2014年04月29日

第2回 大越賢治さん(株式会社ウィルド 社長)

イクボス・ロールモデルインタビュー第2回は社員数10名、㈱ウィルドの大越社長が登場。
IT企業勤務時代は深夜残業当たり前。8年前に独立して企業を設立し、立ち上げ時こそかつてと同様の働き方だったご自身がワークライフバランスに目覚めたきっかけは何か?
新聞でも取り上げられたユニークな施策「おやつタイム」を導入した意図と効果、そして「中小企業はワークライフバランスどころではない」という定説を覆す、社員定着率アップや女性活躍、企業業績などについて東京・上野の本社でお話をうかがいました。(FJイクボスプロジェクト

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<大越賢治さんプロフィール>
38歳。IT企業でのサラリーマンを経て、2006年に株式会社ウィルド設立。現在、社員は社長含めて11名。家庭では、妻(36歳)、長男(10歳)、長女(9歳)、次男(6歳)、三男(4歳)の6人家族。FJ会員。

同席:横尾恵さん(株式会社ウィルド社員 3歳と1歳(双子)の3人の子を持つ。2度の産休、育休を経て現在、1日4時間半の時短勤務中)

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【会社に泊まり込むことも珍しくないほど仕事漬けの日々】

安藤:子どもが何歳の時に会社を立ち上げたの?

大越:上二人の子どもたちが、それぞれ2歳、1歳の頃です。

安藤:その前の、サラリーマン時代の働き方は?

大越:6年間勤めていたんですが、それこそ、残業は月100時間越え、土日出勤が当たり前でした。子ども達は2歳や1歳だったのですが、ずっと嫁さんが専業主婦で子どもを見てくれていて・・・嫁さん、キレまくりでした(苦笑)。

安藤:まぁ、そうなるよね(苦笑)。会社設立のときは家族には相談したの?

大越:相談はしたのですが、基本的に自分は一旦こうと決めたら曲げないタイプなので、嫁さんももう諦めている感じでした。

「多分今よりも忙しくなるから、よろしくね」とは言っていましたが、会社立ち上げ後しばらくは忙しすぎて帰宅出来ないこともたびたび。ほとんど家にいなかったので、嫁さんから何度か怒りの電話が会社に入りましたね(苦笑)。

安藤:子どもが生まれると、休みが取れる制度があったりする会社もあるけど取ったことはあった?

大越:サラリーマン時代に最初の子どもが生まれた時、「子どもが生まれると3日間休みがもらえる」という制度を利用して有給休暇をプラスして1週間、嫁さんの里帰り出産について行きました。

でもそれはあまり意味がなかったんですよね。ちょうど生まれたタイミングで行けたので良かったんですが、出産後の1週間は赤ちゃんも嫁さんも病院に入院していたので、自分はその期間、嫁さんの実家にただお世話になっていただけだったので・・・どのタイミングで休みを取れば良いのか分からなかったんです。

安藤:二人目の時は?

大越:ちょうど年度末近くで休みが取りづらいタイミングだったので、また生まれるのに合わせて嫁さんの実家に3日間だけ行って、すぐ東京に戻りました。

安藤:残業短縮とか上司に相談したりした?

大越:しましたが、課長は「奥さん、専業主婦でしょ?」という感じで・・・。そもそも制度そのものを知らないようでしたので総務に相談して、子どもが生まれてすぐの時はなるべく定時で帰らせてもらうように働きかけてもらいました。

部長は「仕事さえきっちりしてくれたら」という感じでしたね。ただ、その当時自分が担当していた仕事が特殊でピーク時は早くて帰りが26時、遅いと29時で翌朝は普通に9時に出勤していました。時間が遅くなると、上司が「もう帰らない方がいいよね」と言い出すような雰囲気で・・・、会社で仮眠を取るだけというひどい生活でしたね。

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【ワークライフバランスへのシフトチェンジ】

安藤:そういう環境の中で、ウィルドではよく「ワークライフバランス」について気がつくことが出来たね。きっかけはあったんですか?

