなかったんです。それをきっかけに、今900社以上に導入している朝メール( http://www.work-life-b.com/asamail.html )が生まれたんです。1週間何しているのか書いて、1日に何をしているのか分析して欲しいと伝えて、「朝メール」をやって初めて、時間の段取りが悪い、自分の知識不足でお客様の対応ができない、それを夜に大量の調べ物をしていたり。先輩に1時間でできると言われた仕事が、本人は3時間かかる……それは時間でカバーするしかないとずっと思っていたというようなことが分かりました。

1時間でできる仕事を3時間かかってしまっているところの、スキルアップと知識アップに向き合わずに、ひたすら時間と根性でカバーするというやり方。家に帰ると疲れ果てて寝るしかない。これを繰り返している自分の悪循環に社員達も気づきました。と同時に私も、ある社員の「朝メール」を見たときに、会計系の仕事でかなりの時間取られていることがわかりました。彼女は会計系の学科を出ているので、会計業務をやってくれていたんです。私は会計業務になぜそんなに時間がかかるのか、理解できないから、大変さをわかってあげられなかった。上司が部下の大変さを理解してあげられないから、解決策を打ってないという上司側の問題点がわかりました。

安藤:精神論だけでは解決しないよね。

小室:会計にかけている時間を計算したら、その業務を月3万円くらいでアウトソーシング出来る会計会社があることがわかり(笑)。そのほうが会社にとってもメリットがあることが一瞬にして試算できたんですよ。彼女も会計の学科は出ているけれど、実は会計はあまり好きじゃなかったってことで。外に出してお互いにスッキリしました。彼女はスキル面などの内的要因について、自分で目を向けることができ、私に対しても「社長が解決のために動いてくれた。私だけのせいにしなかった」という信頼感がうまれて、仕事の仕方が劇的に変わりました。

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安藤:それはまさにイクボスですね!

小室:上司と部下との信頼関係って、本当に大事だなと思いました。その社員も、今は仕事ができる人の代表みたいになっていますが、以前はパワーポイント作るのに3日間かかってましたから(苦笑)。すごく育ったんですよ。1人の人がこんなにも変わるのかというくらい変化しましたね。

どんな人が入社してきても、弊社で育てることができると自負しています。ちゃんと上司がコミットして内的要因に向かえば、必ずいい変化が出ると思います。その一番の原点は、私自身の大学時代の変化です。人って、化けるのはきっかけ次第。周りにいる人がメンターとしての力を発揮できる職場が一番生産性が高いんですよ、みんなが成長するから、全員の生産性が上がります。いい人材を取りに行くばかりでは、そのために給与や待遇など、いい条件を提示しなくてはなりません。常に高コストになるわけです。普通の人を採用して“化けさせる”方が、一番会社は儲かります。化けさせる力を持っている会社が儲かるし伸びていきますね。

安藤:社員に配慮するだけ、優しいだけがイクボスだと思っている人も多いけど、そうじゃなくて、社員を育成して利益を出すことがイクボス。結局、上司はそこで評価されるわけだからね。

小室:本当にそう思います。時には厳しいこともあると思いますが、信頼関係があるからこそ、根本的課題を指摘されたことに対しても、立ち向かおうと思えるんだと思います。この「思える」かどうかが大事ですね。立ち向かって変化した社員は、その変化した体験を後輩に「あなたがもしずっと変えられないで抱えてきた課題があるなら、この会社なら変えられるよ」と語ってくれるので、成長が連鎖します。

【子育てにも、イクボス的考え方は通じる!?】
安藤:イクボスは自分の家庭の中でもナイスな親だと思うけど、小室さんは家庭の中ではいかがですか?

小室:悩みばっかりなんですが。長男は小学校3年生で、今まさに、思春期の入り口かなという感じです。人に向かい合ってきたというところは子育てにも活きているかなとは思います。

子育てを通じて学んだことの一番は、「人は罪悪感を持たせることでは変わらない」ということですね。怒る、叱るという北風型では人は変わらないけれど、承認して励ますことで人が変わる。罪悪感を持たせて、二度とやらせないようにするというような北風型のマネジメントが、今までの日本社会には非常に強かった。

安藤:苦難を乗り越えたヤツを評価する、体育会系なマネジメントですよね。

小室:そのスキルばかりを磨いて、いかに厳しく怖く伝えるかとなっていたと思うんです。内的要因って、自分が向かい合うかどうかを自分で決められてしまうので、自分が向き合わないと変われない。

子育てだとつい「やっちゃいけないんだよ」とこんこんと言い聞かせて、厳しく恐怖を与えそうになる自分がいる。なぜならそれを人様にやったら怖いと思うから。とにかくやめさせたいという気持ちがいっぱいになって怒ってしまうこともあるので。でも、言い聞かせながら、自分に「これは子どもに恐怖心を与えたいのか、直して欲しいと伝えたいのか」と自分で問いかけるので、自分のモードに戻せることがありますね。でも、子育ては本当に難しいですね。

【これからの管理職に必要なのは、コーチング型マネジメント】
安藤:これからの管理職はどう変わっていくべきと思いますか?

小室:今までの管理職の手法は、自分と似た人しか育てられないというところに、限界があったと思います。今までは、似たバックグラウンドで、似たタイプの男性しか入ってこなかったから、指示命令型でも一定の効果があったわけです。似たバックグランドを持っているから、「厳しく言っているけれど、きっとこの人は体育会系で……」とか、「こう言われているけれど愛されているんだ」と理解した上で、厳しかったり理不尽な指示も受け取ることが可能だった。怒られた側が理解してくれていたわけです。同じ背景を持っていない。同じ体育会出身でも今は体罰がないし、論理的に教えているところも増えているから、論理的にとおらないことは受け入れがたい。いろいろな人が入社してくると、指示命令型でなく、自分の力を引き出せるような、コーチング型のマネジメントが必要ですね。

安藤:ワーク・ライフバランス社の事業では、管理職向けの研修もしているんですよね。

小室:私たちは女性向けの研修とか、労働時間の見直しとか、パーツで依頼してきた企業に「そういうことではなく、何が原因でしたっけ?」と全体を分析するようにしています。
女性にだけ渇を入れる研修は、絶対にやってはならないと思っています。女性に原因があったみたいなことになってしまいますから。そうでなくて、「女性を活かせなかったことに問題があるんですよね」というところに持っていかなくてはならない。マネジメント側や組織体制の問題なのだということです。マネジメントが変わらないところに、研修をして意識が高まった女性を戻すと、能力のある女性が転職してしまいます。研修の効果が転職になっては何にもなりませんから。

管理職にコーチングの手法や考え方を伝えますが、コーチングの手法そのものを提供するというよりは、コーチングに近い手法を日常生活の中で取れるということです。日常のうっかりやっている行動を、こう変えればコーチング的になるということがいくつでもあるので、それを理解していただいています。
最後には長時間労働が評価されるのでは、すべてが水の泡になってしまいますから、根本の所は、長時間労働を変えること。それができないと、男性が育休を取りにくいですし、女性も働きやすくならないですし、女性が能力を発揮できたり、仕事へのモチベーションも生まれない。「短時間で生産性を高く働いた人を一番に評価しましょう」とルールも変えて、両輪でやっていく必要があります。

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【響かないイクボスには、世の中の現状を伝える】
安藤:そうは言っても響かない人もいますよね。

小室:人口ボーナス期・オーナス期という考え方をレクチャーするのを昨年くらいから始めたんですが、大企業の社長クラスの意識が一瞬で変わるという体験をしました。(プレゼンテーションが動画で見れます→ https://www.youtube.com/watch?v=NTwOUPCI1w4&feature=player_embedded )彼らが一番頑張った時代は人口ボーナス期であり、人口ボーナス期に勝つためには、長時間労働はある意味正解でした。しかし日本はすでに人口ボーナス期は終わり、人口オーナス期に入って既に20年もたっています。日本の管理職たちが意識しているのは、中国、韓国で、こっちがワーク・ライフバランスなんて言っていたら長時間労働でハングリーに頑張る他国に負けるんじゃないかと思っているわけです。でも、中国、韓国はまだまだ人口ボーナス期です。日本の過去のやり方と戦うのは、まったくもってナンセンス。まもなく中国も人口オーナス期になるので、この人口オーナス期で勝てる戦略に早く移行することがポイントです。

