2016年08月14日

第24回 長澤啓さん&柄沢聡太郎さん(株式会社メルカリ執行役員)

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イクボスロールモデルインタビュー第24回は、株式会社メルカリの執行役員CFO長澤啓さん、執行役員CTO柄沢聡太郎さん。”新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”というミッションを掲げて大躍進中のフリマアプリ「メルカリ」のサービスを提供している会社だ。HRグループ石黒卓弥さんにも加わっていただき、ご自身の働き方や、新人事制度「merci box(メルシーボックス)」についてもお話を伺った。

<長澤啓さんプロフィール>
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当。2007年にシカゴ大学経営大学院を卒業の後、ゴールドマン・サックス証券にジョインし、東京及びサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年6月にCFOとして株式会社メルカリに参画。1976年生まれ。5歳と2カ月のお子さんのパパ。

<柄沢聡太郎さんプロフィール>
在学中である2007年末からエンジニアグループnequal を立ち上げ、サービスなどを運営。2010年中央大学大学院卒業後、グリー株式会社に入社。退社後2011年2月株式会社クロコスを立ち上げ、CTO就任。日本初のFacebook社”認定マーケティング開発社”となる。2012年8月、クロコスをヤフー株式会社へ売却。その後もヤフーのグループ会社としてクロコスの事業成長と平行して、ヤフー自身のソーシャルの展開、新規事業を担当。強い開発組織のためのマネージメントを経験した後、2015年5月、株式会社メルカリに参画。執行役員CTOとして、技術領域全般を統括。1985年生まれ。4カ月のお子さんのパパ。


【育休中の給与を会社が100%保障】
安藤:メルカリは、いつ創業されたんですか?

長澤:2013年2月創業です。

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安藤:長澤さんは同業からの転職ですか?

長澤:いえ、金融機関から2015年6月に転職しました。現在、5歳の子と、生後2カ月の子がいます。前職は金融関係で、仕事が忙しく、育児にそんなに関わることができませんでした。妻も働いていましたから、託児所に送りに行くのは自分でしたが。妻の実家近くに住んでいるのですが、実家のサポート無しでは難しかったですね。

安藤:柄沢さんはいかがですか?

柄沢:生後4カ月の子がいます。妻は育休中ですが、復帰は保育園次第です。

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長澤:今住んでいるところは待機児童が多い地域で、下の子の保活が大変です。上の子は幼稚園に通っています。

安藤:産休・育休期間中の給与を会社が100%保障する制度(女性は産前10週+産後約6カ月間の給与を100%保障、男性は産後8週の給与を100%保障)を導入されたそうですが、お二人は育休を取得したんですか?
※新人事制度「merci box(メルシーボックス)」

長澤:育休を3カ月取っています。今も育休中なんですよ。育休中でも仕事は止まりませんから、育休を取りながらフレキシブルに働いています。チームには若干迷惑をかけている部分もあると思いますが。

安藤:育休中でも働けるということは意外と知られていませんね。育休を取ると、その間は一切仕事をしてはいけないと考えがちですが、2014年の育児・介護制度法改正によって、月80時間までなら働けることになっています。男性は育休を取ると隔絶感からネガティブな気分になる人もいるから、育休中でも働けるといいですね。会社から労働を強制してはいけませんが、育休中からフレキシブルに働くパパやママがが、今後増えていくのではないでしょうか。

柄沢:僕も1カ月間は育休をしっかり取りました。その間、週1日は出社していましたね。

安藤:出産で里帰りはしなかったんですか?

柄沢:里帰りはしていません。いざとなれば親に来てもらえますが、基本的には夫婦2人でやってました。でも、やってみたら意外と2人でやれると思いました。子どもが生まれる前は同世代のママたちから「大変、大変」って聞いていましたけれど。でも、今思うと、その大変さって、パパが子育てにあまり参加できていないからかも、と思ったり。

安藤:パパが子育てに手を出すと、ペースを乱されるというママもたまにいますが、奥様はいかがですか?

柄沢:全くそういう意識はないと思います。授乳以外は、全ての作業、2人でできますから。

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【制度と風土が育休取得を後押し】
安藤:子育ての大変さの中味って、子どもの成長と共に変わっていくんです。乳幼児の頃は家庭内の不慮の事故なんかも多い。講座では、「ワークライフバランスの『ライフ』は、子どもの命を守ること」と伝えています。夫婦でいい働き方ができていると、子育ても2人でできるから安全ですね。

長澤:1人目の子どもの時もやることはやっていましたが、今の方が会社の理解もあり、時間を使いやすいですね。会社が心からサポートしてくれていることを感じます。育休を取ることに対しても、全く躊躇ありませんでした。前職の証券会社の時とは全く違いますね。前職の時も制度はありましたが、実際に育休を取る人はほとんどいませんでした。

安藤:「制度より、風土改革」ってイクボス研修では言っています。日本人はどうしても空気読んじゃいますからね。職場で言い出しにくくて、育休を取得できなくなる。

柄沢:制度ができてから、みんな育休取るようになりましたね。子どもが生まれて育休取らないと、「何で取らないの?」と言われちゃうくらいです。

安藤:メルカリさんの「育休中の給与補償100%」は画期的ですね。

石黒:採用の場面でも、伝えています。社員の平均年齢は30歳くらいです。また労務担当も育児に協力的で、積極的に提案してもらえることもあります。例えば、僕が子どもの病気のときに有給休暇を使っていたら「有給ではなく看護休暇を使ったらどうか」って教えてもらいました。嬉しいですよね。有給がまだ残っていたので、そちらを使っていたんですが。

安藤:いまや、「ペットの忌引き休暇」なんていう制度を作っている会社もありますからね。両立支援は創業当初からですか?

石黒:元々協力的な社風ではありましたが、2016年2月に「merci box(メルシーボックス)」として人事制度をまとめたものを導入しました。代表の山田にも昨年子どもが生まれたこともあり、従業員にも子どもが生まれる人が少しずつ増えてきて、ちょうど需要があったということですね。あとは企業としてのブランディングということもあります。

それぞれがプロフェッショナルとしてパフォーマンスを出せるように、休むときはしっかり休むというのが、従業員に届いていると思います。

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安藤:メルカリさんには妊活支援の制度もありますね。(高額な費用が発生する可能性のある不妊治療を行う場合、治療開始から10年間、所得や年齢の制限なく、その費用を会社が一部負担)

石黒:社外の友人から、不妊治療に非常に高額なお金がかかったという話を聞いたこともあります。

安藤:少子化だから公的な支援(助成金制度)もありますが、「保険適用」未だ議論中です。

石黒:妊活の相談も増えてきています。年齢制限もありませんし。

安藤:不妊の原因の半分は男性です。また「二人目不妊」に悩むカップルの割合は、確実に増えていると言われています。

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【制度は利用しやすく&仕事のパフォーマンスをしっかり求める】
長澤:制度の利用しやすさを認知してもらうことはとても大切だと思っています。ただし、プロとして働いているのだから、仕事のパフォーマンスはちゃんと出して欲しい。自分自身もそういう姿勢で働いています。

安藤:充実した支援にのっかるだけのフリーライダー社員に悩む企業もあります。

柄沢:会社の支援はいろいろ充実しているけれど、福利厚生があって当たり前ではなく、会社に貢献しているから制度を使えるという考え方が大事だと思っています。

安藤:タイムカードはあるんですか?

柄沢:一応、勤務時間は記録しています。でもフレックスで働いている人がほとんどです。コアタイムは設定しています。

安藤:上司との定期的な面談はありますか?

柄沢:人事やマネージャーとはかなりシビアに面談をします。確実に成果を出せるように働く→フィードバック→成果に応じてた形の昇降給、を実施しています。。

安藤:スタッフも成長していかなくてはなりませんね。

柄沢:緊張感を持って働いていると思います。

安藤:決まった時間の中でハードに働いて、生活を楽しむのがいいですね。

石黒:妊活や、病児保育もですが、今後介護などについても考えていくことが必要だと思っています。介護が始まる従業員も出てくると思います。

安藤:従業員の平均年齢が若いから、介護の課題はこれからですかね?

石黒:エンジニアには40代以上のメンバーも多く在籍しています。他にも声としては学童保育の支援もあるといいなという話も出ています。

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安藤:社内制度を変えると、事業への可能性が見えてくることもあります。

長澤:育休やいろいろな制度を利用することは悪ではない。ロングタイムで見たらパフォーマンスは落ちていない、むしろ事業へのアイディアが生まれたり、パフォーマンスが上がっていくということが大切だと思います。

安藤:ちまたの40〜50代の管理職の多くは、「休むことは悪だ」と思っている。

長澤:長時間職場にいることが評価されるという評価システム自体を変えるべきだと思います。フェアな評価ではありません。

安藤:特に女性はフェアネスの意識が強いですから、ちゃんと評価されない会社からは黙って去ってしまうでしょう。

柄沢:メルカリの制度についてのいろいろ問い合わせをもらいますし、真似てもらうことは嬉しく思いますが、制度を作る前にもできることがあると思うんですよ。社員の評価をどこで見るか、社員がどうパフォーマンスを出せるかという事が大事ですね。例えば、仕事が早く終わって帰る人が評価されず、遅くまで残っている人が評価される環境で、制度だけ導入してもうまくいきませんよね。。

石黒:仲間意識でだらだらと残業しちゃう、というような雰囲気は、よくないですよね。メルカリには部活制度、という仕組みがあり、その一例としてバスケ部だったりワイン部だったり。皆定時に一斉に帰って、部活を楽しんでいますよ。

柄沢:僕は基本的には育児のために夕方5時に帰っています。もちろん何かあればリモートでも対応できるので。。

安藤:上司が「早く帰っちゃって困る」と思うのか、「早く仕事を終えて帰って、すばらしい」と思うのか。評価の考え方を変える、労働時間の概念を変えることが必要ですね。
メルカリさんの取り組みや企業風土はきっと、会いバーシティ推進を目指す他企業にとっても参考になるものです。これからも期待しています。今日はどうもありがとうございました!

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(筆:高祖常子)
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2016年07月15日

第23回 石坂博史さん(NTT都市開発株式会社 経営企画部 広報・マーケティング室長)

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イクボスロールモデルインタビュー第23回は、「イクボス企業同盟」に加盟し、NTTグループの一員として「女性リーダーの育成」「仕事と育児の両立支援」「働き方改革」を推進するNTT都市開発株式会社の石坂博史さん。経営企画部 広報・マーケティング室長として部下を率いながらも、地元・世田谷区の子育て支援団体である「おやじの会」のメンバーとして地域の子どもたちと積極的に交流。子どもが通う小学校で読み聞かせボランティアの活動も行う “地域内イクボス”でもある。「おやじの会」や読み聞かせにまつわるユニークなエピソードも披露され、笑いの絶えない和やかな雰囲気の中、“石坂流”イクボスの価値観について伺った。

〈石坂博史さんプロフィール〉
NTT都市開発株式会社 経営企画部 広報・マーケティング室長。1967年生まれ。大学卒業後NTTに入社し主に法人営業系の業務に携わる。2012年、グループ会社であるNTT都市開発株式会社に異動し、経営企画部に。小6の女の子、小2の男の子の父親であり、妻も共働きで頑張っている。

【「朝、子どもを保育園に連れていくのは自分の役目」と決めた】

安藤: 石坂さんは、ご結婚はいつされたのですか? 結婚前の働き方はいかがでしたか?