大越:2011年くらいに、システム開発プロジェクトマネージャーのための、土日のセミナーを受講しました。いくつか講義がある中で自分が好きなものを受講するんですが、そこでたまたま小室さん(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室淑恵さん)の講義に出席したんです。

周りはシステム開発のマネージャーばかりですので、会場の雰囲気もワークライフバランスについて全く理解も共感も出来ない感じでした。でも自分には結構刺さって、「理想論かもしれないけれど、これが実現出来たらすごいな」と思いました。

安藤:そこで試みてみたのがすごいね。やってみて効果を実感したのはどんなこと?

大越:まずは既存のインフラですぐ出来る「朝・夜メール」を実践しました。(注:職場の現状把握に有効とされる手法。朝は各メンバーが当日の予定を上司に送りチェックを受ける。夜は退社前に朝メールした内容をもとに実際の業務内容を記入して上司にメールする、というもの)

それで誰が何をやっているのかは共有出来るようになったのは良かったのですが、無駄を省いて個人の生産性を追い求めるようになっていったら、コミュニケーションが少なくなりチームがギスギスするようになってしまいまして。「楽しくない、これは違う」と思い、生産性ばかりに目を向けるのではなく、コミュニケーションを取って一緒に働く仲間のことをもっと知ろうと思って始めたのが現在まで続いている、毎週火曜日午後に30分間行う「おやつタイム」です。

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安藤:どんなことをするの?

大越:その日オフィスにいるメンバー全員で一旦仕事の手をとめて、おやつを食べながらおしゃべりするというものです。「週末こういうことをした」「いまハマっている趣味はこれ」とか、子育てやプライベートのことについて話します。

安藤:横尾さんは、この「おやつタイム」を始めようと社長が言い出した時にはどんな風に感じました?

横尾:最初は本当に何を話したらいいんだろうと・・・普段は仕事の話ばかりでしたので。でも社長が話をふってくれて話しやすい雰囲気を作ってくれたんですよね。あと、社長はお子さんがもう何人もいらっしゃって子育ての先輩でしたので、子育てのこと、私は夜泣きや病気のことについて相談したりしました。

大越:実際には育児についての質問は、自分を通り過ぎてそのまま嫁さんに「これどう思う?」って聞いて、答えていたんですけどね(苦笑)。それまでは、あまり仕事の時に「お子さんどう?」とか声をかけられませんでした。

横尾:忙しい仕事のなかで、ほっと一息つけてリフレッシュできるので「おやつタイム」は貴重な時間になっています。それ以降は職場の中も普段から雑談も交えたりできるようになり、よりコミュニケーションが取りやすくなったと思います。

大越:お菓子も会社の経費ですし、時間も休憩時間ではなく勤務時間としてカウントしています。始めて2年近く経つのですが各自がプライベートのことを話してくれるようになったので、それぞれの置かれている状況をより深く共有できるようになりました。

また私自身、子どもが4人になると嫁さんにだけ任せておける状態ではなくなってきて、スケジュールにプライベートの予定も入れざるを得ないようになってきた。仕事とプライベートと分けてスケジュール管理するのではなくひとつにまとめて、しかも社員全員で共有しているスケジュール管理ソフト(サイボウズ)に入れて公開することにしたんです。

さらに他の社員にも、プライベートの予定をスケジュールに乗せるよう薦めました。最初はみんな「私用」とだけ入れていたのが、だんだん「保育園のミーティング」「夫の誕生日のため」など事情をオープンに書けるようになってきました。すると、みんなでその人の予定に合わせたタスク管理が出来るようになってきたんですよね。「この時間に帰りたいと言っているんだから、ギリギリで急に仕事を頼むのは控えよう」といった具合です。

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安藤:ワークライフバランスを導入して社員の入社希望や離職に関して変化はあった?