人口ボーナス期の成功要因だったことは認めてあげたうえで、時間軸で整理してあげる。彼らが体験してきた、早く、安く、大量に時代のメソッドが、どうしてこんなに響かないんだということが整理して理解できるのが、この人口ボーナス・オーナスという考え方です。(プレゼンの全文を文章で読めるサイトはこちら→http://www.yomuradio.com/archives/4827)「なぜなんだ」という雲が、一気に晴れる感じですね。

安藤:企業は生き残るための戦略を知りたいわけだからね。

小室:これはプレゼン講師を17年やってきて思うことですが、自分の主張をいうのは青年の主張であって、相手の課題を解決することがプレゼン。相手が一番困っていることを解決することですね。そうでないとワーク・ライフバランスは響かないと思います。

【介護時代を生き抜くためにも、まずは労働時間のスリム化を】
安藤:最後に、管理職はどうあるべきかメッセージをお願いします。

小室:管理職のみなさんはまだまだ介護についての認識が甘いと思う。そこをもっと自分のチームメンバーと共有していただきたいですね。ワーク・ライフバランスってイクボスが1人で気づいても、メンバーの意識が揃わないと、進められない。本人はイクボスなのにうまくいっていないチームをよく見ます。その場合は、介護というみんな共通で考えられるテーマを導入してもらいたいですね。

介護は親だけでなく、配偶者の介護になることもあるし、子どもが障がいを持つこともある。親世代のきょうだいが多くて、子ども世代のきょうだいが少ないので、叔父叔母を介護しなくてはならないと言うことも出てくるんです。独身の叔父叔母まで自分が看ると思わなかったということは少なくない。あとは自分の病気ということもある。介護の場合は、育児と違って休むことがソリューションではなく、両立することがソリューション。仕事をいかに辞めないで、介護の家族責任を果たし、いかに外部リソースを使うか。疲労困憊してしまわないことが大事。一人で背負わないことによって精神的に辛くなり過ぎないことが大事。外部の手をかりるために、経済的基盤を失わない(仕事を辞めない)ことが大事。1~2年では終わらず、平均10年なので、介護による事情を持つ人は累積して増えていく可能性があります。

安藤:企業はそういうとき、どうしたらいいでしょう?

小室:一番は時間の柔軟さが大事ですね。ただし、そこに一足飛びに行ってしまうと、すごく危険です。時間の柔軟性を長時間労働も可という中でやってしまうと、夜の時間にカバーしようとする人が出てきてしまい、深夜に労働することで過労死の危険性が増えてしまいます。一番いけないのは、このまま労働時間に上限規制のないままいくと、上司は時間に制約がある人に配慮して、時間制約のない人に限りなく仕事を乗っけてしまうということがあるわけです。これをすると、乗っけられた方はたまったものではなく、その会社からどころか、この国自体から逃げていきたくなります。すでに優秀な人材の国外流出は始まっています。この国がいきなりホワイトカラーエグゼプションの方にいってはいけない理由は、その制度では無制限に働ける人だけに頼ってしまうという上司の怠慢を産むからです。

まずは、「全員が短時間で仕事をして徹底的に生産性を高くしよう」というところに働き方自体を転換しないとダメで、今は4~5回通って受注しているなら、1回でなぜ受注できないのか、そのために必要なリソースは何か、やり方の転換は何かにまずしっかり目を向けなくてはなりません。

そして日本の企業のトップがITをびっくりするくらい使っていませんね。ITを積極的に使うと、時間と場所に制約がある女性は働きやすくなります。いろいろなものを徹底的に使って生産性を高めて、現実的な労働時間を最低限に縮小する。1日8時間というところで、ちゃんと働けるようにした上で、その8時間をどう働くのか、場所を柔軟にすることは大事です。働く時間を柔軟にして、労働時間全体も膨張させることは悲劇しか生みません。この2段階、8時間労働に必要な労働人数とリソースを徹底追及してから、柔軟性に持っていくことで、個人の生活に合わせたフレキシブルな働き方を実現できます。

【女性は、詐欺師症候群を知っておこう】
安藤:働き続けたい女性たちへは何かありますか?

小室:『LEAN IN ―女性、仕事、リーダーへの意欲―』(シェリル・サンドバーグ著、日本経済新聞出版社)にも載っていた、「詐欺師症候群(Impostor syndrome)」という特徴をいつも紹介しています。企業が女性に管理職やワンランク上の仕事を打診した際に、女性側が1歩も2歩も引いてしまうことが起きている。しっかり成果を出しても、その成果は自分の実力だと思えずに、今回たまたまうまくいってしまった。ほめられると、まるで自分が詐欺行為を働いたような罪悪感を持ってしまうと言う感情を女性の方が持っているのを、詐欺師症候群といいます。女性は、セロトニン(不安を解消する物質)が男性の半分くらいしか出ないことが原因らしいんです。だから男性の方が楽観的というのは、本当にうらやましいと思います。

男性には本当に理解できないみたいですね。なぜそんなつまらないことを心配するのかって。でも、それは子育てするときに必要な資質として女性に与えられているものなんだと思います。不安や危険を早めに察知する……。でも、それを自分があげた成果に対しても思ってしまうのはもったいないです。セロトニン不足による、脳の詐欺師症候群なのに。解明されている女性特有の症状なんです。

何がもったいないかというと、男性は同じように不安に思ったりしていないってことです。上司から同じ仕事を打診された場合に、男性のAくんは「やったことないけれど、できると思う」と言うけれど、女性のBさんは「前にやったことがあるけれど、今回できるかわからない」と言うんです。これを聞いたときに上司は、「何でBさんは面倒くさい謙遜をするんだ。やる気がないなら良いよ」となってしまう。やる気の違いだと誤解してしまうんです。女性は上昇志向がないと誤解されてしまいます。やったことがないAくんは、2~3回経験を積むうちに本当にできるようになり、評価があがっていくわけです。

詐欺師症候群を知っていたら、上司も「ほら出ちゃってるよ、詐欺師症候群」と女性社員に言えますし、Bさんも自分の詐欺師症候群を認識した上で「じゃあやります」と手を挙げられるでしょう。
社会全体が労働時間を短くしようとしているのだから、女性自身も自分の詐欺師症候群と戦うことが大事です。私自身も、何か成果をだした後ほど急に怖くなったり、テレビに出て目立つことが怖くて苦手なんですが、詐欺師症候群を知ってからは、なんとなく折り合いが付くようになってきました。

安藤:確かに「私には無理です」って言っちゃう人、結構いますよね。

小室:この感覚はびっくりするくらい突然襲ってきて、自分ではコントロールできないんです。ただの緊張と違うくらいのものが襲ってくることがありますが、客観的に理解すると「ああ、例の症候群が出てる、出てる」と乗り越えられるようになります。ですから、女性たちは、詐欺師症候群を知って、自分を過小評価せず、ぜひ仕事に向き合って頂ければと思います。

安藤:今日はありがとうございました!

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インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー/代表理事)
(筆:高祖常子)
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2015年03月12日

第15回 小菅崇行さん(小菅株式会社 代表取締役会長)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第15回は、東京・墨田区にある小菅株式会社代表取締役会長の小菅崇行さん。古い業界の商慣習で長時間労働を繰り返していた会社の働き方を、40代で父親から会社を受け継ぎ改革に着手。約7年かけて年間労働時間1800時間、全社員残業なしを達成し、2010年度「東京ワークライフバランス認定企業」に認定された。ミュージカル鑑賞や美術展見学などの機会も社員に提供し、社員が平等に幸せを実感できる会社づくりをめざす小菅会長に、イクボスの価値観や今後の展望について伺った。

〈小菅崇行さんプロフィール〉
3代目社長として就任後、改革に際して思い描いてきた会社の姿がほぼ完成してきた2011年4月に社長を退き会長に。2児の父。多彩な趣味をもち、東日本大震災遺児を支援する「みちのく未来基金」の活動なども積極的に行う。

【売り上げ偏重の「拡大路線」から「身の丈路線」へ】

安藤:制度改革される前は、どのような働き方だったのですか?

