2016年08月14日

第24回 長澤啓さん&柄沢聡太郎さん(株式会社メルカリ執行役員)

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イクボスロールモデルインタビュー第24回は、株式会社メルカリの執行役員CFO長澤啓さん、執行役員CTO柄沢聡太郎さん。”新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”というミッションを掲げて大躍進中のフリマアプリ「メルカリ」のサービスを提供している会社だ。HRグループ石黒卓弥さんにも加わっていただき、ご自身の働き方や、新人事制度「merci box(メルシーボックス)」についてもお話を伺った。

<長澤啓さんプロフィール>
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当。2007年にシカゴ大学経営大学院を卒業の後、ゴールドマン・サックス証券にジョインし、東京及びサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年6月にCFOとして株式会社メルカリに参画。1976年生まれ。5歳と2カ月のお子さんのパパ。

<柄沢聡太郎さんプロフィール>
在学中である2007年末からエンジニアグループnequal を立ち上げ、サービスなどを運営。2010年中央大学大学院卒業後、グリー株式会社に入社。退社後2011年2月株式会社クロコスを立ち上げ、CTO就任。日本初のFacebook社”認定マーケティング開発社”となる。2012年8月、クロコスをヤフー株式会社へ売却。その後もヤフーのグループ会社としてクロコスの事業成長と平行して、ヤフー自身のソーシャルの展開、新規事業を担当。強い開発組織のためのマネージメントを経験した後、2015年5月、株式会社メルカリに参画。執行役員CTOとして、技術領域全般を統括。1985年生まれ。4カ月のお子さんのパパ。


【育休中の給与を会社が100%保障】
安藤:メルカリは、いつ創業されたんですか?

長澤:2013年2月創業です。

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安藤:長澤さんは同業からの転職ですか?

長澤:いえ、金融機関から2015年6月に転職しました。現在、5歳の子と、生後2カ月の子がいます。前職は金融関係で、仕事が忙しく、育児にそんなに関わることができませんでした。妻も働いていましたから、託児所に送りに行くのは自分でしたが。妻の実家近くに住んでいるのですが、実家のサポート無しでは難しかったですね。

安藤:柄沢さんはいかがですか?

柄沢:生後4カ月の子がいます。妻は育休中ですが、復帰は保育園次第です。

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長澤:今住んでいるところは待機児童が多い地域で、下の子の保活が大変です。上の子は幼稚園に通っています。

安藤:産休・育休期間中の給与を会社が100%保障する制度(女性は産前10週+産後約6カ月間の給与を100%保障、男性は産後8週の給与を100%保障)を導入されたそうですが、お二人は育休を取得したんですか?
※新人事制度「merci box(メルシーボックス)」

長澤:育休を3カ月取っています。今も育休中なんですよ。育休中でも仕事は止まりませんから、育休を取りながらフレキシブルに働いています。チームには若干迷惑をかけている部分もあると思いますが。

安藤:育休中でも働けるということは意外と知られていませんね。育休を取ると、その間は一切仕事をしてはいけないと考えがちですが、2014年の育児・介護制度法改正によって、月80時間までなら働けることになっています。男性は育休を取ると隔絶感からネガティブな気分になる人もいるから、育休中でも働けるといいですね。会社から労働を強制してはいけませんが、育休中からフレキシブルに働くパパやママがが、今後増えていくのではないでしょうか。

柄沢:僕も1カ月間は育休をしっかり取りました。その間、週1日は出社していましたね。

安藤:出産で里帰りはしなかったんですか?

柄沢:里帰りはしていません。いざとなれば親に来てもらえますが、基本的には夫婦2人でやってました。でも、やってみたら意外と2人でやれると思いました。子どもが生まれる前は同世代のママたちから「大変、大変」って聞いていましたけれど。でも、今思うと、その大変さって、パパが子育てにあまり参加できていないからかも、と思ったり。

安藤:パパが子育てに手を出すと、ペースを乱されるというママもたまにいますが、奥様はいかがですか?

柄沢:全くそういう意識はないと思います。授乳以外は、全ての作業、2人でできますから。

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【制度と風土が育休取得を後押し】
安藤:子育ての大変さの中味って、子どもの成長と共に変わっていくんです。乳幼児の頃は家庭内の不慮の事故なんかも多い。講座では、「ワークライフバランスの『ライフ』は、子どもの命を守ること」と伝えています。夫婦でいい働き方ができていると、子育ても2人でできるから安全ですね。

長澤:1人目の子どもの時もやることはやっていましたが、今の方が会社の理解もあり、時間を使いやすいですね。会社が心からサポートしてくれていることを感じます。育休を取ることに対しても、全く躊躇ありませんでした。前職の証券会社の時とは全く違いますね。前職の時も制度はありましたが、実際に育休を取る人はほとんどいませんでした。

安藤:「制度より、風土改革」ってイクボス研修では言っています。日本人はどうしても空気読んじゃいますからね。職場で言い出しにくくて、育休を取得できなくなる。

柄沢:制度ができてから、みんな育休取るようになりましたね。子どもが生まれて育休取らないと、「何で取らないの?」と言われちゃうくらいです。

安藤:メルカリさんの「育休中の給与補償100%」は画期的ですね。

石黒:採用の場面でも、伝えています。社員の平均年齢は30歳くらいです。また労務担当も育児に協力的で、積極的に提案してもらえることもあります。例えば、僕が子どもの病気のときに有給休暇を使っていたら「有給ではなく看護休暇を使ったらどうか」って教えてもらいました。嬉しいですよね。有給がまだ残っていたので、そちらを使っていたんですが。

安藤:いまや、「ペットの忌引き休暇」なんていう制度を作っている会社もありますからね。両立支援は創業当初からですか?