石坂: 結婚は34歳の時でした。結婚前は、週に何日も徹夜しながらガンガン働いていましたね。スキルや経験のない若い自分が、会社の中で自分なりの役割を果たすためには、徹夜してでも何でも、仕事の“量“で勝負して、先輩たちに負けない仕事をしたいと思いながら働いていました。当時はそれが楽しかったです。

安藤: 確かに、仕事に打ち込むことで人間的にも成長する部分はありますよね。

石坂: そうですね。仕事に打ち込んでスキルや経験を積み重ねることで、周りの人からも信頼されますし。もともと体育会系気質で、上司から叱咤激励されたりするとますます燃えるタイプなので(笑)、かなり長時間労働していました。

安藤: 僕も石坂さんと同世代で、20代の頃はまさに石坂さんと同じような働き方をしていましたよ。当時は、「この働き方でいいんだ」って信じていました。結婚後、働き方は変わりましたか?

石坂: いえ、結婚後もしばらくは、仕事人間でした。ただ、僕の両親は共働きだったのですが、バリバリ働くお袋を親父がものすごく大事にしていて、掃除や洗濯なども率先して行ってお袋を支えていたのです。小さい頃からそんな両親の姿を見てきていたせいか、掃除、洗濯、ゴミ出しなどは、自分から進んでやっていましたね。平日は相変わらず長時間労働でしたが、一人暮らしが長く、料理も嫌いではなかったので、週末は時々僕が料理を担当して妻にふるまっていました。僕が料理を作るたび、妻が「おいしいわ、あなたの料理」ってほめてくれまして。妻は僕をおだてるのがうまいのですよ(笑)。

安藤: ほめ上手な奥さん。夫をその気にさせて、すごいですね。

石坂: そうですね。奥さんって、ある意味“家庭でのリーダー”じゃないですか。そういう目で妻の家庭でのマネジメントや仕切り方を見ていると、あらゆる面で何もかもかなわないんですよ。多分、他のご家庭でもそうだと思います。当社では女性活躍を推進していますが、“家庭でのリーダー”としての妻の働きぶりを見ていると、「(男性よりも)女性のほうが、マネージャー資質がある」ということをつくづく感じます。

安藤: なるほど。確かにそうですね。その後お子さんが生まれ、育児とどのように向き合ったのですか?

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石坂: 住まいのある地域は待機児童が多く、保育園に申請しても落ちてしまって、妻がしばらく育児休暇をとっていました。妻の職場復帰後も、仕事は相変わらず忙しかったですね。でも、子育てにはしっかり関わりたかったので、妻と話し合い、僕が毎朝子どもを保育園に連れていくことを決めました。夜は帰りが遅くなり、子どもの寝顔しか見られないだろうから、朝の時間を子どものために使おうと考えたのです。
でも、子どもを保育園に連れていくだけでもひと仕事じゃないですか。雨の日などは大変でしたね。僕、スーツが大好きでこだわっているのですが、保育園に遅れそうな時は「スーツがぬれる」なんて言っていられないので、ぬれねずみになりながら娘を抱きかかえて走ったこともあります。毎日必死でしたが、短い時間でも子どもと関わり続けると、子どもはパパのことを大好きでいてくれるんですよね。園まで一緒に歩きながら「パパ、きれいなお花が咲いてるよ」と教えてくれたりなど、たわいもない会話もとても楽しかったです。時がたち、今では二人とも小学生になり僕の朝の仕事は一つなくなりましたが、「関わり続けてきて正解だった」と実感しています。

安藤: いいですね。それが、僕らが言っている“パパスイッチ”なんです。パパが子どもと積極的に関わることで、子どもから楽しさや嬉しさを返してもらい、親子でいっしょに成長していけるんですよね。“パパスイッチ”が入った男性って、「自分の子どもだけではなく、子どもみんなが幸せになれるようなことができないだろうか」と考え、地域活動を始める方も多いのですが、石坂さんはいかがでしたか?

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【「強制しない」「厳しくやらない」が基本ルールの「おやじの会」は、
スーパー前向き思考】


石坂: まさにそのような思いで、上の娘が地元の塚戸小学校に入った時に、PTAとともに小学校の子どもたちがすこやかに育つための支援活動を担う「おやじの会」に入りました。

安藤: 雰囲気はどうですか?

石坂: すごく良いですよ。世田谷でも一番大きく、都内でも有数の大型校の「おやじの会」ですが、学校の先生方や地元との連携も良くて、「強制しない」「厳しくやらない」が基本ルールで、「各自が仕事や家庭の都合を考えながら、できる範囲でできることをやろう」というスタンスなんです。自ら積極的に子育てや家庭に参画している父親たちばかりなので、アットホームで楽しいですね。「おやじの会」のメンバーって、皆、スーパー前向き思考なんです。いろいろ活動しながら「今度はこういうのをやろうぜ」とか、アイディアがどんどん出てくるんですよね。

安藤:「皆がいつも笑顔でいられるために、自分たちができることをどんどん探そう」という感じなのですよね。会社組織だったら、こんな部署に新規事業をまかせたいですよね。「おやじの会」の中で、思い出に残っている活動はありますか?

石坂: たくさんあるんですけど、僕自身も含めて楽しいなと思ったのは、野外でパンを焼いて食べるイベントです。竹竿に、パンのタネをコロネみたいに巻き付けて火にあぶって食べるんです。「パンってこうやって食べるとおいしいんだ!」という子ども達の表情も最高でしたし、外で自分が作った料理を食べるということで、子どもたちもものすごく喜ぶんですよね。あとは、サバイバルキャンプですね。学校に泊まり、地元の消防署などに協力いただきながら、いざという時のサバイバル術を学ぶ催しなのですが、このイベントの夜のお楽しみが、子どもたちへの怪談話。部屋中に黒いカーテンをしきつめて真っ暗闇をつくり、読み聞かせのプロに読んでもらってすごく盛り上がりました。準備する大人が本気で取り組まないと楽しくないので、とことんまでこだわりました。

読み聞かせ.jpg 小学校で読み聞かせをする石坂さん

安藤: 素晴らしいですね。「おやじの会」では、お母さん達に対しては、何かされているのですか?

石坂:「おやじの会」は基本土日なので、家族の理解がないと活動できないんです。会として大事にしていることのひとつが、「家族満足度を上げる」ということなのですが、その目的を果たすため、年に数回、メンバーのおやじ達がホスト役として、ママ達を招待してパーティを開く「奥様に感謝する会」を開いています。普段が大変なママ達はずっと座っているだけで、ママトークに盛り上がってもらい。僕らおやじたちが、ママ達にかいがいしく料理や飲み物を運び、食べたり飲んだりしてもらう会で、毎回大好評ですよ。このような交流から、おやじの会のメンバーをご主人に持つママ達が会の活動を手伝ってくれたり、最近では、おやじの会のメンバーを父親に持つ子ども達による、「おやじチルドレン」も生まれ、主催者側に回って、おやじたちをサポートしてくれたりしています。

安藤: 「ママに感謝する会」は、僕らもよくやりますね。子どものすこやかな育ちには、何と言ってもママが笑顔でいることがいちばんですから。ところで、このような素晴らしい発想は、誰かのアイディアなのですか?最初からすんなりできていたわけではないですよね。

石坂: もちろんです。「おやじの会」の先輩たちが実践しているのを見たり、先輩たちから「これが大事なんだ」って直接教わったりして、「なるほど」って。それがずっと受け継がれていく感じです。

安藤: それこそがまさに、「地域内イクボス」なんです。

石坂: そうですね。僕は家族を持って始めて世田谷に住み始めたんです。もともと“アウェイ”な地だったのですが、「おやじの会」や子どもの学校行事に参加したりしているうちに、地域の知り合いがものすごく増えまして。今や“ホーム”です。

【「プライベートを大事にしながら、いい仕事をして成果も出す」という
“理想”を目指し続けたい】


安藤: 若い頃は、地域なんか見えていなっかと思いますが??

石坂: そうですね。でも、基本的に人が好きで、地域の商店街の人たちといつの間にか仲良くなるタイプの人間なんです。妻からも、「昔からここに住んでいたみたいね」とよくいわれます(笑)。
「おやじの会」に加えて、子どもたちの学校に出向いて読み聞かせもやっています。当社は時間休がとれるので、その日は朝の1〜2時間、時間休をとって子どもの学校に行き、本を読んでから出社しています。僕自身、もともと本が大好きなので、読む日の数週間前から絵本の専門店やお気に入りの本屋さんに足を運び、読む本を選ぶところから楽しんでいます。

安藤: 僕はいつも当日朝に決めますよ(笑)。

石坂: 読み聞かせを始めて気づいたのは、「子ども達にこんな風に情報発信させてもらえる機会をもらえるって、すごいことだな」ということです。それ以来、自分が読みたい本だけではなく、「人はどうして生きるのか」「戦争はなぜ悲しいのか」といったメッセージ性のある本を読んだ後、自分なりの解釈をこめて話をさせてもらったりするようにもなりました。このような時間を通して子どもたちと交流を重ねるうちに、子どもの名前も顔も、だんだんわかってくるんです。それで、読み聞かせの後で「○○くんはどう思う?」なんて聞いてみたり、とても充実した時間を過ごさせてもらっています。面白いテーマの絵本を読んで、いい反応をもらえた時は最高ですね。先日、6年生たちに『おなら』の本を読んだら大受けでした(笑)。

350_Ehon_109085.jpg 石坂さんの最近のお気に入り絵本『おならをならしたい』

安藤: いいですね。そっち系の本って、ママ達はあまり読まないですもんね。「お父さんが読み聞かせに来ると、お母さんが普通は読まない絵本を読むから、それがすごくいいですね」と、先生たちからおっしゃっていただいたこともあります。

石坂さんの、イクメンぶり、地域内イクボスぶりがよくわかりました。さてここからは、会社でのイクボスぶりについてお伺いしていきます。家庭や地域と積極的に、楽しく向き合っている石坂さんですが、今までお話されてきたようなご自身のプライベートのことを、会社の部下には言わないのですか?

石坂: あまり言わないですね。さしで飲みに行ったりする時には言うこともありますけど、なんというか、照れるんですよ。

安藤: 子育てに悩んでいるような部下はいないのですか?