小菅:うちは合成ゴムや合成樹脂などを扱う専門商社なのですが、商社というのは「お客様第一」という文化があり、ある意味商売の手法がすごく古くて、「親しくおつきあいしているから買う」とか「しょっちゅう来てくれるから買う」などが当たり前の世界だったんです。僕が現場で働いていた頃、日本は高度成長期で経済全体も右肩あがり。うちも売り上げが150億くらいありまして、事業拡大路線のなか毎日8〜9時くらいまで残業、休日は接待ゴルフで家にいるのはお正月とお盆くらい、といった生活でした。しかしそこに、「人生働くだけ? 本当に今の形が正しいのだろうか?」と、違和感を抱いたのです。

安藤:それで、何か行動を起こされたのですか?
                           
小菅:うちは同族会社で、当時社長だった父が退いたあとは我々兄弟が事業承継することが決まっていました。何年か後にくる事業承継について考えた時に、「今のままの働き方を続ける形が、会社にとって本当に正しいのだろうか」と素朴な疑問を抱き、会社全体の棚卸しを全部やってみようと思い、利益分析してみたのです。そしたら、半分以上採算があっていなかったんです。これまで売り上げ偏重で物を売ることばかりに注力し、中間でかかるコストの計算がうまくされていなかったことに気づきました。

うちは1924年に創業した歴史だけが長い会社で、これまでの仕事の蓄積と資産形成が後ろ盾としてあったわけですが、今のままの働き方では年間150億を売り上げるビジネスを支え続けることができないということが、実感としてわかったのです。そこで、社員に残業をさせて売り上げをのばし続けるよりも、まずは自分たちができる仕事のサイズを考え直し、これまでの社内の無駄をなくして長時間労働しなくても利益が出るしくみをつくる、つまり、これまでの「拡大路線」から「身の丈路線」にかじを切り直そうと思ったのです。45歳で社長を継ぐことになったとき、15年くらいかけてやれないかと思い、スタートしました。

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安藤:具体的にどのような改革を計ったのですか?

小菅:僕らが小学校の頃って、ひとクラスの人数は4~50人で、これが100人になると、先生の目が行き届かなくなりますよね。これと同じ発想で、僕らは兄弟で会社を経営しているのですが、自分たちでマネジメントできる従業員数50人くらいでできる仕事の量でめざす売り上げを逆算し、業務改善をはかろうと考えました。当時は従業員が70人くらいで、業種柄男性社員が多かったのですが、業務のシステム化を取り入れて女性の雇用を増やし、効率化を進めました。そして、定年退職や結婚退職などを受け入れながら、最終的には女性従業員が半数になることをめざして意識的に採用を行いました。現在従業員は41名、そのうち19名は女性で、女性管理職も5名います。また、改革前は、正社員以外にパートや契約社員などもいたのですが、雇用形態がばらばらだと総務の人事管理が大変ですよね。そこで、正社員のみの雇用にきりかえました。正社員だけのほうが労務管理の仕組みがシンプルでわかりやすく、人事担当者の業務時間も減らせます。正社員が増えれば雇用保険など会社の負担は増えることになりますが、社員にとってより幸せな方法を選びました。

安藤:なるほど。

小菅:それから、ISOです。中小企業はISOを取得するのに、普通はコンサルティング会社に支援をお願いし、派遣してもらって審査を受けるケースなどが多いのですが、それだと形だけになってしまう気がしまして。そこで、コンサルタント会社に依頼せず、ISO審査員の資格取得のための講習会に従業員に参加してもらって資格を取得し、社内の人間のみでISOシステムを構築して2005年にISO9001を取得しました。

現在、ISOの資格保持者は社内に22名います。資格取得のための講習をうけたり試験を受けたりするのには一時的にお金がかかるのですが、長い目でみると安いものだと思います。うちは大会社のお客さんが多いのですが、ISO9001の取得で会社自体を信頼してもらえるのでよかったと思います。このように、「まずは人から」と、少しずつ変えていきました。

安藤:「人から」というところがミソですよね。

小菅:そうですね。うちの会社は「社員が平等に幸せを実感できる会社」を理念に掲げていますが、「平等」って口で言うのは簡単だけど、実感するのはすごく難しくて、何をして「平等」というのかわからない部分もありますよね。そこで、うちはまず、「形」を平等にしました。僕も含めて、性別や年齢、職位に関係なく机もイスも、ロッカーも、サイズを全員いっしょにしました。

それから、出張に行く場合、大会社さんなどは等級によって出張旅費や日当のグレードが違ってくることが多いと思いますが、うちの場合は僕も含めて全社員一律にしました。全社員一律の金額にしたことで処理がシンプルになり、総務の仕事が減り、コストも削減できました。

安藤:なるほど、その方法なら「平等」が伝わりやすいですよね。でも、日当を一律にする時には周りに反対されたのでは?

小菅:そうですね。先輩社員たちにすごく反対されました。

安藤:どのように説得したのですか?

小菅:「平等、公平」を徹底することでそれぞれの社員が平等に幸せを実感できる会社をめざしているということを何度も説明して理解してもらったのと、一律の金額を、職位の上の方の金額に合わせることで納得してもらいました。

安藤:なるほど。それなら文句も出ないですよね。

小菅:そうですね。でも、そのかわり、たとえば複数で出張にいっても、皆出張旅費も日当も一律だから、おごるとかおごられるとかというのはなくして割り勘にしなさいと指導しました。加えて、「働き方」という視点からいうと、ひとつの仕事を必ず2、3人で担当するグループ制を導入しました。

本人が病気になったときはもちろん、子どもが熱を出したりして急に休まなくてはいけなくなった時などに、一人で担当を受け持っていると仕事が止まってしまいます。だから、常にバックアップ体勢をとっておくことが大事だと考えたのです。従業員のデスクもお互いの顔が見えるように並べ、アイコンタクトが容易にできるよう工夫しました。営業の仕事にしても、ひとりの営業マンがお客さんに密着して仕事してひとりで売り上げをもっていると、その営業マンが抱えているものが見えてこない。見えないと、それが権力になりますから。だから、うちでは営業も一人でいかせません。必ず二人以上で行かせるようにしています。

安藤:なるほど。でも、仕事ができる人って、どんなことでも一人でできちゃいますよね。

小菅:確かにそうですが、グループ制にすることでお互いの行動が見えるようになり、それぞれの行動に責任意識が高まります。ですので、キャリアや経験を考えて、どちらかが指導的な立場になるような形で行っています。

安藤:複数の営業マン体制にするのにも、時間がかかったのではないですか?
             
小菅:相当かかりましたね。お客さんとの付き合いが昔からあったから、「俺が行かなくてだれが行くんだ」などと先輩の営業マンからすごく𠮟られました。しかし、利益管理の見直しの必要性などについて時間をかけて説得し、納得してもらいました。数字のことについていえば、わが社は常に従業員に数字をオープンにする、公開制を徹底しています。毎年決算後に社員を集めて説明会を開き、現在の業績などについても全社員で共有しています。年度方針が全員に明確に示されるので、社員としての自覚が根づき、知恵や工夫が生まれると思います。

【年間労働時間1,800時間を宣言し、計画、実施】

安藤:本当に大改革でした。働き方って文化ですからね。文化を変えるのには時間がかかります。これらの改革で、労働時間や働き方は改善されてきたのでしょうか。

小菅:そうですね。特定の個人への仕事のかたよりがなくなり、周りの従業員に気がねなく提案や相談ができることでお互いに仕事の程度がわかりあえるようになり、ひとつひとつの仕事に計画性が備わり時間内に終わらせる習慣ができてきたと思います。目標として「年間労働時間1800時間」を宣言し、2008年にはそれを達成することができました。計画性をもって仕事ができるよう、毎年年度はじめに年間の勤休日数と労働時間が入ったカレンダーを従業員全員に渡しています。

安藤:素晴らしいです。御社の定時は何時から何時ですか?