石黒:元々協力的な社風ではありましたが、2016年2月に「merci box(メルシーボックス)」として人事制度をまとめたものを導入しました。代表の山田にも昨年子どもが生まれたこともあり、従業員にも子どもが生まれる人が少しずつ増えてきて、ちょうど需要があったということですね。あとは企業としてのブランディングということもあります。

それぞれがプロフェッショナルとしてパフォーマンスを出せるように、休むときはしっかり休むというのが、従業員に届いていると思います。

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安藤:メルカリさんには妊活支援の制度もありますね。(高額な費用が発生する可能性のある不妊治療を行う場合、治療開始から10年間、所得や年齢の制限なく、その費用を会社が一部負担)

石黒:社外の友人から、不妊治療に非常に高額なお金がかかったという話を聞いたこともあります。

安藤:少子化だから公的な支援(助成金制度)もありますが、「保険適用」未だ議論中です。

石黒:妊活の相談も増えてきています。年齢制限もありませんし。

安藤:不妊の原因の半分は男性です。また「二人目不妊」に悩むカップルの割合は、確実に増えていると言われています。

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【制度は利用しやすく&仕事のパフォーマンスをしっかり求める】
長澤:制度の利用しやすさを認知してもらうことはとても大切だと思っています。ただし、プロとして働いているのだから、仕事のパフォーマンスはちゃんと出して欲しい。自分自身もそういう姿勢で働いています。

安藤:充実した支援にのっかるだけのフリーライダー社員に悩む企業もあります。

柄沢:会社の支援はいろいろ充実しているけれど、福利厚生があって当たり前ではなく、会社に貢献しているから制度を使えるという考え方が大事だと思っています。

安藤:タイムカードはあるんですか?

柄沢:一応、勤務時間は記録しています。でもフレックスで働いている人がほとんどです。コアタイムは設定しています。

安藤:上司との定期的な面談はありますか?

柄沢:人事やマネージャーとはかなりシビアに面談をします。確実に成果を出せるように働く→フィードバック→成果に応じてた形の昇降給、を実施しています。。

安藤:スタッフも成長していかなくてはなりませんね。

柄沢:緊張感を持って働いていると思います。

安藤:決まった時間の中でハードに働いて、生活を楽しむのがいいですね。

石黒:妊活や、病児保育もですが、今後介護などについても考えていくことが必要だと思っています。介護が始まる従業員も出てくると思います。

安藤:従業員の平均年齢が若いから、介護の課題はこれからですかね?

石黒:エンジニアには40代以上のメンバーも多く在籍しています。他にも声としては学童保育の支援もあるといいなという話も出ています。

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安藤:社内制度を変えると、事業への可能性が見えてくることもあります。

長澤:育休やいろいろな制度を利用することは悪ではない。ロングタイムで見たらパフォーマンスは落ちていない、むしろ事業へのアイディアが生まれたり、パフォーマンスが上がっていくということが大切だと思います。

安藤:ちまたの40〜50代の管理職の多くは、「休むことは悪だ」と思っている。

長澤:長時間職場にいることが評価されるという評価システム自体を変えるべきだと思います。フェアな評価ではありません。

安藤:特に女性はフェアネスの意識が強いですから、ちゃんと評価されない会社からは黙って去ってしまうでしょう。

柄沢:メルカリの制度についてのいろいろ問い合わせをもらいますし、真似てもらうことは嬉しく思いますが、制度を作る前にもできることがあると思うんですよ。社員の評価をどこで見るか、社員がどうパフォーマンスを出せるかという事が大事ですね。例えば、仕事が早く終わって帰る人が評価されず、遅くまで残っている人が評価される環境で、制度だけ導入してもうまくいきませんよね。。

石黒:仲間意識でだらだらと残業しちゃう、というような雰囲気は、よくないですよね。メルカリには部活制度、という仕組みがあり、その一例としてバスケ部だったりワイン部だったり。皆定時に一斉に帰って、部活を楽しんでいますよ。

柄沢:僕は基本的には育児のために夕方5時に帰っています。もちろん何かあればリモートでも対応できるので。。

安藤:上司が「早く帰っちゃって困る」と思うのか、「早く仕事を終えて帰って、すばらしい」と思うのか。評価の考え方を変える、労働時間の概念を変えることが必要ですね。
メルカリさんの取り組みや企業風土はきっと、会いバーシティ推進を目指す他企業にとっても参考になるものです。これからも期待しています。今日はどうもありがとうございました!

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(筆:高祖常子)
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2015年11月17日

第20回 徳永尚文さん(株式会社 日立ソリューションズ 執行役員)

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イクボスロールモデルインタビュー第20回は、「イクボス企業同盟」にも加盟している株式会社日立ソリューションズ執行役員兼ITプラットフォーム事業部長の徳永尚文さん。
“亭主関白”世代にもかかわらず、妻の出産をきっかけに家庭のあり方について自ら認識を変え、育児に積極的に参加。職場では、部下を自宅に招き、自らの手料理でもてなしながらざっくばらんにコミュニケーションをとるなど風通しのよい環境づくりに注力する“生粋のイクボス”として1,000人の部下を導く。こんな徳永さんのイクボス的思想のルーツは、意外にも、陸軍の軍人だった父親の姿にあった。取材は、氏の自宅のリビングにて。得意の手料理がふるまわれるカジュアルな雰囲気のなか、“徳永流”イクボスの価値観や心構え、今後の展望について伺った。

〈徳永尚文さんプロフィール〉
1954年埼玉県所沢市生まれ。1980年に株式会社日立製作所に入社、デバイス開発センタに配属され先端LSIの開発を行う。その後さまざまな部署で実績を重ね、2014年に、株式会社日立ソリューションズ執行役員兼ITプラットフォーム事業部事業部長に就任。妻と2人の子どもの4人家族。趣味は料理のほか、磯釣り、ゴルフ、ランニングなど。好きな言葉は老子の格言で「人に魚を与えれば一日生かすことができるが、人に魚釣りを教えれば一生養うことができる」

【バリバリの軍人だった父親が反面教師】

安藤:徳永さんは、いつから執行役員になられたのですか?