石坂: それが、うちの部署は、いい感じのイクメンやイクママが多いんですよ。

安藤: やはり、石坂さんの生き方が部署内に浸透しているのですね。
石坂: それはどうかわからないのですが、うちの部署には僕以上にすごいパパ社員がいますよ。子どもが野球を始めたことをきっかけに、自身もコーチやったり審判の資格をとったり。週末は練習や試合に参加してくるので、週明け会社に来るたびに日焼けして黒くなっていくんですよ。仕事ぶりも優秀で、生産性も高いんです。帰れるときにはちゃんと帰り、基本的にダラダラ残っていません。

安藤: ナイスな職場じゃないですか!ライフが充実している部下がたくさんいらっしゃるのですね。

石坂: そうですね。僕自身の「ライフ」をお話すると、子どもと一緒に阿波踊りをやっています。練習は毎週金曜日を中心に行っていて、仕事で行けないこともあるのですが、高円寺、下北沢、経堂、三軒茶屋など都内で年に10回くらい出演する機会があります。

安藤: 阿波踊りの練習の日には、残業を入れないのですね?

石坂: もちろん入れません。

安藤: スケジューラーなどに、「阿波踊りのため」とか書くのですか?

石坂: それはもう、さすがにはずかしいので、非公開です(笑)。僕は、組織の中では自然体を大事にしています。メンバーには「プライベートを大事にしながら、いい仕事をして、成果も出す」という理想が自然に伝わったらいいと思っています。なので、会社や仕事だけにならずに、「家庭も大事にするよ」という姿勢は、ずっと示し続けようと思っています。

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つい先日も、平日の午後、妻の誕生日に、レストランで夫婦で食事をとりました。僕たち夫婦の間では、お互いの誕生日は休みをとり、レストランで食事をすると決めているんです。子どもたちが学校に行っている間に二人だけでゆっくりランチできるので、平日休みをとるほうが都合がいいんです。これを15年、続けていますね。

安藤: やるなあ。

石坂: 休みをとることについて言うと、若い頃、休みをとる時に上司から「理由を言いなさい」といわれるのがとてもイヤでした。休みをとるのは自然なことなのに、なぜ理由をいわないといけないのか納得できませんでした。自分自身がこのような思いを抱いてきたので、今僕は、メンバーとは、「自分の仕事が終わっていたら定時に帰ればいいし、休みも普通にとればいい」というスタンスで接しています。

安藤: なるほど。上司がそのような考え方だと、部下は休みがとりやすいですよね。

石坂: そうですね。時々、その日の午前中に「今日の午後休みます」というようなこともありますが、「家族の事情だな」など背景がすけてみえるので、それでいいかな、と。うちのメンバーの話ですが、子どもって、自分の具合が悪くなったりすると、最初に連絡をとる相手って普通、母親じゃないですか。子どもから、「体調悪いんだけど」などとSOSの電話が男親にもかかってくるんです。それだけ子どもに信頼されているということなんですよね。

安藤: やはり、石坂流がちゃんと行き届いてますね。

石坂: いや、たまたまそんなメンバーが集まったのかと。

【肩書きでなく、お互いを「さん」づけで呼び合うことを徹底していきたい】

安藤: 普通そんなことはないです。チームのムードの中で、「家庭を持ち出していいんだ」という安心感が中にあるからだと思います。それが石坂さんの、イクボス術なのです。

石坂: 会社やチームの中ではお互いを呼び合う時に、あえて役職名をつけず、「さん」づけを徹底することを意識しています。室長、部長はもちろん社長まで全部含めて「さん」づけで呼ぼうということです。当社はどちらかというと固い組織で、肩書きを大事にする面もあります。でも、上位の相手を肩書きつきで呼んだ途端、時として受け身になってしまう。「さん」づけで呼び合うことで、「フラットに、主体的に、働こう。」というメッセージを込めているつもりです。

安藤: ちなみに石坂さんは、ご家庭でも奥さんのことを家内なんていわないし、奥さんも「主人」っていわないですよね。

石坂: そうですね。妻は、僕の両親の前でだけは、まじめな呼び方をしますけど(笑)、いつもは愛称でよばれています。それも、周りの人が聞いたらふきだしそうなユニークな愛称で。妻からだけでなく、子どもたちや子どもの友達からも、その愛称でよばれることがあります(笑)。

安藤:(笑)面白いですね。そこまでくると、ある意味ラクですよね。子どもの友達にも、「このおじさんだれだっけ?」って言われるよりは、愛称でよばれるほうが全然イケていると思います。
先ほどの「さん」づけの話ですが、組織の中ではどのようにアプローチしようと思っていますか?

石坂: まずは自分のチームから始めました。また、会社で「働き方カイゼン」みたいなの取り組みがあったので、部署全体で「さん」づけで呼び合おうと提案しています。

安藤: 素晴らしい!

高橋(総務部 ダイバーシティ推進室長兼CSR推進室長):当社の牧社長も、就任のご挨拶のときに、ご自分のことを「さん」で呼んでほしいとお話しされていました。このような影響からか、全社的な雰囲気も、以前と比べると少しずつくだけてきていると思います。

IMG_9343.jpg 高橋さん

安藤: 石坂さんは、ムードメーカーなんですよね。部下からみると、石坂さんみたいなボスは人気が高いと思います。

石坂: どうでしょうね。少なくとも、子どもたちには大人気ですよ(笑)。

安藤: いやいや、これからのイクボスは、女性社員や子どもからも人気がない人でないとだめでしょう。

石坂: まあ、こんな感じなので、先ずは子どもたちの人気者からめざしていきたいですね(笑)。

安藤: それがかっこいいですよ。最後に、イクボスとしてのこれからのビジョンを教えてください。

石坂: 僕自身、たいしたことをしているつもりはなくて、これが自然だと思っているんです。自分の親もそうでしたから。僕は今、仕事も楽しくて、家庭も楽しいです。「人生の中で、仕事だけが輝いているのが幸せなのか」といったらそれは違うと思うし、いっぽうで、「家庭だけでいい」とも言い切れない。仕事も家庭も両方輝かせたいと思っていて、このような価値観を共有できるような、職場の雰囲気を作れる人になっていきたいですね。

安藤: なるほど。確かにそうですね。今は「バランスよく、自分らしく生きる」という時代ですしね。石坂さんの今後のますますのご活躍を期待しています。今日はありがとうございました!

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(筆・長島ともこ)

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2016年06月02日

第22回 林 祥晃さん(損害保険ジャパン日本興亜株式会社 中国保険金サービス第一部部長)

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イクボスロールモデルインタビュー第22回は、「イクボス企業同盟」に加盟し、ダイバーシティを「グループの成長に欠かせない重要な経営戦略」と位置づける損害保険ジャパン日本興亜株式会社の林 祥晃さん。現在広島に単身赴任中で、中国保険金サービス第一部部長として約400名の部下を率いる。家庭を顧みず“超”長時間労働に明け暮れる日々の中、妻から放たれたひと言をきっかけに働き方を改め、障がい者支援活動を通じノーマライゼーション、ダイバーシティの発想に出会った。自らの体験を通じ、若手社員に「広い視野をもち、仕事以外のことにも積極的に取り組んでほしい」と力強いメッセージを送りつつ、“元祖イクメン”として単身赴任中の現在も「2〜3週間に一度は帰省し自宅の家事全般を担う」という林さんに、イクボス的価値観について伺った。

〈林 祥晃さんプロフィール〉
損害保険ジャパン日本興亜株式会社 中国保険金サービス第一部 部長。1988年入社後
横浜、高松、労働組合(東京)、旭川勤務などを経て、2015年4月より広島に単身赴任。妻、現在22歳、19歳、16歳の子どもとの5人家族。小学校2年から水泳を始め、大学でも体育会水泳部に所属。関東学生選手権では鈴木大地氏と泳いだことも。目標とするのは64歳でキューバからフロリダ海峡の横断に成功したアメリカの遠泳選手、ダイアナ・ナイアドさん。「彼女の生き方を見習い、人生のピークを70歳くらいに持っていきたいですね。今はその準備期間です」。

【あなたが会社を辞めて、育児や家事をやってほしい】
 妻の言葉をきっかけにイクメンの道へ


安藤:今日はよろしくお願いします。林さんは立教大学卒業後1988年入社ということで、僕と同世代ですね。当時の働き方はいかがでしたか?

林:入社後は横浜に赴任し、しばらくは事故対応の仕事に従事し、その後労働組合の役員をしていました。当時は一般的な金融機関に勤務する人の働き方そのもので、徹夜もありましたし睡眠時間は常に2〜3時間という“超”長時間労働。ワークライフバランスの「ワ」の字もなかったですね。疲れがたまって目の周りが真っ黒になり、妻からも「あなたこのままだと死んでしまうわよ」と心配されていました。

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安藤:ご結婚は何歳の時ですか? 

林:26歳です。横浜の後高松に赴任し、1993年に一人目が生まれました。
安藤:“超”長時間労働の中、育児には関わっていたのですか?

林:当時の当社の社員は私を含め皆ワーカーホリックで、高松でも日々残業の連続でしたので、育児にはほとんど関われませんでした。妻はもともと仕事をバリバリこなすタイプの女性だったのですが、結婚して専業主婦になり、知らない土地で家事や育児を一人で担っていたわけです。私だけが長時間働いて家庭を顧みないことに憤っていたようで、ある時、「だれも『出世して欲しい』なんてお願いしていない。こんな状態なら私が稼ぐから、あなたが会社を辞めて代わりに家事や育児をやってほしい」と言われました。

安藤:奥さんにそこまで言われたら逃げ場がないですよね。それでどうされたのですか?

林:妻の切実な声を聞き、これまでの日々の過ごし方を改め、仕事が忙しくても育児にかかわろうと心を入れ替えました。小学生の頃からずっと水泳をやっていて体力には自信があり、睡眠時間が減るのは平気だったので、子どもが夜泣きをしたらぱっと起きて抱っこしたり、毎朝子どもをお風呂に入れたりしていました。高松なので近くにうどん屋さんも多く、離乳食の時期には子どもをベビーカーに乗せて近くのうどん屋さんに行き、食べさせたりもしていました。当時はこの程度の育児参加でも、周りからは「すごいですね」などと感心されていましたね。

安藤:その頃は、イクメンなんて概念はなかったですからね。でも、高松で初めて子育てを経験して、「ライフ」の大切さに気づいたのですね?