小菅:9時から5時半です。

安藤:それなら男性でも保育園のお迎えに行けますね。

小菅:行けますよ。物流部門は早朝に作業が集中することから就業時間を1時間繰り上げ、8時から4時半を定時としているのですが、物流部門にいる男性社員は毎日4時半にあがって家事や育児に積極的に参加しています。

安藤:有給休暇の消化率はいかがですか?

小菅:いろんなところでその質問をよく受けるのですが、年間1800時間の労働時間って、本当に少ないんですよ。で、この上に有給をとってもらうとすると、1600時間になってしまう。そうすると、逆に仕事が維持できなくなってしまいます。年間1800時間という、短時間だけれど濃密な勤務時間の中で、社員それぞれが充実感をもって働いていますので、有給は制度としてはありますが、消化率はよくないですよ。

安藤:ふだんから余裕があるので、有給をとる必要がなくなってくるのでしょうね。充実した仕事を短時間で能率よくできると、私生活も充実してくるんですよね。例えば僕も、「今日は保育園のお迎えに行く」と決めている日は、必然的に仕事に集中して充実した時間を過ごせます。そうすると、家に帰ってからもいろいろな段取りがうまくついて、楽しいというか楽になりますよね。僕は、ワークとライフは〝バランス〟というよりも、〝シナジー〟、相乗効果があると思っています。

小菅:そうですね。

安藤:ところで会長ご自身は、子育てには参加されてきたのですか?
                  
小菅:今の働き方に変え始めたのが40歳を超えてからで、当時子どもは高校生、中学生でしたから。気づくのが遅かったですね(笑)。

安藤:でも、これまでと比べて働き方がガラッと変わられて、ご家族の反応はいかがでしたか?

小菅:まあ、びっくりしていましたよ。

安藤:お子さんたちの反応は?

小菅:どうだったかな。特に聞いていないけど、今度うちで聞いてみますよ。ただ、僕は昭和20年代生まれで、同じ年代の人とよく話をするんだけど、僕たちの父親世代というのは戦前の教育をうけていて、なおかつ長寿でしょう。その人たちが日本の経済の発展の中で引き続き強い権限をもっていたので、旧態依然とした働き方をし続けてきてしまったと思うんです。だからこれからは、僕たちの父親世代がしてきたような働き方を変えていかないとだめだと思うんですよね。

安藤:いつまでたっても昔のやり方が踏襲されている企業もまだ多いのかと。特に同族会社は、これまでのやり方をそのまま継承するところが多いものですが、本当に思い切った改革でしたね。御社のようにガラッと働き方を転換した会社は、僕は他に知らないです。

小菅:「拡大路線」から「身の丈路線」に改革を進めていくと、当然売り上げは下がってくるわけです。僕からすると、戦略あっての売り上げダウンなのですが、おつきあいのある業界の方々などは「なぜ小菅さんは売り上げが下がっているのか」と疑問に思うらしく、「小菅さんはお客さんを失ったんじゃないか」「会社の中でゴタゴタがあるんじゃないか」など、当時はいろいろご心配を頂いたり、勘違いされたりしたらしいです。でも、そうこうしているうちにバブルがはじけて、結局気づいてみたら、偶然うちのやり方が正しかったって取り組み方は間違っていなかったと実感しました。

現在の売り上げは、年間80億のペースです。これが今、会社としても非常に心地よい状態だと思っています。個人的には本当に楽ですよ。お金の借り入れもないし、仕事の拡大にこだわってはいないから。ある一定のペースで成長していければいいんです。

安藤:本当の意味での「身の丈路線」ですよね。

小菅:そうですね。この心地よい状態を保ちたいと思っていて、でも、仕事をすると当然新しい仕事が増えていきますよね。そこでどうしているのかというと、うちは自然とうちなりの尺度でお客さんを選択します。一例ですが、収益性のよいお客さんが増えたらそちらにシフトしていくのです。

安藤:まさに「選択と集中」ですね。

小菅:そうですね。ただ、すごく面白いのは、日本って、消費者は必ずさまざまなサービスを平等に受けられると思っているんです。そしてなおかつ、「お客様は神様」だとか、顧客第一主義の考え方が根付いていますよね。本当はサービスを施す側にも選択権があるんだけど、そのことに気づかないで仕事をしている人がすごく多いと思うんです。

安藤:おっしゃるとおりです。この間も九州の中小企業の社長と話したんですけど、彼は「顧客満足より従業員満足」とはっきり掲げています。

小菅:絶対それがいいですよね。

安藤:残業しないといけないような取引先はなるべく相手にしないとかですよ。すべて相手にしちゃうと社員が大変だから。

小菅:そうそう。だから、なるべくたくさんの人たちに、そこに気づいて欲しいです。消費者も多くを求めず、「自分のいるポジション以上のものは与えられないのだ」と理解することも大切ですよね。どちらかというと日本って、サービス過剰な部分がありますからね。

【夜7時のニュースを見ながら家族と晩ご飯を食べてほしい】

安藤:そういうことを、日頃から従業員の方と話すのですか?

小菅:もちろん話しますよ。僕は常々、従業員には「夜7時のニュースを見ながら家族と晩ご飯を食べてほしい」と話しています。能率良く仕事を終わらせて7時には家に帰り、家族で晩ごはんをいっしょにたべる。家族が安心して暮らし、充実した家庭生活をおくることが、それが企業にとっても生産性向上に結びつくと考えています。

安藤:そうですよね。僕たちも今、お父さんを応援する活動をしているのですが、まず最初の第一歩として「家族で夕飯をいっしょに食べよう」と話しています。

小菅:絶対ですよね。

安藤:ワークライフバランスって、頭で考えてもしょうがないんです。子どもとずっといっしょに過ごせるのも期間限定。仕事第一主義で働いてばかりいないで、父親でいられるときにしっかりいて、たとえ気のきいたことを言えなくても家族に父親の存在を感じてもらうことが大事だと思うんです。

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小菅:本当にそうですね。

安藤:僕自身も働き方をがらっと変えて、子どもの保育園のお迎えに行くようになったのですが、家への帰り道の途中で子どもと寄り道したりするのが楽しくて。たくさんの日本の男性にこの喜びを知ってほしいと思っていろいろ活動しています。ところで、会長は、イクボス10カ条は、いうまでもなくすべてクリアですね。

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小菅:そうですね。結局、管理職なんですよね。自分の利益のために人を動かすのでなく、収益を確保しながら従業員に気持ちよく働いてもらえる方法を考えるのが、経営者の仕事だと思うんです。

安藤:そうですよね。管理職って、ややもすると「管理すること」そのものが目的になってしまうことがあります。

小菅:そうですよね。

安藤:これまでにたくさん会社を見てきているので、パッと会社に入った瞬間にその会社の雰囲気がわかるのですが、今日訪問して感じたのは、従業員の皆さんひとりひとりのお顔から、モチベーション高く仕事をクリエイティブに行っているのが伝わってきます。

小菅:ありがとうございます。

安藤:だらだらしていないんです、ムードが。細かいことでも皆さん、目的をもって動いている感じです。たぶん会議は少ないですよね?それから「報・連・相」とかも。

小菅:会議はあまりしていないですね。グループ制でデスクにすわっているので、簡単な打合せはデスクにすわったままできちゃうんですよ。「報・連・相」の徹底なども特にしていないです。マネジメントって、部下に何かを報告させるとか、そういうことじゃないですよね。部下の顔色をみておかしかったら「どうしたの?」ってこちらから聞く、これがマネジメントだと思います。

安藤:そうですよね。子育てといっしょなんですよね。でも、凡庸な管理職は「部下に報・連・相をきちんとさせるのが自分の仕事だ」思ってしまうんです。

小菅:なるほど。でもそれは違いますよね。うちの場合はワンフロアが見渡せます。基本そのフロアに全員いて、会議もないし、離籍もあまりないわけです。そうすると、僕がそのフロアを見渡した時、女性がひとりいないとなると、「どうしたの?」って。そしてその状況の中で、お互いをみながら仕事をしていく。毎日がその積み重ねなんです。