徳永:2014年の春からです。1980年に日立製作所に入社し、日本IBMに負けないような“日の丸コンピュータ”をつくろうと大型汎用コンピュータ用のLSI(高密度集積回路)の開発に従事していました。その後、情報・通信グループ戦略事業企画、指静脈認証装置のグローバル事業などに携わったあと、2013年にITプラットフォーム事業部長に就任し、その翌年に執行役員も兼ねるようになりました。現在部下は約1,000人います。

安藤:ご結婚は何歳の時にされたのですか?

徳永:28歳の時です。今年で結婚して33年になり、子どもが二人います。29歳の長女、27歳の長男はそれぞれ独立しました。(食器棚の上に飾られたご夫婦の写真を指差しながら)それは妻とフランスのロワール城を訪れた時の写真です。妻は学生の頃からの知り合いだったのですが、結婚した当時フランス語を勉強していたので、新婚旅行先はフランスを希望していたんです。でも当時はお金がなくて、北海道でがまんしてもらいました。結婚後、相当長い年月がたってから、長年の夢を果たすことができて妻に喜んでもらえました。(笑)

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安藤:素晴らしいですね。結婚前と結婚後でご自身の働き方は変わりましたか?

徳永:結婚前は、仕事一筋でしたね。結婚してしばらくしてからも、それまでの延長で仕事第一でした。でも子どもができた時に、ふと思ったんです。「子育ては、妻だけでなく夫婦のチームプレーが大切だ」と。独身の時と同じように、妻だけに家事も育児も全部まかせるのはよくないと思い、自分のできる範囲で関わりながら、「家庭ではなるべく自分の悪いところを出さないようにしよう」と心がけることが大切だと気づきました。この考えは、主任として初めて部下をもつようになった社員への研修の時にも、「リーダーとして自分の悪いところを出さないよう心がけ、自分一人の成果を出すよりも、チームとしての大きな成果をめざす気持ちを忘れずに」と話しています。主任昇格というタイミングは育児が始まる時期と重なりやすいので、職場でも家庭でも、これをモットーにしてほしいと思っています。

安藤:なるほど。徳永さんは還暦を過ぎ、“亭主関白世代”の方ですよね。これまでに、この世代で「男性も育児や家事に参加しよう」と発想する人にお会いしたことはほとんどなかったです。どうしてそのような考え方になったのですか?

徳永:いい質問ですね(笑)。これは僕の生い立ちと関係あるのですが、実は僕の親父は、陸軍士官学校出の軍人で、第二次世界大戦の時は、インドネシアにある石油基地を奪取するという重要な任務にあたっていたんです。バリバリの軍人で、「いざとなったら俺は、妻と子どもを置いてでもお国のために死ぬぞ」という人だったんです。戦前の教育を受けたイクボスの対局をいく考え方の人でした。

安藤:まあ、あのころは仕方がないですよね。

徳永:当時は親父のそんな生き方が許されたのかもしれないですが、親父を「父親」としてみた時に、家族に対してやさしい面ももちろん少しはありましたけど、厳しい面のほうがかなり大きくて、「なんで家族にこんな仕打ちをするのだろう」と、子どもなりに相当不満をもっていました。母に対する態度も高圧的で、幼な心に「これはいかん」と。親父は僕にとって、反面教師だったんです。まあ、時がたってからいろいろ分析してみると、これは親父だけの問題ではなく、戦時下であったこともあり人を大切にできなかった当時の日本の陸軍や軍隊の姿があり、日本が負けた理由もここにあるのだろうと思いましたけどね。親父の背中を見ながら、せがれである僕は、「ああはなっちゃいかん」とずっと思ってきたんです。

安藤:当時の日本、そして家族という「組織」を、徳永さんなりに相対化して、観ていたのですね。

徳永:そうですね。その経験があったから、結婚して子どもを持った時に、「僕は親父みたいにはならない」「家族を大切にしよう」と思ったんです。

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安藤:なるほど。実は僕も、昭和6年生まれの父が反面教師でした。家で父親が、笑顔でいた記憶があまりないんです。だから今、「笑っている父親を増やそう」という活動をやっているんです。

徳永:なるほどね。やはり、大人になってから、自ら何かを発信している人というのは、根底に子ども時代の経験や思いが存在しているのかもしれないですね。軍隊の話を続けますが、先ほどもお話したように、当時の日本軍のいちばんの問題は、人を大切にしなかったことだと思うんです。アメリカは空中戦の時、その下のエリアに潜水艦を配置して、万が一自国の戦闘機が海に落ちたら、すぐにパイロットを助けに行く体制を作っていたというじゃないですか。「いざという時の備えは十分するから、心配なく戦ってこい」というのがアメリカの考え方ですよ。それに対して日本は、「絶対負けるな」「落ちたら死ぬぞ」という特攻精神ですよね。

安藤:このあいだドイツの働き方に関する本を読んだのですが、ドイツは、戦争中でも有給休暇があるんですよね。軍人が国に対して「休暇とらせないと戦争に行かないぞ」みたいな意見を言えやんだそうです。当時の日本の軍は、「人を大切にする」という思想をベースにしたマネジメントができなかったということではないでしょうか。

【夫は単身赴任、子どもは独立して寂しがる妻に、インコをプレゼント】

安藤:“亭主関白世代”の徳永さんの、イクボス、イクメンの思想のルーツが良くわかりました。お子さんが小さい頃、徳永さんは子育てにはどのように関わっていたのですか?

徳永:子どもは文句なしにかわいかったので、なるべくいっしょに遊ぶ時間を作っていました。息子が少年野球をやっていたので、少年野球のコーチをやっていましたね。少年野球のコーチって結構大変なんですよ。夏の暑い盛りに朝6時くらいに小学校のグランドにいって白線を引いたり、審判やったり。審判もずっと立ちっぱなしですし。地域のつながりも大切だと思っていましたので、父母会の会長も経験しました。

安藤:素晴らしいです。当時、徳永さんの上司に対して、育児を理由に「早退させてください」などと申し出たことはありましたか? その時の上司の反応はどうでした?