大越:会社立ち上げ当初は短期間で離職する社員もいたのですが、ここ3〜4年はひとりも辞めていません。横尾さんが2回目の産休に入るとき、本人から仕事を続けられるか不安だと相談を受けたのですが、ワークライフバランスについて学んだ後だったので、「復職してみて、それから考えてみたら?」と言うことが出来ました。会社にとっても、いてもらわなければ困る人材ですからね。「どうしたら復帰できるか考えてみようか」と提案しました。この規模の会社なので希望を聞いて柔軟に対応して行こう、と考えられたんです。

横尾:自分としては2回目の産休に入る時、上の子の子育ても自分一人ですべてやっている上に、今度は双子がおなかの中にいて、働き続けるのは無理だと諦める気持ちが本当に大きかったんです。社長に相談した時に、まさか復帰を薦められるとは思っていなかったので、とても驚きました。

復帰しても数週間は一杯一杯で「私に両立する事が出来るんだろうか、無理じゃないか?」と思う事がありました。でも周囲の理解があって助けてくれるし、ようやく最近になって自分もペースがつかめてきた感じがします。

安藤:仕事を続けて、良かったと思いますか?

横尾:本当に良かったです。もし育児だけになっていたらストレスでどうなっていたか・・・。周りの家族にも頼れないし、夫は仕事が忙しくて、保育園の送り迎えから全部私が一人でやっていますので、心のバランスが崩れていたかもしれません。

大越:女性でもう一人、育児のため6時間の時短勤務をしている社員がいます。時短勤務などへの男性社員たちの理解は最初はやはり難しかったですが、今ちょうど啓蒙が進んで来て、みんなその必要性について分かった段階に来ていると思います。

ただ実感としては、ワークライフバランス導入初期はどうしても一旦生産性が落ちるんですよね。でもその時期は脱したと思います。働きやすい環境は整ってきた。ここからは職務を果たして生産性を上げ、結果を出して行く段階に入って行きます。来期には良い数字が出せるでしょう。社内もいいムードです。

【管理職にとってのワークライフバランス効果とは】

安藤:管理側の社員(ボス)に、ワークライフバランスの効果は出ました?

大越:結婚している社員が三人、そのうち子どもがいるのが一人います。定時で全員仕事を切り上げて帰宅するという方針への反発はありません。休みをとったり時短勤務したりすることが育児や介護をしている社員だけの特権にならず、誰でもプライベートの充実やリフレッシュのために休むのだ、という理想は共有できていると思います。

安藤:「イクボス10カ条」に当てはめてみると、自分はどう?

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<イラスト:東京新聞>

大越:ほぼ出来ていると思います。あとは数字としての結果を出せば満点です。仕事の受け方や進め方を変えた2年前半前から、女性の入社希望者も増えた。男性社員も趣味や家族との時間を取るようになり、残業時間は大幅減になりました。

今、うちの業界は全体として仕事量が増えていますので、知り合いの会社で過去最高の業績を出している会社も少なくありません。経営者としてはここでしっかりと数字を出さなければ、「ワークライフバランスなんて言ってるからだよ」とよその会社さんから言われてしまうわけです。ボスはよい業績を出すのが仕事です。ウィルドもこれまで赤字だったが、皆が経験を積み、若手も育ってきたので新年度はよい数字が出せそう。「ワークライフバランスは業績向上をもたらす」と証明したいんです!

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安藤:今後、「おやつタイム」以外にも取り入れたい制度とかありますか?

大越:去年までは「ノー残業デー」を作っていました。男性社員に時間的制約を持って仕事する意識付けをするために毎週木曜日と決めて取り組んでいたのですが、全員が同じ曜日に早く帰りたい訳ではないので、来期からは各自で週に1回、この日をノー残業デーにすると申告して実施するというスタイルにしようと考えています。

さらに四半期単位で成績が残せたら、次の四半期はノー残業デーを週2日にしようかと。最終的な理想としては「全員毎日定時で帰れて売り上げも伸びて行く」ことなので、そこに向けて行きたいです。うちの会社らしいワークライフバランスの中で「成績」が伴うといいですね。

安藤:社員も会社も心身ともに健康でね。

大越:そうですね。あと、私自身もそうなのですがプライベートでのつながりも仕事に関わってくることがあるんですよね。自分の仕事がちゃんとこなせるようになったら、社員には外に視線を向けて欲しいと思っています。