【日々の業務以外にも考え方や人生観を育てる場を提供】

安藤:今後のビジョンや方向性について聞かせてください。

小菅:企業は地域社会の一員として活動することも重要だと考えていますので、何人かの従業員に区が行うガバナンスリーダーの研修を受けてもらったりしながら、地域活動と連携して余暇の時間を使ってもらえればと思っています。また、現在、東日本大震災で両親またはどちらかの親を亡くした子どもたちの、高校卒業後の進学を支援するための基金「みちのく未来基金」の支援活動をしています。毎年3月に、支援を受けた子達を送り出す会を開いているのですが、両親の話とか自分の夢の話とか、若い人たちのそういう話を聞いていると、涙が出てきますね。これからもずっと応援してやれたらいいと思っています。

震災のあと、うちはボランティアツアーに毎年3、4人出しています。僕自身は現在他の支援活動も含めて度々東北を訪問しています。やはり、あの震災のあとの現場を見ると見ないのとでは大違いだと思うんです。若い人が、特に東京の場合だったら数100kmしか離れていないところにあの現場があって、知ることが大切だと思います。日々の業務以外にも一人ひとりの考え方や人生観を育てる場を提供していきたいですね。

安藤:ソーシャルな活動するトップに対しては、社員も誇りに思うでしょう。

小菅:それから、僕自身は、水墨画を描いたりゴルフをしたり建築を見に行ったりいろいろ趣味があるのですが、東京って世界の4大都市といわれているだけあって、ミュージカル、コンサート、写真展、美術、本当にいいものが来ますよね。でも、東京に住みながらそれらにふれる機会を見逃しているような気がするんです。うちの従業員には積極的にふれてほしいなあと思い、会社で費用を出して劇団四季のミュージカルを見に行くなどの活動もしています。見たからどうってわけではないのですが、生をみるのはやはり違ますよね。

安藤:本物をみるって大事ですよね。

小菅:そうですね。上野にいい美術展がきたら、チケットを買って渡してあげたり、良いと思った本は従業員に渡して回して読んでもらったり、日ごろから「芥川賞、直木賞、江戸川乱歩賞の受賞作品は読んでおこう」と声をかけたりもしています。新しい施設ができたら、いいとか悪いとはさておき、まずは自分がその場に立ってみることが大切だと思っています。このように、仕事以外でも、教養を身につけて視野を広げ、楽しんだり感動したりする時間を共有していきたいと思っています。

安藤:素晴らしいです。ワークとライフとソーシャルを楽しみ充実した人生を送っている小菅さんのようなイクボスが増えれば企業は変わると思います。またいろいろ教えてください。今日はありがとうございました!

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ラベル:イクボス
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2014年12月05日

第14回 藤河次宏さん(拓新産業株式会社 代表取締役)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第14回は、拓新産業株式会社 代表取締役の藤河次宏さんが登場。
ファザーリングジャパン九州の代表から「福岡にすごいイクボスがいる!」と聞き、ワーク・ライフ・バランスの実践企業として有名な同社を訪ねた。1977年に建設用機材のレンタル会社を設立し、20年以上前から週休2日、有休100%消化、ノー残業を実践してきた藤河さんに、これまでの道のりや想いなどを伺った。

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<藤河次宏さんプロフィール>
福岡市出身。福岡の大学を卒業後、地元の建材商社に勤め、1977年に30歳で拓新産業株式会社を設立。妻、横浜で働く子どもがいる。ライフワークは山登り。

【公私の区別がない会社で働き、30歳で起業】
安藤:拓新産業さんは1977年創業で、現在80名ほどの従業員がいらっしゃいますね。創業前、藤河さんは何をされていたのでしょうか?

藤河:大学を卒業して、地元の建材商社に8年ほど勤め、30歳で脱サラして起業しました。

安藤:ご結婚やお子さんは?

藤河:30代前半で結婚しました。子どもは1人、今は横浜で働いています。

安藤:起業後に結婚されたのですね。会社勤めの頃は、どんな働き方を?

藤河:昔ですし、それも地元の建材商社なので、有休なんて言葉も知らないくらいで。ほとんど休みがなく、休日も上司の私的な用事で呼ばれるなど、公私の全くない会社でした。

安藤:ハードな働き方でも、こんなもんだろうと思われて。

藤河:当時は当たり前でしたね。

安藤:その反動で、ワーク・ライフ・バランスを重視する会社に?

藤河:それがひとつ。あとは、私は高校時代から登山部で、今でも山に登っています。登山をするには休みが必要ですし、自然には一番いい時期があるから、いつでも休めるようにしておきたい。自分が休みたいなら、そういう組織にしないと。

安藤:ご自分が休みたいからですか(笑)。

藤河:ええ(笑)。

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【優秀な人材採用に向けて、職場環境を改善】
安藤:創業時から「休める会社」を意識していたのですか?

藤河:基本的にはそう思っていましたが、創業時はもちろんそんな余裕がありません。直接のきっかけとなったのは、当社が25年ほど前に中途から新卒採用に切り替え、初めて合同説明会に参加したとき、私のテーブルには学生が誰も来なかったことです。屈辱を味わい、どうしたら若い学生が当社を選んでくれるかなと考え、まずは就業規則を改正して、きちんと守るところから始めることにしました。つまり職場環境の改善ですね。

安藤:なるほど。

藤河:まず唱えたのは、完全週休2日制、有給休暇の完全消化。それを3、4年かけて実践したので、20年以上前にはそうなっていたわけですね。

安藤:それ以前は?

藤河:脱サラだったので、知識も乏しくて。それが、合同説明会に参加したことで、50社くらいと当社と比較することになり、違いをはっきり自覚させられたわけです。学生から見向きもされない状況で、どうしたらいいかと考え、まず働きやすい職場環境を整えようと思ったのです。当時、大学などを訪問すると、辛いこともいろいろ言われましたよ。

安藤:例えば?

藤河:当社の住所は昔「大字」がついていた。今は町名変更でなくなりましたが。「大字がつくような田舎には、誰も来ませんよ」とかね。当時の大学は就職課から大手志向で、中小企業は相手にされませんでした。でも、職場環境を改善したら、驚くほどの学生がこんなところまで来てくれるようになったんですよ。

安藤:現在、会社説明会には200人以上来るそうですね。

藤河:ピークだった15年ほど前は、400人くらい。地元テレビ局のカメラが当社に1週間ほど入り、採用活動の様子をニュースで放映するほど、学生がたくさん来ました。

安藤:若者のニーズにマッチしたのでしょう。

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【ゆとりある社員数とジョブローテーションがカギ】
安藤:20年前に働き方を変えようとしたとき、社員の意見を聞きましたか?

藤河:いえいえ、聞いていません。休みが増えることに反発する人はいませんから。ただ、営業から「顧客満足はどうするんだ」とか、幹部から「若い人たちが有休を取ると、しわ寄せは我々に来るんじゃないか」とか、そういう話は出てきましたよ。

安藤:それにはどう答えられたのですか?

藤河:時間をかけて話し合いながら、方法を考えていきました。最初はなかなか進まなかったので、僕が「じゃあ、これまで通りのほうがいいのか?」と聞くと、みんな「休みが増えたほうがいい」と言う。それなら、たられば言わず、実現するためにどうしたらいいか、ひとつひとつ課題を出して、それをつぶしていきました。

顧客満足の部分は、最大にはできないけれど、最低でも何とか売上がつくようにバランスを取ろうと決めました。土曜は交替で数人出勤するようにスケジュールを組み、出たらその週の水曜は必ず休むことで完全週休2日制を維持するという解決策を話し合いました。

安藤:工夫ですね。話し合いには社長が入っていたのですか?