林:そうですね。妻はもともと、今でいう男女平等の意識が高く、「妻と夫がバランスよく育児をする」「父親が家庭で存在感を見せないと、子どものためにもよくない」という価値観を強くもっていたのです。妻の影響を受け、育児や家事を実際に担ってみると、肉体的にはそれほど大変ではないのですが、あれこれこなしているうちにあっという間に時間がたってしまう。専業主婦の大変さを実感しました。
その後二人目、三人目と生まれるうちに妻からの要望も加速し(笑)、3人目の子が幼稚園に通い始める頃には、毎朝の子どもたちの入浴に加え、ゴミ出しや皿洗い、掃除などの家事、週末には家族の食事も作るようになりました。妻のほうも、子育ての大変な時期が落ち着いたタイミングで、カナダのライアソン大学でファミリーライフエデュケーターという資格を取得し日本各地でセミナーや講演活動をスタートさせました。

IMG_9042.jpg 島津さん

島津(人事部 ダイバーシティ推進グループ 課長代理):当時「妻は専業主婦、夫は仕事」といったご夫婦がメジャーだった環境の中で、林さんのような男性社員はめずらしかったと思うのですが、周りの反応はいかがでしたか?

林:当時は16世帯ある社宅に住んでいたこともあり、仕事が忙しいはずの私が育児や家事と積極的に向き合っていることは皆に知られていました。と同時に、このような私の行動は、周りの、特に管理職の男性社員からひんしゅくをかってましたね。

島津:ひんしゅくを?

林:お前はなんでそんなこと(育児や家事)を張り切ってやっているんだ。(お前のせいで)自分も育児や家事をやらなきゃいけないような空気にさせられて迷惑だって(笑)。

安藤:ファザーリングジャパンを立ち上げたのは2006年なのですが、当初、周りの男性数名から「余計なことするな」といわれました(笑)。それと同じですね。これまで“やっていない人”からすると、“やっている人”が出てくるとおしりがもぞもぞしてきて居心地が悪くなるような感じなのでしょうね。FJで10年活動してきてようやく、男性が育児や家事をやるのは当たり前になってきたと思います。僕自身も、家事をやるようになったことで段取りや優先順位などを必然的に考えるようになりました。「あ、こういうことか」みたいな気づきもあり、それが仕事にも生きることもありましたけど、林さんはいかがでしたか?

林:そうですね。おっしゃる通り、限られた時間の中で複数のことをいかに効率よく進めるかというのは、仕事にも十分生きてくると思いましたね。
ちなみにその後もわが家では、私が担う育児や家事が定着化していきまして。2015年4月からは広島に単身赴任しているのですが、今でも2〜3週間に一度は東京の自宅に帰省して料理、洗濯、掃除と何でもやっています。

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相対的に不利な立場に置かれている社員に徹底的に注目する

安藤:すばらしい! イクボスの林さんは、“元祖イクメン”でもあったわけですね。ではここから、イクボス的価値観についてお伺いしていきます。イクボスとは、“子育てだけでなく、介護、病気、障がい、LGBT(性的少数者)、外国籍などさまざまなことを抱えている部下一人ひとりに配慮し育てられる上司”を指しますが、部長としてご自身で心がけていることはありますか?

林:うちみたいな会社は、昔から、いわゆる“優等生の集団”のようなところが多々あると思うのです。同じようなタイプの社員が多数存在するのではなく、たとえば小学校のクラスをのぞくと、わんぱくな子、引っ込み思案な子、優秀な子、リーダーシップのある子など、さまざまな子がいますよね。このように、性質が違う多種多様な人々が存在する、今でいうダイバーシティの推進を図っていきたいと思っています。そして、当社が世間一般と同じようにさまざまな人が幅広く存在している会社となれるよう、微力ながら貢献していきたいと思っています。

安藤:そう思われるようになったきっかけは?

林:横浜、高松に勤務していた頃、知的障がい者のボランティア活動に携わる機会があり、障がいをもつ人ともたない人がともに生活する社会の大切さを実感したのです。純粋無垢な彼らと接して一挙に視野が広がり、人間に幅ができたような気がしました。妻もこのような発想が強く、知的障がい者だけでなく「ホームレス」支援のボランティアに参加したりしていました。なりたくてなったわけじゃなくて、世の中についていけなくて、結果として「ホームレス」になってしまった人を支援する。そこに必要なのはやはり、“配慮”ですよね。このような活動を通じて培われたノーマライゼーション的な思想が、今申し上げたダイバーシティ推進の意識の源になってきているような気がします。

安藤:なるほど。

林:管理職になり部下をマネジメントするようになってからも、メンタル的な理由で会社を休む人や仕事でなかなか頑張れない人、病気を患っている人など、相対的に不利な立場に置かれている社員にできるかぎり光をあて、徹底的に注目し、全身全霊をこめてコミットするよう意識してきたつもりです。でも、周りの部下からは結構文句を言われましたよ。自分たちに比べ、頑張れていない人をそこまで過保護にするのは納得いかないって。

安藤:普通に夜遅くまで働いている人から見ると、そうでない人は怠け者に見えてしまうのですよね。

林:そうです。でも、自分の中に確固とした持論があるので、部下から「なんであの人をかばうのですか?」と聞かれた時は、「結構ハードな仕事だから、つらいことも多いんだと思うよ」などなるべく丁寧に答え、ノーマライゼーションの価値観をできるだけ広めようと意識してきました。

安藤:ご自身で障がい者支援に関わった時の経験が生きているのですね。人間、弱ってくるとなかなか自分からいろいろなことを発信できなくなるし、会社組織の中で自分から突破していく力も出せなくなるものです。そんな時、直属の上司が自分のことを見ていてくれるというのは、その人にとってすごく心強いことだと思います。

林:そうですね。そこはかなり意識しています、というか、自分のポリシーですね。

安藤:今おっしゃったこと、すごく大事です。イクボスの活動をしていると、「どうすればイクボスになれるのですか?」と、ノウハウを聞かれることがあるのです。でもそうではないですよね。イクボスは、人から聞いたり教えてもらったことをそのままやることではない。そもそも大切なのは、ヒューマニティとかフェアネスなどの心構え、つまりポリシーなんです。

島津:イクボスの観点から、部下に対して、どの様な指導をされているのですか?

林:私のポリシーとして、自分から能動的に「こうしろああしろ」と指示や命令をするのはいやなのですよ。部長という役職柄、いろいろな会議などに呼ばれて人前で話す機会はたくさんありますが、基本的には挨拶だけで、指示や命令はほとんどしないですね。最近では、直属の部下である課長に対しても、「(余計な)仕事をしない勇気をもとう」と言っています。部下に対しては余計なおせっかいをせず、相談を持ちかけられたときにまっさきに答えることを徹底するように伝えています。
ダイバーシティの観点からは、当社の女性初の管理職だった方の活躍を間近で見てきて、部下の女性社員をマネジメント候補者として指名するなど、女性活躍推進にも積極的にコミットしてきたつもりです。

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【自ら積極的に「イクボスやってます」とアピールするのはナンセンス】

安藤:島津さん、林さんの部下からの評判はいかがですか?

島津:過去に、全社員による「自身の成長に最も影響を与えた上司」の投票を行い、得票数上位である社員を「人材育成マイスター」とする社内認定制度があり、林さんはその中の一人として選ばれました。林さんはご自身が先ほどおっしゃった通り、自分から積極的に「イクボスやっています」という話はしないと思うのですが、言葉ではなく、働く姿や部下と接する姿で伝えているのではないかと思います。

安藤:その辺が、女性社員からも信頼される理由なのでしょうね。

島津:林さんは「ライフ」も充実しているので、一緒の職場にいる部下の皆さんにも伝わるのだと思います。

安藤:女性社員はそういうことを敏感に感じとりますから。

林:そうですかねぇ。現在部下は約400人いますが、私の顔と名前が一致しない社員も多いと思いますよ。先日、ある飲み会の時も、偶然同じ店に居た女性社員二人のうち一人は「あ!部長だ!」と私に気がついてくれたのですが、もう一人は私のことを知らなくて。「え?誰?初めて見た」と言われましたから(笑)。

安藤:400人もいるとそうなります。

林::本当は一人ひとり全員と面談をした方が良いのかもしれませんが、いろいろと迷った結果、あえてやらないでいます。その方が課長もマネジメントがしやすいかなと思いまして。

安藤:なるほど。そのへんの距離感がいいですね。現場の部下とはあえて密にはコミュニケーションをとらず、直接の部下である課長とは常にコミュニケーションをとられているということですか?

林:そうですね。課長に対しては、毎日さまざまな情報を与えてコミュニケーションを密にとり、できる限り仕事がしやすい環境を作ってあげようと意識しています。

安藤:部長が先に帰って、課長が残っている日もありますか?

林:ほとんどそうじゃないですかね。課長は忙しいですから。部長になると、仕事が好きな方は残業する人もいるようですが、私は大体6時半くらいには上がって泳ぎに行ったりしています。

安藤:この年代の管理職には「部下が頑張っているのに自分は帰れない」っていう人も多いのですが、それはないですか?

林:ないですね。昔、自分が若かった頃、いつまでも残っている上司に対して、心の中で「早く帰ってほしいなぁ」って思っていましたから(笑)

【広い視野をもち、会社以外のことにたくさん取り組んでほしい】

安藤:それはいいですよね。自身の健康にもいいですし。ところで損保ジャパン日本興亜は、イクボス企業同盟に加入し、全社的にイクボスを推進しているのですよね?

島津:はい、推進しています。ただ、イクボス的発想が、管理職の方々の間で“自分ごと”として認知されているかといったら、まだまだ道半ばです。今後は「生産性をあげる」という部分によりスポットを当て、「会社としての生産性を高めるためには、今のマネジメントを変えていかないといけない」というメッセージをどんどん発信していきたいきたいです。ダイバーシティは「女性のためだけの施策」ととらえている方もまだいると思うのでそうではないことを伝えていかなければならないと思っています。

安藤:そうですよね。これからは、育児だけでなく親の介護の問題なども出てきますからね。介護に関わる社員のケアも大変ですし、大切ですよね。

林:そうですね。私はまだ介護の経験はないのですが、介護はそろそろわれわれの年代も、絡んできますからね。

安藤:そう、イクボス的マネジメントは、育児のためだけの支援ではないですから。ある日突然自分の親が倒れたりすると、その日からもろ介護の当事者になりえますからね。

島津:当社でも介護セミナーを2014年度から開催していますが、男性社員の参加も増えています。

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安藤:イクボス企業同盟には、育児、介護といったライフプランと深く関わりのある保険会社さんもたくさん加盟していただいているのですが、中でも御社の取り組みには期待しています。会社の中で、イクボスの価値観を浸透させ、本物のイクボスをもっと増やしていくためには、林さんのような方がロールモデルとしてどんどん前に出て、発信して欲しいと思います。

林:そうですね。私が適当なロールモデルかどうかはわかりませんが、「自分もちょっとトライしてみるかな」と思ってもらえるようなきっかけになればいいと思っています。

安藤:ワークライフバランスのきっかけは、会社の中だけにあるわけではない。家庭にあるかもしれないし、会社の外のどこか違う場所にあるかもしれない。FJの父親向けセミナーでは育児をすることでいろんなことに気づくよ、世界が広がるよって話をするんです。そしてパパが育児や家事を自ら取り組むようになると、そんな家庭環境の中で育った子どもたちが大人になり家庭をもった時に、夫婦、家族として育児や家事を共有できるようになる。林さんも、お子さんたちが将来家庭を持った時、「自分たちがやってきたことは正しかった」ということを実感されると思います。

林:そうですね。うちの息子ふたりは私の姿をずっとみてきていますから、おそらくそうなるかもしれませんね。(笑)

安藤:わが家も息子が二人いるので、彼らに毎日言ってますよ。「人生楽しみたいなら、今から家事はやっていたほうがいいぞ」って。これからの男子は家事やるのが当たり前だし、やらないとまず女性から好かれないですから。ところで、損保ジャパン日本興亜さんはボランティア休暇はありますか?