若い人たちが仕事を早く終え、職場外の世界で自分の居場所をもう一つ持つこと。それが仕事にもプラスと思います。たとえば仕事を10分早く終わらせられるようになったら、その時間を新しいスキル取得やプライベートに使ってバランスよく自分らしく生活する。それを徐々に進めていってくれればいいですね。

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【パパが変わって、ママや子ども達の反応は】

安藤:大越パパが「イクメン」に変わって、ご家族の反応はどうですか?(笑)

大越:「前に比べればだいぶ良くなってきたけど、まだ足りないね」と(笑)。

安藤:僕もまだよく言われるよ(笑)。奥さんは永遠のボスだからね。でも大越さんは、時間を作って子どもと遊びに行ったりしてナイスなパパだと思うよ。地域活動とかもやってるの?

大越:これまでマンションの理事長を5年間務めてきたのですがこの6月で卒業する予定です。任期を越えてやってきたのですが、同じ人がずっとやっていてもと思いまして。今度は、活動の場を小学校の方へ移行しようと思い、先日小学校の「父親の会」に入会してきました。

安藤:そりゃあいい。どんどんやるといいよ。きっとそれも仕事にプラスになるから。子育て中の親は忙しくてなかなか家庭や地域で過ごす時間がないから、時短勤務などを活用してそういう時間をとれるといいよね。ネットワークも広がるしコミュニケーション力やいろいろな力も身につく。会社と自宅の往復だけだと人間的に成長しないんだよ。

【オリジナルのイクボスを目指して】

大越:今、イクボスの講習会に出たり、自分で試行錯誤しながら自分なりのイクボスを目指している所です。何が正解かもまだ分かりませんし、会社の規模や状況によって違ってきますので、周りの社員たちの反応を見ながら、新しいイクボス像をクリエイトしています。

安藤:育児と一緒だよね。それぞれの家庭や状況に応じて違うから真似してうまくいくわけじゃないしね。

大越:やってみてうまくいかなかったら、それをいかにしてうまくいくように変えて行くかですよね。たとえば、IT業界とまとめてしまうと、どんなに夜遅くでも対応してくれるのが当たり前となってしまうかもしれませんが、「うちの会社は、ワークライフバランスを導入しているため、18時30分以降の電話は取りません」などと外側に向けてしっかり発信していくことで、取引先の企業さんも理解して、対応してくださるようになったりするんですよね。自分の状況と希望をきちっと伝えることが出来るだけで、だいぶ状況が変わると思います。

安藤:最後に横尾さんにとって、大越さんはどんなボスか教えていただけますか?

横尾:自分の立場や状況を理解してくれて適切な助言もくれる、パパとしても社長としても頼りになるボスです。今まで自分がしていただいた恩を少しでも返せるよう、ずっとこの会社で頑張って働き続けたいなと思っています。

安藤:ありがとうございました!

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大越ボスの、「あとは結果を出すだけ」という迷いのない視線が印象的でした。横尾さんもご同席いただき、誠にありがとうございました。

聞き手:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
筆:笹川直子
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2014年04月21日

第1回 仲木威雄さん(さわかみ投信株式会社 取締役)

イクボス・ロールモデルインタビュー第1回は、さわかみ投信の仲木ボスが登場。
かつては仕事一筋・ワーカホリックな働き方だったご自身がどうしてワークライフバランスを重視するようになったのか?また、社内でインパクトのある「出産祝い金制度」を作り、女性の育休復帰や、男性も育休を取りやすくしたマネジメントとその意図について、本社でお話をうかがいました。(FJイクボスプロジェクト

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<仲木威雄さんプロフィール>
1977年生まれ。三菱信託銀行からプルデンシャル生命を経て、2004年9月よりさわかみ投信株式会社入社。妻、長女(2007年うまれ)、次女(2009年うまれ)の4人家族。次女が1歳になる1ヶ月前(2010年1月)に、社内で初めて育児休暇を取得(1ヶ月間)。FJ会員。

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【「残メシ」に優越感を覚える体育会系ワーカホリック社員が育休を取得】

安藤:独身時代とか若い頃は、どんな働き方でしたか?