藤河:中小企業ですから、僕が関わらないとできない。そうする中で、2、3人しかできない業務があれば、数年かけてその業務ができる人を増やし、休むときに替われるようにした。業務を異動させ、複数の業務ができるようにしているので、育児休業や介護休業も問題がなく、休みが取れる社内の体制ができました。

安藤:ゆとりのある社員数もポイントですね。

藤河:それが基本です。特に育児休業は同時期に3人休むこともあるため、多少ゆとりを持たせています。それと、10数年前からノー残業にしているので、多少の不都合が起きても、若干残業をすればこなせるわけです。

安藤:なるほど。

藤河:この前、ある資料を作るために社員の労働時間などを出してみたら、時間外は平均して年間2時間ほどでした。

安藤:地方の中小企業では、残業しないと生活が成り立たないという人もいますが。

藤河:それは、残業があるという前提で給与体系を作っているから、改革するのが難しいわけです。初めから残業がなく、収入が決まっていれば、その中で生活できるのです。

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安藤:拓新産業さんは、基本給が高いのですか?

藤河:世間のモデル賃金をチェックして、世間と大きく変わらないようにしています。多くはないけど、少なくもないと思います。当社では数年おきに「社長質問会」というのがあり、社員が無記名で何でも書いていいようにしています。そこで昇給率や給与関係などについて出てきますよ。ただ、最近は昇給しない会社も多い中で、少ないながらもうちは毎年昇給しています。給与関係で絶対満足はないから、ある程度は我慢してもらわないといけない。そのかわり、夏冬の賞与以外に決算賞与もここ10年出しています。今年は最高益ですから、従来の倍くらいの決算賞与が出ます。

安藤:すごいな。業務を効率化して生産性を上げているから、出るわけですね。

藤河:そうです。社員数にゆとりがあるということは、確かに人件費は増えますが、それだけやることによって社員の労働の質が上がり、不満だらけの会社に比べて、生産性が上がる。だから当然それなりの利益が出ます。

【コスト削減を継続するコツは担当制】
藤河:社員は、会社がお願いするコスト削減に対しても、積極的に協力してくれます。諸々のコストを抑えれば、売上がのびなくても、ある程度、利益は確保できます。

安藤:なるほど。

藤河:私の交際費も含めて、全て女性社員が管理しています。3か月おきぐらいにチェックが入り、「社長そろそろ抑えてください」と言われるほど徹底してますから。

安藤:社長自ら作った仕組みですか?

藤河:はい、幹部にさせたら遠慮するのですが、そういう面では女子社員のほうがクールで、僕にでもパッと言ってきます。営業にも女性の補佐がいて、営業は自分勝手に仕入れ先に注文できない。補佐の女性にお伺いを立てて了解をもらわないと、発注できない。それぞれの経費に担当がいて、コストをいかに抑えるかという点はきちっとやっています。

家計と一緒で、収入が上がらないなら、締めるところは締めないといけない。それを継続させるためには、みんなでやろうではダメで、担当を決めておけば、きちんとしてくれます。ゴミの分別から窓の開け閉め、火の始末まで、担当がいます。月に1回、朝礼のときに現状を報告してもらい、繰り返し啓発します。「今はこうですから努力しましょうね」と若い人たちから言ってくれれば、問題ない。上がワーッとうるさく言えば、反発するかもしれないけど。だから、全部担当を決めてやっています。

安藤:その任せるというのは、社長の人材育成に関する考え方なのでしょうか?

藤河:任せないとできないでしょ。そんな細かいところまで社長はできませんし。私は企業の経営者として、全体を見て方向性を決めるのが役割で、それ以外は他の人たちが見るという役割分担をしているのです。

安藤:意識づけですね。

藤河:コスト削減は、やり続けるしかない。なかなか続かないものだけど、やり続けるような仕組みさえ作っておけばいいわけです。そして、もうひとつは、その結果を何らかの形で社員にフィードバックする。今年みんながこれだけ努力してくれたおかげで、これだけ削減できたとか利益が出たとか、報告することが大事ですよ。

安藤:おっしゃる通りですね。

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<西日本新聞 2006年11月14日>

【有休の完全消化を社長自ら促し続けた】
藤河:当社では、社内報を活用しています。有休の改正などについても、周知することが大切。そうすることで、会社への信頼が高まります。有休については、何日残っているかわかる一覧表があります。

安藤:有休ほぼ100%消化というのはすごいですね。

藤河:最初の頃は社員も疑心暗鬼で、ひょっとしたら昇給に影響するんじゃないかと思っていたかもしれません。だから初めの3年くらいは、3か月おきに有給消化率を出して、消化の悪い人は名前を読み上げて、消化してくださいと声をかけ続けました。3年後には総務から「社長、もう結構です。浸透してますから」と言われましたが、今でも総務は4か月毎に消化率を出し、掲示板に貼っています。

安藤:見える化することは大事ですね。子育て支援にも力を入れているそうですね。特徴的な制度はありますか?

藤河:特にはないのです、労基法を全て守ってるから、何の問題もない。育休も100%取得で、一番多い人は4回取りました。

安藤:半日有休があって、勤務時間は15分単位だそうですね。

藤河:子育て中の女性は午前中だけとか午後だけとか、取りやすいと思います。

安藤:お子さんの急な病気のときはどうですか?

藤河:たまたま斜め前が保育所なので、電話がかかればすぐに行ってます。

安藤:行くことに、他の社員から不満は?

藤河:言いませんよ、それは社員に周知していますから。当社の経営計画書にもワーク・ライフ・バランスや育児休業のことなどを書いて、みんなに渡しています。そこは徹底していますね。

安藤:男性の育休は?

藤河:まだいませんね。個別に呼んで、「とりあえず1週間でも10日でも取ってみたら」と話すのですが、給与が減るのでなかなか取れないようで。それに、当社の場合はいつでも有休が取れて、土日休みで残業もないので、取らなくてもいい環境なのかもしれません。

安藤:新卒採用だと、まだ社員の平均年齢が低いと思いますが、今後は介護のことも出てきますね。

藤河:そうですね。ただ、まだ相談もありません。育児休業のときは、制度ができる前から、相談があれば短時間勤務などをやっていました。中小企業ですから、介護についても細かい規定を作るより、相談があればできるだけ対応してあげたいと思っています。

【理念が浸透すれば、社員は自分で判断できる】
藤河:当社では、顧客満足は捨てています。

安藤:それは、すごい(笑)。顧客満足より、社員満足ということですね。
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藤河:顧客満足を考えていたら、やっていけない。捨てたというと語弊があるかもしれませんが、さっき話したように、最低のところで我慢してもらおうと。それは営業戦略にも反映しています。当社の営業戦略の基本は小口分散。小口分散で、1件1件付き合いはそんなに大きくない。そうすれば、断られても、また新しいところを取ってくればいい。うるさく言うような大企業などとは、最初から付き合わなくていいと話しています。また、当社は安全第一ですから、過積みを強要するようなお客様とも取引しません。1社で2割も3割もお付き合いするから、がんじがらめで言われる通りになるわけです。

安藤:子会社や下請けのようになり、従順にやってると、長時間労働になったりするわけですから。

藤河:ただ、営業は窓口ですから、お客様に対しては苦しいでしょう。競争社会の中で、「よそはいくらでも受け入れてくれるのに、拓新は…」と言われるかもしれません。でも、「それは当社の方針で、あなたたちが休めるのも、そういう会社の方針のためだから」と話しています。

安藤:営業マンをなぐさめたりするんですか?

藤河:いえいえ、愚痴を聞くようなことはしない。でも、具体的な課題になってくれば、調整会で話して考えます。たまにセンターを閉めたあと、お客様から会社や営業に電話がかかってきて、時間外なのに開けるように言われます。でも絶対に開けず、あとで営業と調整会を開きます。営業は「そこまでしなくてもいいじゃないか」と言うが、私からしたら「事前に少し遅れると電話があれば考えるけど、連絡もなしに来られたって、当社の考え方はこうですよ」と話します。つまり、経営理念は末端まで貫くものさしなんです。末端まで浸透していないと、社員はどう判断したらいいかわからない。会社の考え方が浸透することで、社員それぞれが判断できるわけです。

もうひとつ、有休が100%取れているということは、勤続年数が長い人や幹部ほど休んでいます。ということは、幹部や上司がいない状況で判断する場面が増えるので、自分である程度は判断できなければ、会社は成り立たない。

安藤:なるほど。

藤河:そういう意味で、当社の歴史の中で、社員はある程度は上司がいなくても仕事ができるという、労働の質は確保できているわけです。

【徹底した1点主義で、一流の中小企業を目指す】
安藤:社長も結構休むんですか?