島津:はい、あります。

安藤:ボランティア休暇を取得したら、人事考課があがるシステムなどがあるといいですよね。とある会社は、社員がセミナーやボランティアに参加するとポイントがたまり、人事考課につながるというポイント制を取り入れています。

島津:確かに、ポイント制だとわかりやすいですね。当社はCSRの一環で、全国各地でボランティア活動も推進していますが、大切なのは自ら進んで手を挙げ、視野を広げていくことだと思います。

安藤:そうですね。そこが、新しい分野への興味につながりますから。僕もIT系の会社の管理職だった時、部下たちに毎日朝礼で言ってました。「オフィスでパソコンだけ見てたって何もないぞ。街に出なさい。今の仕事に一見関係ないことでも、気になることがあったら翌日報告を。それが5年後にビッグビジネスになるかもしれないから」って。

林:その通りですね。自分から会社の外に出て、こういう人がいるのだ、こんなことがあるのだということに、どんどん気づいてほしいですね。

島津:当社は、「保険の先へ、挑む」をスローガンに、介護分野への事業展開など実際に新しい分野のビジネス展開も始めています。当社のさらなる発展のためにも、社員一人ひとりが会社だけではなく会社の外に向かってアンテナをはりめぐらせ、新しい価値観をインプットし、それを仕事に活かして欲しいと思っています。同時に、社員の皆さんに、このような会社の変革にどう気づいてもらうかを考えていくことも大切だと思っています。

安藤:変革し始めている会社のムードをチャンスととらえ、つかみにいってほしいですよね。

林:全くその通りですね。

イクボスK.jpg<イラスト:東京新聞>

安藤:イクボス10か条のひとつである「隗よりはじめよ」ではないですけど、林さんのようなイクボスから率先して示していくことが大切ですよね。最後に、イクボスとしてたくさんの部下から信頼されながらも長年育児や家事に積極的に向き合い、奥様はじめ家族からも信頼されている林部長から、若い部下へのメッセージをお願いします。

林:若い人たちに対して「こうしろああしろ」とはあまり言いたくはないのですが、やはり、できるかぎり、広い視野をもってほしいと思います。会社を飛び出していろんなことを経験していくと、一般的には大企業であるうちの会社も、世の中のごく一部に過ぎないこと、世の中ではいろんな人がいろんなことをしているということに気づくと思うのです。

安藤:本当にそうです。個人のその気づきが、結果的に会社のためにもなるし、世の中のためになる。林さんはボランティア活動から「ノーマライゼーション」に気づいて、「ダイバーシティ」の発想を手にした。僕もそうでしたけど、若い頃ってどうしても、仕事一辺倒になってしまって視野が狭くなってしまう。でも父親になって、子どもをもち、育児や地域のPTA活動などに関わってみたら、「なるほど、地域ってこうなんだ」「子どもを通して見ると、日本の社会は改善の余地がまだまだたくさんあるな」など、実にたくさんの気づきがありました。仕事以外のいろんなことを経験しないとだめですよね。そのためにもワークライフバランスが必要だと思います。

林:そうです。若い人たちには、会社以外のことをたくさんやってほしいですよね。今の若い人だったら、運動などの趣味や、子どもがいる方だったら育児に関わったりなどは当たり前かもしれませんが、家事やボランティアなど、もう一歩ふみこんでほしいと思います。そうすると、視野がすごく広がりますから。私もそうやってきて、今の自分があると思っています。

安藤:限られた「時間という資源」を、どれだけ自分の視野を広げるための活動に使えるかということですね。今日はとても良いお話をありがとうございました。これからの林さんのご活躍、損保ジャパン日本興亜さんの取り組みにますます期待しています!

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(筆・長島ともこ)







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2016年02月11日

第21回 小林大輔さん(アサヒビール株式会社 営業本部 販促量販統括部 販促グループ次長)

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イクボスロールモデルインタビュー第21回は、「イクボス企業同盟」にも加盟しているアサヒビール株式会社の小林大輔さん。全社の販促立案を統括する重要な役割を担う営業本部 販促量販統括部 販促グループ次長として、14人の部下を率いる。「優秀な部下に恵まれているので、イクボス的なことはなにもしていないですよ」といいながらも、「会社の仕事は“全員野球”」をモットーに、チーム全員が働きやすい職場づくりに力を注ぐ。現在都内に単身赴任中。2児の父でもあり、「週末、福岡に住む家族の元に帰るのが何よりも楽しみです」という小林さんが語る、イクボスの価値観とは?

〈小林大輔さんプロフィール〉
アサヒビール株式会社営業本部 量販統括部 販促グループ次長。ユニチャーム勤務を経て2000年にアサヒビール株式会社に中途入社。その後福岡勤務を経て東京本社、2008年より現職に。現在都内に単身赴任中で、妻と2人の子ども達は福岡に住む。

【育休復帰後もバリバリ働く優秀なメンバーに恵まれて】

安藤:小林さんは、ご結婚して最初のお子さんが生まれたのは何歳の時ですか? その頃のご自身の働き方はいかがでした?

小林:結婚したのは27歳で、33歳の時に一人目が生まれました。当時は当社の都内の社宅に住んでいたのですが、福岡に異動になり、家族3人で福岡に引っ越しまして。その後福岡で二人目が生まれました。働き方については、妻はパートに出たこともありましたが、基本、「僕が働いて妻は家を守る」というスタイルです。当時は「男性が育休をとる」という空気は全国的にもあまりなかったですし、僕自身も育休はとっていません。

安藤:管理職になられてから、産休や育休に入る部下の女性社員を送り出し、復帰した社員を迎え入れてきたということですが、そのような部下と実際に接してみていかがでしたか?

小林:もちろん、復帰後は多少気を使うようにはしていましたけど、基本、「この人は育休明けだから」などとあまり意識しないようにしていました。復帰後は時短勤務で4時半くらいに帰る社員もいますが、復帰明けとは思えないくらいの素晴らしい仕事ぶりで。そういう意味では優秀なメンバーに恵まれていると思います。

安藤:イクボス的管理職は、部下が育休や産休に入る前、復帰後のプランを面談されたりしますが、小林さんも行いましたか? どのようにされました?

小林:面談はしました。最近は子どもを保育園に入れることも大変だと思うので、その辺も含め、「子どもがある程度手が離れるまでは、じっくりみてあげて。会社のことは心配しないで、皆で待っているから」という感じで送り出しました。

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安藤:かつては男性社員と同じように活躍していた女性社員が、産休、育休を取得すると、それまでのキャリアがリセットされて降格になってしまったりする現象が日本にはありますが、その辺についてはいかがでしたか? 育休から復帰後、「お母さんになったのだからこれまでみたいに働けないでしょう」ということで、アシスタント的な業務にしてしまうボスもいるようですが。

小林:うちの部署に限っていえば、あまり関係ないですね。たまたま優秀なメンバーが集まったのかもしれませんが、復帰後の社員は皆モチベーションが高く、復帰前と変わらずバリバリ働いています。能力も本当に高く、子育てしながら働いているという環境でありながら、すごくがんばってくれています。「もしかしたら頑張らせすぎているかな」「もう少し配慮してあげたほうかいいかな」と思うことがあるくらいです。

安藤:なるほど。でも、自身のがんばりが、正当な評価につながればいいですよね。

小林:そうです。そこがいちばん大事だと思っています。

安藤:キャリアプランとライフプランのバランスがその人の中でとれていて、かつ会社から評価されている、期待されているという風土が社内にあれば、女性男性限らずのびていきますよね。育児や介護で時間制約がある人たちは、どうしても自分の評価を気にしてしまったり、制約があることで働く意欲を下げてしまったりなどもありますが、その点、アサヒさんは風土づくりがかなりできていらっしゃいますね。

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三浦一郎さん(人事部 採用・成長支援グループ ダイバーシティ推進担当 次長):そうですね。当社は産休や育休を取得しても、復職後は取得前の評価のまま戻れ、ある意味“気にせず休める”という体制は整っています。現在、当社の産休、育休後の復帰率はほぼ100%です。ただ、復職の仕方に関しては、各部署に加えて人事のほうでも面談を行っていて、本人の希望により「100%同じ部署に戻る」というわけではないですね。

安藤:なるほど。御社の女性社員は、総じて復帰後もやる気をキープしている方が多いのでしょうか。

三浦:実際のところ、復帰後も復帰前と同じように働く女性社員の割合は1〜2割くらいです。実の親と同居など周辺のサポートに恵まれている社員は、復帰後も時短勤務をとらない方もいますし、逆に小学校中学年くらいまで取る社員もいます。当社は2015年の夏から、在宅勤務制度を本格的に導入しました。研究開発部門や、本社の人事総務など企画系部門、そして営業部門などでも、いろいろトライアルを行ってきましたが、やっとスタートできました。

小林:うちの部署の育児中の社員も、この制度を使って今日は在宅勤務です。育児中の社員には非常に良い制度だと思います。

安藤:とある会社でも、在宅勤務制度を導入した結果、会社を基点に出たり戻ったりというタイムロスが削減できて労働時間が減り、営業のアポ取得率が160パーセントになったそうです。在宅勤務制度は業務の効率化がメリットとしてあげられる反面、「会社で待機している管理職が部下不在を寂しいと思わないか」みたいなところも危惧されていますが、今後はテレワークもどんどん進みそうですね。

三浦:そうですね。まさに管理職の“慣れ”の問題もありますが、当社でも来年あたりからスカイプを使えるようにしようと、社内での導入を企画しています。

安藤:お互いの表情がみえるとちょっと違いますよね。グループ会議やったりできますしね。小林さんは、テレワークやスカイプによる会議には抵抗ないですか?

小林:全く抵抗ないです。

安藤:御社も少しずつダイバーシティの環境が整ってきたということでしょうか。スカイプの使い方などは、会社として社員に教育されるのですか?

三浦:今のところはハード面だけ用意した感じですが、活用に対する啓発も行っていきたいと思っています。あとは持続力ですよね。当社はどちらというと、トップダウンが強い会社なので、トップダウンルートで「全社的に活用しよう」という方向にもっていきたいですね。現場で習熟度をあげ、トップダウンで啓発する、この両面からアプローチしていくことが大切かと思っています。

安藤:今後は育休に加えて介護による休業が増えてくると予想されていますが、御社ではいかがですか?