徳永:そんなにしょっちゅうではなかったですが、ありましたよ。上司も快くOKしてくれました。

安藤:イクボス、当時もいたじゃないですか。

徳永:当時僕が勤務していた開発センターでの仕事は、ある一定の期間内でやるべきことを終わらせることができれば普通に帰宅できたんです。もちろん、何かトラブルが起こるとしばらくうちに帰れないこともありましたけど、基本、工夫次第でメリハリがつけやすい職場環境だったというのも大きいと思います。

安藤:お子さんが熱をだして奥さんが大変な時に、なるべく早く帰ったりもされていたのですか?

徳永:そうしていましたね。

安藤:部下時代に上司にそういう風にしてもらうと、自分が上司になった時、部下に対しても同じように対応するようになるというのはよくいわれていますよね。子育て期、転勤など環境の大きな変化はありましたか?

徳永:転勤はなかったのですが、2002年から、御茶ノ水の本社に通うことになったんです。それまで工場が青梅にあって、青梅の近くに家を買って職住接近で通勤していたのですが、青梅から御茶ノ水となると毎日の通勤が難しいため単身赴任になり、週末だけ青梅の自宅に帰る生活になりました。下の息子が高校に入ったばかりくらいの時だったと思います。

安藤:思春期まっただ中じゃないですか。

徳永:まあ、そうですね。でも息子は精神的に大人で、「家族に男はお前しかいなくなるからちゃんと守れ」と言ったら「わかった」って感じで、特にいざこざのようなものはありませんでした。単身赴任とはいえ、青梅から御茶ノ水で、何かあったら2、3時間で帰れるため大きな心配はなかったです。それ以来、ずっと単身赴任です。

安藤:え? そうなんですか? このお宅は、徳永さんの単身赴任の宿なんですね。娘さんも息子さんも独立されて、青梅のご自宅にお一人で生活する奥様は寂しいのではないですか?

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徳永:そうなんです。子どもたちが独立し、妻がひとり暮らしになったばかりの頃は、さすがに寂しそうにしていまして……。で、これはいかんと、インコを買ってあげたんです。1匹めのインコは洗濯物を干している時に逃げられてしまったので、すぐに2匹目をプレゼントしました。その後、家の近所で、どこかで捨てられたニワトリを見つけましてね。動物愛護の精神から家に持ち帰って飼うことにしたんです。そしたら当たり前なんですけど、朝の5時くらいから庭で「コケコッコー」と泣きっぱなしで(笑)。

そこで、夜の間に鳥小屋に遮光カーテンをかけ、次の日の朝、近所の方にご迷惑がかからない時間になったらそのカーテンを開けるようにして飼うようにしました。飼ってみるとニワトリもいいものですけど、インコは歌も歌うし言葉も覚えるしで、とてもかわいいですね。僕も、週末帰るたびにかわいがっています。どうも僕のことが好きみたいで、よくなついてきますよ(笑)。

安藤:最近のイクボスは、ペットのインコもマネジメントできるのですね(笑)。ペットといえば、最近、ペットが体調不良などの時に休暇をとる「ペット休暇」の導入を検討する企業も増えてきています。都会で一人暮らしをしている女性がワンちゃんやネコちゃんを飼っているとまさにシングルマザーと同じ状態ですからね。我が家も猫を飼っているのですが、保険会社でフルタイム勤務している妻は、先代の猫が亡くなった時、会社を2日休んでいましたよ。かつてのペットは外でつながれているだけでしたけど、最近では「家族の一員」と考える人も増えてきています。だからこその「ペット休暇」だと思います。あえて休暇制度つくらないにしても、会社にそのような状況を言いやすくなっているかどうかが重要です。

ところで家族もペットも大事にされる徳永ボスは、部下が1,000人いらっしゃるということですが、職場ではどのようなマネジメントをしていらっしゃいますか?

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【社員を自宅に招いて会食する“トク’ズ キッチン”開店】

徳永:基本の部分は個々にまかせていますが、やはり仕事の上では、部下をきびしく指導したり、場合によっては叱ることもあります。

安藤:部下を厳しく指導したり叱るのは、どのような時ですか?

徳永:今の私の立場でいうと、やはり業績関係ですよね。どこの会社もそうでしょうけど、営業利益の目標を達成できなかったり、予算を決めて1カ月でギブアップ宣言してくるなどという時です。

安藤:そういう時は、どんな言い方をされるのですか?

徳永:私のところには、業績関係のデータとして数字がたくさん集まってきますので、現時点で問題だと思われる数字を指摘し、改善するためのアドバイスを具体的に行っています。でも、職場でただ叱るだけでなく、もっとコミュニケーションをとりながら業務の改善ができないかという思いもありました。

また時には「さっきは叱りすぎてしまったかな」と思うこともありました。そんな“罪滅ぼし”のような気持ちから、「今度、うちこいよ。ゆっくりのみながら話そうぜ」と、社員を自宅に招いて手料理をふるまいながら会食することを始めたのです。2002年から単身赴任しているので、社員も気軽に来やすいのか、これが通例化してきまして。ある時は大人数で、またある時は一人でなど、たくさんの社員が来るようになり、いつのまにか社員の間で「トク,‘ズキッチン」と呼ばれるようになり、今に至っています。

最近では業務改善のためのコミュニケーション以外にも、結婚の報告にくるカップルや、産まれた赤ちゃんを見せにくるカップルもいます。伴侶を見つけようとしている独身の社員同士を引き合わせる場として「トク’ズ キッチン」に招くこともあります。