仲木:典型的な体育会系のワーカホリック(仕事中毒)でしたね。子どもが生まれる迄は、「体力バカ」「仕事バカ」でした。「夜遅くまで仕事をして当たり前」「夜遅くまで飲んでも早朝出社する体力と気合いがあって当たり前」「土日に出社も当たり前。振替休日なんてあり得ない」。まあ、典型的なリゲイン・サラリーマンでした。残業が当たり前で管理職は夜10時から会議するということがこと普通になっていました。

土日もほとんど仕事で埋まり出張で全国を飛び回っていました。それこそ「休日って何?」って思っていました。ワーク・ライフ・バランスという考え方は私の中に微塵もありませんでした。

長時間労働がデフォルト状態で、「残業して夜の飯を食う」=「『残メシ』する」ことに、妙な優越感があったりしていたんです。「俺、仕事してるわ~」という感じのね。

安藤:結婚では変わらなかった?新婚なのに大丈夫だったの?

仲木:全く変わりませんでした。いわゆる新婚生活ってほとんど無かったような気がします。大丈夫とかいうよりも、家庭より仕事が完全優先だったので気になりませんでした。妻は「完全に諦めていた」と言っています。「やるといったら聞かない人だから」と。

安藤:子どもが生まれるとそうもいかなくなるよね。家事などはやってなかったの?

仲木:子どもが生まれても全く変わりませんでした。家事の手伝いもやっていないに等しいです。いえ、全くやっていなかったです。新婚なのに、仕事や飲み会でほとんど家に居なかったのです。「男は仕事、女は家事・育児」と旧態依然の価値観にガチガチに縛られていました。

子どもはもともと好きなので、妻の妊娠が分かったときは飛び上がって喜びましたし、妻のお腹をさすりながら「俺ら夫婦を選んでくれてありがとう」とお腹の子に話しかけ、「この子が生まれたら、めちゃくちゃ可愛がる」と親バカ&パパ宣言を妻にしていたのですが・・・。   

いざ長女が生まれてみると、ほんまにめちゃくちゃ可愛いのですが、どうしても目の前の仕事を優先してしまい、妻に任せっぱなしだったのです。

特に長女が生まれた2007年から次女が生まれた2009年頃ごろは、会社としても本当に大事な時期でした。こういうタイミングは重なるものですね。責任ある立場でもあったので、強烈な使命感に駆られて、さらに仕事に没頭していきました。平日は娘たちの寝顔を見るだけ、土日も朝に「おはよう。行ってきます」との会話だけという状態が続いていました。

すると、長女が3歳になったころ、だんだん関係がおかしくなってきたんです。
「パパ、となりに寝ちゃイヤ」「一緒にお風呂に入るのイヤ」・・・、初めは笑っていたんですが、何回も続いたので、「これはおかしい」と気付いたんです。

FJの仲間からもそういう例を聞いていたので、「これか」と分かりました。このまま行くと、この時期にしか作れない信頼関係を作れないぞと。

それで、次女がちょうど1歳になる前だったので、社長(現・会長)に「育児休暇、1ヵ月取ります」と伝えました。

安藤:社長の反応はどうだった?

仲木:社長は創業者でもあり猛烈仕事人間なので、自分の家族よりもお客様という考えですが、社員の家族のことは本当に気遣ってくれます。当時はそんな素振りは見せませんでしたが、育児休暇の取得を伝えたときは、即答で「取れ、取れ」と後押ししてくれました。

当時、私の「仕事の質」は未熟でしたが、「仕事の量」だけは圧倒的だったこともあるとは思います。そもそも、育児休暇の制度自体はあったのですが、誰も取得した実績がなかったですし、話題にも上がっていませんでした。そこで数人の女性社員に育休の取得について相談したら、「仲木さんが取得しないと、他に誰もとれない」「絶対取るべき」と言ってくれたことも心強かったです。

それで自分でも、「猛烈に仕事をしていて、育休を取りそうにない人間が率先して取得することで、後に続く社員も出てくるかもしれない」と思いました。

実際これまでに、5人の男性社員が育休を取得しています。育休を取りやすい環境づくりをつくるためにいろいろ仕掛けてきました。今でも新米パパには「子どもは元気?」「奥さんの体調は?」と気軽に話しかけたり、社員全員に育児休暇の魅力を伝えたりもしています。

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安藤:育休とってみて、親子関係は変わった?