小林:今のところ、うちの部署では介護休暇はまだないですね。ただ、いつ自分が必要な状況になってもおかしくないと思います。僕は今東京に単身赴任していて家族は福岡に住んでいるのですが、僕の両親は東京に住んでいるので、両親のどちらかが介護が必要な状態になったら福岡の家族をよぶのかどうするのか……。その時の状況にもよりますが、悩むところではあります。

安藤:御社は、社員向け介護セミナーは行っていますか?

佐々木:一部行っています。全社的に見ると、介護休暇の取得者は若干名おりまして、今のところ介護による離職者は出ていません。

【テーマは「全員野球」。チームの一体感を大切に】

安藤:介護も育児と同様、実家のサポートなどがあるといいのですが、単身赴任されていて介護の問題もかかえているボスなどは大変ですよね。東京で働いていて、週末実家の九州に帰って介護をするという遠距離介護の管理職もたくさんいますから。この辺は、これからの課題ですね。ところで、部下の育成について、小林さんが意識して実践していらっしゃることはありますか?

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小林:先ほども少しお話ししましたが、幸いにして優秀なメンバーに恵まれているところもたくさんある中、メンバー全員、チームの一体感を常に大切にしています。独身、既婚、育児中などさまざまなメンバーがいる中で、ひとつのチームとして皆で仕事をしていくことを心がけながら、困ったメンバーがいたらいつでもお互いに声をかけあえるような雰囲気を作り、メンバーがかかえている仕事すべてを共有するようにしています。14人いると、それぞれの成果やつまづいているところなどいろいろ出てきますので、その辺を常に共有し、「隣の人は何する人ぞ」みたいな雰囲気にならないよう心がけています。

安藤:独身の社員が、ママ社員が子どもの病気を理由に休んだりすることに対して不公平感を抱いたりする風潮もあり、このような部下の反応に悩むボス達の話も聞きますが、小林さんの部署にはそういう雰囲気はないですか?

小林:ないですね。基本、チームは助け合うものですから。いかなる理由にせよ、「困っている人がいたら、フォローしあい、助け合う」という発想で通しています。お互い自分がいつそうなるかわからないですし、仲間ですからね。

安藤:なるほど。全員野球みたいなものですよね。

小林:そうですね。幸いなことにうちの部署は、僕が日頃からそういうことを言わなくても、皆で自然とフォローしあってあり、助け合ったりする雰囲気ができているんです。繰り返すようですが、メンバーがいいんですね。僕がどうこうじゃなくて、メンバーに恵まれていると思います。

安藤:部下から不平不満はいわれたことありますか?

小林:それが、ないんですよ。

安藤:そういう雰囲気もないですか?

小林:僕が一人でそう思っているだけかもしれないですけど(笑)、ないですね。

安藤:アサヒさんすごいですね。小林さんのような部署ばかりだったら、僕らが御社でイクボス研修する必要ないですよね(笑)。

三浦:いやいや、実際はいろいろありますよ。小林の部署は、これまでスーパーなどの量販店を営業で回っていた現場のエースクラスの女性社員が多いんです。現場を理解し発言力があり、仕事も早いという優秀なママ社員が集まっている部署でもあるので、いいサイクルで回っている部署のひとつということです。他の部署では、育休復帰後、時短勤務を選んではみたものの、ふたをあけてみると、家庭の状況も様々で、想定通りに仕事をこなしきれなかったり、「周囲に迷惑をかけたくない」と、業務の質量をセーブせざるを得ない社員もいます。

しかし本来、育成の面から見ると、部下にとって、少し難易度の高い仕事にもチャレンジさせるのがボスの役目です。それは時短社員も変わりありません。また、時短社員本人は、限られた時間の中で、どうやって成果を出すか自ら考え工夫する事で、生産性に差が出ます。産前とは仕事の仕方、時間の使い方が変わって来ます。全社的にイクボス的発想なダイバーシティの理解や啓発がすすんでいるかといったらまだまだなので、イクボス企業同盟に加盟して知恵をお借りしていきたいと思っています。

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安藤:小林さんの部署が、全社的なロールモデルとなっているのですね。小林さんご自身が、イクボスとして見本になっている意識はありますか?

小林:まったくないですね(笑)当たり前もなにも、手本にあるようなことは何もしてないですよ(笑)。

三浦:弊社でも、小林の部署をまつりあげるというよりは、まずはファーストステップとして、自然な形で部署全体がいいサイクルで回っている部署として注目してもらい、少しずつ広がりを作っていきたいと思っています。

【部下からのアドバイスは「飲み過ぎに注意してください」】

安藤:そうですね。小林さんの部署のような働き方が社内で標準化することができたら、子育て世代も楽になります。イクボスの標準化は、介護世代の社員にも効果的だと思います。育児はある程度予測がつきますが、介護はいつ始まるかわからないですし、始まってからその対処にバタバタしてします会社が多いので…。とくに、介護をする人たちって、管理職本人だったりするパターンが多いですから。現場のトップが突然家族の介護に直面し、急に事業が止まってしまうこともありますからね。

これまでお話を聞いていると、小林さんは、「自然体のイクボス」という感じがします。部下からはどのような評価を受けているのですか?

小林:結構ありがたい評価をいただいています。恥ずかしくて口に出してはいえないですが、(笑)ありがたいコメントをたくさんもらいました。でも厳しいことも書いてありましたよ。「飲み過ぎには気をつけてください」って(笑)。

安藤:それはまあね(笑)。でも、部署としての業績も良いのですよね。

三浦:量販統括部は、全社の数字を背負う部署ですので、全国の量販営業部隊を牽引し、成果につなげて頂いています。

安藤:イクボスは、部下にやさしいだけがイクボスではない。部下の意欲を高めつつ、結果を出すことも大切です。そうでないと、 “福利厚生の充実”だけで終わってしまいますから。小林さんはその辺をしっかり意識されて、“全員野球”をされているというところがすばらしいですね。確かにそうですよね。全員野球じゃないと、試合には勝てないですから。1番から9番までそれぞれ役割があって、控え選手も戦力で。打線と守備、両方の歯車がかみ合っていないといけません。

小林:そうです。レフトが抜けたらふたりで外野を守る。あとショートがちょっと後ろまで下がればいけるよね、みたいな感じかと思っています。

安藤:なるほど。次長である小林さんは、全員野球の監督ということですね。チームの仕組みがよくわかりました。ちなみに小林さんの上には部長さんがいらっしゃるのですか?

小林:います。部長も相談しやすい方なので、いろいろ相談させてもらっています。

安藤:風通しがよくていいですね。話は変わりますが、ご自身は何時頃に仕事を上がりますか?

小林:その日によって違いますが、基本、早めに帰るようにしています。自分のこれまでの経験からして、上司がずっと会社に残っていると部下は帰りづらいじゃないですか。なので、意識して早く上がるようにしています。

安藤:早く帰った時は何をしていますか?

小林:大体飲みに行っていますね。相手は社内の人間や学生時代の友達などいろいろですが、社内の人間が6、7割ですかね。今の部署のメンバーとも当然よくのみにいきますね。毎回くだらない話をしていますよ(笑)。うちの社員はみな、飲みの場が好きですから。

安藤:そうなんですね。「飲み」で結構悩んでいるボスもいるんですよ。若い社員と“飲みニュケーション”が成立しないって。若手と話をしていても、うてばひびくという感じがないとか、つかみどころがないとか、どうアプローチすればもっと仕事へのモチベーションを上げてもらえるのかがわからないという声も良く聞きます。小林さんからみて、御社の若手社員の様子はどうですか?

小林:いつも時代も「今どきの若いやつは…」みたいな声を聞くじゃないですか。年をとると自然とそういうことをいいたくなってくるんですかね。少なくとも今の僕にはそのような感覚はないですね。僕の若い頃を振り返って比べてみても、うちの若手社員は皆、しっかりしているなと逆に思いますよ。

安藤:すばらしい。職場の雰囲気も良く、メンバーが皆明るく元気で。上司として相談しやすいんでしょうね、小林さんは。

小林:あ、それはそうかもしれないですね。仕事でもプライベートでも、忙しかったりいろんな問題が起こったりで回りが見えなくなりそうになる時ってあるじゃないですか。そんな時でも、部下からきた相談に対しては、それを何よりも最優先して答えるように心がけています。

安藤:なるほど。そこが小林さんのイクボスたる所以ですね。イクボス的発想は、子育てにも通じるんですよね。ファザーリングジャパンでも、家で子どもが「お父さん」って話しかけてきたら自分がどんなに忙しくてもそこでちゃんと向き合わなきゃだめだよと伝えています。小林さんは、お父さんとして、お子さんたちにはそのような対応ができていますか?

小林:単身赴任で離れて暮らしていて、週に1度は福岡の自宅に帰っているのですが、子どもたちとは結構話していますね。小6の男の子は思春期で、いっしょにお風呂に入ってくれなくなって寂しいですけど、それでも子どもたちとはいろんなことをしゃべっていると思います。普段話せないぶん、妻ともしゃべりまくっていますね。今日もこれから仕事が終わったら、福岡に帰るんですよ。明日から3連休なので、今週はそれだけを楽しみに働いてきました(笑)。

安藤:なるほど。管理職になると、「ボスとしてしっかりやらなきゃ」とか「評価を下げないようにしなきゃ」とか、肩に力が入ってしまい、家庭が疎かになる人が結構いるんですよ。でも小林さんにはそれがあまりない。いい意味でぬけていて、いいですね。

小林:それくらいのほうが、部下も緊張しなくていいのかもしれないですね。部下の立場にたってみたら、上司がいつもピリピリして、常に監視されているようなのはたまらないですもんね。

安藤:これから新卒で入ってくる人たちは、給与などだけでなく、社員の働き方をみてきます。イクボス企業同盟に加盟している御社は、トップレベルの“働きやすい会社”として浸透していくといいですね。最後に、仕事をしながら子育てや介護と向き合っている人、これから向き合う人たちへのメッセージをお願いします。

小林:キャリアプランもライフプランもどちらも大切ですが、僕自身は、キャリアプランよりもライフプランのほうが圧倒的に大切だと思っています。家族がいちばん大事で、家族のために働いていますから。そういう意味では、会社においてもライフプランを最優先に考えながら、自分や家族の人生が充実するような働き方ができるチームというのが、より強いチームになるのではないか、と思います。

安藤:なるほど。「ライフ」を意識して生産性を高めることが、チームにとってもいい。

小林:そうです。「ライフ」の健全化はすごく大事なことだと思います。

安藤:「ライフ」が健全であれば、業績もアップする、と。

小林:まあ、時には達成できない時もありますけど(笑)、メンバー全員が明るく元気に働けるような環境でないと、なんの成果もうまれないと思うので、そういった意味では、「ライフ」の充実が大事と思います。

安藤:やはり、「プライベートより仕事」じゃないですよね。

小林:まったくない、1ミリもないですね(笑)。「ライフ」があって「仕事」がある。どちらも連携していくものだと思います。

安藤:すばらしい! 御社のビールのような、さわやかでのどごしすっきり(笑)のお話をありがとうございました!