安藤:やるなあ。イクボスは、恋のキューピット役もつとめてしまう(笑)。

徳永:もちろん、うちに来る社員すべてがいい話や楽しい話をしに来るわけではないですよ。「仕事で悩んでいます」とか、「仕事をがんばれなくて、へこたれています」とか、最悪の場合は「退職したいです」という場合もあります。

安藤:そうですよね。でも、退職を考えている社員って、ふつう、上司の自宅まで行かないですよ。上司が徳永さんだからわざわざ足を運んでくるのだと思います。それほど信頼されているのですね。

徳永:さっきの主任さんへの言葉じゃないですけど、自分ひとりで100%働こうが200
%働こうが、部下1,000人それぞれが10%モチベーションアップすれば、それだけで100人力ですから。会社という組織では、部下に気持ちよく、これまでよりも10%、20%多くパワーを出し切ってもらうことが大切なので、そのような環境づくりに徹したいと思っているんです。それを行うためにもまず、お互いの信頼関係、そして、プライベートも含めてお互いによくわかりあっていることが大切だと思うんです。

これは、われわれの部署だけでなく会社全体でやっているのですが、当社には、定年を迎えたベテラン社員が若手を中心とした現役社員からさまざまな相談を受ける「よろず相談」という制度があります。就業時間に、30分〜1時間の時間を設けて行っているのですが、そこでは仕事の話でも体調などプライベートの話でも何を言ってもいいんですよ。そこに出てくる社員からの要望などを全部採用しきれるわけではないのですが、重大案件だと判断された場合は各部署のトップ間で共有して対策を練るなどしています。何よりも、相談員が話を聞いてあげるだけでも社員の顔色がずいぶん明るくなるようで、それだけでも価値があると思います。

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安藤:自分が思っていることを聞いてもらうだけでも救われますよね。鍛冶さんも、何か救われたことはありますか?

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鍛冶:私は今、4歳と1歳の子どもがいるのですが、いちばん最初に「よろず相談」を受けた時は、結婚したばかりでまだ子どもがいなくて、仕事中心の夜型生活だったんです。「よろず相談」で、「何時に起きているか」「ご飯は作っているか」「帰ってどんな生活をしているか」などについて聞かれたのでありのままに答えたら、「もっと朝型生活にしたほうがいいですよ」とアドバイスをいただきました。その頃は朝型生活って全然イメージできていなかったんですけど、いざ子どもをもつと、実際にそうせざるおえない部分がたくさんあって、あの時いただいたアドバイスを今まさにかみしめています。

安藤:なるほど。そのような利用のされ方はとてもいいですよね。ところで、徳永さんは、仕事以外の時間はどのようにお過ごしですか?

徳永:早く帰ってきた時は、気分転換もかねて料理を作ることが多いですね。すぐそこにスーパーがあって、できあいのものがいっぱい売っているのですが、飽きてきてしまって。ちょっと手間がかかっても、野菜炒めとか自分で作ったほうがはるかにおいしいし健康的なので、続けています。

安藤:料理はもともとお好きなんですか?

徳永:嫌いじゃないですね。私はずっと半導体に携わっていたのですが、半導体って、プロセスが何百工程もきっちりあって、それをきちんと作りあげていくのですが、その感じが料理と似ているんですよね。

【「社員を大事にするかしないか」で勝負が決まる】

安藤:なるほど。“半導体クッキング”ですね(笑)。ご自身が楽しめる趣味があると、老後も楽しみですね。今後、日本の企業もダイバーシティをどんどん進めていかないと生き残れないという考えもありますが、徳永さんのお考えを聞かせてください。

徳永:当社では、女性管理職比率の増加をめざし、次世代の女性のキャリア意識醸成、障がい者活躍推進をはじめダイバーシティを積極的に推進しています。これらが世の中にも認められているのは大変いいことだと思いますね。最初にお話しましたように、企業の成長は、「社員を大事にするかしないか」など、そういうところで勝負が決まると思うんです。欧米と対等に勝負して、グローバルに勝ち残っていかないといけないことを考えると、人財活用の面でも欧米にひけをとらないような世界にならないといけないですよね。われわれが小さい時みたいな「亭主関白」の時代ではないですからね、今は。

安藤:全くその通りです。われわれは今、徳永さんのような模範的なイクボス像や育成のノウハウを、企業の枠を超えて共有できるような取り組みを進めています。主任クラスなどいわゆる中間層のボスには、これからどんなことを伝えていきたいですか?

徳永:新人時代は自分の良い所を出すことに全力をつくし、ピカピカ光って目立ってほしいですね。でも、いつまでもそれじゃ困るんです。中間管理職になってもそのままでいくと、そこで一度でも信頼を失うことをしてしまうとチーム全体がくずれていきますから。だからこそ、中間管理職には、「自分の悪いところをださない」と心がけることが非常に大事になってくると思います。これは家庭でも通じることですよね。奥さんや子どもに対して、一度でも信頼を失うと、家庭はくずれていってしまうと思います。

安藤:そうです。家庭も経営ですからね。不祥事おこしちゃまずいですから(笑)。
徳永さんがおっしゃるような働き方をたくさんの方が理解してくれればいいのですが、
亭主関白の思想で、「会社中心の生活は決して悪くない」と思っている人もまだまだいるんですよね。

徳永:そうですね。そのような社員をここに招いて、自分の生い立ちや親父の話をすることもありますね。

安藤:振り返るって大事です。その中で何か気づいてもらって、変わるといいですね。

徳永:徐々に変わっていくのではないでしょうか。確かに昔は、会社でいつもどなりちらして絶対服従型の精神論をふりかざす“軍隊型”の上司っていましたよね。でも、今ではそれはとおらないですよ。パワーハラスメントを見る目も厳しくなってきていますから、そういう意味から考えると、まず仕事のやり方を変えていかないとだめですよね。昔は部下を人前でどなりつけるって当たり前だったですけど、今はそれをやってはいけないですから。

安藤:徳永さんは、部下を叱る時は、当然別室によんでしかり、ほめる時はみんなの前でほめていらっしゃるんですよね。「職場環境を作る」という意味で、工夫されている所はありますか?