仲木:劇的に改善しました。長女は、たった3日で、「お父さんとお風呂に入る」「お父さんと一緒に寝る」と言ってきてくれて。もう、泣きそうでしたよ。

1ヶ月の育休とはいえ、実際には、仕事の都合で、半分ほどは出社していたのですが、娘たちが起きてから寝るまでの一日中一緒にいることができたことは大きいです。

子どもとの時間は、「質ではない、量が大事」だと痛感しました。そもそも子育ては期間限定ですからね。

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安藤:奥さんの反応は?

仲木:長女との関係については、妻も心配していましたので「良かったね」と言ってくれました。また、妻や娘たちの生活リズムを知ることができたことも収穫でした。

それまでは家事も全く手伝わなかったですし、家の中にどこに何があるかも全く把握していなかったのですが、妻の家事のやり方等が分かった事で、育休が終わってからも時間を見つけて効率的に手伝いが出来るよ
うになりました。

妻は私が家事をすることについても「完全に諦めていた」ようでしたので、変化には驚いていいます。妻とのコミュニケーションも改善されていきました。FJのパパたちに感謝感謝です。

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【「出産祝い金100万円」を提案、実現】

安藤:自分が家族を持ってみて、育休とか制度を整えようと思った?

仲木:今の会社に転職した頃、先輩社員たちが、「二人目が作れない」と言っているのを聞いたことがありました。それで、その理由を聞いてみたら、経済的につらいと。自分は新婚でしたが、長時間労働や少子化という時流に、それでは良くないと思い、社員の全体会議の場で、出産祝い金のしくみを作る事を提案しました。2006年頃でした。

安藤:社員みんなの反応は?

仲木:「おー」と、どよめきましたね。1人の子どもにつき100万円です。社長も即決で同意してくれました。今迄に26人の社員、35人の子どもに支給されました(※2014年4月現在)。実は、10人目の子どもが産まれたら、1人1000万円です。まだ実績はありませんが(笑)。

女性社員からは、「この会社にもっと早く入社していれば、私ももう一人産んだのに~」という声も出ています。この制度が、子どもが欲しい社員の後押しになっていることは事実だと思います。

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【当事者意識のあるイクボス】

安藤:「イクボス」の定義の中に、「部下の人生を考えてあげるとともに、会社の業績も上げていく」というのがあるんだけど。

仲木:多様な働き方を応援しています。部下にはいつも、まず「なりたい自分」や「ライフプラン」を描き「自分軸」を定めるように声をかけています。

上司の顔色をうかがわず、自分らしく生きる、そして自分本来の意見を言えることの方が大事ですし、そういう社員の方がアウトプットの中身もオリジナリティーに溢れて面白いことが多いです。

社員一人一人の人生を大切にするためにも、業務時間終了以降の会議はやりません。もちろん、自主参加タイプの会は催します。社内の飲み会も劇的に減らしました。

また、権限も現場に相当委譲しました。会議や報告の時間を減らしたかったのも一因です。そして、部下には、会社の外のコミュニティに積極的に関わることを勧めています。今は時流の変化が早い時代になってきていて、社内で仕事をしているだけでは世の中の流れを肌で感じることが出来ません。

自分もFJや幼稚園のパパ会、地域活動に参加したり、マンションの「おっさん会」を開いたりすることで、会社の外の人との交流が仕事にも良い影響を与えていると実感しています。

これらの活動は「やらなければならない」というような義務感というより、「楽しい、面白い、自分らしい」と感じるからやっています。

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安藤:育児が仕事に影響を与えていると感じる事は?