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(筆・長島ともこ)
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2015年11月17日

第20回 徳永尚文さん(株式会社 日立ソリューションズ 執行役員)

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イクボスロールモデルインタビュー第20回は、「イクボス企業同盟」にも加盟している株式会社日立ソリューションズ執行役員兼ITプラットフォーム事業部長の徳永尚文さん。
“亭主関白”世代にもかかわらず、妻の出産をきっかけに家庭のあり方について自ら認識を変え、育児に積極的に参加。職場では、部下を自宅に招き、自らの手料理でもてなしながらざっくばらんにコミュニケーションをとるなど風通しのよい環境づくりに注力する“生粋のイクボス”として1,000人の部下を導く。こんな徳永さんのイクボス的思想のルーツは、意外にも、陸軍の軍人だった父親の姿にあった。取材は、氏の自宅のリビングにて。得意の手料理がふるまわれるカジュアルな雰囲気のなか、“徳永流”イクボスの価値観や心構え、今後の展望について伺った。

〈徳永尚文さんプロフィール〉
1954年埼玉県所沢市生まれ。1980年に株式会社日立製作所に入社、デバイス開発センタに配属され先端LSIの開発を行う。その後さまざまな部署で実績を重ね、2014年に、株式会社日立ソリューションズ執行役員兼ITプラットフォーム事業部事業部長に就任。妻と2人の子どもの4人家族。趣味は料理のほか、磯釣り、ゴルフ、ランニングなど。好きな言葉は老子の格言で「人に魚を与えれば一日生かすことができるが、人に魚釣りを教えれば一生養うことができる」

【バリバリの軍人だった父親が反面教師】

安藤:徳永さんは、いつから執行役員になられたのですか?

徳永:2014年の春からです。1980年に日立製作所に入社し、日本IBMに負けないような“日の丸コンピュータ”をつくろうと大型汎用コンピュータ用のLSI(高密度集積回路)の開発に従事していました。その後、情報・通信グループ戦略事業企画、指静脈認証装置のグローバル事業などに携わったあと、2013年にITプラットフォーム事業部長に就任し、その翌年に執行役員も兼ねるようになりました。現在部下は約1,000人います。

安藤:ご結婚は何歳の時にされたのですか?

徳永:28歳の時です。今年で結婚して33年になり、子どもが二人います。29歳の長女、27歳の長男はそれぞれ独立しました。(食器棚の上に飾られたご夫婦の写真を指差しながら)それは妻とフランスのロワール城を訪れた時の写真です。妻は学生の頃からの知り合いだったのですが、結婚した当時フランス語を勉強していたので、新婚旅行先はフランスを希望していたんです。でも当時はお金がなくて、北海道でがまんしてもらいました。結婚後、相当長い年月がたってから、長年の夢を果たすことができて妻に喜んでもらえました。(笑)

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安藤:素晴らしいですね。結婚前と結婚後でご自身の働き方は変わりましたか?

徳永:結婚前は、仕事一筋でしたね。結婚してしばらくしてからも、それまでの延長で仕事第一でした。でも子どもができた時に、ふと思ったんです。「子育ては、妻だけでなく夫婦のチームプレーが大切だ」と。独身の時と同じように、妻だけに家事も育児も全部まかせるのはよくないと思い、自分のできる範囲で関わりながら、「家庭ではなるべく自分の悪いところを出さないようにしよう」と心がけることが大切だと気づきました。この考えは、主任として初めて部下をもつようになった社員への研修の時にも、「リーダーとして自分の悪いところを出さないよう心がけ、自分一人の成果を出すよりも、チームとしての大きな成果をめざす気持ちを忘れずに」と話しています。主任昇格というタイミングは育児が始まる時期と重なりやすいので、職場でも家庭でも、これをモットーにしてほしいと思っています。

安藤:なるほど。徳永さんは還暦を過ぎ、“亭主関白世代”の方ですよね。これまでに、この世代で「男性も育児や家事に参加しよう」と発想する人にお会いしたことはほとんどなかったです。どうしてそのような考え方になったのですか?

徳永:いい質問ですね(笑)。これは僕の生い立ちと関係あるのですが、実は僕の親父は、陸軍士官学校出の軍人で、第二次世界大戦の時は、インドネシアにある石油基地を奪取するという重要な任務にあたっていたんです。バリバリの軍人で、「いざとなったら俺は、妻と子どもを置いてでもお国のために死ぬぞ」という人だったんです。戦前の教育を受けたイクボスの対局をいく考え方の人でした。

安藤:まあ、あのころは仕方がないですよね。

徳永:当時は親父のそんな生き方が許されたのかもしれないですが、親父を「父親」としてみた時に、家族に対してやさしい面ももちろん少しはありましたけど、厳しい面のほうがかなり大きくて、「なんで家族にこんな仕打ちをするのだろう」と、子どもなりに相当不満をもっていました。母に対する態度も高圧的で、幼な心に「これはいかん」と。親父は僕にとって、反面教師だったんです。まあ、時がたってからいろいろ分析してみると、これは親父だけの問題ではなく、戦時下であったこともあり人を大切にできなかった当時の日本の陸軍や軍隊の姿があり、日本が負けた理由もここにあるのだろうと思いましたけどね。親父の背中を見ながら、せがれである僕は、「ああはなっちゃいかん」とずっと思ってきたんです。

安藤:当時の日本、そして家族という「組織」を、徳永さんなりに相対化して、観ていたのですね。

徳永:そうですね。その経験があったから、結婚して子どもを持った時に、「僕は親父みたいにはならない」「家族を大切にしよう」と思ったんです。

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安藤:なるほど。実は僕も、昭和6年生まれの父が反面教師でした。家で父親が、笑顔でいた記憶があまりないんです。だから今、「笑っている父親を増やそう」という活動をやっているんです。

徳永:なるほどね。やはり、大人になってから、自ら何かを発信している人というのは、根底に子ども時代の経験や思いが存在しているのかもしれないですね。軍隊の話を続けますが、先ほどもお話したように、当時の日本軍のいちばんの問題は、人を大切にしなかったことだと思うんです。アメリカは空中戦の時、その下のエリアに潜水艦を配置して、万が一自国の戦闘機が海に落ちたら、すぐにパイロットを助けに行く体制を作っていたというじゃないですか。「いざという時の備えは十分するから、心配なく戦ってこい」というのがアメリカの考え方ですよ。それに対して日本は、「絶対負けるな」「落ちたら死ぬぞ」という特攻精神ですよね。

安藤:このあいだドイツの働き方に関する本を読んだのですが、ドイツは、戦争中でも有給休暇があるんですよね。軍人が国に対して「休暇とらせないと戦争に行かないぞ」みたいな意見を言えやんだそうです。当時の日本の軍は、「人を大切にする」という思想をベースにしたマネジメントができなかったということではないでしょうか。

【夫は単身赴任、子どもは独立して寂しがる妻に、インコをプレゼント】

安藤:“亭主関白世代”の徳永さんの、イクボス、イクメンの思想のルーツが良くわかりました。お子さんが小さい頃、徳永さんは子育てにはどのように関わっていたのですか?

徳永:子どもは文句なしにかわいかったので、なるべくいっしょに遊ぶ時間を作っていました。息子が少年野球をやっていたので、少年野球のコーチをやっていましたね。少年野球のコーチって結構大変なんですよ。夏の暑い盛りに朝6時くらいに小学校のグランドにいって白線を引いたり、審判やったり。審判もずっと立ちっぱなしですし。地域のつながりも大切だと思っていましたので、父母会の会長も経験しました。

安藤:素晴らしいです。当時、徳永さんの上司に対して、育児を理由に「早退させてください」などと申し出たことはありましたか? その時の上司の反応はどうでした?

徳永:そんなにしょっちゅうではなかったですが、ありましたよ。上司も快くOKしてくれました。

安藤:イクボス、当時もいたじゃないですか。

徳永:当時僕が勤務していた開発センターでの仕事は、ある一定の期間内でやるべきことを終わらせることができれば普通に帰宅できたんです。もちろん、何かトラブルが起こるとしばらくうちに帰れないこともありましたけど、基本、工夫次第でメリハリがつけやすい職場環境だったというのも大きいと思います。

安藤:お子さんが熱をだして奥さんが大変な時に、なるべく早く帰ったりもされていたのですか?

徳永:そうしていましたね。

安藤:部下時代に上司にそういう風にしてもらうと、自分が上司になった時、部下に対しても同じように対応するようになるというのはよくいわれていますよね。子育て期、転勤など環境の大きな変化はありましたか?

徳永:転勤はなかったのですが、2002年から、御茶ノ水の本社に通うことになったんです。それまで工場が青梅にあって、青梅の近くに家を買って職住接近で通勤していたのですが、青梅から御茶ノ水となると毎日の通勤が難しいため単身赴任になり、週末だけ青梅の自宅に帰る生活になりました。下の息子が高校に入ったばかりくらいの時だったと思います。

安藤:思春期まっただ中じゃないですか。

徳永:まあ、そうですね。でも息子は精神的に大人で、「家族に男はお前しかいなくなるからちゃんと守れ」と言ったら「わかった」って感じで、特にいざこざのようなものはありませんでした。単身赴任とはいえ、青梅から御茶ノ水で、何かあったら2、3時間で帰れるため大きな心配はなかったです。それ以来、ずっと単身赴任です。

安藤:え? そうなんですか? このお宅は、徳永さんの単身赴任の宿なんですね。娘さんも息子さんも独立されて、青梅のご自宅にお一人で生活する奥様は寂しいのではないですか?