(取材に同席していた企画部の佐藤さん):徳永の役員室は、フロアの真ん中にあるんです。雰囲気も閉鎖的でなく、だれもが入りやすいような設計になっているんです。呼ばれて部屋に入る社員にとってもみても、隔離されるような感じでは全くなく、オープンなんですよ。

安藤:それは象徴的ですね。

徳永:オフィスビルが古くて暗めなので、なんとか明るい雰囲気にできないかと思ったんです。オフィス内の僕の部屋にバーンと仕切りが立っていると、職場の雰囲気がますます暗くなってしまいますよね。ですので、仕切りをなるべく少なくして、ドアもつけず、開放的で風通しのよい場所にしたかったんです。

安藤:なるほど。そういう環境って、社員が入りやすいですよね。僕の知り合いの校長先生は、普通は2階にある校長室をあえて1階の用務員さんがいるような場所にもってきたんです。そうすることで、子どもたちも自由に出入りできてコミュニケーションがとれるし、学校中のいろんな情報がすぐに入ってきて、問題も解決しやすいとおっしゃっていました。

徳永:やはり、雰囲気は大切ですよね。僕自身、部下たちに僕がどういうスタンスで仕事をしているのかを理解して欲しいという気持ちが常にあります。僕は自分で自分の悪いところがわかっていますので、そこを起点に、職場環境はこうしたらいいんじゃないかなど、いろいろ考えてこのようにしました。

安藤:素晴らしい。鍛冶さんからみて徳永さんはイクボスですか?

鍛冶:まさにイクボスです。直接お話する機会はなかなかないのですが、徳永さんが発信するメッセージが、事業部長から、本部長、課長とぶれなく伝わってくるのがすごくありがたいですね。上からの雰囲気ってすごく大切だと思うので。

安藤 組織の一番上にいるボスが、徳永さんのような方だと安心ですよね。御社は、ワーク・ライフ・バランスに悩む部下におこりがちな問題について管理職に対応策を回答してもらい、それをまとめた「イクボスブック」を社内で配布するべく制作するなど、積極的にイクボス育成を行っていますね。今後のさらなる取り組みに期待しています。今日はどうもありがとうございました。

(筆・長島ともこ)

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2014年04月29日

第2回 大越賢治さん(株式会社ウィルド 社長)

イクボス・ロールモデルインタビュー第2回は社員数10名、潟Eィルドの大越社長が登場。
IT企業勤務時代は深夜残業当たり前。8年前に独立して企業を設立し、立ち上げ時こそかつてと同様の働き方だったご自身がワークライフバランスに目覚めたきっかけは何か?
新聞でも取り上げられたユニークな施策「おやつタイム」を導入した意図と効果、そして「中小企業はワークライフバランスどころではない」という定説を覆す、社員定着率アップや女性活躍、企業業績などについて東京・上野の本社でお話をうかがいました。(FJイクボスプロジェクト

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<大越賢治さんプロフィール>
38歳。IT企業でのサラリーマンを経て、2006年に株式会社ウィルド設立。現在、社員は社長含めて11名。家庭では、妻(36歳)、長男(10歳)、長女(9歳)、次男(6歳)、三男(4歳)の6人家族。FJ会員。

同席:横尾恵さん(株式会社ウィルド社員 3歳と1歳(双子)の3人の子を持つ。2度の産休、育休を経て現在、1日4時間半の時短勤務中)

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【会社に泊まり込むことも珍しくないほど仕事漬けの日々】

安藤:子どもが何歳の時に会社を立ち上げたの?

大越:上二人の子どもたちが、それぞれ2歳、1歳の頃です。

安藤:その前の、サラリーマン時代の働き方は?

大越:6年間勤めていたんですが、それこそ、残業は月100時間越え、土日出勤が当たり前でした。子ども達は2歳や1歳だったのですが、ずっと嫁さんが専業主婦で子どもを見てくれていて・・・嫁さん、キレまくりでした(苦笑)。

安藤:まぁ、そうなるよね(苦笑)。会社設立のときは家族には相談したの?

大越:相談はしたのですが、基本的に自分は一旦こうと決めたら曲げないタイプなので、嫁さんももう諦めている感じでした。

「多分今よりも忙しくなるから、よろしくね」とは言っていましたが、会社立ち上げ後しばらくは忙しすぎて帰宅出来ないこともたびたび。ほとんど家にいなかったので、嫁さんから何度か怒りの電話が会社に入りましたね(苦笑)。

安藤:子どもが生まれると、休みが取れる制度があったりする会社もあるけど取ったことはあった?

大越:サラリーマン時代に最初の子どもが生まれた時、「子どもが生まれると3日間休みがもらえる」という制度を利用して有給休暇をプラスして1週間、嫁さんの里帰り出産について行きました。

でもそれはあまり意味がなかったんですよね。ちょうど生まれたタイミングで行けたので良かったんですが、出産後の1週間は赤ちゃんも嫁さんも病院に入院していたので、自分はその期間、嫁さんの実家にただお世話になっていただけだったので・・・どのタイミングで休みを取れば良いのか分からなかったんです。

安藤:二人目の時は?

大越:ちょうど年度末近くで休みが取りづらいタイミングだったので、また生まれるのに合わせて嫁さんの実家に3日間だけ行って、すぐ東京に戻りました。

安藤:残業短縮とか上司に相談したりした?