仲木:娘たちや妻としっかり向き合う事によって、価値観や生き方、働き方が完全に切り変わりました。OSが切り替わるってやつです。自然体で「自分らしさ」や「自分はどうあるべきか」についてゼロベースで考える「軸」を再構築することができたことが大きいです。

同様に、部下の個性を認めて、活かすことが会社の成長に直結すると確信しました。家庭でも職場でも、それぞれの人が、みんな個性をのびのびと発揮して、明るく、なりたい自分になれる環境を整えるような、「太陽」のような存在になりたいと思っています。

安藤:子育てを経た「当事者意識」を持つイクボスだから持てる意識かもしれないね。

仲木:育児は「家庭内留学」とも言われますから、子どもがいる部下には積極的に育休をとって育児を体験してほしいし、子どもがいない部下には外へ目を向けるように促しています。そうすることで、会社全体に自然とダイバーシティが実現できると思っています。

正直言って、自分の子どもが生まれる前であれば、部下が育休を取得したいと相談に来られたら、頭では理解出来ても、心の底から素直に喜べなかったと思います、仕事の人員配分などのことを先に考えてしまって。
自分が実際に体験した事で、今では「素晴らし!!どんどん育休をとれ!」と言えるようになりました。

【これから目指したいイクボス像とは】

安藤:「イクボス10か条」というのがあるんだけど、この中で当てはまる、当てはまらないというのはある?

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<イラスト:東京新聞>

仲木:6番の、仕事のシステムのモバイルやクラウド化の導入による効率化、というところが、会社全体としてこれからの課題ですね。

安藤:他はだいたい出来ている感じかな。

仲木:会議を減らしたり、意思決定のスピード化などは力を入れてきいました。また、育休を取得した社員にそのことをみんなの前でシェアしてもらったり、「育休のあとは介護休暇っていうのもある」なんていう話をみんなの前で軽くしたりする事で、部下から上司に「実は介護のことも考えていて・・・」などと話し出しやすい雰囲気を作ったりしています。コミュニケーションをとりやすい雰囲気作りも大切ですよね。

安藤:「自分色に染めたい」ボスじゃなくてね。

仲木:そうそう、世の中にはまだまだ自分色に染めたがるボスがいるようですね。自分に自信がないのでしょう。そんなボスに部下は上辺では従っていても、心では慕いません。そいう会社の業績は伸び悩むでしょう。
私の理想は、日本代表です。具体的にいえばワールドベースボールで世界一になった王監督が率いていた侍JAPANですね。

各人のプロ意識が高く、己の武器があり、それぞれ野武士のような強烈な個性がある。が、いざという時には団結できる柔軟性かつ多様性にとんだチーム。「言いたい事を気軽に言いあえて、いろんな個性を認めあえる」チームは最高です。そこから生まれる信頼感は、会社全体にとても良い影響を及ぼします。

父親としては、お母さんや、娘など、みんながいるから輝ける家族を作って行きたいし、会社では、みんなが自分らしい生き方を思い描いて実現していける、それぞれがもっと人生を楽しんで、お互いに良い影響を与えあう、そんな信頼と刺激のあるチームを作っていきたいんです。

安藤:まさに父親としての役割が、ボスとしての役割と重なるところだね。

仲木:本当にそうですね。父親として自分の役割を見直すことで、上司としての働き方も見直すことができました。今後、社会がどんなに変化していこうとも、自分の軸をしっかり持って、ワークとライフをメリハリつけて自分らしく楽しんで生きていけるようになってほしいのです。

安藤:これからの課題は?

仲木:課題というよりも、気にかけていることは、育休中の女性社員の職場復帰です。今までは、出産と育児で休みを取得して、そのまま退職してしまうパターンばかりだったのです。彼女が職場復帰に至るまで、そして復帰後のマネジメントにしっかりと心配りしたいです。

安藤:FJのイクボス講座では、そのあたりのことも取り上げて行く予定です。

仲木:今までにない事例なので、しっかりとマネジメントしていきたいです。一人一人の社員が、もっと輝いて、自分らしく生きていけるように、自分もまだまだ学んでいきたいですね。笑っている父親が増えて、家庭や、会社や社会が明るくなれば最高です。また、イクボスが増えて、輝く社員が増えて、会社の業績もあがり、日本に活気がでてくればこれまた最高です。

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仲木さん、貴重なお話をありがとうございました。

聞き手:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
筆:笹川直子
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