藤河:私は休日に出たことがない。会社の鍵も持っていませんし、最初に帰ります。

安藤:それなら社員も帰りやすいですね。

藤河:それに、私はお客様とお付き合いがないから、もう20年くらいお客様のところにも行ったことがないし、電話がかかることもない。

安藤:お年始回りもない?タオルやカレンダーを配るとか。

藤河:しません。会社で年賀状も出しません。

安藤:それで、過去最高益を出すというのがすごいですね。

藤河:それだけコストを抑えられているんです。残業や休日出勤がないから、割増賃金が発生しない。

安藤:それで学生もたくさん来るから、採用コストもかからない。

藤河:はい、会社のホームページに説明会の日程を入れておけば、ある程度は来てくれますから。

安藤:一貫してますねー。

藤河:ただし、社員のためだけにやっているわけではないんですよ。当然、会社をよくして、利益を出して、山も行きたい。だから、そのためにはきちんとしようということで、別にきれいごとでやってるわけじゃない。それで実際にやってきたら、創業から38年、1度も赤字にならなかった。むしろどんどん利益が出てきているわけです。

安藤:社員が辞めないでしょうね。

藤河:そうなんですよ。当社の場合、成長をある程度抑えている。成長を優先すると、どうしても社員満足が落ちますから。成長を抑えるということは、売上はそんなに伸びないわけです。特に建設関連ですから、ここ20年くらいずーっと売上は下がっているわけです。今年は最高益でしたが、ピーク時に比べて売上は2割近く下がっています。それでもずっと利益が出ている。とすると、こういう経営をしているから、社員の質が上がっていると信じるしかない。証明はできないけれど、数字が出ているということは、いいのだと思っています。

安藤:成長を抑えようという考えに至ったいきさつは?

藤河:当社はバブルの終わりごろに創業して、それなりに伸びて、バブルがはじけると売上が下降してきた。それがひとつの契機です。これでは成長路線を掲げても、もう無理だなと。いつまでも対前年比何パーセントという考え方を捨て、売上が下がる中でどう経営するのかと考え、20年くらい前に成長路線は捨てました。

安藤:テリトリーを広げるという考えはありませんか?

藤河:広げると売上は伸びるけど、管理費がかかる。そのへんのバランスを考え、1点集中主義にしています。福岡市内だけで、商品構成も絞れば、大きな企業と対等に戦えるし、大企業に頼らなくてもやっていける。人の管理も楽で、コストを抑えられる。だから徹底した1点主義で、成長ではなく、一流の中小企業を目指してきました。

【トップ自ら実践して周知することが重要】
安藤:ちなみに、家庭ではどんな育児をされていましたか?

藤河:女房も山が好きなので、子どもが生後6か月後くらいから担いで山へ行きました。山とカブトムシ取りにはよく行きましたね。

安藤:今も夫婦で山登りをされるんですか?

藤河:はい、温泉をからめて女房と行くこともありますし、ひとりで行くことも。

安藤:ライフも充実してますねー。

藤河:そうですね。そんな仕組みづくりをして、実務から10年ほど離れているので、明日山に行きたいなと思えば、すぐ休めます(笑)。

安藤:なるほど(笑)。最後に、全国のボスへメッセージをお願いします。

藤河:社員は社長を見てますから、トップが自ら実践しなければ変わりません。特に中小企業は、トップが実践してきちんと周知するという考えを持たないと、いくら人事担当や社員だけにやらせても無理ですよ。私は自分で就業規則の本を買い、ワープロで就業規則を書き換え、社員にアピールするところはカラーにして、目次もつけて、労働基準監督署に持って行きました。そこから始まったんです。

安藤:やはり社長自らというのが大切ですね。

藤河:はい、社長か、社長のような権限を持った人が関わらないと、なかなか社員はついてきません。本気度を示さないと、絶対に動きませんよ。

安藤:何事もですね。

藤河:100%できなくても、有休消化率20%を30%にするとか、せめて前に進むような行動を示してほしいと思います。前提として、それなりの人員体制が必要です。口だけでなく、具体的な工程表やアクションプランを作り、本気で取り組みましょう。

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安藤:今日は貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン代表)
(筆:佐々木恵美)
ラベル:イクボス
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2014年11月25日

第13回 米澤賢治さん(グーグル株式会社 人事部長)

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イクボス・ロールモデルインタビュー第13回は、グーグル株式会社 人事部長の米澤賢治さんが登場。入社2年目の時に家族の看護休暇を導入したり、実践的なマネージャー研修を行い、社内のイクボス養成に努めていらっしゃいます。(FJイクボスプロジェクト

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<米澤賢治さんプロフィール>
44歳。アクセンチュア株式会社で経営コンサルティング、組織・人事関連コンサルティングに従事。その後、GE Money 人事クライアントマネージャー、日本GE プロジェクトリーダー、HSBC 人事ビジネスパートナーを経て、2011年グーグル株式会社人事部長に就任。現在に至る。3歳男の子のパパ。

【日々夕食を一緒にとっていた、父の姿がお手本】
安藤:グーグルに勤める前は、どんな働き方だったんですか?

米澤:まだ若かった頃は100%仕事中心の生活でした。でも、子どもが生まれたら仕事とプライベートのバランスをとりたいと、ずっと思っていました。

安藤:それはなぜですか?

米澤:子どもの頃、父親が夜7時半には家にいて、夕食は家族みんな(父母、兄、私、妹)で食べるのが当たり前の生活をしていました。そのころ父親は滋賀から大阪の会社へ通勤していましたから、朝5時半に起きて6時に家を出る生活。早く帰るために、朝早く行っていたんでしょうね。そういう父の働き方を見ていたからだと思います。

安藤:親の姿を見て子どもも同じようにするんですよね。米澤さんも早く家に帰って家族で食事しているんですね?ママの不満の多くは、子育てよりも、夫への不満ですから。

米澤:はい、出来るだけそうしています。妻にはまだタイムマネジメントに関して満足してもらえるレベルには至っていないようですが(笑)。

33歳で妻と結婚し、7年間は二人でよく旅行しました(笑)。子どもがいると夫婦で遊べないとか、好きなことができないとか聞きますが、今は子どもに時間を割くのは当たり前だと思っています。子どもができる前に遊びきったからですかね。結婚した直後でも、相変わらず平日は仕事中心の生活でしたが、徐々に平日でも仕事とプライベートのバランスがとれるようになってきました。

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【会社の考え方の基本が、家族重視】
安藤:年収を伸ばそうとすると、どうしてもハードワークになりますね。グーグルに転職されてからはいかがですか。

米澤:グーグルは働き方として決してラクというわけではありませんが、会社の考え方の基本が、家族重視なんです。たとえば子どもが熱を出したら、ママでもパパでも「早く帰れ!」が当たり前です。もちろん結果は求められますが。家に帰って、子どもが眠ってからPCを立ち上げたり……ということもあります。自分自身でタイムマネジメントできるのはいいですね。

安藤:最初から人事のポジションだったんですか?

米澤:いえ、最初のキャリアは、他社から請け負って人事部に対するコンサルティングをしていたので、結果が出るところまで見届けられないジレンマがありました。今は人事部におり、自分が仕掛けた仕事の結果が見えますから、そういう意味では非常に満足しています。

人事部で働き始めてからは特に「人として何を重視すべきか」を軸として考えながら仕事をしています。基本的には人事部のメンバーともそのように話して行動しています。たとえばご存知の通り、「子の看護休暇」は法律で定められていますが、奥様が入院された社員がいたんですが、当時は家族が病気になった際の看護休暇がなかった。「子どもだけじゃなく、家族が病気になったときにも使える看護休暇があるべきじゃないか。」ということで、その数カ月後には、家族の看護休暇を取り入れました。休暇制度を取り入れても、社員のパフォーマンスは下がらないんですよ。

安藤:そうなんですよね。WLBの制度と風土が整ってむしろ普通は「会社に報いよう」と、パフォーマンスが上がりますよね。社員が仕事と生活を両立しやすいようにボスが環境を整えれば社員は安心して働ける。それで会社に恩返ししようとがんばるっていうところが大事なんです。グーグルは家族の看護休暇をすぐに取り入れ、スピード感を持って改革できるのはいいですね。ダイバーシティビジネスパートナーの山地由里さんは、米澤さんの部署のメンバーですか?