大越:しましたが、課長は「奥さん、専業主婦でしょ?」という感じで・・・。そもそも制度そのものを知らないようでしたので総務に相談して、子どもが生まれてすぐの時はなるべく定時で帰らせてもらうように働きかけてもらいました。

部長は「仕事さえきっちりしてくれたら」という感じでしたね。ただ、その当時自分が担当していた仕事が特殊でピーク時は早くて帰りが26時、遅いと29時で翌朝は普通に9時に出勤していました。時間が遅くなると、上司が「もう帰らない方がいいよね」と言い出すような雰囲気で・・・、会社で仮眠を取るだけというひどい生活でしたね。

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【ワークライフバランスへのシフトチェンジ】

安藤:そういう環境の中で、ウィルドではよく「ワークライフバランス」について気がつくことが出来たね。きっかけはあったんですか?

大越:2011年くらいに、システム開発プロジェクトマネージャーのための、土日のセミナーを受講しました。いくつか講義がある中で自分が好きなものを受講するんですが、そこでたまたま小室さん(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室淑恵さん)の講義に出席したんです。

周りはシステム開発のマネージャーばかりですので、会場の雰囲気もワークライフバランスについて全く理解も共感も出来ない感じでした。でも自分には結構刺さって、「理想論かもしれないけれど、これが実現出来たらすごいな」と思いました。

安藤:そこで試みてみたのがすごいね。やってみて効果を実感したのはどんなこと?

大越:まずは既存のインフラですぐ出来る「朝・夜メール」を実践しました。(注:職場の現状把握に有効とされる手法。朝は各メンバーが当日の予定を上司に送りチェックを受ける。夜は退社前に朝メールした内容をもとに実際の業務内容を記入して上司にメールする、というもの)

それで誰が何をやっているのかは共有出来るようになったのは良かったのですが、無駄を省いて個人の生産性を追い求めるようになっていったら、コミュニケーションが少なくなりチームがギスギスするようになってしまいまして。「楽しくない、これは違う」と思い、生産性ばかりに目を向けるのではなく、コミュニケーションを取って一緒に働く仲間のことをもっと知ろうと思って始めたのが現在まで続いている、毎週火曜日午後に30分間行う「おやつタイム」です。

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安藤:どんなことをするの?

大越:その日オフィスにいるメンバー全員で一旦仕事の手をとめて、おやつを食べながらおしゃべりするというものです。「週末こういうことをした」「いまハマっている趣味はこれ」とか、子育てやプライベートのことについて話します。

安藤:横尾さんは、この「おやつタイム」を始めようと社長が言い出した時にはどんな風に感じました?

横尾:最初は本当に何を話したらいいんだろうと・・・普段は仕事の話ばかりでしたので。でも社長が話をふってくれて話しやすい雰囲気を作ってくれたんですよね。あと、社長はお子さんがもう何人もいらっしゃって子育ての先輩でしたので、子育てのこと、私は夜泣きや病気のことについて相談したりしました。

大越:実際には育児についての質問は、自分を通り過ぎてそのまま嫁さんに「これどう思う?」って聞いて、答えていたんですけどね(苦笑)。それまでは、あまり仕事の時に「お子さんどう?」とか声をかけられませんでした。

横尾:忙しい仕事のなかで、ほっと一息つけてリフレッシュできるので「おやつタイム」は貴重な時間になっています。それ以降は職場の中も普段から雑談も交えたりできるようになり、よりコミュニケーションが取りやすくなったと思います。

大越:お菓子も会社の経費ですし、時間も休憩時間ではなく勤務時間としてカウントしています。始めて2年近く経つのですが各自がプライベートのことを話してくれるようになったので、それぞれの置かれている状況をより深く共有できるようになりました。

また私自身、子どもが4人になると嫁さんにだけ任せておける状態ではなくなってきて、スケジュールにプライベートの予定も入れざるを得ないようになってきた。仕事とプライベートと分けてスケジュール管理するのではなくひとつにまとめて、しかも社員全員で共有しているスケジュール管理ソフト(サイボウズ)に入れて公開することにしたんです。

さらに他の社員にも、プライベートの予定をスケジュールに乗せるよう薦めました。最初はみんな「私用」とだけ入れていたのが、だんだん「保育園のミーティング」「夫の誕生日のため」など事情をオープンに書けるようになってきました。すると、みんなでその人の予定に合わせたタスク管理が出来るようになってきたんですよね。「この時間に帰りたいと言っているんだから、ギリギリで急に仕事を頼むのは控えよう」といった具合です。

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安藤:ワークライフバランスを導入して社員の入社希望や離職に関して変化はあった?

大越:会社立ち上げ当初は短期間で離職する社員もいたのですが、ここ3〜4年はひとりも辞めていません。横尾さんが2回目の産休に入るとき、本人から仕事を続けられるか不安だと相談を受けたのですが、ワークライフバランスについて学んだ後だったので、「復職してみて、それから考えてみたら?」と言うことが出来ました。会社にとっても、いてもらわなければ困る人材ですからね。「どうしたら復帰できるか考えてみようか」と提案しました。この規模の会社なので希望を聞いて柔軟に対応して行こう、と考えられたんです。

横尾:自分としては2回目の産休に入る時、上の子の子育ても自分一人ですべてやっている上に、今度は双子がおなかの中にいて、働き続けるのは無理だと諦める気持ちが本当に大きかったんです。社長に相談した時に、まさか復帰を薦められるとは思っていなかったので、とても驚きました。

復帰しても数週間は一杯一杯で「私に両立する事が出来るんだろうか、無理じゃないか?」と思う事がありました。でも周囲の理解があって助けてくれるし、ようやく最近になって自分もペースがつかめてきた感じがします。

安藤:仕事を続けて、良かったと思いますか?