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徳永:そうなんです。子どもたちが独立し、妻がひとり暮らしになったばかりの頃は、さすがに寂しそうにしていまして……。で、これはいかんと、インコを買ってあげたんです。1匹めのインコは洗濯物を干している時に逃げられてしまったので、すぐに2匹目をプレゼントしました。その後、家の近所で、どこかで捨てられたニワトリを見つけましてね。動物愛護の精神から家に持ち帰って飼うことにしたんです。そしたら当たり前なんですけど、朝の5時くらいから庭で「コケコッコー」と泣きっぱなしで(笑)。

そこで、夜の間に鳥小屋に遮光カーテンをかけ、次の日の朝、近所の方にご迷惑がかからない時間になったらそのカーテンを開けるようにして飼うようにしました。飼ってみるとニワトリもいいものですけど、インコは歌も歌うし言葉も覚えるしで、とてもかわいいですね。僕も、週末帰るたびにかわいがっています。どうも僕のことが好きみたいで、よくなついてきますよ(笑)。

安藤:最近のイクボスは、ペットのインコもマネジメントできるのですね(笑)。ペットといえば、最近、ペットが体調不良などの時に休暇をとる「ペット休暇」の導入を検討する企業も増えてきています。都会で一人暮らしをしている女性がワンちゃんやネコちゃんを飼っているとまさにシングルマザーと同じ状態ですからね。我が家も猫を飼っているのですが、保険会社でフルタイム勤務している妻は、先代の猫が亡くなった時、会社を2日休んでいましたよ。かつてのペットは外でつながれているだけでしたけど、最近では「家族の一員」と考える人も増えてきています。だからこその「ペット休暇」だと思います。あえて休暇制度つくらないにしても、会社にそのような状況を言いやすくなっているかどうかが重要です。

ところで家族もペットも大事にされる徳永ボスは、部下が1,000人いらっしゃるということですが、職場ではどのようなマネジメントをしていらっしゃいますか?

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【社員を自宅に招いて会食する“トク’ズ キッチン”開店】

徳永:基本の部分は個々にまかせていますが、やはり仕事の上では、部下をきびしく指導したり、場合によっては叱ることもあります。

安藤:部下を厳しく指導したり叱るのは、どのような時ですか?

徳永:今の私の立場でいうと、やはり業績関係ですよね。どこの会社もそうでしょうけど、営業利益の目標を達成できなかったり、予算を決めて1カ月でギブアップ宣言してくるなどという時です。

安藤:そういう時は、どんな言い方をされるのですか?

徳永:私のところには、業績関係のデータとして数字がたくさん集まってきますので、現時点で問題だと思われる数字を指摘し、改善するためのアドバイスを具体的に行っています。でも、職場でただ叱るだけでなく、もっとコミュニケーションをとりながら業務の改善ができないかという思いもありました。

また時には「さっきは叱りすぎてしまったかな」と思うこともありました。そんな“罪滅ぼし”のような気持ちから、「今度、うちこいよ。ゆっくりのみながら話そうぜ」と、社員を自宅に招いて手料理をふるまいながら会食することを始めたのです。2002年から単身赴任しているので、社員も気軽に来やすいのか、これが通例化してきまして。ある時は大人数で、またある時は一人でなど、たくさんの社員が来るようになり、いつのまにか社員の間で「トク,‘ズキッチン」と呼ばれるようになり、今に至っています。

最近では業務改善のためのコミュニケーション以外にも、結婚の報告にくるカップルや、産まれた赤ちゃんを見せにくるカップルもいます。伴侶を見つけようとしている独身の社員同士を引き合わせる場として「トク’ズ キッチン」に招くこともあります。

安藤:やるなあ。イクボスは、恋のキューピット役もつとめてしまう(笑)。

徳永:もちろん、うちに来る社員すべてがいい話や楽しい話をしに来るわけではないですよ。「仕事で悩んでいます」とか、「仕事をがんばれなくて、へこたれています」とか、最悪の場合は「退職したいです」という場合もあります。

安藤:そうですよね。でも、退職を考えている社員って、ふつう、上司の自宅まで行かないですよ。上司が徳永さんだからわざわざ足を運んでくるのだと思います。それほど信頼されているのですね。

徳永:さっきの主任さんへの言葉じゃないですけど、自分ひとりで100%働こうが200
%働こうが、部下1,000人それぞれが10%モチベーションアップすれば、それだけで100人力ですから。会社という組織では、部下に気持ちよく、これまでよりも10%、20%多くパワーを出し切ってもらうことが大切なので、そのような環境づくりに徹したいと思っているんです。それを行うためにもまず、お互いの信頼関係、そして、プライベートも含めてお互いによくわかりあっていることが大切だと思うんです。

これは、われわれの部署だけでなく会社全体でやっているのですが、当社には、定年を迎えたベテラン社員が若手を中心とした現役社員からさまざまな相談を受ける「よろず相談」という制度があります。就業時間に、30分〜1時間の時間を設けて行っているのですが、そこでは仕事の話でも体調などプライベートの話でも何を言ってもいいんですよ。そこに出てくる社員からの要望などを全部採用しきれるわけではないのですが、重大案件だと判断された場合は各部署のトップ間で共有して対策を練るなどしています。何よりも、相談員が話を聞いてあげるだけでも社員の顔色がずいぶん明るくなるようで、それだけでも価値があると思います。

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安藤:自分が思っていることを聞いてもらうだけでも救われますよね。鍛冶さんも、何か救われたことはありますか?

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鍛冶:私は今、4歳と1歳の子どもがいるのですが、いちばん最初に「よろず相談」を受けた時は、結婚したばかりでまだ子どもがいなくて、仕事中心の夜型生活だったんです。「よろず相談」で、「何時に起きているか」「ご飯は作っているか」「帰ってどんな生活をしているか」などについて聞かれたのでありのままに答えたら、「もっと朝型生活にしたほうがいいですよ」とアドバイスをいただきました。その頃は朝型生活って全然イメージできていなかったんですけど、いざ子どもをもつと、実際にそうせざるおえない部分がたくさんあって、あの時いただいたアドバイスを今まさにかみしめています。

安藤:なるほど。そのような利用のされ方はとてもいいですよね。ところで、徳永さんは、仕事以外の時間はどのようにお過ごしですか?

徳永:早く帰ってきた時は、気分転換もかねて料理を作ることが多いですね。すぐそこにスーパーがあって、できあいのものがいっぱい売っているのですが、飽きてきてしまって。ちょっと手間がかかっても、野菜炒めとか自分で作ったほうがはるかにおいしいし健康的なので、続けています。

安藤:料理はもともとお好きなんですか?

徳永:嫌いじゃないですね。私はずっと半導体に携わっていたのですが、半導体って、プロセスが何百工程もきっちりあって、それをきちんと作りあげていくのですが、その感じが料理と似ているんですよね。

【「社員を大事にするかしないか」で勝負が決まる】

安藤:なるほど。“半導体クッキング”ですね(笑)。ご自身が楽しめる趣味があると、老後も楽しみですね。今後、日本の企業もダイバーシティをどんどん進めていかないと生き残れないという考えもありますが、徳永さんのお考えを聞かせてください。

徳永:当社では、女性管理職比率の増加をめざし、次世代の女性のキャリア意識醸成、障がい者活躍推進をはじめダイバーシティを積極的に推進しています。これらが世の中にも認められているのは大変いいことだと思いますね。最初にお話しましたように、企業の成長は、「社員を大事にするかしないか」など、そういうところで勝負が決まると思うんです。欧米と対等に勝負して、グローバルに勝ち残っていかないといけないことを考えると、人財活用の面でも欧米にひけをとらないような世界にならないといけないですよね。われわれが小さい時みたいな「亭主関白」の時代ではないですからね、今は。

安藤:全くその通りです。われわれは今、徳永さんのような模範的なイクボス像や育成のノウハウを、企業の枠を超えて共有できるような取り組みを進めています。主任クラスなどいわゆる中間層のボスには、これからどんなことを伝えていきたいですか?

徳永:新人時代は自分の良い所を出すことに全力をつくし、ピカピカ光って目立ってほしいですね。でも、いつまでもそれじゃ困るんです。中間管理職になってもそのままでいくと、そこで一度でも信頼を失うことをしてしまうとチーム全体がくずれていきますから。だからこそ、中間管理職には、「自分の悪いところをださない」と心がけることが非常に大事になってくると思います。これは家庭でも通じることですよね。奥さんや子どもに対して、一度でも信頼を失うと、家庭はくずれていってしまうと思います。

安藤:そうです。家庭も経営ですからね。不祥事おこしちゃまずいですから(笑)。
徳永さんがおっしゃるような働き方をたくさんの方が理解してくれればいいのですが、
亭主関白の思想で、「会社中心の生活は決して悪くない」と思っている人もまだまだいるんですよね。

徳永:そうですね。そのような社員をここに招いて、自分の生い立ちや親父の話をすることもありますね。

安藤:振り返るって大事です。その中で何か気づいてもらって、変わるといいですね。

徳永:徐々に変わっていくのではないでしょうか。確かに昔は、会社でいつもどなりちらして絶対服従型の精神論をふりかざす“軍隊型”の上司っていましたよね。でも、今ではそれはとおらないですよ。パワーハラスメントを見る目も厳しくなってきていますから、そういう意味から考えると、まず仕事のやり方を変えていかないとだめですよね。昔は部下を人前でどなりつけるって当たり前だったですけど、今はそれをやってはいけないですから。

安藤:徳永さんは、部下を叱る時は、当然別室によんでしかり、ほめる時はみんなの前でほめていらっしゃるんですよね。「職場環境を作る」という意味で、工夫されている所はありますか?

(取材に同席していた企画部の佐藤さん):徳永の役員室は、フロアの真ん中にあるんです。雰囲気も閉鎖的でなく、だれもが入りやすいような設計になっているんです。呼ばれて部屋に入る社員にとってもみても、隔離されるような感じでは全くなく、オープンなんですよ。

安藤:それは象徴的ですね。

徳永:オフィスビルが古くて暗めなので、なんとか明るい雰囲気にできないかと思ったんです。オフィス内の僕の部屋にバーンと仕切りが立っていると、職場の雰囲気がますます暗くなってしまいますよね。ですので、仕切りをなるべく少なくして、ドアもつけず、開放的で風通しのよい場所にしたかったんです。

安藤:なるほど。そういう環境って、社員が入りやすいですよね。僕の知り合いの校長先生は、普通は2階にある校長室をあえて1階の用務員さんがいるような場所にもってきたんです。そうすることで、子どもたちも自由に出入りできてコミュニケーションがとれるし、学校中のいろんな情報がすぐに入ってきて、問題も解決しやすいとおっしゃっていました。

徳永:やはり、雰囲気は大切ですよね。僕自身、部下たちに僕がどういうスタンスで仕事をしているのかを理解して欲しいという気持ちが常にあります。僕は自分で自分の悪いところがわかっていますので、そこを起点に、職場環境はこうしたらいいんじゃないかなど、いろいろ考えてこのようにしました。

安藤:素晴らしい。鍛冶さんからみて徳永さんはイクボスですか?

鍛冶:まさにイクボスです。直接お話する機会はなかなかないのですが、徳永さんが発信するメッセージが、事業部長から、本部長、課長とぶれなく伝わってくるのがすごくありがたいですね。上からの雰囲気ってすごく大切だと思うので。

安藤 組織の一番上にいるボスが、徳永さんのような方だと安心ですよね。御社は、ワーク・ライフ・バランスに悩む部下におこりがちな問題について管理職に対応策を回答してもらい、それをまとめた「イクボスブック」を社内で配布するべく制作するなど、積極的にイクボス育成を行っていますね。今後のさらなる取り組みに期待しています。今日はどうもありがとうございました。

(筆・長島ともこ)

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