山地:私はダイバーシティの社内コンサルタント的な役割をしています。上司部下という関係性ではありませんが、頼れる存在です。

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【個々に関わらず、この人と働きたいという人を採用】
米澤:グーグルでの子育てのしやすさというのは、採用の部分に関係があると思います。インタビュアー全員が「この人と働きたい」と言わないとご入社頂けないんですよ。そういう意味では、採用の基準はある意味高いと言えると思います。ただ、ご入社頂いた後には、その高い採用基準を超えて入社された訳ですからマネージャーも信頼を置けます。本人は力むことなく、自分にとっての顧客にフォーカスすればいいということになります。

安藤:採用された人は、採用時点で既に会社からあるいはマネージャーから信頼されているということですね。

米澤:信頼されているから、その人らしさを出して働けるということです。

山地:結婚している、子どもがいるということは関係ありません。独身であるからといって、働き方や時間に制限がないとも限りません。つまり誰もが様々な背景がありながら仕事をしているという考え方です。グーグルの場合は、「このポジションが長い間あいているから、ポジションがなくなる前に少し妥協をして誰か採用しなくちゃ」という考え方もないんですよ。

米澤:長いことあいたままのポジションもありますよ。あいているポジションは、本社からローテーションで入ったり、派遣社員さんが入ったり、時にはその部署のメンバーがその方の分までカバーせざるを得ない状況になると言うこともありますが。

2回目の応募は締め切りましたが、Google gCareer Programというプログラムがあります。職場やキャリアから6カ月以上離れていて、就労経験(5年以上)があるプロフェッショナルを対象とした性別・年齢・国政を問わないインターンシップ プログラムです。
https://www.google.co.jp/about/careers/lifeatgoogle/gcareer.html

日本の場合は、出産後仕事に戻れない女性も多くいますから、ぜひ、キャリアを再スタートする一歩目にしていただけたらと考えています。もちろん、グーグルで働いてみて、やっぱりご家族との時間を大切にしたいので今は家族を重視したいとか、仕事はしたいけどグーグルじゃないという方もいます。

山地:子育てと両立できないから辞める、仕事を続けることで自分や誰かにしわ寄せが行くということなく、誰でもがキャリアを続けられる、あるいはやむを得ず辞めることになっても、自分自身の機が熟したときには、キャリアを再スタートすることが簡単にできる社会になるといいと思います。

安藤:キャリアのリスタート。企業がいろいろな働き方の受け皿を作り、応援できるといいですね。

山地:企業のサポートもそうですが、働く側の意識改革も必要です。特に子育てに関しては、「家族サービス」「子育てを手伝う」なんて言葉を聞きますが、どちらかが「手伝う」のではなく、それは二人の仕事でしょうと言いたいです。男性にも当事者意識が必要ですし、女性も自分一人で抱えないという意識が大事だと思います。

安藤:イクメンも量から質へと転換していかなくてはいけません。でも女性自身が、パートナーに、なぜ働きたいかを伝えられない人も多いですね。

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山地:子育てなどが一段落ついてから働こうとすると、5~10年キャリアから離れてしまう人もいます。でも、そうすると本来能力の高い人であっても仕事に対するスピード感や能力が色あせてしまう場合もある。それはその人にとっても、日本にとっても大きな損失だと思います。

安藤:子育てとキャリアの狭間で揺れるママは多いですね。でも今後は育児する男性が増えるのでパパも同じこと。子どもが10歳くらいになると、親は遊んでもらえなくなりますから、それまでちゃんとコミットしておくことが大切ですね。

米澤:妻は15歳のとき、アメリカ留学したんですよ。だから夫婦の認識として、もしかしたら15歳までしか子どもと一緒にいられないかもと思ってます。子どもはもうすぐ4歳なので、あと11年をどう楽しむかというのが家族の大事なテーマ。グーグルに転職したおかげで、子どもが初めて立った瞬間を見ることができました。

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安藤:ハイ、子育ては期間限定ですからね。肌を寄せ合うスキンシップの時期は本当に短い。夕飯を一緒にとる父親としての存在感はとても大事だと思う。子どもの頃からの関わりは、思春期へとつながっている。それに夫婦のパートナーシップにも大きな影響がありますね。

米澤:子どもが15歳になったときに、例えば「お父さん、僕、アメリカに行きたいんだけど」と言われたら、どういった言葉をかけてあげられるかなと今から想像したりしています。

安藤:わが家の場合は、子どもが「○○が欲しい」と言うと、3日間考えさせて、それでも欲しい場合は、プレゼンさせています。子育ての本当のゴールは、子どもを社会に出すこと。子どもの自立を応援できる「家庭内イクボス」を目指していきたいなと。

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<イラスト:東京新聞>

【グーグル的マネージャーの8つの行動指針】
安藤:イクボス10カ条はいかがですか?

米澤:いい内容だと思います。2012年からマネージャーのマインドセットをどう変えるかをテーマに動いています。グーグルカルチャーをを組織に浸透させる際には、マネージャーの意識改革はとても重要です。特に日本企業から来た人は、グーグルのマネージャーとしての考え方がわからない場合も多いので、ケーススタディのディスカッション形式にして、「理解→咀嚼→行動→リード」というトレーニング方法を取っています。起こりそうなトピックを選択し、マネージャーとしてどう振る舞うべきかというトレーニングを、1年~1年半かけてやってきました。

安藤:FJのイクボスPJで伝えているところと同じですね。妊娠した女性スタッフに向かって「まいったな~」と、つい言ってしまう上司がまだまだいますから。

米澤:マネージャーとして、概念や知識は入っているんです。ただケーススタディ等で間接的にでも経験していないと、その場面での適切な対応が難しい。社内の従業員満足度を測っていますが、目に見えるようにスコアがあがってきています。マネージャーへの研修は浸透してきていると言えるでしょう。

また、マネージャーとしての8つの属性が、以下のように定義されています。

1、優れたコーチである
2、チームを力づけ、こと細かく管理しない
3、チーム・メンバーの仕事上の成功と私的な幸福に関心を示し、心を配る
4、建設的で、結果を重視する
5、コミュニケーション能力が高く、人から情報を得るし、また情報を人に伝える
6、キャリア開発を支援する
7、チームのために明確なビジョンと戦略を持つ
8、チームに的確な助言をするために、主要な専門的スキルを持ち合わせている


安藤:グーグルではダイバーシティをどのように考えていますか?

米澤:トップマネジメントは”ダイバーシティこそ未来です。”というメッセージを従業員に送っています。ダイバーシティがあるから、イノベーションが生まれるといった発想です。最も分かりやすく言えば「みんな違って、みんないい」という考え方です。国籍、性別、性的志向、障がいの有無、働き方等だけではなく、キャリアバックグラウンドのダイバーシティも大切です。

安藤:世のイクボスやこれからイクボスを目指す人、そしてご家族にメッセージをお願いします。

米澤:リーダーはみんなに影響を与える存在であるべきだと思います。仕事はもちろん、プライベート、家族との過ごし方、貴重な時間の使い方をボスがメンバーに伝えていって欲しいですね。ライフイベントを大切にしながら、色々な気づきを管理職がメンバーに伝え示していく。それが人生を豊かにするし、仕事の内容を良くしたり、新しい発想にもつながっていくと思います。妻には常に感謝しています。これからも子どもにフォーカスして、2人で愛情を注いで育てていきたいと思っています。

安藤:今日はありがとうございました!

インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン代表)
(筆:高祖常子)

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ラベル:イクボス
posted by イクボスブログ at 09:59| Comment(0) | インタビュー | 更新情報をチェックする
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