横尾:本当に良かったです。もし育児だけになっていたらストレスでどうなっていたか・・・。周りの家族にも頼れないし、夫は仕事が忙しくて、保育園の送り迎えから全部私が一人でやっていますので、心のバランスが崩れていたかもしれません。

大越:女性でもう一人、育児のため6時間の時短勤務をしている社員がいます。時短勤務などへの男性社員たちの理解は最初はやはり難しかったですが、今ちょうど啓蒙が進んで来て、みんなその必要性について分かった段階に来ていると思います。

ただ実感としては、ワークライフバランス導入初期はどうしても一旦生産性が落ちるんですよね。でもその時期は脱したと思います。働きやすい環境は整ってきた。ここからは職務を果たして生産性を上げ、結果を出して行く段階に入って行きます。来期には良い数字が出せるでしょう。社内もいいムードです。

【管理職にとってのワークライフバランス効果とは】

安藤:管理側の社員(ボス)に、ワークライフバランスの効果は出ました?

大越:結婚している社員が三人、そのうち子どもがいるのが一人います。定時で全員仕事を切り上げて帰宅するという方針への反発はありません。休みをとったり時短勤務したりすることが育児や介護をしている社員だけの特権にならず、誰でもプライベートの充実やリフレッシュのために休むのだ、という理想は共有できていると思います。

安藤:「イクボス10カ条」に当てはめてみると、自分はどう?

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<イラスト:東京新聞>

大越:ほぼ出来ていると思います。あとは数字としての結果を出せば満点です。仕事の受け方や進め方を変えた2年前半前から、女性の入社希望者も増えた。男性社員も趣味や家族との時間を取るようになり、残業時間は大幅減になりました。

今、うちの業界は全体として仕事量が増えていますので、知り合いの会社で過去最高の業績を出している会社も少なくありません。経営者としてはここでしっかりと数字を出さなければ、「ワークライフバランスなんて言ってるからだよ」とよその会社さんから言われてしまうわけです。ボスはよい業績を出すのが仕事です。ウィルドもこれまで赤字だったが、皆が経験を積み、若手も育ってきたので新年度はよい数字が出せそう。「ワークライフバランスは業績向上をもたらす」と証明したいんです!

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安藤:今後、「おやつタイム」以外にも取り入れたい制度とかありますか?

大越:去年までは「ノー残業デー」を作っていました。男性社員に時間的制約を持って仕事する意識付けをするために毎週木曜日と決めて取り組んでいたのですが、全員が同じ曜日に早く帰りたい訳ではないので、来期からは各自で週に1回、この日をノー残業デーにすると申告して実施するというスタイルにしようと考えています。

さらに四半期単位で成績が残せたら、次の四半期はノー残業デーを週2日にしようかと。最終的な理想としては「全員毎日定時で帰れて売り上げも伸びて行く」ことなので、そこに向けて行きたいです。うちの会社らしいワークライフバランスの中で「成績」が伴うといいですね。

安藤:社員も会社も心身ともに健康でね。

大越:そうですね。あと、私自身もそうなのですがプライベートでのつながりも仕事に関わってくることがあるんですよね。自分の仕事がちゃんとこなせるようになったら、社員には外に視線を向けて欲しいと思っています。

若い人たちが仕事を早く終え、職場外の世界で自分の居場所をもう一つ持つこと。それが仕事にもプラスと思います。たとえば仕事を10分早く終わらせられるようになったら、その時間を新しいスキル取得やプライベートに使ってバランスよく自分らしく生活する。それを徐々に進めていってくれればいいですね。

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【パパが変わって、ママや子ども達の反応は】

安藤:大越パパが「イクメン」に変わって、ご家族の反応はどうですか?(笑)

大越:「前に比べればだいぶ良くなってきたけど、まだ足りないね」と(笑)。

安藤:僕もまだよく言われるよ(笑)。奥さんは永遠のボスだからね。でも大越さんは、時間を作って子どもと遊びに行ったりしてナイスなパパだと思うよ。地域活動とかもやってるの?

大越:これまでマンションの理事長を5年間務めてきたのですがこの6月で卒業する予定です。任期を越えてやってきたのですが、同じ人がずっとやっていてもと思いまして。今度は、活動の場を小学校の方へ移行しようと思い、先日小学校の「父親の会」に入会してきました。

安藤:そりゃあいい。どんどんやるといいよ。きっとそれも仕事にプラスになるから。子育て中の親は忙しくてなかなか家庭や地域で過ごす時間がないから、時短勤務などを活用してそういう時間をとれるといいよね。ネットワークも広がるしコミュニケーション力やいろいろな力も身につく。会社と自宅の往復だけだと人間的に成長しないんだよ。

【オリジナルのイクボスを目指して】

大越:今、イクボスの講習会に出たり、自分で試行錯誤しながら自分なりのイクボスを目指している所です。何が正解かもまだ分かりませんし、会社の規模や状況によって違ってきますので、周りの社員たちの反応を見ながら、新しいイクボス像をクリエイトしています。

安藤:育児と一緒だよね。それぞれの家庭や状況に応じて違うから真似してうまくいくわけじゃないしね。

大越:やってみてうまくいかなかったら、それをいかにしてうまくいくように変えて行くかですよね。たとえば、IT業界とまとめてしまうと、どんなに夜遅くでも対応してくれるのが当たり前となってしまうかもしれませんが、「うちの会社は、ワークライフバランスを導入しているため、18時30分以降の電話は取りません」などと外側に向けてしっかり発信していくことで、取引先の企業さんも理解して、対応してくださるようになったりするんですよね。自分の状況と希望をきちっと伝えることが出来るだけで、だいぶ状況が変わると思います。

安藤:最後に横尾さんにとって、大越さんはどんなボスか教えていただけますか?

横尾:自分の立場や状況を理解してくれて適切な助言もくれる、パパとしても社長としても頼りになるボスです。今まで自分がしていただいた恩を少しでも返せるよう、ずっとこの会社で頑張って働き続けたいなと思っています。

安藤:ありがとうございました!

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大越ボスの、「あとは結果を出すだけ」という迷いのない視線が印象的でした。横尾さんもご同席いただき、誠にありがとうございました。

聞き手:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
筆:笹川直子
posted by イクボスブログ at 17:18| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする